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アンリアルロジック  作者: どめし
第五話『非現実への抜け穴』
31/33

scene5 接触

「なんで逃げたんだっけ」

 駆け込んだ空き教室で、最初に声を発したのは私の方だった。眼鏡の女子生徒は疲れたような呆れたような顔でため息を吐くと、じとりとこちらを見上げた。

「不思議な力はみんなにばれたくないものですよね?」

 見透かしたような目。言わんとすることは理解できたけれど、なんだか対抗心も湧いてきてしまう。

「そうとも限らないんじゃない?」

 眼鏡は、今度は深く深くため息をついた。

「不用意に使わない方が良いですよって、そう言いたかったの」

「はじめからそう言えば良いのに」

 眼鏡はショートボブの髪をおさえるように頭を掻いて、面倒くさそうな顔をする。

「あなたの趣味にあわせたつもりだったんですけど」

「なにそれ」

「好きなんですよね。能力バトルとか、魔法少女とか」

 言葉が出なかった。当たっていたから。学校では、まだ誰ともその手の話をしたことは無いはずだった。視線を逸らした先で、謎の女子生徒の足元が目に入る。青。同級生か。

「私が誰か気になりますよね」

 からかうような声音。視線を上げると、やっぱり見透かした目。

「そりゃ思うでしょ。怪しすぎ。なにこの展開」

「A組の篠山菜々華です」

 え、無視?

「無視してないですよ。知りたがってたから教えただけ」

 篠山と名乗る同級生の、にこにこ笑顔。見透かしてるんですよ、っていう目。なんだか、こっちまで笑ってしまいそうになる。

 頬を押さえて、クールに、クールに、考える。じゃあ、私の名前知ってますか、って。

 途端、私の気持ちにつられるようにして、篠山は顔を背けて吹き出した。

「神崎和花さん、察しが良すぎ」

「心を読む能力じゃん、すご!」

 耐えきれなくて、私も笑い声をあげる。咄嗟に、声が大きすぎやしなかったかと廊下の方へ目をやった。たぶん大丈夫。とりあえず人影は無い。

「――それで、私に何か用だったんだよね」

 笑いが静まってからの私の第一声は、篠山菜々華を再び吹き出させた。

「いろいろ面白い想像してるところ悪いけど、べつに大した用なんて無いですよ。ただ、ひとつだけアドバイスをしに来ただけ」

「大した用だよ、アドバイスだなんて。だって私、初心者だもん、この能力の」

 失笑、された。心を読まれているのを承知で思う。失礼だなこの子。

「神崎さん、舞い上がってますけど、それ借り物だから……貸してる人に話聞きに行った方が良いですよって伝えに来ただけ」

「なにそれ。借り物って」

「言葉通りの意味ですよ。いろいろ説明聞いた方が良いと思うから、相談室に行ってください」

 ついさっき笑いあったのが嘘みたいに、眼鏡のショートボブは事務的に言い放つと私に背を向ける。

 教室を出て行く小柄な背中を眺めながら、私は表情筋の動くままに、薄暗い空き教室でどうしようもない笑顔を垂れ流した。篠山はなんだかちょっとうざかったけど、借り物っていう言葉はちょっと引っかかったけど、これで、確定したのだ。

 他の異能力者がコンタクトを取ってきたということは、

 私の「空間を繋げる能力」が、本物なのだと確定したということだ。

「やっっっっっば……」

 なんだか、雄叫びでもあげたい気分。

 だってさ、こんなの、まるで――

 何もない空間に、手をかざす。トイレでやった時の感覚を、思い出す。

 ほら、今度はもう、こんなに簡単に――

 窓は閉まっているはずなのに、冷めた外気が頬を撫でた。

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