第4話 これがやりたかった
「反省はしている、しかし後悔はしていない!!」
『MISOLOGY ONLINE』に置いて『闘札操師』は特殊な位置に置かれたジョブである。
それは剣と魔法のファンタジーワールドの世界にありながら、異世界の存在に等しい異物だからである。
『闘札操師』がこのゲームに置いて不人気の理由はその特殊な事例に依存する。
・モンスター戦が出来ない。
・モンスター戦が出来ず、ドロップ品を手に入れられない。
・プレーヤー自体、戦いに参加できない。
・上手く立ち回れない。
・多人数戦が出来ない。
…等の理由である。
そうでなくとも一部のゲーマーから『ファンタジー世界を謳っている癖にカードゲームなんてものは邪道だ』と何時しか忌避され続けて行った結果、 『闘札操師』は屑ジョブだという事態になってしまったのである。
しかし、『闘札操師』にも利点はある。
その最大の利点…それは。
「馬鹿な…攻撃が通らない!?」
――――『何時、如何なる時も、プレイヤーへの直接攻撃を禁ずる』
それは、『闘札操師』だけに与えられた特権であった。
TOHSHIROHは自慢の一撃を防がれた事により驚愕の色を隠せなかった。
同時にバリアの忌々しさのあまり苛つきを憶え、ぎろりとその感情の篭った視線をフィーネへと向けるも、不気味に不敵な笑みを溢す。
(――くそ、餓鬼一人に何を恐れてんだ)
笑みと共にTOHSHIROHに向けられた、冷たい怒りの嘲笑の視線に一瞬肝を冷やすも、TOHSHIROHはバックステップで距離をとり、もう一度刃をフィーネに振り翳す。
しかし、今度は防具と武器をその身に纏ったシャドーアバターに阻まれる。
「…呪文カード『集中線』…。 くすくす…アンタが相手にするべき相手を忘れちゃ、困るねぇ~」
嫌味ったらしく黒い笑みをTOHSHIROHへと注ぎ込む。
(恐らくこいつは、俺より年下…多分中三か高一くらいか。 カリスマ性は感じられるが頭のキレ具合が幾分かお粗末すぎるし、なにより――)
冷めた怒りの中で、対戦相手を冷静に分析する。
(侠気を全く感じない)
思考を巡らせながら、激しい攻防(に見せ掛けた一方的な防戦)を繰り広ていった。
「はぁ、はぁ…くそっ何で…攻撃が、入らない!?」
(だが、しかし…厄介な黒い野郎の残りHPを減らしてやったぜ)
漸く、フィーネへの攻撃が不可能だと理解したTOHSHIROHはシャドーアバターに視線を戻し、刃を向けた。
「はっ、粋がってた割には大した実力も無いみたいだなぁ!」
「……」
「闘ってるのはテメーじゃ無い、そのシャドーアバターだ」
「……」
「逆に言えばテメー自身は何も出来ない木偶の坊、腰抜け野郎だ」
「何とか言ったらどうなんだ、クソ――――」
「――――餓鬼はてめぇだ、坊主」
氷の様な瞳が、TOHSHIROHの支配欲に塗れた思考を突きさした。
「……あ?」
「……もういい。 これ以上てめぇを言及するのは無駄だろうからな…だから、地獄を味わせてやるよ」
「何言ってやがんだ? 俺のHPはまだ満タン…」
「業カード『斬空』! 呪文カード『魔弾』! 業カード『連撃連斬』!」
手札の三枚のカードを重ねてガントレッターにセットするとシャドーアバターが突然赤いオーラを纏ってTOHSHIROHに向けて突撃を開始する。
――――何が地獄だ!
しかし、何故か脚が動かない。
足が地面に吸いついている様な感触がTOHSHIROHの肝を再度凍り付かせる事となった。
(くそ! 動け動け動け動け!)
それでも動かせない。
ならばと、避ける事を諦め腕に仕込んだ盾を展開し、攻撃に備えた。
「効かない」
突撃しながらの銃撃がTOHSHIROHの急所に全弾命中する。
「っ――――――――!!?」
それまでに無かった激痛がTOHSHIROHを恐怖に陥れた。
同時に意識も瞬間的にではあるが、トんでしまった。
勿論、シャドーアバターがそれを見逃す筈も無く、跳躍しながらの銃撃。
不意打ちに近いそれは、再びTOHSHIROHの意識を奪う。
そこからの斬撃に続く斬撃。
銃撃も交え、攻撃の嵐。
「これで終わりだ! 適合コンボ…デッドリークロス『銃士の進撃』!!」
両手に持った拳銃剣から繰り出される斬戟と銃撃からなる、怒涛のラッシュ。
今ひとつ決め手に欠けるが、簡単に繋げられるためβ時代から良く使用していた必殺コンボだ。
カードの…記念すべき最初の発売からデッキと合わせて組み合わせを考えていた。
そもそもフィーネが良く使用する『ゴシック』シリーズはムゲンクロス登場時にNPCから不人気だったが、総合的に且つ汎用的だったため、結果的に下手に組んだデッキよりも高火力の威力を発揮し、今では初心者に人気のお勧めシリーズとなっている…という設定なのだが正式版になってからどうなっているのかなど、本人は知る由も無かった。
兎も角ノーダメージから一転、TOHSHIROHのHPはみるみる減少していき……遂には零となってしまった。
『決闘終了。 勝者・フィーネ』
一撃必殺。
PvP、しかも屑ジョブとまで謂われていた『闘札操師』で、だ。
フィーネは仁王立ちでTOHSHIROHの前に立ちはだかる。
「くそ、汚ぇぞ。 正々堂々勝負しやがれ!」
「正々堂々? 馬鹿言うなって。 お前がしてた事と言えば精々ヘイトを稼ぐ事だけじゃねぇか」
しゃきん、と金属が擦れる音と同時に二振りの刃がTOHSHIROHの視界を阻む。
「…じゃ、警備兵!?」
「鉄格子の向こうで頭を冷やしてくるんだな」
「このや――」
最後まで言い切らない内に警備兵と共に消え去っていった。
「さて、皆さん?」
くるり、と黒い笑みのまま急に野次馬の方向に体ごと向けた。
「リーダーをペナってやりましたよ?」
野次馬がその場から消えるのに、然程時間は掛らなかった。
また何かありましたら削除&修正していきます。