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終末三千年。  作者: 高倉 悠久
第一章
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第八話 ~レッツ・自己紹介タイム~

 俺が食堂に入ると、5人の先客がいた。思ったよりも多い。いや、ここが『義勇軍』とかいう組織であることを考えると、これでもかなり少ないほうか。

 その食堂は、厨房に接したこじんまりとした部屋だった。室内はとても薄暗く、大きなテーブルといすを並べてあるからかろうじて食堂と呼べているようなものだった。


「ああ、おはよう!」

 俺を見つけた河村がいち早く声をかけ、手招きする。

「こっちこっち、早くせな冷めてまうでー」

 仕方なく俺は、そちらへ向かう。河村の隣、すなわちテーブルの一番左端が、俺の席らしい。

「服、借りてるぞ。後で洗濯して返すから。」

「かまへんで、そんなん。っていうか、何でそんな律儀やねんな…縛ったりやなんやかんや、酷いことされたっていうのに。」

 『酷いこと』をした張本人である河村が笑って言う。

 初めて着たときからずっと思っていた。この服の大きさは、俺にはかなり屈辱的だ。…要するに、ぶかぶかなのだ。

 だからといって、別に俺が小さいわけではない。河村がでかいだけだ、多分。

 そんな感じの至極理不尽な腹いせをこめて、俺は言う。

「じゃあ返さない。それで文句ないだろ。」

「あれ、そういう問題!?」

 騒ぐ河村を無視して、俺はテーブルのほうを向いた。

 テーブルの上には、目玉焼きに白飯、焼き鮭といった普通の朝ご飯が並んでいた。俺は何となく自分が場違いな気がして、軽く身じろぎした。


「……」

 黙って周りを見回すと、みんなはまだ食事に手をつけていないようだった。仕方なく、俺もじっと座っていることにする。

 向かい側の席は左から順に、金髪ツインテールの女、嘘くさい緑色に染髪した女、かなり小柄な黒髪の女。そして、俺の座っているほうの列には、河村と橋原。昨日の異星人の少年の姿は、見当たらない。

「ふうん、これがこの地区の管理者?」

 金髪の女が、河村と同じ関西訛りのイントネーションで言った。

 それにしても、昨日から俺は『それ』とか『これ』とか、結構雑な扱いを受けている気がする…

「ってか、かなりがっかりって感じー?」

 黒髪の女が言う。勝手に捕まえておいて『がっかり』も何もないだろう、とは思ったが口には出さない。会話が続くと面倒だからだ。

「まあまあ、しょうがないじゃないか。所詮は下請けなんだし、好き放題言われたらこいつだって困るだろうよ。」

 緑髪の女は、ため息をつきながら黒髪の女を宥める。…何だろう。フォローされているはずなのに、全然嬉しくない。

「こんな子供まで雇ってるなんて、政府ってほんと人員不足なのね」

 小柄な黒髪の女が嘲笑した。…お前には言われたくねえよ。

「全然弱そうやしなあ。地球を守ろうなんてもはや、ただの笑い話やで」

「だから二人とも、こいつはただの下請けだろうってさっきから…」

 …しかしまあ、本当に嫌なガールズトークだ。俺も、よくこんな会話を聞かされて黙って我慢しているものだ、と思う。

 ぶち切れてしまうのは楽だが、この部屋には橋原がいる。つまり、きっとその後が面倒なことになるということだ。我慢するほか無いだろう。


「はいはい、静かにー。みんな揃ったところで、自己紹介でもしましょうか」

 ぽんぽんと手を叩きながら、橋原が言った。突然の言葉に、ざわめきがピタリと止む。

 …決して怒鳴っているわけでもないのに、よく通る声だ。なるほど、隊長格というだけはある。

「自己紹介なんて必要あるのか?新入りでもあるまいし…」

 緑髪の女の意見は尤もだ。

「さあ、あるんですかね?僕は何となくやってみたかっただけですけど。」

 首をかしげて橋原が言う。義勇軍とやらの隊員は、いつもこんな気まぐれに付き合わされているのか。だとすると、正直尊敬するレベルだ。

「ほんならまあ、やったらええんとちゃう?名前ぐらい教えたところで、何のデメリットもないやろ!」

 河村が、へらへらしながら言う。確かに、名前を知ったところで、俺には何の抵抗する術も無い。けれど、メリットがないならそんな面倒な事は、できればしたくないというのが俺の本心だ。

「はい、じゃあ決まり!レッツ自己紹介タイムですよ!」

 橋原には多分、独裁者の素質があると思う。



 そうして、周囲の意見をほとんど聞かず、自己紹介タイムとやらが始まった。


「それでは、人質君(仮)の右から順に、反時計回りに行きましょうか。」

「誰が『人質君(仮)』だ。」

 愉快そうに言う橋原に、言い返す。

「名は体を表すものでしょう?ぴったりじゃないですか。」

「……」

 何だかもう、いちいち腹を立てるのも大変になってきた。…無になろうかと、一瞬本気で考えた。

「えっと、俺は昨日も言うたけど、河村幸生。よろしくな!」

 何がよろしくなのかはよく分からないが、河村が嬉しそうな笑顔で言った。

「僕も昨日言いましたね。えっと、橋原伍郎と申します。」

 以後お見知りおきを、と橋原が柔らかい微笑を浮かべた。

「アタシは矢口彩(やぐちあや)。『いろどり』って書いて、『あや』よ」

 空中に指で漢字を書くような仕草をしながら、黒髪の女が言う。

「漢字は妙にこだわるんだな、彩は。…ああ、俺は野田宮子(のだみやこ)だ。よろしく。」

 緑髪の女が笑う。言い回しが若干引っかかる部分もあるが、先程の会話からしても、こいつは結構良い奴かもしれない。

「うちは河村アンリや。一応、それの義妹やで。」

 『それ』と言うところで、金髪の女は河村を指差した。

「これで、義勇軍メンバーは一通り名乗り終わりましたね。…まあ、今は一人足りませんが。」

 橋原の言う『一人』とは、昨日の異星人の少年のことだろうか。


「じゃあ、次は人質君(仮)の番ですよ。」




「…え、俺も?」

 戸惑う俺に、橋原はにっこりと頷いた。




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