第四話 ~執着と怯え~
「あら可哀想に、この子は両足を失ったのねぇ。」
可哀想に思う気持ちなど微塵も感じられないような声で、金髪の女が言う。
―――この、腐れ政府め。お前たちの取り立てのせいで、俺たちの生活は日に日に苦しくなっているんだ。
本当に可哀想なのは、両腕を失うような戦火が降り注いだことではない。
生き残りたかった。
生き残るためならば、死んでもいいと思った。
矛盾しているようだが、俺は本当に、そのぐらいの覚悟で生にしがみついていた。
「あなたなら・・・、奴隷以外にも使えるかもしれないわね」
―――生に貪欲な目をした俺は、悪魔に付け入られたんだ。
女が顔を上げ、にいっと笑う。その表情はさして汚くもなかったのだが、内面から溢れでる感情は、・・・腐敗している。
奴隷以外の末路。考えられるものは、いくらでもある。そして、そのどれもがろくな道ではなかった。・・・年若い俺にすらそれだけ思いつくという事は、実際のところ、悲劇はもっとたくさん起こりうるということだ。
俺は、堅く目を瞑った。
それでもまだ、生きていたかった。
☆☆☆
目を開けた。モノクロの夢の中から引き戻されたばかりの、視界がチラつく。
―――そうだ、そういえば俺は、捕縛されてたんだっけ。
政府と俺の馴れ初めを夢に見るなんて、最悪な寝覚めだ。これもみんな、俺を捕縛した奴らのせいだ。
視界にはピンクと黒の派手な壁、体には硬い縄の感触。そして極めつけに、体の下にはふかふかのベッド。
・・・意味が分からない。俺は、捕縛されたんじゃなかったっけ。
「・・・・・・・・・」
体を捻って方向転換させると、壁でふさがれていた視界が広がった。
どうやら俺のいるところは、まともな部屋であるらしかった。狭いなりには最低限の家財道具はおいてあったし、俺のいるベッドの横の椅子には・・・・・・
「おい。・・・おい!」
ワイシャツの上に緑エプロンを着用した男が居眠りしていた。どうやら、俺を捕縛したあの男のようだ。
「あんた、見張りじゃないのか。そんな不用心に寝てていいわけ?」
「う・・・・・・」
目を覚ました男は、2・3回瞬きをして、俺に目を向けた。
「ああ、目覚めたんか、気分はどうや?」
「むしろこっちのセリフだ」
・・・意味が分からない。俺は、捕縛されたはずだったんだが。
男はヘラヘラ笑いながら、能天気に言う。
「いやー、ついうっかり。俺の仲間には内緒にしとってなー」
「あんたの事情なんか知らねえよ」
「俺は河村幸生や。よろしくな!」
「そんなこと誰も聞いてねえ」
どうも、調子が狂う。こっちは拷問ぐらいは受ける覚悟をしていたというのに、この気の抜けた雰囲気は何だ。
「・・・で、俺をこうして捕まえている目的は何だ」
「え?ああ、喋りにくいやろうから、縄ほどくわ」
「そういう意味じゃない!」
「え、縛っとかれた方がいい?もしかしてM?」
「そういう意味でもない!!」
縄が解け、締め付けられていた腕に解放感が戻る。
俺は何故か一瞬、安心感に包まれた。拘束が解かれたからではなく、己の未来を知らなくてすむことに対する、安堵。
―――なんだ、大した目的ではなかったのか。
微かな希望。
・・・そんなはずがない。異星人の少年を囮に使ってまで、防衛軍隊員の俺を捕まえたんだ。
俺の日常は、とっくに壊れてしまっていた。それは、俺自身が一番よく分かっていることだ。
俺の望んでいるのは、面倒ごとに巻き込まれず、無事生き延びること。ただそれだけだった。
(ようやく出てきた主人公の設定!ババン!「M」です!!)
(ひどい)