第二話 ~出動なう~
◇◇◇
「何だ…これ……」
いつも通り出勤して、いつも通り『異常なし』の文字の並ぶ書類をコピーして、いつも通りほどほどに居眠りして…。そんな俺の計画も、これでおじゃんだ。
立ち上げたパソコンの画面には、見たこともないようなマークが現れていた。
「このデスクトップに張り付いてるヤツ、トロイの木馬みたいなもんか…」
静かに、しかしはっきりと画面上で明滅する青いマーク。しかし何故か、そのマークは通常の警報装置には一切引っかかっていないようだ。
「ね、変でしょ?ここはセキュリティもかたいっていうのに…ちょっと怖いと思わない?」
耳元で、さっきの上官の声がする。上官は、わざわざフロアなかほどにある俺の机まで足を運んできたらしい。
「そうですね…通常の警報装置も作動してないみたいだし、急を要するような雰囲気でもありませんけど…。万一の事態に備えて、すぐにでも出動できるようにはしておきます。」
「いくらN国…25番管轄下のT都が平和だからって、今のご時世だもん。油断はできないよねー」
上官がそう言った瞬間、画面上に青い文字が滲むように広がった。
「終、末…?」
文字の全貌が把握できるぐらい、滲みが広がった。そして、その文字もマークと同じく明滅を始める。
「『終末三千年』…って、何のこと?25番。」
上官は、そんなこと俺に聞いて分かると思っているのか、小首をかしげて俺に尋ねる。もちろん俺は、そんなことを聞かれても、一緒に小首をかしげて画面を眺めるしかない。
「ねえねえ25番。聞いてるのー?」
「あー……。とりあえず俺、T都まで行って確認してきます。」
そのまま上官に構われるのも面倒だった俺は、そう言って強引に会話を切り上げた。
一応は異常事態の見回りというわけで、それにはそれなりの装備が必要なのである。
俺は机の引き出しから黒い帯を取り出して、手首に装着した。手首に絡みつくと、その帯はスライムのように柔らかく震える。そして、帯状だったものが、少しずつ腕時計の形状に固まっていく。
これは今の時代ではそう珍しくもない、メタモルという生物だ。形状記憶装置のようなものがついていて、いろんなものに変身できる。もともとは別の惑星からの輸入品だったらしいのだが、今では地球に適した形への品種改良が行われている。
地球防衛軍の隊員には、一つずつこのメタモルが支給されることになっている。結構使い勝手がよく、巡回の時には必ず付けて行くようにしていた。
メタモルが完全に変形を終えた。
俺はパソコンに向き直り、シャットダウン動作を省略して、いきなり電源を落とす。どうせ特に使っていたわけでもないのだ。変更箇所もなく保存することもないから、全く問題ない。つまり、俺は究極の面倒くさがり屋なわけだ。
上官に呼び止められないように、急いで席を立つ。さっき使ったばかりのエレベーターに向かって歩き出した。
後方から、「大変そうだけどがんばってねー」と、全然大変そうに聞こえない言い方の、上官の声が聞こえた。
◇◇◇
(序盤が中々終わらない)