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終末三千年。  作者: 高倉 悠久
第一章
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プロローグ ~それなりに廻っている世界~

◇◇◇

 

―――どうやらこの地球ももうすぐ終わるらしい。

 

 最近のテレビは、どのチャンネルをつけても、同じようなことしか言わない。

 そんな生ぬるいもんじゃないだろうなと思いながら、ソファーに寝そべってそのニュースキャスターを見ていた。

 ニュースキャスターの口がせわしなく動く。そこから発される情報も、本当か嘘か分からないような事ばかりで、市民の不安感を煽る。そうして世界は、今日も少しずつにじり寄ってくる絶望に飲みこまれていく。

 

―――それでいいんだ。こんな世界。

 

 吐き捨てるように呟くと、今も世界のどこかで泣いている誰かの事を、すっきりと頭から洗い流した。





 今から18年前、俺が生まれる1年前のこと。遠くのある惑星から、豊かな資源のある星を征服しようと、異星人たちが地球に攻め込んで来たらしい。

 資源のために、という目的がある以上、核爆弾などの攻撃は一切行われなかった。しかしその代わりに、陸専用兵器や、対人用改造人間などによる局地戦争が始まった。


 まず、地球防衛軍という、世界単位の大仰な機関が作られた。

 そして各国の政府により、戦争で身寄りをなくした子供が何人も引き取られ、防衛軍の兵隊として育てられる。

 産み落とされてすぐ母親に先立たれた俺は、物心ついたときには乞食同然の暮らしをしていた。しかし、とある事情で訓練所に入れられることになった。ほぼ強制連行のような収容のされ方ではあったが、まあ、そのおかげで俺は今ここで、特に不自由することなく暮らしている。

 要するに、運がよかった。ただ、それだけだ。世界の理なんて、所詮その程度のものなのだ。

 

―――俺は今生きている。世界はそれだけで、何となくは回っていく。


 俺たち地球防衛軍や市民は、誰からともなく、三千年に開戦したその戦争を「三千年戦争」と呼びはじめた。

 「三千年戦争」を仕掛けてきた惑星は、それまでは友好関係にあった星だ。だから、地球に移住してきていた異星人もたくさんいる。その人たちはみんな、地球での住処を失い、帰るに帰れないでいた。

 そんななか、一般人の排異星人意識の高まりを発散することが目的であるとして…政府が「異星人捕獲令」を出した。読んで字のごとく、住処を追われ行くあてもない一般異星人を、地球防衛軍が捕らえるというのだ。捉えられた異星人たちがどうなっているのかは、防衛軍の上層部しか知らない。その上、抵抗する者には発砲が許可されている。

 だから、それはほとんど「討伐」といっていいようなものだった。


 適当にテレビのチャンネルを回すと、今度は「異星人なんか大したことねえよ!やっちまえ!」と叫ぶ血気盛んなオッサンの顔が映し出された。

―――……当然の話だが、この程度じゃ終わらないだろうな。報復、ということを考えたことがあるか。

 テレビの中のオッサンは、勝ち誇ったように下卑た笑みを浮かべている。見るに絶えなくなった俺は、テレビを消した。

 真っ暗になった画面を鏡にして、25と刻まれた金のカチューシャに茶髪、そして随分と目つきの悪い顔が映る。


 俺はため息を吐きながらだるい身体を無理矢理起こして、狭い部屋のカーテンを開けた。一気に広がる深い青空に、真っ白く眩しい太陽。

 どれだけ世界中で大勢の犠牲が出ようが、朝は変わらずやってくる。どこかの惑星と地球とが戦争を始めようとも、地球はやっぱり回っているし、太陽も燃えているのだ。

 ここN国では、まだこうして、それなりの安全は確保されている。だが、いつ全面戦争に持ち込まれるともしれないから、人々はそれなりの恐怖と日々隣り合わせでもあるのだ。


 俺はあくびを噛み殺しながら、寝巻き用のぶかぶかなトレーナーから、濃緑のVネックTシャツに着替える。そして、洋服箪笥の横のハンガーに、コートと一緒にかけてあった腕章を右腕につけた。腕章はいたってシンプルなつくりで、赤地に黒で「地球防衛軍」と刺繍してある。

 そんな腕章一つだけで、もともとはただの戦争孤児だったこんな俺でも、何やらかっこいい感じの肩書きをもらうことができるのだ。



◇◇◇




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