第八章
悠里は自分の腰にある日本刀「輝夜」を漆黒の鞘から抜いた。鞘から現れた刀身は銀色に光を反射し鉄の重量感を充分に醸しだしていた。悠里はそれの切っ先を空に向けた。その刀は彼女が「前世」の身だった時に持っていた軍刀を鍛えなおしたもので悠里はそれを常備していた。
「決戦の時は近い・・・・。」
これではっきりケリをつけてやるわ、あたしの為にも戦死した「あいつ」の為にも。
悠里の顔には今まで見た事が無い表情が支配していた。
軍用ヘリから降りた伊集院はあるかすかな空気の変化を感じ取った。
「直泰様。『彼女』が『覚醒』しました。」
左肩に安置している玉葉が呼び掛ける。
「そうだな。彼女が目覚めたとなれば戦況は変わる。・・・・決戦の日は近し・・か。」
「伊集院中将。」
部下の言葉が伊集院の鼓膜を振るわせた。
「天城は軍港に停泊し、先程の戦闘で小破した機体の修理と共に修理を受けているとのことです。」
「了解した。今からその港へ向かう。」
「徒歩でですか?それは――――。」
それは危険では?と部下が進言する。それもそのはずだった。伊集院たちの現在地は北部ほどの人ごみでないにしろ一般人から軍人までたくさんの人間がいた。その中には高官を狙った暗殺者がいてもおかしくはなかった。
「大丈夫だろう。北部まではそんない遠くないし、少し歩きたい気分だ。お前はもう本部に戻っていいぞ。」
そういうと伊集院は北部の軍港へと歩き始めた。その後姿に部下は「了解しました。」と敬礼を送りヘリへ乗り込んだ。ヘリが飛び立ち、伊集院が歩き出して暫くすると人ごみは消え、白い砂浜にでた。ふとその時、一陣の風が彼の頬を撫でた。
「玉葉。」
「はい。」
「暫く独りで居たい。」
「かしこまりました。」
伊集院の肩から漆黒の鷹が舞い上がった。伊集院はそれを見送ると白い軍服の上着の前を開け、視線を群青色の澄み切った海に向けた。少し海を見つめた後また独り歩き出した。
また風が吹いた。
「今日は風が騒ぐ日だな。」
伊集院はゆっくりと砂浜に足跡をつけていた。
「さっきの激戦ぶりにしては、損傷が少なかったわねえ。」
天城隊就きの軍医である咲耶はこの小隊ではたった一人の整備員だった。よって大々的な整備は軍港に停泊した時のみできた。
白衣を羽織りなおしながら咲耶は言った。
「まあ戦死者が出なかったほうが嬉しいけどね。」
機械は壊れても修理が効くけど、人間は死んじゃったら修理できないもの、と笑いと悲しみを織り交ぜて言った。
「あの戦闘は一生の思い出だな。」
咲耶の右横で龍仁は憔悴しきった顔で呟いた。もう眼が死んでいる。
「あんたらは無茶をし過ぎなのよ。砲術士官でもないあんたらがふたりだけでF級戦艦を動かそうんなんて事自体無謀の極み!」
腕を組んで言う(て言うか怒鳴る)咲耶に龍仁はふと疑問をなげかけた。
「寛さんはなんで独りだけで天城を操艦してんだ?」
「ん〜確か戦闘時に出撃してる雪風とかから発信されるデータを基にして左手首に埋め込まれてる端末を通じて動かしてるんだったような気がするけど。膨大な量の情報が入ってくるから精神的にタフじゃないと難しいって寛さんは言ってたわ。」
ふーんと龍仁は納得したのか修理中の月読に視線を移した。
「こいつ、北条の母さんが設計したってホント?」
「うん。だけど沙織のお母さんは開発時の事故に巻き込まれて亡くなったの。」
あたしの整備学の先生だったんだ、と月読に語りかけるように答えた。
龍仁には月読が泣いているように感じた。




