第七章
戦艦・天城は北部の軍港に停泊していた。軍港には多数の戦艦や巡洋艦、駆逐艦などが停泊していて海軍軍人で溢れかえっていた。
「どこ見てもネイビーの軍服だらけね。」
沙織はひとり呟いた。色白の肌に栗色の髪を持った彼女にはネイビーの軍服がいささか浮いていた。
夏用に着替えたらすっごい綺麗になるんだけどねえ・・、と巴は沙織の横顔を見ながら考えていた。
巴の考えは正しかった。巴は士官学校に入学して間もない頃の閲兵式の時に彼女にはじめて会った。白を基調とした軍帽をかぶって白い軍服に身を包んだ沙織は文字通り人形のようであった。
それから二人は友達付き合いをはじめ、巴と同じ学級だった悠里とも知り合った。あの頃はまだ日本軍が優勢だった為、士官学校の生徒たちはどこかのんびりとしていた。
皆で授業をボイコットして教官に「お説教」を喰らったり、
演習用艦に演習時の成果を書いたり、
強練合宿の時に夜更かしをしたり。
巴たちの学年の教官は比較的優しい(というか甘い)方だったから多少の悪さは見逃してもらえた。
しかし戦況が悪化し、その教官も戦場に駆りだされ、巴たちは遠く感じていた「戦争」を身近に感じざるをえなかった。
そして、
『沢村大将、南太平洋海戦にて戦死。』
この戦死通告で周りの雰囲気が一変した。教官の死を無駄にするわけにはいかない、なんとしてでもこの『戦争』に勝ってやる、そんな空気が漂っていた。
後に法律が改正され士官学校在学中の生徒も前線に駆りだされるようになった。
そんな自分達を一般の大人は「可哀想だ。」や「昔はこんな事は無かった。」と言うが巴たち
にとっては今現在が大切で必死で生きているのであってそれらの言葉は気休めにもならなかった。「戦死した同期の奴の分も生き抜く。」巴の中にはこの言葉が息づいていた。
「巴?」
沙織の声で巴は我に還った。具合悪いの?、とでも聞いているかのように巴の顔を覗き込んでいる。
「どーしたの?さっきからなんか難しい顔してたけど・。」
その尋ねに巴は少し笑いながら首を横に振った。
「ちょっと昔のこと考えてただけ。随分変わっちゃったなあって。」
「そっか。本当に変わっちゃったよね。いくら軍港でもこんなに軍人がいたことなかったし、それに軍艦もこんなに多くなかったし。
・・・・そう言えば天城隊が結成されてからまだ半年しか経ってないのよね。何だか不思議。もう何年も前からこの部隊で戦ってる気がする。疲れたっていうのかな・・・・?なんて言うかこの戦争はもう終わりが無いんじゃないかとか変なことがいろいろ頭の中を廻ってぼーっとするんだ。」
それでもう人類は負けるんじゃないかって考えちゃったり、と沙織は常盤色の目を伏せる。
巴はその言葉になんの言葉も投げかけられなかった。「もう人類は負けるんじゃないか」その言葉は正しくもあり否でもある。自分自身も一時そんな事を考えていた。巴は自分の持ち得る語彙をフル活用してやっと一つの言葉を搾り出した。
「そんな事無い。」
強い意志をこめて言う巴の姿に沙織は小さな笑みを返す。
「そうね。」
さっきの戦闘から自分の中で何かが変わった。悠里はそう思った。自分の体質などだけが変わったのではなく根本からの変化をそれとなく感じ取っていた。
(そうだった。あたしはあの後死んだんだ。この世に本当に輪廻転生があるかどうかわからないけど生まれ変わったら必ずキメラに復讐するって決めてたんだっけ)
「確かそんな感じだったねえ。」
悠里はわずかに口元をほころばせた。
(まだ断片的にしか思い出せないけどそのうち・・・ね)
「キメラなんて皆殺しにしてやるわ。」
その言葉には『覚醒』した彼女とキメラに対する憎悪の念がこめられていた。
日本の神門を守護する二氏族のうち滅びた一氏族の『再生』だった。




