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第六章

何時間ほど経ったろうか群青色の海に一筋の閃光が走った。光の主はゆっくりと空をこちらへ進んでくる。

幾つもの血のような紅蓮の目。西洋のドラゴンのような体を持ち漆黒の鱗で全身を包んだ大型のキメラだった。

海を駆け抜けた閃光は雪風の腕部に傷を残し、二本の太刀のうちの一本を打ち砕く。しかし雪風はそれを物ともせず大型キメラのワイバーンに突撃を賭けた。

月読は搭載されたミサイルを発射した。黒瑠璃色の機体から撃ち出された無数のミサイルは周囲一帯の小型キメラを次々と撃墜していく。

一体の小型キメラ――――――元日本製だった「疾風」と名づけられた一体のそれ――――が発射されたミサイルの炎をその身に纏いながら雪風に体当たりを仕掛けようした。

『そう簡単に攻撃できるとは思って欲しくないわね。あんたの相手はあたしじゃないわ。』

そう言いながら悠里は残っている一本の太刀でそれを難なく切り裂く。緋色に染まった瞳は冷酷な光を秘めていた。

そして先程のワイバーンを標的に被弾した左腕を向け搭載されているマシンガンを撃ち出し、それと共に雪風自身もワイバーンに太刀で攻撃を掛けた。ワイバーンの腹部を縦に斬る。

太刀を受けたワイバーンはひるみを羽ばたきで修正し至近距離で生体ナパームを雪風に当てる。爆発。その場にいた全員の時が一瞬止まった。




寛治は低空飛行をした白鷹から飛び降り天城の甲板に受身の体勢で転がり込む。そしてすぐに立ち上がると中に入り残っている二人―――彰と龍仁――に自分が帰ってきたことを告げた。

「悪りィ!遅くなった!」

走って艦長席に座り天城のソケットに自分の腕を連結させる。

「お疲れさんだな二人とも!次は俺が引き受ける!」

その声を受けて龍仁たちはオペレーション活動に切り替えた。

「寛さん。」

「?」

「今さっき雪風が被弾しました。」

「・・・そうか。さっきの爆発はそれだったのか。」

寛治は表に出さずとも心の内で妹の無事を祈った。

『こちら白鷹。援護射撃にはいります。』

宮川が通信を入れる。それを受けて彰が疑問を投げかけた。

「了解!雪風はどうなっている?」

『ナパームが当たったようですが・・・・、なっ!?無傷!!?』

「無傷」。天城にいる三人の若い軍人はその言葉に驚愕の意を隠せなった。

そもそもあの至近距離で攻撃を受けて無傷で済むはずがないのだ。雪風の装甲は決して厚くはなかった。誰もが宮川の言葉を疑った。



爆発の白煙の中から二体の兵器の姿がうっすらと見えた。純白の兵器は相手のドラゴンの体を銀の刃で貫いていた。確かに雪風は無傷だった。ワイバーンのレーザーで受けた傷と多数の疾風から受けた小さな傷を抜くと雪風には何の傷をついていなかった。

雪風が太刀を抜くとワイバーンは身を小刻みに震わせながら爆発し永遠に姿を消した。

この爆破でも雪風は何の損傷も無かった。謎の壁が雪風を護っていたのだ。

そしてワイバーンの消滅につられるようにして残った疾風らは雲散霧消した。

海に静寂が戻った。




巴は天城に戻るや真っ先に悠里の許へ向かった。

「悠里!」

自分の名前を呼ばれた彼女は、はっと我に還った。目はもういつもの若草色に戻っていた。

「さっきの爆発でよく無傷だったね。ケガはないの?」

悠里は半ばぽけーっとしながら応答した。

「んーケガはこの通り全然ないんだけど・・・・。」

「だけど?」

「戦闘中の記憶が全くないの。何ていうかこうね、頭の中が真っ白っていうか何も考えてなくてほぼ無意識で戦ってたような感じ。」

悠里の答えに巴は怪訝な顔をした。そして暫くの間考えこんだが「ま、無事でよかったね。」と笑いかけた。悠里自身は戦闘前のあの「夢」と先程の戦闘を交えて考え込んだ。




「ともかく俺らは無事だったわけだが・・・・。」

彰はイスに寄りかかりながら呟いた。その声はまるで体力のない生徒が持久走を終えて戻ってきた時の声色だった。魂が半分抜けているとも言っていいだろう。

「砲術がこんなに大変だとは思わなかったぞ。」

龍仁もイスに腰掛けたまま前方に上半身を投げ出している。目は半分死んでいる。

「お前らは自室で寝てきたほうがいいんじゃないか?」

寛治はふたりの一日砲術士官に休息を促した。彰たちは幽霊行列のように猫背にしながらそれぞれの部屋に向かった。

独りメインルームに残った寛治はソケットから腕を外して考え込んだ。

(何で悠里は無傷で済んだんだ?それにあの「壁」は一体・・・・・)

考え込んでいる寛治に一つの通信が入る。

『宮川です。一旦北部の病院に戻ります。』

「了解した。ご苦労だったな。」

『では失礼します。』

短い通信を切ると寛治の頭の中を一つの考えが横切った。

(もしかして悠里は・・・・「あの能力」を持っているのか!?)


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