第五章
戦闘画面には敵の分布を示す点が無数に表示されていた。点の大きさで相手のだいたいの戦闘バロメーターがわかるようになっている。
―――――未確認のキメラなら話はまた別だが。
『何なのよこの敵の多さは・・・・。』
沙織が眉間に皺を寄せる。戦闘画面には画面が赤い点で埋め尽くされているとっても過言ではないほどのキメラの分布表示が成されている。
悠里は無意識に呟いた。
「あのなかに「あいつ」を殺した奴は・・・いるのか?」
その声色は普段の彼女のそれではなく、それは体の底から湧き出る怒りを抑えながらも殺意に満ちていた。宝石をそのままはめ込んだように美しい若草色の瞳は紅玉髄のごとき鮮やかな緋色に染まり普段の悠里の人間性を完全に消し去っていた。
連結されているソケットから思念を雪風に送る。それを受けた純白の雪風は静かに、そして大きな戦に向かう戦乙女のように太刀を構える。微妙な反りのある太刀は太陽の光を反射して銀色に輝いていた。その光景は優美で女性的なラインを湛えた雪風と見事に調和し、西洋画に描かれた戦女神のようだった。
悠里の鼓膜を月読と不知火の飛行音が振るわせた。目の前の戦闘画面にはそれが白い点で示される。そして遠めの向こうに大きな点が映されている。
(まずはあのキメラを殺るか・・・・)
悠里は雪風に指示を送った。雪風は主の「言葉」に応え、標的のキメラに向かって流星の如く飛行を開始した。
「なんだ?また戦闘か?」
何だか慌しいな、と安藤が言う。
「微かに機械音が聞こえる。・・・方角は南部か?だとしたら俺はここでちんたらしてらんねえな。」
先程までのやわらかい表情とは打って変わって寛治は鋭い鷹のような眼差しで南を見つめる。
(悠里たちは戦闘中ってことか。俺があそこに着くまでもってると良いがな。)
一方の安藤は一人の看護師を呼びとめ状況を尋ねていた。南部では何が起こっているのか、と。
「神威。」
安藤が低い声で呼び掛ける。それは何かを促すようだった。
「おめーの妹たちが戦闘中だってよ。早く行ってやんな。俺はこの通りだが宮川は行けるはずだ。」
行ってくれるか、と尋ねるような視線を宮川に向けた。それを受け止めた宮川は一人の航空機パイロットとしての顔で黙って首を縦に動かした。
「・・・行くか。」
寛治は椅子から立ち上がると安藤に仲間内だけ通じる敬礼をしながら病室を出た。それに対し宮川はいかにも「行って参ります。」といった表情で敬礼をし、寛治のあとに続く。
二人が出たのを見届けた安藤はゆっくりと南の青い空を見つめた。
戦場に純白の戦乙女が舞う。彼女の揮う太刀によって多くの小型キメラが切り裂かれ海に落ちる物もあればその場で雲散霧消するものもあった。その後ろを不知火が戦場を所狭しと飛び回り、得意とする射撃で相手を迎撃する。一方の月読は硬軟交えた戦術で次々とキメラを仕留めていく。相手のレーザーが被弾することはあっても彼らは大して気にしていなった。いや
気にしてなどいられない状況だった。敵が多すぎるのだ。いずれこのままでは激しい消耗戦となり彼らは負ける。弾薬や太刀の替えはあっても取り替える暇が存在しないのだ。
戦争での負けはすなわち「死」。最悪の事態を避けるためにも彼らは負けるわけにはいかなかった。
そして主のいない母艦・天城も寛治のいる時に比べて多少劣るものの、互角にキメラの大群との戦闘を展開している。彰たちもまた負けるわけにはいかなかった。
「寛治さんの来るまでの辛抱だな。」
彰が一人ごちた。
「あとどれくらいだ?」
戦闘機・白鷹の後部座席で寛治がパイロットの宮川に尋ねた。宮川は操縦にほとんどの神経を費やしながら答える。
「あと30kmほどです。大分戦闘は激しいようです。」
宮川と寛治の眼は前方には黒い点が大空で激戦を展開しているのを捉えた。




