第四章
海軍大臣室には二人の軍人がいた。一人は机をはさんで海軍相らしき人物と向かい合って立っている。立っているのはセミロングの黒髪をうしろで束ねている22歳ほどの男で白襟の軍服を着ている。
「先程も申し上げましたが決戦の準備はお早めに願います。」
黒髪の青年は優雅に一礼すると悩みに顔をゆがめている海軍大臣に背を向けて部屋を出ようと歩き出した。
「伊集院中将。」
海軍大臣は低い声でドアノブに手を掛けた伊集院を呼び止める。
「何でしょう?」
伊集院は手を掛けたまま海相へ向き直った。
「勝算はあるのかね?」
問いかけられた伊集院はふっと口元もほころばせながら答える。何をいまさらとでも言うように。
「わたしは勝算のない戦いはしない主義なんでね。」
その一言を残して彼は海相室を後にした。
海軍省を出た伊集院は何かを探しているか辺りを少し見回した。そして探していたそれが見つからないと納得すると灰色の空にむかって呼び掛けた。
「玉葉。」
その言葉が発せられたと同時に空から黒い鷹が舞い降りて来た。玉葉と呼ばれた鷹は伊集院の腕に止まると自らの主にのみ解る言葉をつむぐ。
「直泰様、奴らは東京へ向かっています。戦力は確実に増大し、このままでは日本は敗北するでしょう。」
式神の言葉を聞くと直泰は空を仰ぎ見た。藍色の深い色合いを持つ瞳はどこかとても遠くをみているかのようでどこか物悲しかった。
「このままでは・・・か。裏をかえせばまだ準備の余地はあるということだが今ではそうも言ってられないな。しかし敗北は許されない。何とかしなければ日本の神門を護る二つの氏族の存在意義がなくなる。奴らの誕生以来彼らと戦えるのは・・・あの二氏族だけだ。行こう。」
神門を守護する二氏族のうちの一氏族伊集院家の若き総領はもう一氏族のいる場所へ向かった。
「なんだか頭がガンガンする・・。」
悠里は目の前の群青色の大海原に視線を移した。
先程の「夢」は何だったのだろうか。妙にリアリティのある出来事で暫くの間いまいち現実とそれの区別がつかなかったほどに生々しく、そして、記憶のうちに引っかかる。
目の前でキメラになぶり殺しにされた軍人にも見覚えがあった。名前は思い出せないが確か同期で銃剣道では無類の強さも持っていたような気がする。
そして「あの時」―――――――
そいつは満身創痍で動けない「俺」の目の前で
キメラに殺された
両手足を喰いちぎられ
それでもなお戦おうとしたあいつの体を
いくつかの肉片に変え
そして動けない体に鞭打って一撃だけの反撃をした「俺」を
わざとぎりぎりの傷にして
周りの同期のやつらをなぶり殺しにしていった
「俺」は落ちていた拳銃の引き金に姉貴から「お守り」として貰った首飾りを引っ掛けて
キメラめがけて撃った
最後の反撃をした「俺」はその場でゆっくりと瞼を閉じた
出血は多かったが段々と痛みも収まって何だか安心したような感じだった
その時からの記憶は―――――ーない
「悠里!」
悠里が「記憶」の海でゆっくりと泳いでいると何者かの声でいきなり陸へと引き上げられた。
「キメラの襲撃よ!はやく出撃しないと!」
肩で息をしながら沙織はぼけっとした悠里の腕を掴み強引に引いてった。
『敵は雑魚が多いが何体かやたらでかいのがいる。今回は水雷は使う必要はなさそうだから俺はおとなしくすっこんでるとするよ。』
龍仁と彰は天城の砲術士官の席に座りながら言った。
『えー!?でも仕事はちゃんとしてよー!?』
『じょーだん、じょーだん♪むしろ大暴れするつもり♪もしかしたらお前ら出る意味ないかもなー。』
瀧澤と龍仁の会話で悠里はやっと現状を把握した。自分が今戦わなければならないことを。
「・・・とりあえず出撃しよ。」
悠里が通信越しに呼び掛けた。
「神威悠里、雪風・・出撃します。」
次の瞬間天城から雪風が天空に舞い上がり不知火、月読もそれに続いた。悠里の精神状態に一抹の
不安を抱きながら。




