第二章
「まあ内容はいつもと同じような感じだな。」
そう言いながら寛治は金属製の机にたくさんの赤線が引かれて使い込んだと見受けられる地図を広げた。そして細めの指である島の近海を指した。
「ここが今の俺達の現在地、宮古島だ。ここから南西よりに進んで与那国島へ進む。
伊集院中将の話によると、先日キメラが出現し、近くを航海中の艦隊が迎撃したが
何機か逃げられたらようだ。その生き残りを俺達が始末しろ、と中央参謀本部からの命令だそうだ。」
「ねえ、そのキメラがずっと一所に留まってるっていう証拠はあるの?」
栗色の髪に色白の肌が印象的な少女が寛治に疑問符を投げかける。
普通は上官に対しては敬語を使うのが当たり前のはずだが、この隊では上司にたいしてもため口を利くのが普通の様だ。
「ああ。俺達がこれから戦うのは『エリダヌス』という元ギリシャ製のキメラから派生した奴でな。そいつは命令が解除されるまでの間はずっと同じ所に留まる『習性』がある。別の場所に移動するとは考えにくい。・・・まあ、今では命令も何もあったもんじゃないからな。」
少女は納得したのか、だまってうなずいた。
寛治は一息つくと、
「とりあえず伝えておくことはこれ位だ。各自準備は万全にな。」
と言い、一時の集会の解散を宣言した。
彰は愛機・飛龍の最終点検をしていた。飛行水雷機と称するには少々美しすぎるフォルムを持った機体だった。隣には兄弟機の翔龍。これには彰と同期の少年・龍仁が搭乗する。
「なあ、氷室。」
氷室、と苗字で呼びかけられた彰は頬杖をついたまま龍仁の方を向く。
「なんだよ。」
「この戦争さあ、俺ら勝てると思う?」
龍仁の問いかけに彰は少し考えながら答えた。
「どうだろうな。」
今はそれしか答えられない。人類側の戦況はお世辞でも勝利を保証できるものは何一つないからだ。
「ふーん。」
この言葉を境に二人の水雷屋は各々の愛機の最終点検を続けた。
「う〜。緊張するよ〜。」
もう慣れてるはずなのに、とショートヘアの少女がごちる。
「大丈夫よ。敵はそんな多そうじゃないし。巴ってそんな心配性だったっけ?」
先程の茶髪の少女が言った。
「心配性ってわけじゃないけど・・・・。沙織は緊張しないの?」
「してるとしないの中間かな?だって無駄に緊張したってキメラが消えるわけじゃないし。
それに負けるって思ってたら本当に負けちゃうし。」
沙織と呼ばれた少女は口元をほころばせる。
「まあさ、戦死しない程度にがんばればいいんじゃない?戦争生き残った方が勝ち!」
悠里が明るく投げかけた。
「それにうちらがまだ士官学校にいて実戦配備される時に約束したじゃん。
絶対に生き残ろうって。」
『絶対に生き残る』と言う約束――――――――それは死と隣り合わせの戦場では何の意味も無いものだ。
しかしその『何の意味も無いもの』は彼女達にとっては『何よりも大切なもの』だった。そしてその約束の為に彼女達は戦う。
『天城隊、与那国島近海ニ到着ス。増援準備急行セヨ。』
この電文の行き先は日本海軍沖縄基地2017航空隊、別名『隼小隊』だった。これに気づいた隊員の一人が上官を呼んだ。
「隊長、天城隊の増援電文です。応答してください。」
「・・・・・・。」
「隊長?」
「・・・・・・・。」
隊員がもう一度呼びかけようとした時、彼の鼓膜を爆発音と数々の断末魔が振るわせた。
「おい!宮川!俺だ!安藤だ!」
宮川と呼ばれた男は不安と困惑の交じり合った声で返事を返す。
「隊長!今の爆発音は!?」
「キメラに襲撃を喰らった。今の通信だが、とても増援なんてできる状況じゃない。悪いがお前が行ってくれ!」
「そんな!自分はまだ・・・。」
そんな大役は務まりません、と言うと安藤はさっきとは全く違う、励ますように言った。
「大丈夫だ。お前ならきっと、いや、絶対にできる。それにいざとなったら神威を頼れ。
あいつはきっと何かを・・・・。クソッ、目の前が霞んできやがった。」
「隊長!!」
「早く行け!確かお前のところには何人か残っているだろう!早く!」
「・・・・了解しました。ご武運を。」
宮川が重い声で言いながら通信を切ろうとした時、
「宮川。」
「?」
「お前もだ。幸運を祈る!」
この後に聞こえたのは爆発音と砂嵐の音だけだった。
宮川は通信を切った。そして泣いた。声を殺して、泣いた。
隊長の安藤と初めて会ったのは士官学校に入学して一年たった頃だった。
当時はあまり(というか全然)成績は良くなく、いつも残って自分だけで訓練をしていた。そこにいきなり安藤がやって来た。当時の彼は最高学年の四年生で奇抜な奴だと言う事で有名だった。
「お前って、いつも独りで練習してるんだな。」
この一言が始まりだった。宮川は安藤に懐き、安藤の方も宮川には目を掛けた。
「隊長・・・いや安藤先輩・・・・。この基地に還ってくることができたら、一緒に飲みに行きましょう。」
届くはずのない通信機に向かってそう言うと宮川は同僚のいる場所に走りながら言った。
「今天城隊からの通信があった!増援に行くぞ!」
その場にいる同僚全員が振り向いた。一人が言った。
「増援!?久しぶりのキメラ狩りだな!」
悠里は自分の愛機に乗り込み、自分の立場を再確認し自分を鼓舞する言葉を口にする。
「神威悠里、雪風出撃します!!」
つぎの瞬間、五機の兵器が打ち出され二機は上空へ残りの三機は海底へと進んだ。
戦闘画面には赤い点が五つ。キメラだ。近い。
「・・・予想より近いわね。」
言葉の主は沙織だった。彼女の機体は月読。
「近かろうが遠かろうが関係ないよ。今は戦う。それだけでしょ?」
巴が言う。先程のやり取りの時とは裏腹な冷静さを持ち合わせている様だ。彼女が駆る機体は不知火。
「来た!」
悠里たちは各々別の方向に散った。敵のキメラ、エリダヌスがそれに続いた。
悠里は雪風の自慢の俊敏性を生かしながらすかさず相手に斬りかかる。海中で銀色の刃が水と相手を斬る。エリダヌスは身をくねらせ斬撃をかわそうとしたがそれは無駄な行為に終わった。雪風はもう一本の太刀を持っていたのだ。『彼女』はそれを引き抜くと鋼鉄の海蛇を二つに切り裂く。
沙織は間合いを取ると正確に狙いをつけた月読のライフルを撃つ。命中。相手がひるんだ隙に後ろに回り、そして至近距離でもう一度ライフルでエリダヌスのミサイル発射口を撃った。中の弾が誘爆しエリダヌスは姿を消す。月読はカトラスを取り出し次なる獲物を追った。
「はいはいこっちにいらっしゃ〜い。」
そう呟きながら巴は機雷を爆破するチャンスを虎視眈々と狙う。そこへ雪風が援護するように二機のエリダヌスをおびき寄せた。
「巴!今だよ!」
「りょーかい!」
刹那、機雷が爆発し海を振るわせた。すぐさま不知火と雪風はその場を離れ月読のところへ向かった。
「上のほうは大丈夫かな?」
巴が通信を繋ぐ。
「はいはい徳永龍仁の通信サ〜ビスです〜。」
「あー龍仁?巴だよ。そっちどうなってる?」
「今のトコ敵は視認できないな。だけど戦闘画面にはバリンタン海峡から何機か写ってる。
結構数が多そうだからそっちが終わったら上に上がってくれ。」
「はーいよ。」
二機が月読のところへ着いた時、沙織はもうエリダヌスを倒していた。
巴が彼女に先程のことを伝えた瞬間、小隊の戦闘画面に耳を劈くような音が響いた。
「敵の増援だ!」
寛治の声が通信を通じて小隊全員も鼓膜を振るわせた。雪・月・火は空へ昇った。
「あれは!?」
「元日本製のキメラらしい。コードネームは『葵』。」
『葵』が編隊を組んで向かってきた。天城隊は迫りくる敵に対して攻撃姿勢を構える。その時彼らの頭上を戦闘機の影が通り過ぎた。
「神威隊長!」
若い声が寛治に呼びかけた。宮川だった。
「・・宮川?お前達もしかして増援か!?那覇基地は襲撃を受けたと聞いたぞ?!」
「はい。私達のところは無事だったので・・・。」
「そうか。礼を言う。」
2017航空小隊は戦闘機『白鷹』を駆り、葵に勝負を挑んだ。蒼龍・翔龍もそれに続く。
大空は混戦の戦場と化した。天城隊のネームシップである戦艦・天城は艦砲射撃で味方を援護する。雪・月・火は撃ち洩らした敵を仕留めつ為、天空を舞う。
2017小隊は天城に収容され、天城隊の隊員と共に休息をとった。
「そうか。安藤は――――。」
生きてはいないかも知れないのか、と寛治は言った。その黒曜石のような瞳は重く沈み、光は消えていた。
「でも、俺は信じてます。安藤先輩は――。」
宮川は自分の隊長を士官学校時代の呼び名で呼んでしまったことに気づき口を押さえた。寛治はその行動を見ると声を殺して笑った。
「し、失礼しました・・。」
宮川が恥ずかしそうに頭を抱えた。寛治はいやいや、と手を振ると言った。
「安藤らしいな。」
「??」
親友の部下が困惑していると、
「まさかあいつ、自分の部下になってもそのままの呼び方で放って置いたろ?」
と寛治が少し笑いながら尋ねた。
「はい。でも正式な軍人になったので直そうとしたんですが・・・。」
結局治りませんでした、と宮川が答えた。
寛治はふうんと言うなり、
「基地まで送ってやる。それまで休んどけ。」
と言い艦長室を立ち去った。
宮川は意味深な彼の言動に疑問を抱いた。そして急いで敬礼をしながら言った。
「ありがとうございます!」
しかしその言葉は遅かった。。。
せ、戦闘シーンがうまく書けてない・・・。
もっと修行します。
文才がほしいー!




