第十五章
悠里はひどい頭痛を感じていた。頭が万力で締め付けられるような、鈍器で殴られた後のようなひどい痛みだった。
(痛いけどまあ良いか。生きてるし。)
鉄の塊のように重く感じる頭を上げると、戦闘画面は消えており、向こう側が少し透けて見えた。なにやら話しをしている。見た所この艦は天城ではないらしいことが悠里にはわかった。
「使えるかな・・・。」
できればそうであって欲しいと思いつつ拡声器のスイッチをONにする。スイッチを入れると空気の流れる音を拾ったのか砂嵐のような音が聞こえた。
「あのお、ここどこですか?」
悠里の声に反応して一人の女性が言葉を返す。
「戦艦初瀬です。気分はどうですか?」
「何か頭が痛いです・・・。」
「自力で出て来れますか?」
「あ、はい。今出ます。」
雪風にコックピットの扉を開けるよう指示する。除々に鮮明な画像が悠里の網膜に映し出された。そこには艦長らしき女性と下士官の少女が立っていた。
「お疲れ様。天城隊の神威さんですね?私は初瀬艦長の斎藤玲子です。」
綿毛で包み込むような優しい声だった。容貌は色白に黒目黒髪、どことなく微笑んで見える。
「どうも・・・救助していただき、ありがとうございます・・。」
何か言葉が間違ってるぞ、と思いながらもそれを修正するほどの気力もないのか悠里は頭に思い浮かんだ上司に対する感謝の言葉をそのまま使った。相手の艦長はにっこりと微笑むと、
「疲れてるでしょ?医務室で横になってきたら?もうすぐ天城と合流するわ。」
水無瀬さん、案内してあげて、と悠里の案内を側にいた下士官に任せた。
「どうも・・・ありがとうございます。」
悠里はゆっくりと身体を持ち上げ雪風から降りた。それを受けた少女が黙って、しかし子供のような笑顔で先を歩き出す。悠里もそれに続く。
「あとの四人は無事かしら。」
斎藤は機体に向き直ると心配そうにため息をついた。
悠里の先を医務室へと歩く少女はまだ11歳程度に見えた。
(なんでこんな小さい子が軍に・・?)
悠里がそう思っていると、突然少女が振り向き、口を開いた。それも人形のように無表情で。
「捨て子だったからです。」
悠里は驚きの色を隠せなかった。どうして解ったの?人の心が読めるの?
彼女がそう考えていると、少女はそのまま続けた。
「私・・・人の心が読めるんです。それを気持ち悪がられて親に捨てられたんです。そこを斎藤さんに拾われて、いまでは軍人の端くれの端くれですよ。」
最後のほうは少し笑っていた。
「伊集院さん、初瀬まであとどれくらいですか?」
弾んだ声で寛治が尋ねた。その顔はまるで子供のようだった。
「あと少しだから・・・。」
半ば呆れながら伊集院は答えた。もう何回それを聞かれただろう、内心彼はそう思っていた。
「でも本当に良かったな、全員生きていたのは奇跡だよ。」
「全くですよ。腕が良かったのか悪運が強かいのか解りませんけど。あーでも、死んでたらどうしようかと思いましたよ。」
自分が育ててきた四歳ほどしか離れていない大きな子供たちだけあって思い入れも一入らしく、寛治は本当の親のように言った。
伊集院は遠くを見ているような眼になった。
――――両親は自分のことをこんな風に思っていたのだろうか。
―――――それ以前に自分は両親にとってそんな存在だったのだろうか。
――――自分は生まれてきてよかったのだろうか。
―――――自分は感情をもった『人間』として存在しているのか。
わからない
伊集院は自分の白い手の甲を頬に当てた。冷たい中にも微かな生きている証であるぬくもりが伝わってきた。
伊集院の頬を水晶の涙が伝った。




