第十四章
「遅いな・・・。」
寛治は半ば苛立ちと心配の念が篭った声で言った。「帰艦します。」の連絡が入ってあいつらのうるさいまでの声を聞き通信を切ってから一時間が経とうとしていた。
「キメラの撤退に巻き込まれたってこともあり得るよ。」
伊集院が膝に肘をつけたまま言った。その蒼い眼はどこか遠くを見ているようだった。
「ところで神威くん。」
「・・なんですか?」
「どうしてキメラとの戦争は大変だといわれるか知ってる?」
寛治はかぶりを横に振った。自分の部下たちがどうなっているかに精神を支配されそんなことに声を出して応える暇がなかった。
「あいつらとの戦争で最も危険なのは相手の撤退時なんだ。動物的な本能で我先にと逃げようと『暴徒化』するんだ。周りの事なんかお構いなしにね。・・・・裏を返せばその時が狙い目なんだけれど成果の程は高が知れている。それどころか生きて還ってくる事さえ難しい。キメラだってバカじゃないから自分が逃げるのを阻む奴はほうっておかないよ。
対キメラ戦争での死者のうち三分の二が撤退戦時にキメラの群れに飛び込んで殺そうとした奴らなんだ。君の妹さんたちはそれを知らないはずだよ。軍の上層部がそのことを洩らすのを禁じたんだ―――――死者の殆どがキメラの撤退戦時の戦死なんて示しがつかないからね。だからキメラが周りに無関心になる撤退時を狙っていったのかもしれない。
・・・・覚悟しておいたほうがいいね。」
『こちら戦艦初瀬。天城、聞こえるか?』
ひとつの通信に二人の静寂が破られた。通信の主は女性の声だった。
「こちら天城隊の伊集院です。」
『伊集院か、私は初瀬艦長の斎藤です。先程6機の人型兵器と翼龍兵器が負傷しているのを発見し収容したのですが意識がないのか壊れているのかパイロットとの連絡が取れなくて・・・。雪風という名前に覚えはありませんか・・・』
「雪風だって!?他には何を収容してるんだ!?」
伊集院の驚きように斎藤は困惑しながら応えた。
『確か、月読に不知火に・・・』
「神威くん!雪風たちは収容されているそうだよ!!」
「本当ですか!!?」
寛治は喜色満面といった感じでその整った顔の眼を大きく開いた。そしてすぐさま通信に割り込み、
「様子は!?」
と尋ねた。一方の斎藤はいまだ困惑しつつ、
『損傷はひどいですがパイロットは無事のようです。意識がないのは機体のほうですので。』
「そうですか!ではすぐにそちらに向かいます!!」
「良かったね。」
にっこりと伊集院は寛治に言った。寛治は少年のような笑顔だった。しかし彼はひとりで自分の歓喜の世界にトリップしており、自分の上司の言葉は聞いていなかった。
「じゃあ初瀬に行くとしようか。」
伊集院は天城にそう命じると甲板へ出て行った。
(神威くんは僕の小さいころに似てるなあ・・)
手放しに喜ぶ寛治の姿を見て伊集院はそう思った。




