第十二章
「うへえ、気持ち悪っ!」
巴が今にも吐きそうな調子の声で言う。群青色の海にはキメラの欠片や死者の血が混ざりどす黒い紫色に染まっていた。しかし聞いている方の沙織はそんな事などどうでもいいと言った様子で
『そうね・・・。あ、繋がった。』
「え?何が?」
『さっきから悠里の回線が繋がらないから別の方法で試してたの。こっちに移動してきてから何の音沙汰がないから少し心配でさ。敵もほとんど居なくなったから、繋がるかなって。』
沙織は言い終わると悠里からの応答を待った。
しかし数分待ってもテレビの砂嵐のような音が聞こえるだけで悠里の応答は無かった。
「・・・・聞こえた?」
沙織の返事は無かった。返事をしなかったのでは無く、できなかったのだろう。巴には沙織が月読の中で絶句している光景が脳裏に浮かんだ。天城隊の中では戦闘後に通信が繋がらないと死はイコールで結ばれていたからだ。
その時だった。
遠くの澄んだ海底で何かが煌めいた。遠目に捕らえられた戦闘画面の画像を見た限りではそれは雪風の太刀に見えた。その太刀に対しているのはキメラの『黒龍』―――――――巡洋艦レベルの『装甲』の厚さを持っているキメラだった。
『あれって黒龍じゃない?』
「そんな・・・。あいつにサシで戦おうなんて―――――――。」
そんな無茶な、と言うや否や巴と沙織は各々の機体を海中へ滑り込ませた。
雪風の左腕が太刀と共に吹き飛ばされた。残る武装は右腕とそれに握られた太刀のみだった。弾薬は先程の戦闘で使い果たしてしまい、悠里は太刀のみで、その黒龍と戦うことを余儀なくされた。
残された二本の太刀のうち一本が消えたとなると大きな痛手だった。
(生きて帰れるかなあ・・・)
悠里はそんなことを考えながら半ば自嘲の笑みを浮かべた。
(生まれ変わっても『あいつ』の敵討ちができないのか・・・)
そして悠里が無謀な反撃に出ようとした時、彼女の視界に変化が起こった。
(何なのこれ?)
悠里はすぐさま自分の眼を疑った。それもそのはずだった。急に視界がぼやけ、だが物がこの上無く鮮明に見える奇妙なぼやけ方だった。
その時、悠里は片腕だけで太刀を腰だめに構えて黒龍に向かった。




