第十一章
『何なんだよこの数は・・・・・。』
通信越しに龍仁の引きつった声が聞こえた。確かに今までに見たことの無い多さだった。見たところ元日本製の海龍が大半を占めている。それに続いてローレライ、セイレーンと続く。
「ホントだ・・・・。今までみたことないぞ、この多さは。」
彰を自分の声が引きつっているのに気が付いた。少なからず恐怖を感じている。隣の龍仁は翔龍を発進させる。彰をそれに続いた。
戦闘が遠くに移り天城はこの戦闘での役目を終えた。
「とりあえず空中戦は終わりか・・。」
ふう、と寛治が一息ついた。しかし眼はまだ鷹のように鋭く、自分を完全に休ませてはいなかった。
「天城は潜水艦じゃないから海中戦はできないね。」
伊集院がヘッドセットを被ったまま言った。
「はい。こういう時の俺が情けなくてしょうがない。」
「何でそんな風に感じるんだい?」
「ただ黙ってみてる事しかできないからですよ・・・。海の中ではなにが起こっていてその場で自分が何をするべきか解っていても、操艦士官だから艦を離れられない。その上潜水艦ではないから中にも行けずただ敵から自分を守ってあいつらの無事を祈るだけ・・・。不甲斐ないんですよ・・・自分自身が。」
「辞めようとは思わなかったのかい?」
「そりゃ思いましたよ。だけど、もし俺が天城隊を辞めたら伊集院さんはどうなりますか?」
「とても困るよ。隊の皆も君に懐いてるし。それにあの様子じゃあ新しい軍人――――とくに本土軍の―――にはものすごい反発をするだろうね。みんな反抗期だし本土軍の人を嫌っているしね。うちらからたくさんの物を奪ったって(笑)。」
伊集院は被っていたヘッドセットを取り外しそのまま言葉を続けた。
「彼らには確固たる存在の証明が無いんだ。みんな何かしら立ち直れないような辛い経験をしてる。それもみんな軍隊絡みだ。例えば君たち兄妹のようにね。神威くんだったらどうする?もし自分の存在の証明がなくなったら、もし自分が必要とされていないと感じたら。」
「それを探す、このご時世だったら軍隊に入るのも手だな。今は人手が不足気味だから喜んで向かえられる。・・・俺もそうだった。」
「そう。だからあの子達は軍隊に入ったんだよ。士官学校に通って軍人になれば今ではどこの戦地にいっても人手が来たと喜ばれる。たとえ自分がそこで死ぬとしても。そして正にそうなろうとした時に天城隊に召集された。そこには自分と似たような奴がたくさんいる――――入隊したときからもうわかっていたんだろうね。そしてあの子達は今のようになっていったんだ。だからあんなに頑張っているんだと思う。自分が必要とされているならそれに応えるって言う事がこの異例の善戦さの原動力なんだ。そして戦闘から生きて還れば自分を否定せずに迎えてくれる場所と人がある―――――――それが天城と君なんだ。このどちらが欠けてもいけないだろうね。特に君が戦死したとなると君の妹さんが半狂乱どころか発狂するよ。あの子は君に可愛がられているから。」
「そうですか?」
「見てるだけでわかるし僕にも時々楽しそうに君のことを話すんだ。両親がいないから彼女をそうさせるんだろうね。確か神威くんが軍隊に入ったのは両親を亡くしたからだよね?」
「そうですよ。悠里が9歳のころにキメラに殺されたんです。衣食住を整えてくれるのがいなくなったから学生手当てのある士官学校に入学したんです。そうすれば裕福とまではいかなくとも生活ができると思った、そして言ったように自分が必要とされている、キメラにも復讐ができると思った――――それだけです。後、一家に軍人のいる家族は徴兵にとられない制度があったじゃないですか。いまでは女子も戦争にとられる時代だから悠里だけは戦場に行かせたくなかったんです。だけど―――。」
「彼女も復讐を望んで軍隊に。」
寛治は黙ってうなずいた。伊集院はそんな寛治をちらっと見ながらまた言葉を紡いだ。
「初めて会ったのは士官学校に入学したての頃だったよね?」
「はい。確か悠里が伊集院さんと会ったのもそれが始めてです。」
「あの時の彼女は本当に君に懐いていたね。独りじゃ寂しくて士官学校まで君を迎えに来た事もあったっけねえ。」
「ホントあれはびっくりしましたよ。校門のところに小さい子がいると思うとそれが悠里なんですから。駆け寄ると今にも泣き出しそうな顔をして俺を睨んでて・・・。すぐ後に大泣きを始めて、それを見てた同期たちから一週間はからかいの種にされましたよ。」
二人は隊員の無事を祈りながら昔話に華を咲かせた。すると通信が入る。
『天城隊実戦部隊全機帰艦します。』
彰の声のあとにいろいろ通信の声が交じり合う。
『あっ氷室!貴様抜け駆けしたな!』
龍仁の声だった。
『わーずるい!あたしが言おうと思ってたのに!!』
巴の声だった。
『次こそは私が言ってやる・・・・!』
沙織の声だった。
『二連覇失敗ね。次こそあたしの番よ・・見てらっしゃい。』
悠里の声だった。
「ちょっとお前ら一人ずつ言えよ!」
回線がぶっ壊れる、と寛治が笑い混じりの声で言った。こんな他愛もないことにこだわるのも彼らならではのことだと寛治は感じた。
『まー全員生還ってことですよ。寛さんと伊集院さんは大丈夫ですか?』
彰が操艦画面の映像で尋ねた。他の隊員も同じような事を言っているが声が交じり合って詳しくはわからなかった。
「この通り全然大丈夫だ。さっさと還ってこいよ!」
寛治が通信を切ると、伊集院に言った。
「伊集院さん。あいつらを否定せずに迎える場所にもう一つありますよ。」
「?」
「伊集院さん自身ですよ。」




