第十章
こっちがホントの十章です・・(苦笑)
「これで決戦の準備は整ったか・・・・。あとは・・・場所だな。」
初老を迎えた海軍大臣が、ふう、と肩をなでおろす。
枢密院のテーブルの向かいには陸軍大臣が右隣などにはそれぞれの国務大臣が座っている。彼らの中にはキメラとの決戦に反対するものは全くいなかった。いや、反対などできるはずも無かった。反対・反戦を唱えれば『非常な危険な思想を持つ思想犯』として強制収容所に収容される。収容されることは死刑と同義語だった。収容所での生活は口に出していえないほどの酷さだった。民主主義が続いていたとはいえその点では太平洋戦争時代の日本と何ら変わりは無かった。
「桜島辺りはどうでしょう?あそこなら東京以上の物資がある上に陸海空三軍の鎮守府もある。トータルの軍事力で言えば日本一だ。」
陸軍大臣が持参した地図を広げる。この場で最も強い発言権と裁定権を持っていたのは軍部の大臣だった。身の保身を図った他の国務大臣は無言の同意を示し、海空の二大臣も反対の意を示さなかった。
「決定ですね・・・。では後日この結果を総理に提出します。・・・・くれぐれも反対などお考えなさらないように。」
若い陸軍大臣は狼のような視線で周りを見回す。この場では自分が最も強い権力を持っていると自覚しての行為だった。
「では解散としますか・・。」
空軍大臣が席を立つと他の者も続いて立ち枢密院を立ち去った。中には海軍大臣と陸軍大臣のみが残された。
「言い出したのは君の部下ですからね・・・。まあ私も協力しますけど。」
向かいあっている海軍大臣にすれ違いざまに言う。陸軍大臣はどこか勝ち誇った表情でもう一言付け加えた。
「失敗したら辞任どころじゃありませんねえ。」
クスクスと笑いながら彼は部屋を出た。
「失敗なんぞするわけが無い。」
半ば自分に言い聞かせるようにして海軍大臣は枢密院をでた。
「何あれ?」
悠里の目が空に舞う黒い影を捉えた。6匹ほどのそれは鳥のようで竜のようでもあった。一匹の巨大な竜が多くの小さなものを率いている。だんだんそれが鮮明になってくる。
(こっちにくる・・・!!)
悠里は飛び起きると甲板をひとり走り内部に行った。
「咲耶!」
「どうしたの息切らして?」
「キメラが・・・キメラが来たのよ!」
その一言にその場にいた全員が凍りついた。
「出撃よ!機体の修理状況はどうなってるの!?」
「・・・・出撃できないことはないけど。」
悠里は弾かれたように雪風に乗り込んだ。
「龍仁は皆を呼んできて。それまではあたしが何とかする。」
「お、おい待てよ悠里――――。」
俺も出撃する、と言い終わらないうちに雪風は大海原の広がる天空に舞い上がった。
(大分近い・・・)
雪風は太刀を構えた。ミサイルはすでに発射が可能だった。
(ワイバーンか)
翼竜のような姿をしているキメラは空の覇者の如き姿で空を舞う。雪風はそれを迎え撃つことができるように全身の神経を研ぎ澄ませた。
「月読、出撃します。」
「不知火、いきます。
二機の出撃を見送ると寛治はもう二機の出撃を促した。
「飛龍、翔龍出撃してくれ。」
『りょーかい』
『出撃する』
二つの機龍が天城から飛び出した。全員の出撃を見送ると寛治は伊集院に向き直る。
「天城の指揮を頼みます。」
そう言われた伊集院はのほほんとした表情で応えた。
「了解♪」
「敵の正確な数は7機。そのうち2機がワイバーンで残りが元日本製キメラの朱雀だ。ワイバーンは堅い上に遠距離攻撃が滅法強いからそこんとこ注意しとけ。朱雀は飛龍・翔龍が当たってくれ。」
伊集院が言い終わった途端に寛治が敵の増援を知らせる。
「北東の海中より敵が接近。元ドイツ製のローレライと日本製の海龍、イギリス製のセイレーン、数は不明だ。」
通信を切ると寛治は那覇基地へ新たに通信を繋ぐ。
『こちら那覇基地です。』
「天城隊だ。キメラの急襲に遭った。相手は潜水系だ。潜水艦隊と航空隊に増援を要請する。」
『了解しました。』
「操艦は久しぶりだなあ。」
伊集院は戦闘画面を眺めながら言った。
「ま、頑張りますか♪」
基地内では人が行き交っていた。
「どうしたんだこの騒ぎは?」
安藤が宮川に尋ねる。
「またキメラの襲撃だそうです。なんでも天城隊が対処しきれないほどの数みたいで、さっき増援が潜水艦隊と航空隊に要請されたとか。」
「お前は行かなくていいのか?」
怪訝な表情で宮川に尋ねた。
「はい。鎮守府長官に聞いてみたんだすけど安藤隊長が負傷ということで出撃はなしみたいです。」
「俺の負傷でか・・・。」
頼りにされてねえな、俺ら、と窓の外を眺める。
「神威さんたちは大丈夫ですかねえ?」
「あいつらの事だからどうにかしてくれるだろ。悔しいが今の俺達にはあいつらの無事を祈ってる事しかできねえ。」
(神威たちが対処できねえ数か・・・)
安藤は心の中でため息をついた。
「まだ生きてるの?」
悠里は半ば驚きながら呟いた。相手はどんなに斬っても力振り絞ってこちらに向かってくる。これとまともに戦ったらよほど戦い慣れている者でも無い限り感情が恐怖に支配されその隙に殺られるだろう。正直悠里も少し恐怖を感じていた。
(これでとどめよ・・・!)
雪風は太刀を振り上げるとワイバーンの長い首を斬りおとした。ワイバーンは1〜2秒の間もがいた後半透明の体液を噴き出し、自らの身体をそれで溶かしながら最期を迎えた。
『さすがは元日本製。丈夫な奴だ。』
彰が息切らしながら自嘲的に笑う。それを聞いた龍仁も肩で息をしながら言う。
「だな。全部俺達だけで倒したら勲章もんだ。」
『まあお偉方はケチくせえからくれないだろうけど。あ、なんかラストの奴がオーバーヒート起こしてやがる。さっきのが効いたっぽい。』
「へ〜。そりゃ良かった。あとは味方の援護攻撃に行くか。」
『だな。』
汗で顔にまとわりつく短い髪をうっとおしく思いながら二つの機龍は海の中に潜り込んだ。




