第九章
「これで決戦の準備は整ったか・・・・。あとは・・・場所だな。」
初老を迎えた海軍大臣が、ふう、と肩をなでおろす。
枢密院のテーブルの向かいには陸軍大臣が右隣などにはそれぞれの国務大臣が座っている。彼らの中にはキメラとの決戦に反対するものは全くいなかった。いや、反対などできるはずも無かった。反対・反戦を唱えれば『非常な危険な思想を持つ思想犯』として強制収容所に収容される。収容されることは死刑と同義語だった。収容所での生活は口に出していえないほどの酷さだった。民主主義が続いていたとはいえその点では太平洋戦争時代の日本と何ら変わりは無かった。
「桜島辺りはどうでしょう?あそこなら東京以上の物資がある上に陸海空三軍の鎮守府もある。トータルの軍事力で言えば日本一だ。」
陸軍大臣が持参した地図を広げる。この場で最も強い発言権と裁定権を持っていたのは軍部の大臣だった。身の保身を図った他の国務大臣は無言の同意を示し、海空の二大臣も反対の意を示さなかった。
「決定ですな・・・。では後日この結果を総理に提出します。・・・・くれぐれも反対などお考えなさらないように。」
若い陸軍大臣は狼のような視線で周りを見回す。この場では自分が最も強い権力を持っていると自覚しての行為だった。
「では解散としますか・・。」
空軍大臣が席を立つと他の者も続いて立ち枢密院を立ち去った。中には海軍大臣と陸軍大臣のみが残された。
「言い出したのは君の部下ですからね・・・。まあ私も協力しますけど。」
向かいあっている海軍大臣にすれ違いざまに言う。陸軍大臣はどこか勝ち誇った表情でもう一言付け加えた。
「失敗したら辞任どころじゃありませんねえ。」
クスクスと笑いながら彼は部屋を出た。
「失敗なんぞするわけが無い。」
半ば自分に言い聞かせるようにして海軍大臣は枢密院をでた。
「何あれ?」
悠里の目が空に舞う黒い影を捉えた。6匹ほどのそれは鳥のようで竜のようでもあった。一匹の巨大な竜が多くの小さなものを率いている。だんだんそれが鮮明になってくる。
(こっちにくる・・・!!)
悠里は飛び起きると甲板をひとり走り内部に行った。
「咲耶!」
「どうしたの息切らして?」
「キメラが・・・キメラが来たのよ!」
その一言にその場にいた全員が凍りついた。
「出撃よ!機体の修理状況はどうなってるの!?」
「・・・・出撃できないことはないけど。」
悠里は弾かれたように雪風に乗り込んだ。
「龍仁は皆を呼んできて。それまではあたしが何とかする。」
「お、おい待てよ悠里――――。」
俺も出撃する、と言い終わらないうちに雪風は大海原の広がる天空に舞い上がった。
(大分近い・・・)
雪風は太刀を構えた。ミサイルはすでに発射が可能だった。
(ワイバーンか)
翼竜のような姿をしているキメラは空の覇者の如き姿で空を舞う。雪風はそれを迎え撃つことができるように全身の神経を研ぎ澄ませた。
「月読、出撃します。」
「不知火、いきます。」
二機の出撃を見送ると寛治はもう二機の出撃を促した。




