妖精と出発
結局題には『大』を付けない。付けたら「あ、この辺りから大妖精が登場するんだ」みたいな勘違いを防ぐため。
やっぱり大妖精じゃなくて超妖精にでもすればよかったかもしれない。なんか⑨っぽいからやっぱりパス。
蓮姫との戦いがまるで嘘のように。あれからそれなりには時間が経ち、山には平和が戻ったかと思いきや一難去ってまた一難。どこぞのものならいざ知らず、俺達の山の妖怪が攻撃を受けたなら動かないわけにはいかない。
「本日は晴天だ~」
と、言う訳で旅だ。何言ってるか分からない、と言う方は察してくれ。
それでも分からない方には説明しよう。察してくれとか言った意味。ぶっちゃけ雰囲気作りだ。
天正からの報告を受けた後に支度を整え、その二日後の今日、俺はこうして旅に出るわけだ。本当なら真可も連れて行きたかったんだけど俺は羽をしまって人間に偽装するので、妖気を隠すことに慣れていない真可を連れて行くことはそもそも出来ないのだ。
彼女は泣く泣くお土産に期待してると言い残して去っていった。それは今より数分前の出来事だったりする。見送りが天正だけって寂しすぎる。
さて、今の俺は先程述べた通りに服装こそ変わらないが羽を隠している。人に偽装するのに羽を出していては本末転倒だ。妖力のほうは能力で隔離し、俺が存在するためだけの力にだけ回されている。要するに今の俺は人間となんら変わりないわけだ。更に言うなら姿も一番最初、特に子供だった頃に戻ってしまい、空も飛べなきゃ妖力弾も撃てやしないし振れない剣を持っていく必要もない。
しかも、未だ人一人すら見つからず、俺は正しく草を掻き分けてでも人里を探さなければならない。
……手がかりが妖怪が襲われた場所だけってのはどうよ。
それでも仕方なしに俺はその場所に向かうわけだ。
☆〇☆☆〇☆
俺はこの世界に神様なんていないと思う。万が一いたとしてもそれは恐らく見た目だけ美人の性悪女神だ。そうに違いない。もしも男なら居ない方がマシだ。って言うか死ね。
まぁ実際にいるかいないかなんてどうでもいい。ただ、今日この日の運の悪さと嫌な偶然についてだけは恨み言を申したい。
「神様なんか死ね! 死ね! 死んじまえ!!」
「Gyaaaaa!!」
今現在妖怪と激しい鬼ごっこを繰り広げている。脇目も振らずに失踪している。言語を解さず、姿形も虫――ムカデのような――なので、恐らく低級妖怪でも特に力の無いものと見受ける。
なんてことはない。いざ妖怪が襲われた場所に行ってみればそこは殺された妖怪の妖力が充満しており、妖怪にとっては非常に心地よい空間に様変わり。とは言っても妖精な俺には腐臭漂う殺人現場のようにしか見えない。死んでるのは妖怪だけど。
今限定で力が皆無な俺はそそくさと退散しようとしたが、一匹に見つかり、今に至る。元は獣道だったのに今は森の中。逃げることに夢中でそんなこと気にしてられない。この柔肌が後々かぶれないか心配。
封印を解放してもこいつは俺を襲うことをやめないだろう。こういった妖怪は捕食対象と思い込んだら実際に食うまで止まらない。食われてやる趣味もないが、こんな状況では自分に深く刻んだ封印処理を解くには時間がかかりすぎる。誰だ万が一の為強く封印なんて言った奴。俺だった。
紙一重で攻撃を避けるようにはしているが攻撃は無駄に俺の服を掠り、ボロボロにしていく。ここでも来たかポロリフラグ。誰も男のポロリなんか望んでねーよ。誰か助けてください。今なら純粋無垢で清らかな微笑を見せてやるから。
なんて、何処の妖怪が人間――に偽装した妖精だけど――を助けるんだっつーの。人間を助けるなんて――
「Gyeaaaa!?」
人間以外……ありえないですよね~。
振り向いてみれば妖怪のちょうど頭部の部分に突き立った一本の矢。よくよく見るとただの矢ではなく、お札が括りつけられている。神社でよく見る、破魔矢とでも言うのだろうか。
視線を横にずらしてみるとそこには四人ほどの成人男性、人間が弓を番えていた。苦しむ妖怪を他所にそれは放たれ、その妖怪の体に吸い込まれるように飛んでいく。だがそれでは仕留めるには足りないだろう。苦しみながらのた打ち回る妖怪を哀れには思いながらも人間に視線を戻し、ギョッとした。
熊のような巨体な人間の肩に担がれたゴツイ銀色に光る筒。それがどういった類の物かはなんとなく心が理解した。
眩しい光が辺りを覆い、俺は目を硬く瞑った。それはすぐに晴れ、俺の目はゆっくりと開いていく。
あったのは死体。頭と胴体の幾分かが消滅し、力なく横たわる妖怪の姿だった。
目を疑う。いやそんなレベルじゃない。今あったことを何かと理由をつけて幻だと決め付けようとしている自分がいる。それほどまでに衝撃的な光景。だが納得。妖怪を一撃で消滅させられる理由もこれならばと思ってしまう。
こちらに静かに近づいてくる男性達の服装は言うなれば和服。しかし、ポケットやその肩の銀の筒が日本と言う故郷のイメージを削いでいく。
「君! 大丈夫かい!?」
「え……あ……」
話しかけられているのが俺だと気付くのには時間はかからなかったが、戸惑ってしまったのは確かだった。まさかこう簡単に接触できてしまうとは思えなかった。
なんと応えていいのかも分からず、うろたえる俺は特に不審げな目で見ることはしなかった。後々考えてみれば俺の姿形は子供。妖怪に襲われて恐怖から声が出なくなるのも仕方ないことに思えるだろう。
「ふむ。誰の子かは分からないがひとまず連れて行こう。妖怪退治は終わりだ。撤収するぞ!」
リーダーっぽい男性の声に頷き、各々の武器を抱えて撤収を始める。ぼんやりしながらそれを見ていると男性が俺の体を持ち上げ、肩に座らせるようにして抱え上げた。いきなりのことに驚きながらも暴れたりはしない。言うならば今の俺は借りてきた猫のような状態なのだろう。
ラッキー、いや、アンラッキーとも言うのだろう。確かにこうして人間に間違えられて人里に連れて行かれるのなら当初の目的は達せられる。だが身元の特定なりされたら流石にばれる。俺の体は妖力を失いながらも人らしさがない。真可ほどの妖怪には俺の偽装はすぐに剥げる。って言うか勘のいい人間には多分ばれる。
一抹の不安を抱えながらも俺はやはり大人しく肩に乗せられていた。途中名前やらそうしてあそこにいたやら聞かれたが、名前以外は暈した。正直に言えることではないのでいまいち覚えてないを連呼した。普通なら疑惑の目で見られるだろうが混乱してると思われているのだろうか。深くは聞かれなかった。
と、唐突に男が歩みを止めた。先導していた人間も足を止めている。そこには何もなく、先程と同じように森が続いているように見えた。が、よくよく見ると違う。目の前の森からは『自然』が全く感じられない。俺は妖精だ。自然の結晶のようなもの。僅かながら大地の力なり湖の力を感じられる。木も然り。だが目前の物からはそういったものが感じられない。
俺がうんうんと唸っていると戦闘の男が鈴のような物を取り出し、鳴らした。おいおい、妖怪でも呼び寄せる気か? そう思った次の瞬間、目の前の森は幻のように消えた。
――見えたのは機械の街。機械の家。電子機器の存在する都市。恐らく俺の世界から見ても高い技術力。
唖然としながら俺は頭をフル回転させた。
何故ここまで発展している? 弓も使うほどなのに何故だ? 言うなればオーバーテクノロジー、俺の世界でもここまでの文化はない。
思えば最初からおかしかった。何故日本語だ。何故妖怪だ。まるで幻想のようなものが実在する世界。どう考えてもおかしいじゃないか。
気付いたら妖精? おかしいだろ。何故そんなことが起きうる。オカルトを全否定するわけじゃないがどうしてそう道理も何もかもをぶっ飛ばせる。
俺は気付いたら妖精になったのではなく、未曾有の大災害みたいなものが起きて、寝ているうちに死んでしまって、妖精に生まれ変わったのではないか?
もしそうだと言うなら。近代的な技術を持ちながらも開拓を出来なかった理由も納得できる。
そう、もしかしたら。
……俺は、とんでもない『未来』に生まれ変わったのかもしれない。
勘違い乙。
と、思った方、甘い! 甘いぞぉ!!
そもそもこの舞風の推測が間違ってると誰が言ったぁ!!
誰が太古であると証明したぁ!!
……なんて、タグにしっかり書いてますが。
大学で始めてのレポートを出されました。下げるを提げるって書いたらびりびりにされました。マジ鬼畜です。
生きていける自信がない。心が折れてしまいそうだ。