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東方大精霊  作者: ティーレ
3.過去ノシガラミヲ越エ、未来ヘト進ム
48/55

舞風と青年

――今度こそは早く執筆するって思ったんだけどなぁ。


皆さん明けましておめでとうございます。作者です。クリスマスも正月もスルーしてしまいました。せっかくの番外編のチャンスが……


今話のタイトルはやや無難なものになってしまいました。余裕がなくなってきたと言うか……さて。



――変化は喜ぶべきことである。


ただ、それは成長と言うカテゴリに沿ってのみ、退化を望む者などいない。強くなるにしても栄えるにしても。


しかし、幻想郷は変わらない。いや、変わらないことを、俺は望む。


この幻想が、いつまでも美しく、綺麗な幻想でありますように――













             ☆〇舞風と青年〇☆














その日、俺は意味もなく幻想郷を飛び出した。


置き手書き一つ。禍屡魔へ。旅に出るから当分の衣食住はアキに頼んでくれと。それくらい。


毎日は違うものだ。でも、類似系だ。数十年、同じ者、同じ場所、同じ世界で、何の変化もない世界を生きていると体が自然と刺激を求めるようになる。戦いとか、そういうものじゃない。新しいものへの渇望。


俺の性質はどちらかと言えば飽きっぽい部類に入る。だからか毎日同じ者と過ごすことにやがて違和感を覚える。嫌いになってしまうわけではない。ただ、それが普通なんだと理解したとき、世界が灰色に染まってしまったかのような錯覚に囚われてしまう。それがなんとも言えないほど――嫌だ。



「――る~る~。ら~ら~。あなたは~何処にいるのか~」



旅に終わりは無いのだと、誰かが言った。さてどうなのだろうか? 旅とは一体どの範囲で表すのか。言ったところの無い場所に行くならば、俺は恐らくこの国を歩きつくしたと言っても過言では無いだろう。無論、見落としはあるのだろうが。


それでも俺は旅をする。旅をしてれば、その分新しい発見がある。



――世界は、変わっていく。それがよい方向になのか、それとも悪い方向になのか、そればっかりは分からなかったが。



百年前に見たとある山は焼き払われて丸裸になっていた。その頃に見た小さな村は大きな村へと発展していた。その逆も然り。



「――このまま~。共にいれたなら~っと」



遥か昔に誰かが歌っていたような気がする歌を止め、視線を下ろした。蟻んこがせっせせっせと列を成し、巣へと何かしらを運んでいた。



――変化がある一方、変わらないものも、勿論ある。それは小動物の生き方だったり、地球の自転だったり、人の醜い性質だったり。



考えてみれば変わってほしいと思うものほど変わらない。いや、そもそも変わることを望むことは高望みなのかもしれないが。それでもどうでもいいと思うものほど不思議と変わっていって、いつか不思議と哀愁を抱くなるようになる。


それはどんなものか。一瞬で大事な物を失うことほど強いショックを受けることは無いが、変化がどうしようもないものだと受け入れ、じわじわと心を寝食されるような想いになる。



「――何処に行くのか。何処へ行けるのか」



旅の終わりは未だ遠すぎて、あまりにも遠すぎて、何故か悲しくなった。














――夕立とはかくも嫌なものである。


のんびりと日差しの下を歩いていればいきなりドザーっと振り出すし、龍神辺りは俺に恨みでもあると言うのか。それとも悪戯好きの妖精の仕業か。人間だった頃なら夕立ちきしょーで済むはずがどうしてこうなったのか。


そんな事を息巻きながら舌を打つと結界で頭上を覆いながら道を走りぬける。何処か雨宿りの場所でもとダメもとで探したが、非常に都合のよいことに小さな小屋――旅人の休憩所だろう――が目に入る。駆け足の速度を速め、それに飛び込む。直前で結界は切った。



「おっととっ……ふぅ……」



気配なぞ探ることもなかったので、中に入って初めて中に人がいることに気付く。今の今まで天気は快晴であったと言うのに、それでも尚書物を読む、青年。


眼鏡をかけ、青を基調にした着物を纏い、明かりもなく小屋内の椅子に座って本を読んでいた。銀の――否、白い髪を揺らし、こちらを一瞥するが、すぐに興味を失ったか視線を本に戻した。それに何を言う訳でもなく、その隣に座ると一息つく。


男の傍らには何故か風呂敷に包まれた大荷物が転がっており、そこからは今手にとっているものとは別の書物が覗いた。商人だろうか? いや、それもないだろうと認識を改める。この男からは今まで感じた商人の雰囲気が欠片も感じられない。長生きしていれば少しくらい分かる。しかし寧ろ他者との壁すら形成しかねない様子。元が商人向きですらないであろう。


ではこの荷物はなんなのか。家出か、もしくは旅か。浮かぶのはそれくらい。ああ、盗品と言う考えもあった。流石にそれは無いだろうが。


しかし、それにしても無言。すぐに晴れるかと思いきや何処からともなく薄暗い雲まで表れ、本降りになりそうな予感。飛び出していくのも悪くは無いが、今はこの男に興味が行っている。決してあっちの意味ではない。



「――なぁなぁ、もしもし?」

「…………」



――無視である。すぐ隣で呼びかけ、尚気付かないと言うのなら先程ここに入ってきたとき一瞥したのはなんなのか。これはまごう事なき無視である。



「もしも~し。聞こえてるよね~。聞こえてない訳無いもんね~」

「……なんだ。僕に何か用か?」



本を閉じることなく、しかしようやく反応した男の目には不快感。見た目どう見ても子供なはずの俺にすらこの始末。人付き合いが苦手そうである。


しかし、それでも顔ごとこちらに向けているのには関心である。本を見たまましっしと手で払われるかとも思ったが。



「いや、何の本読んでるのかな~って」

「……それを聞いてどうするんだい?」



こめかみを摩りながら男がそう尋ねる。だが俺としても特に意味あって尋ねたわけではない。



「いや、興味の範疇だけど?」

「……神話。この国の古い神話についの本さ」



やや鬱陶しげに青年は答えた。見てみれば確かに龍らしきものが本の表紙に描かれている事に気づく。となると、この男は歴史に関する学者であったか。


感心するように見ていると、男は残念そうにため息をついた。



「どうかしたのか?」

「……確かにこれは神話の本だが、さすがに嘘と思うほどの法螺まで書いてあるのさ」

「へぇ、どんな?」



書物に書かれる嘘。確かに神々など今となっては廃れてしまったものだ。しかしもともと神々のすることなど途方もないことだろうに。それすらも法螺のように見せる神話とは如何なものなのか。



「……これだ。『舞う風物語』」

「ぶっ」

「他に比べてまるでもともと存在した英雄譚をつぎはぎにつなぎ合わせたかのような物語。どこの素人が書き上げたものかは知らないが、とんだ物語さ」



本をぺらぺらとめくったかと思うと、該当の物語の簡易な考察を述べてくれる。さて、どうみてもそれの登場人物が俺である訳だが、そうか、ありがちでつぎはぎに見えるか。


それについては俺は何もいえない。実際これは神話などに並べられるほど素晴らしい物語ではないのだ。これの著者は蓮姫。しかし元を辿れば俺の旅の途中の出来事を口にして伝えた土産話である。嘘とはいわないが、誇張表現はある。それを書物にまとめたと聞いたときは門外不出と頼んだが、いつの間にか拡散したらしい。


そういうこともあって、『舞う風物語』はありとあらゆるところに存在する。しかし信憑性に欠けるため、神話と言うより隣人の英雄物語くらいの気さくさである。



「ま、まぁ、そんな物も一つくらいあるでしょうさ」

「確かに。こんな物は今までもあった、が、いくらなんでも広まりすぎだ。誰かが噂話程度に作ったにしては。まるでこれは行く先々で書かれたかのようだ。そう考えるとやはりおかしい」

「ふ、ふーん」



何がおかしいのかはわずかに気になったが、こちらとしてはやはり中々に心に突き刺さる話である。


先ほどまでは嫌々と言う言葉顔に出るほどであったのにそれも何処へ行ったか、今では握りこぶしを作ってご高説するほどになっている。



――面倒くさいものに手を出したかもしれないとやや後悔し始めた。















青年――森近もりちか霖之助りんのすけと言う名らしい――の話は数時間に及んだ、ように感じられた。実際一時間は軽く経過したであろう。しかし雨は止まず。


力説が一区切りした際、俺は思わず小屋の外に目を向けた。崩れた天候によって隔絶された世界、とでも言うか。今尚激しく降りしきる雨は俺の旅立ちを損ねるには十分であった。



「森近は旅人なのか?」

「ああ、そうだよ。今は定住先を探している。この世の中何処も物騒だから中々見つからないがね」

「ふーん……」



そう興味なさ気な返答を返しているが、内心ではそれもそうであろうと思っていた。


分かるのだ。一目見たときこそ人間かと思いはしたが傍にいてみればすぐに分かる。その身に宿る、僅かながらの妖気。だが彼を妖怪と言うには妖気が少なすぎる。寧ろ人間っぽい。これに似た感覚を覚えている。白玉楼の魂魄に似ているのだ。



「――実際、定住先を決められないのは正体がバレそうで不安だからじゃないの?」

「――ッ!?」



その時初めて森近の顔に警戒が浮かんだ。図星のようである。バレた事への危惧も含まれているようだが。


それを見てフッと笑みを零した。ようやく会話の主導権を取り戻せたような気がした。



「やっぱり、森近は半妖だったか。半分は人間だろ?」

「……どうして分かった」

「分かるさ。そんじょそこらの知能の低い妖怪や人間じゃなきゃ、分かる」



半分であることは流石に経験論だが、山の皆だって分かるだろう。説明はしにくいが、体がそれに気付く。


立ち上がり、唯一光が差し込む入り口へと近付く。ピクリと森近の肩が揺れた。



「――自己紹介がまだだったな。俺は舞風。妖怪だ」

「……舞風。妖怪?」

「やっぱり、なんだかんだでお前は本当の・・・妖怪には出会っていないんだな」



このご時勢、人に手を出す妖怪はめっきり減った。人が強くなり、また妖怪が弱くなったからだろう。故に、幻想郷の外で理性を持った妖怪に出会うことはほとんどない。


そして、近頃の妖怪退治屋はそんなものが妖怪だと思い込んでいる。本物の妖怪とは、それこそ姿形は人と変わらず、しかし闇に生きる者の事を言うのだ。彼のおやについてはしらないが、それ以外で会うのは初めてに違いない。



「妖怪は闇に生き、人の恐れを得て存在できる存在。しかし半人半妖であるお前は半分妖怪だから寿命での死は遠すぎる。途方も無い時間。だから巡る。定住先を求めて彷徨う」

「……成る程。こうして分かる存在に出会うのは初めてだよ」



警戒は薄れた。少なくとも今すぐにどうこうするつもりはないと言う意図に気付いたのだろう。元より手をかけるつもりなどありはしないが。


もしも彼がただの人間だったなら、俺は身分を明かさず、ただの珍しい子供として彼の記憶に残るだけであったろう。しかし、彼が半分であろうが妖怪ならば、紫に任された仕事がある。



「故に問う。森近。お前は幻想郷に至るつもりは無いか?」

「幻想郷……噂には聞いている。まさか実在するのか?」

「無論。妖怪たちの最後の場所とし存在している。いつか来る、妖怪たちが忘れられるときの為に」



未来において、妖怪や神を、魔法や奇跡を幻想だと言う。叶いもしない希望に縋った愚か者のまやかしだと言う。そんなことはない。そんなことはないのだ。


妖怪は居て、神は在って、魔法は現存し、未来において奇跡と呼ばれるようなものは、ある。



「俺は幻想郷への案内人と言ったところだ。この国を巡ってはお前のような者や取り残された妖怪を探している」

「……舞風……『舞う風』、なのか?」

「さて、遠い昔のことなんて忘れたから。困った妖怪を助けたり、悪人を懲らしめたりしたことはあったかな」



記憶は磨耗していく。罠に嵌っていた所を助けた妖怪の笑顔、命乞しながらで泣き叫ぶ人食い妖怪の顔も、記憶の中から薄れていく。それでも何とか覚えていけるのは、俺が記憶を残す場所が自分の頭だけではないからだろう。


世界と繋がる俺が、残したいと思う記憶を残すことは難しくない。大地に傷跡を残すような荒業であるが。それはきっと大地に大きな影響を及ぼすだろうが、それを知ってやっていることだ。俺だって、自分が惜しい。幾千もの時を越えた身だとしても。



「じゃあ、僕に害を与えるつもりは無いんだな」

「そもそも俺が森近を手にかける事に意味が無い。まぁ過去の神話とかの話はそれなりに興味深かったけど、奪うものでも無いだろう。今の俺は案内人としての責務を果たすだけだよ」

「そう、なのか」



そこで初めて森近から警戒が消え失せた。ようやく俺の言葉を真実ととってくれたのだろう。強張った体もいくつかほぐれたようだ。



「それで、俺としては今すぐにでも幻想郷に連れて行きたいけど、何かやり残した事でもあるか?」

「まるで殺されるときのような言葉だな。特には――いや、一つあった」



森近は顔を持ち上げ、こちらの目を真っ直ぐと見る。その奥の光にはやや後悔のようなものが浮かんでいるようにも見えた。















「――――久しぶり。と言うほどでもないかな」



そこは何処か。地名に疎い自分には分からなかった。それでも関東の辺りだと言うことは、森近に頼まれて転移した自分も分かっている。


森近の言葉に返答は無い。そこは山奥であった。小さな小屋が建ち、その傍には木漏れ日のスポットライトに照らされた一つの古けた石碑。刻まれた文字は『森近』。それだけだった。



「……両親か?」

「ああ、母だ。人間の、ね」

「そうか……」



母は人間、ならば半妖である彼の父は妖怪と言う事になる。だが、そこにある墓は母のものだと言う。それだけで、推測は浮かんでいた。



「察していると思うが、父は妖怪だった。母は元はお転婆な町娘で、たまたま山をもぐったところを、父に出会った。一目惚れ、だったらしい。反面父は餌としての邂逅だったらしいがね」



それが紆余曲折を経て、同居し、子を成し、幸せに暮らした。


山奥の生活で、水入らずな暮らしは父が外に出て行くためにほとんど母と二人での時間だった。


そんな事を全く無関係の俺に語り始める。いや、今となっては全く無関係とは言えないだろうが、しかし何故。



「――だが、幸せには限りがあった。それも終わりは唐突に。



――――父が近くの集落で退治屋に殺されたと、知ってからだ」



そう言った森近の手は力なくだらんとぶら下がるようになっていた。怒りとかではなく、無力感のようなもの。



「それから母は急激に体を悪くした。父がいなくなったことが余程ショックだったんだろうな。同時に、僕に対して異常に過保護になった。『臆病になれ』、と常に言い聞かされた」



『臆病になれ』と言う言葉には、どれほどまでの想いが詰められていたのだろう? 当事者では無い自分には到底量りきれることではなかった。だが、確かに言えたのは、森近がその女性に愛されていたと言うこと。俺にはそれしか分からない。



「数年の介護虚しく、母は逝った。正直言って出来た人ではなかった。良い意味でも悪い意味でも平凡で、死んでしまったと分かった時、何も言わずにここに墓を作ったよ。


――でも、今は思う。僕は彼女に何故何もしてあげられなかったのだろう、と」



投げやりで、まるでどうすればよかったのかと問いかけられているかのような感覚……いや、恐らく問うているのだ。無意識に、救いの手を求めているのだ。



「――正直俺に答えは出せない。けど、お前は薄々それに気付いているんじゃないか?」

「……どうしようもなかった、と思う。ここでの生活で得たものはあまりにも少なすぎた。知識も、力も、思い出さえも。救う方法が分からなかった。人の集落に出れば、自分も妖怪として退治されるんじゃないかと怖かった。臆病になれと言われたから、そんな風に自分に言い聞かせた」



力なく、膝をついた。母の墓に縋るかのように。しかしそこには何も言わぬ骸がひとつ眠っているだけなのだろう。


無力であると言うことがどれほど辛いのか、それはその事態に直面しなければ決して気付けない。救いたい人を救える力もなく、救うために自分にできることがないと気付いた時の失望感は、よく知っている。


だから彼は旅に出た。人間を恐れながらも、それでも尚答えを見つけるために。得る事が出来なかった知識ちからを求めた。


青年の小さい背中は小さく震えていた。力なく落ちていた手は今は強く大地を握り締めている。



「――全く」



そう、愚痴を呟きながらも俺は左の封印を解除した。



――は正直言って泣く人のあやし方など知らない。だから、こうなったりしてしまった場合はいつもこうするようにしている。



その小さい体に手を回し、強すぎず、しかし弱すぎず、その体を抱きしめた。ビクリとその体が震えたことを見て、もう少し力を強めた。



「――――君はッ?」

「――森近。今は泣きなさい。今だけなら私の胸、貸してあげるから」

「――――ッ!!」



声もなく、しかしボロボロと涙を流し、森近霖之助は泣いた。こちらへ顔は向けなかった。それが彼にとってせめてもの意地だったのだろう。















その場を後にし、次こそ幻想郷の人里の前に降り立った。森近の目は僅かに赤くなっていたが、それを隠すように目を逸らす。泣かれた姿を見られて恥ずかしいのはいつになっても同じか。



「ここは幻想郷において唯一人が住む場所。正直、貴方に戦う力は無いわ。だから、まずはこの人里から始めなさい。心配しなくても大丈夫よ。こんな私にすらよくしてくれる人たちだもの」



事実、この人里は昔と大きく変わった。まるで唯一の違和感のように存在した恐怖の対象、妖怪は凶暴なものでも無い限り隣人のような者。流石に全ての人がそうだとは言えないが、それでも大丈夫だ。



「困ったときは寺子屋の先生に頼みなさい。彼女も半妖よ。後天的なものではあるけれど悪い人ではないからきっと話を聞いてくれる」

「舞風……それが貴方の本当の姿なのですか?」

「……少し違うわ。私が舞風。そしてあれも舞風。一つの体に存在する複数の精神の混合体。それが私。だから同じとも言えるし違うとも言える。私はほぼ同じと捉えているけどね」

「そうですか……」



森近は一歩前に出る。小さな背中はまだ小さなままだったが、一回り大きくなったようにも感じられた。


意を決したかのように、手をグッと握り締め、背を伸ばした。



「舞風……さん。その、また会えるでしょうか?」

「また、か。幻想郷はね、貴方が思っているよりずっと狭いのよ? 会えない訳無いじゃない」



事実、私は人里によく立ち寄るのだから、もし彼がここに留まると言うのならば、きっと出会える。


もしかしたら、彼とは思いのほかずっとずっと長い付き合いになるかもしれない。そんな事を思った。



「また会った時、貴方がこの世界を受け入れることが出来たなら、その時は私の山に招待してあげる。


それじゃあね。森近――いえ、霖之助」



返事は待たず、転移結界はその身を包んだ。最後に見えたのは意を決して振り返ろうとした――少年・・の顔。














☆〇☆☆〇☆














――それは紛れもなく、僕に何かを与えた。



振り向いたそこに、ここへ――この幻想郷へと導いてくれた少女の姿はなかった。いや、確かに今までここにいた。



「……舞風、か」



初めから最後まで、よく分からない存在であった。最初はただのはしゃいだ子供かと思えば途端に飄々とした掴みどころの無い存在へと変わり、最後の姿は――母を想わせた。


自らの出生を誰かに話したことはなかった。今まで半分は妖怪であることがばれた事すらなかったのだから。ただひたすらに目標もなく、貪欲に過去の文献を漁った。人々の中で妖怪は既に幻想となりつつあるが、僕は違う。僕自身が妖怪でもあるのだから。


だから――妖怪に興味を持った。神の存在さえも肯定した。しかしそれは、ただ逃げているだけだったのか。



――どうして両親のことを話したのだろう?



本当は最後にもう一度だけ花を添えて、それで終わりにするつもりだった。だが、最後であると気付いた瞬間、疑問になった。


自分は果たして、母に喜ばれるような存在だったのか。


不器用で、いつになっても料理が上達せず、縫い物等も苦手。言ってしまえば出来る人ではなかった。


けれど……あの人は母だった。半ば隔離されるかのように、母と、たまに戻ってくる父との生活。楽しいことは少なかった。だが、それも悪い物でもなかった。



「……慰めてほしかったのか?」



まさかな、とそれを否定する。旅を始めて妖怪に出会うのは初めてだった。それ故に信じがたくもあった。姿形は人間であるからこそ、例え雰囲気が変わったとしても妖怪だと信じはしない。


だが、舞風には少なくとも人間では無いと思わせる何かがあったのだ。それがなにかは、分からなかったが。


ようやく再び人里へと向き直る。外からも賑わっている事が分かり、ため息をついた。騒がしい場所は余り好きではないのだ。



「また会える、か」



きっとそれは嘘ではない。出来るならば、もう一度彼女に会いたいものだ。


地面に下ろした大きな風呂敷を背に抱え、歩き出す。


今日この日、森近霖之助は幻想入りを果たすのだ――






大学入学後初めての正月。お年玉はもらいたくなかったなぁ。まるで子ども扱いされているようで。


まぁ子供ですけど。


単位もう一つ落としたらその時点で留年ですし、今日なんかプレゼンでかみまくりで……上がり症なんです、わたくし。


次はもっと早く……っていつもいってるけど、せめて今月中には……




お知らせなのですが、前期の一話が短かった部分をいくつかつなげてしまおうと思っているので僅かにページ数が減少します。ご了承ください。

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