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東方大精霊  作者: ティーレ
3.過去ノシガラミヲ越エ、未来ヘト進ム
44/55

舞風と竹林


速さが足りない!!


そう、一週間くらい前の自分に言ってやりたい。


予定投稿時間がドンドンずれて行くなんて、こんなバカなと叫びたい。


まぁなんもかんも自分のせいか……




「――なあ、俺の友達に慧音と妹紅って奴がいるんだけど、知らない?」



忘却異変より数日、割と意外な人物から懐かしい名を聞いた。


意外な人物とはベリー。人里以外には絶対一人では行きたがらない奴である。そんなベリーが何故二人を知っているのか。



「――ああ、いるのか」



この幻想郷に。その口から答えを聞く前にそれを悟った。


確かに、この幻想郷にいる妖怪はこの国にいる全てではない。未だ外で山の大将をするものもいれば人を驚かす事を生業とする妖怪もいるし、恐れられる妖怪もまたいる。


しかし、妹紅は蓬莱人――元人間である。故にしようとすれば人として己を誤魔化すこともできるし、妖怪のように恐れを必要とするとも無い。しかし、やがてばれてしまえば追いやられる。一箇所に留まることが出来なくなる。



「そうか。あの二人が、ねぇ」

「あの二人が言ってた大精霊ってどっかで聞いた覚えあるなぁって思ったら、やっぱりそれか」



どうもあの二人が俺を探しているらしい。忘れていたが、俺とあの二人の別れは俺の失踪と言う形で訪れた。多分、恐らく、いや間違いなく、妹紅は怒っていることであろう。想像がついた。



――まぁ、それでも行かない訳にはいかないのだろうが。















「――とうちゃ~く」

「相変わらず便利だな。転移結界って」



そう俺の隣で白けた視線を向けるベリーを無視し、目前に存在する人里の門を見る。自分の背丈の数倍はあるが見上げるほどでもなく、時代を感じる竹作り。


それでも、前回来たときに比べれば随分発展しているようである。前来たのは……稗田の事か。



「それで? 二人は何処にいるんだ?」

「……来る前に言っただろ。二人とも竹林に暮らしているから正確な場所は把握して無いって」

「でも人里にいるんだろ?」

「八割のくらいの確率でな」



残りの二割がなんなのか気になるところだが、どうせ個人主観だろう。それでも八割と高確率であるので、まぁ恐らくいるだろう。


そんな感じに気楽に考えながら門の前に神風を突き刺す。前はこの剣を持ち込もうとするたび一々止められるので大概山に置いていく様にしていた。今回持ってきたのは、まぁ念の為である。



「……そういえばお前、その剣に結界を張ってるんだよな?」

「そりゃ勿論。剣をここに置いていくならどうぞ持って行ってくださいって言ってるようなもんだろ」

「どんな結界を張ってるんだ?」

「とりあえず頑丈に、俺以外が触ったら反応」

「ああ……道理で」



いきなりぶつぶつとよくわからない奴である。うっかりを俺の剣に触ったりでもした事があったのだろうか? それでも弾かれるくらいのはずだが。


どうでもいいことである。俺は門に向き直り、それを通る。



「やぁやぁお勤めどうも。一人通りま~す」

「……おい、頼むからお前変なことだけはするなよ?」



失礼な奴である。俺が一体お前の何千倍生きているか考えてほしいと言うものだ。


しかし、今の言葉だけで警護の兵が怪しい者を見る目で見てきたので、やはり自重は必要かもしれないと思った。



「……にしても」



中はほとんど変わっていない様子である。幻想郷の外に比べて二世代くらい遅れているのではないかと思ってしまうほどに。


まぁ、基本的に人間が入ってくることも無いのでそれも当たり前である。この幻想郷は隠れ里であって初めて成立する、いびつな世界なのだから。


外に出たいなどと言う人間がいた場合は万が一情報が漏れても困るので、それなりの処理をしているらしい。最も、その処理がどういったものか、聞いてはいないが。



「そうなると、やはり外と内とを区切る結界を設けた方が効率的……いやでもそれじゃ入ってくる妖怪が激減するか。いっその事世界の幻想をまとめて持ってこれれば……」

「? さっきから何ぶつぶつ言ってるんだ?」



おっと、珍しく集中しすぎて自分の世界に入ってしまっていた。


まぁ、それを考えるのは俺ではなく、八雲だろう。結界云々の主流は俺でも考えるのはあいつの担当である訳だし。なにか頼まれればそれをこなせば、とりあえずはいいだろう。



「さて……それで? 慧音の出没するところは何処だ?」

「よく市場の方を回っているよ。最近は迷惑な妖怪退治とかを受け持ってるから人間から信頼され始めたって」



ふむ……人好きなあの半獣なら在りえそうな事である。人外ではあるが器量もいいし美人。人に好かれる理由も納得できると言うものである。


対する俺は、妖怪とすら認識されていないようであるが。偶にベリーを見かけ、数秒こちらを見るものがいたりするが、別段恐怖の目で見られることも無い。こいつはよく人里に通っているし、慣れられたのだろう。


まぁ、それもいい傾向か……















「「――あ」」

「あら、貴方達は……」



それと遭遇したのは市場に向かう途中。前見たとおり、チェックの洋服と日傘。それに大きな袋を軽々と持った女性。


言わずもがな、風見幽香である。



「へぇ、人里にいることもあるんだな。アンタ」

「それは勿論。必要なものを調達するくらいには。貴方は舞風、だったかしら?」

「なんだ。とっくに忘れられてると思ったけど」



肩を竦めながらそう言った。実際その通り。こいつが非常にやばい奴だと紫に聞いてからは一応不用意にあの向日葵畑には近寄らないようにしたから。遠くからは見るのだけど。


そんな事もあって、風見幽香と顔を合わせるのはこれで二度目。それも前が数十年前と言う域。正直覚えていないと思っていた。


しかし、それを聞くと如何にもおかしそうに笑った。その僅かに歪んだ目がこちらを見据える。



「だって貴方。とある筋では有名ですもの。なんでも、『神隠しの共犯者』、とか?」

「……なにそれ?」



”神隠しの共犯者”なんて、じゃあ主犯は誰――って紫か……外の世界の妖怪やらを説明なく幻想郷に落とすからそんな名前をつけられ……たのは俺か。傍迷惑すぎる。



「人違い……じゃなくて妖怪違いじゃない?」

「そうかしら? 年季の入った無骨な剣とそれに子供。それだけ見れば貴方と同一だと思うのだけど?」

「探せばいるさ。剣を持った子供くらい」

「それと、両腕に腕輪をつけてるらしいわ」



成る程。それは俺しかいないわ。アッハッハ。


さて、どうしよう……


それにしてもコイツ、絶対分かった上で言ってた。間違いない。サドだこいつ。



「まぁ、なんでもいいんだけどさ……『四季のフラワーマスター』に比べたらそれほどでもないし?」

「あら、ご存知だったかしら?」

「嫌でも知るよ。俺なんぞよりずっと有名じゃないか」



『四季のフラワーマスター』。風見幽香の別称、”花を操る程度の能力”という凡そ戦闘向きとは言えない能力持ちでありながら、その身は正に妖怪と言うほど強靭で強大な妖力を秘めている。


それを聞くだけで並みの妖怪は身を竦めるほどの意味を持つ。幻想郷において頂点の近くに存在するモノ。


今俺の前で不敵な笑みを浮かべているのはそんな化け物。



「そう……でも、そういう割には貴方、動揺しないのね」

「……生憎と、八雲紫級の怪物と接する事も多くてね。慣れちまったのさ」



なんて、本人が聞けばどう思うのやら。勿論いないことを前提に話しているが。


さて、そろそろ後ろのベリーが限界そうなのでお暇させてもらうことにしよう。



「じゃあな。風見幽香。またいつか四季の花を見せてもらうよ」

「ふふ。その時は貴方の力も見せてもらえると嬉しいわね。舞風?」



結局最後の最後まで笑みを崩さないまま、風見幽香は俺達を横切っていた。当然のように彼女が向かう先の人だかりは割れ、道を為していた。


周りの俺を見る目に少しばかり畏怖が混じってしまった気がするが、この際仕方ない。荒事にならなかっただけ儲けものだろうと頭を掻いた。



「おいベリー。ベリーさん?」

「……そうだった、元を正せばこいつも八雲紫や風見幽香級の人外だって事を忘れてた。毎日の行動がアレなだけに」

「オイコラ。それってどういう意味だよ」



アレとはなんぞや? しかし聞くのも面倒且つ仕方のないことなのでため息をついて再び歩き始める。後を慌ててベリーが歩き始めた。


それで、それほど進んだ訳でもないうちにベリーはその足を止め、キョロキョロと周りを見回しはじめる。この辺りなのかと、便乗して俺もまた回りを見回し始める。



「―いつもならここらへんにいるんだけど」

「慧音も妹紅も目立つから簡単に見つかるだろ」



主に髪の色とか服装とか。辺りの人間は純日本人なのかほとんどが黒であるが。


と、ようやく黒以外の色を発見する。なにやら宝塔のような帽子を被った蒼交じりの銀色の髪である。その女性は買い物籠のような物を持ち、肉屋の店主と何事かを話していた。



「おっ、いたいた。ほら行くぞ舞風」

「ちょ、ちょっと待て! まだ心の準備が――ッ!」



ここでもしも妹紅とエンカウントしようものなら間違いなく腕一本くらい残して焼き尽くされると思う。あいつは俺がそう簡単に死なないって事を知っているし、正直本気でそう思っている。


しかしそんな俺の思いを嘲笑うかのように、女性がこちらに気付く。買い物を終え、たった今こちらを向いたと言う感じである。


初めはベリーの姿を見つけ、こちらに向かって笑顔で手を振るだけであったが、俺の顔を見た瞬間顔が引き締まり、こちらへ向かう方法が『歩む』から『走る』に変化する。



「――大精霊ッ! 大精霊じゃないか!!」

「ああもうはいはいそうです! でも大精霊って名で呼ばれるのは困るから舞風で頼むよ」

「す、すまない……ってそうじゃない! どうしてベリーと共にいるんだ?」



鬼気迫ったように俺の肩を掴む慧音。その勢いで思わず口からあぅあぅと声が漏れる。話を振られたベリーは困ったように頬を書きながら目を逸らした。



「いや、な。実は最近になって俺の山の主、こいつなんだけど、こいつが大精霊だって事が分かってな。こうして連れて来たんだ」

「そうだったのか。おい舞風。お前どうしていきなりいなくなったりしたんだ。あれから暫くの間妹紅の奴がショックで動かなくなったんだぞッ!!」

「あははは。それはそれは。あいつにも可愛いところがあったのか」

「天罰ッ!」

「ぎょへんっ」



肩を掴まれながら振り下ろされた頭。所謂頭突きであるが、詰め過ぎた知識が最早質量とでも化しているのか、凄まじい威力である。俺の頭凹んで無いだろうか?


ベリーもベリーでうわ……、とか言っている。端から見ても凄いものなのだろう。そりゃやられた本人も凄いと思うほどなのだから凄い。



「……痛いじゃないか」

「むっ。初めは妹紅でさえ気絶したと言うのに、初発で意識を保つとは、流石だな」

「なにがどんな風に流石なのか小一時間問い詰めたいよ」



妹紅の奴、頭が平べったくなっていたりしないだろうか? それはそれで見たく無いんだが、大丈夫……だよな?



「それで、妹紅はどうしたんだ?」

「ああ、最近なにやら趣味でも見つけたのか、よく竹林の奥に行っている。どういうことか服がボロボロになって帰ってくるが……」



妖術の練習でもしているんだろう、と言う慧音に適当に相槌をし、思い出す。そうか。初めて会ってもう900年近く経つのか。


あの頃は、普通の人間だった妹紅は可愛かったのに、どうしてああなってしまったのか。俺のせいか。南無。















「――で、当の本人はやはりいない、と」



人里の視線を振り切り、忘れず突き刺した剣を抜き、竹林の入り口近くに存在する一軒家。それでも二人で暮らす分には十分な広さを持っているその家には、やはり妹紅の姿はなかった。



「そのようだな。今日は遅くならないようにと言っておいたのだが……」

「ふむ……それでもいないと。それはそれで妙だな」



今の時間はそう、言うなれば昼時。蓬莱人だって腹は減るのだから、普通は帰ってくるだろう。


まぁ、だからと言って過剰な心配をする訳でもない。飯に遅れる理由なんぞ数えるのが馬鹿らしくなるほど挙がる。



「……なぁ、妹紅は竹林の奥に行ってるんだよな? 他に竹林に住んでる奴はいるのか?」

「少なくとも私は聞いた事が無い。いるのは兎か、妖精くらいのものだ」

「兎……竹林に兎……」



珍しいとは思わないが、あまり聞かないなと思う。ラッキーアイテムうさたん二号の事もあるし、兎への思い入れはそれなりにはあると思っている。


しかし、何故いきなりベリーはそんな事を言い出したのか。まぁ一人で趣味に興じるような奴ではなかったはずだし、誰かと一緒にいると考える方が自然なのかもしれない。場所がここでなければ、だが。



「なんか心当たりでもあるのか?」

「いや……心当たりって言うか、なんて言うか……う、噂なんだけどさ」

「噂?」



そういったたぐいに俺は疎い。何故なら俺は基本的に山で過ごすからだ。情報が入ってこないのだから噂なども当然耳に入ることも無い。最近聞いた中でも一番新しい噂は『妖怪の山近くの穴』絡みばかりだ。当事者じゃん。



「それがだな、この迷いの竹林の奥地、誰にも知られない場所にさぞ綺麗なお姫様と薬師が兎と一緒に暮らしてるんだと」

「お姫様……薬師……兎?」



なんだかよく分からない組み合わせである。そもそも竹林にお姫様とか。御伽噺かっ。その噂の元はいつかのチルノ情報並みに当てにならないに違いない。


――だが、火のないところに煙が立たないのもまた事実である。その美しい女とやらが魔性の類でないとは言い切れない。まさか女の身で女に引っかかる様な事はないと思うが……



「ま、待ってても仕方ないし、その秘密特訓やらを覗きに行って鼻で笑おう。いやもうその場で全力で笑おう」

「性質悪いなお前」

「昔からだよ」

「「それは知ってる」」

「うぐっ、何故貴様らそこで声を揃える」



全くとんでもない奴だ。それを口にすると再び揃ってお前に言われたく無いと言われた。欝だ死のう。















「――それで、本当にこっちにいるのかぁ?」

「この竹林の奥地がこちらであるだけで妹紅がこちらにいるとは限らない」

「じゃあなんでこっちに来たんだ」

「他に当てが無いからだろう」



男一人に女二人とは思えない会話風景。俺は男だし、ベリーの口調も男勝り。慧音は癖なのかどうなのか、やや硬い言葉を使うから男言葉に聞こえなくも無い。どっちが何を喋っているか偶に分からなくなる。今とか。


結局、当ても無いままに竹林を歩く。空を見上げど深い自然は光で照らす事もなく、かろうじて今がまだ日はあると言うことが分かる程度。時々兎を見かけることはあれど、それ以上の収穫はなし。



「いないなぁ……そもそも竹林にいるのか分かったもんじゃないし」

「お前が行こうって言い出したんだろ……」

「アーキコエナイキコエナーイ」

「慧音」

「ん。教育的指導っ!」

「もこっ!?」



本日二発目の頭突きは背後から繰り出された。後頭部がずきずきする。勘弁してほしいものである。


あと、慧音の傍で笑っているベリーには後で俺流教育的指導が必要だと確信した。



「っててて……あー、災難だ。普段は痛覚遮断してないから普通に痛いんだぞ?」

「いいことだろ。生物としては」

「そうか? いやまぁそれも真理だけど……痛いものは嫌だろ」

「私達にはそんなものないんだ。人は痛みを受けることで学習することもある。余程の事が無い限りそうしていた方がいい」

「お前は学校の先生かよ……ふおぅっ!」



突如足は空を踏むかのように下へと落ちる。いきなりのことに何がなんだか分からないまま視界がぐるぐると回転し、やがて止まると緑の風景が遠ざかっていることに気付く。落とし穴である。



「ちっきしょー! 誰だこんなところにこんなもん掘りやがった奴は!! 妹紅か? 妹紅なのか!? あの悪ガキがぁぁぁぁぁぁ!!」

「妹紅の生が永遠といえどこんなつまらない物作るわけ無いだろ……」



上から覗いてくるベリーと慧音が呆れたようにこちらを見下ろした。まるで俺が悪いかのような顔だ。


だってまさか落とし穴があるなんて誰も思わないだろ。獣道だぞ? いや獣道だから掘ったのか? 狩り? 俺獲物?


腹を立てながらも反星陣で浮かび上がり、穴から上がる。服が土だらけである。まぁすぐに取れるが。



「だったら誰だよ。こんなところに落とし穴なんか作る暇人はさぁ……」

「――それは私の作った落とし穴だよ」



背後から聞こえた声。体をそちらへ向けてみれば竹やぶの中から何者かが現れる。その姿形は少女のそれ。しかし頭に生えたそれは畳まれてはいたが兎のものであった。


長い時を経て、妖怪化した兎。そう理解する。その子兎はうさうさと意地の悪そうな(?)笑い声をあげながらこちらを見ている。落とし穴に引っかかった俺がそんなに面白いと言うか。



「よし、いい度胸だウサ公。ちょっと俺とオハナシしないか?」

「お断りよ。そんな言葉に騙されるほど兎だって馬鹿じゃない」

「よし。今夜の食事は兎鍋だ。それに決定。やがて来る冬のためにその皮も剥いでやる」

「いたいけな少女から剥ぐなんて、そういう趣味うさ?」

「……おい」

「加えて今夜の食事なんて……いやん」



頬を押さえ、くねくねと体を捻る姿がこれまた小ばかにしているようにしか見えない。



「よしぶっ潰す絶対ぶっ潰すそこ動くな首輪とうさたん三号の板かけて人里のさらし者にしてやる」

「落ち着け! 相手は兎だぞ!?」

「違う。あれは兎だけど兎じゃない。兎詐欺さぎとかやってる悪徳兎に違いない。俺はそう判断した」

「だから落ち着けと言ってるんだ! ……ベリー!」

「はいはい……『アウターウィッチ』」

「そヴぁっ」




慧音の気だるげな声とベリーの言葉の後、飛び掛かった瞬間に横から吹き飛ばされました。犯人はベリー。間違いない。


地面に叩きつけられる前にふわりと体勢を立て直し、睨む。この場に味方はいなかった。



「くっ、不意打ちなんて汚い。汚すぎるぞ!」

「……なんだろう? 正論のはずなのに正論に聞こえないなんて」

「舞風だからだろう」

「納得いかねぇ……俺の味方は何処いずこに」



俺とベリー達、そして兎とで三角形を作り出す。しかしどちらも向いている方向は俺。どう考えてもおかしい。俺が一体何をしたというんだ……



「――おや」



と、兎が唐突に別の方向へと気を向ける。しめた! とその隙を逃さず、俺は大地を踏みしめ、向かって行く。



「――ふおぉぉぉぉぉっ!!」



毎度毎度。落とし穴である。穴に恨まれているじゃないかと思うほどの落とし穴の遭遇っぷり。しかも踏み出した大一歩なので避ける事等不可。ズゴゴーッ、と真っ逆様に落ちた。



「――悪いね~。もう少し遊んでたかったけど、時間みたいだから帰るよ。またね~」

「ってオイコラ兎!! ってめ、ちょ、どんだけ落とし穴量産してんだよ!!」



しかし遠ざかっていく声。無理な体勢ながらも反星陣で浮かび上がり、穴の外へと脱出する。上下逆様のままに。


すぐそこで二人が冷めた目で俺を見ていた。正直、辛いです……



「――ありゃ慧音。こんなところまで来てたの?」

「っ!」



声がした。慧音とベリーの背後。ちょうど俺の死角となる場所に。


その声を忘れるには時間が足りなすぎた。誰かなど、聞くまでもなく理解できる。


故に、理解したその瞬間、俺は頭に結界の力を集めた。なんのためか? 言うまでも無いだろう。



「ん? そっちにいるのはだ――」



目が合う。直線上でぎりぎり隠れていた顔と顔とが向かい合う。どうも顔が引きつる感覚が抑えられない。体が逆さなのを修正する気にもならない。


ポカン、と呆けた顔をした。そして、その顔のままこちらへ小走りで迫ってくる。



「舞風――」



その顔から声が漏れた。しかし走る速度は留まらない。




「や、やぁもこ――」

「この馬鹿野郎ぉぉぉぉぉぉっ!!」

「うぶんっ!?」



とび蹴りが腹へと突き刺さった。頭の障壁が全く意味をなさないまま、吹き飛び、顔が地面に擦れたかと思うと運悪くその先にあった落とし穴に再び真っ逆様に落ちた。



嗚呼、うん。今日は厄日だと思うんだ。俺。



暗い視界の中、引っ張られる足。落とし穴からずぽっ、と抜かれ、視界が反転する。



「今まで何処に行ってたのよっ!! いきなり失踪しやがって!!」

「ああ、うん、はい。ごめん?」

「ごめん? ごめん!? はぁ!? いなくなって何年か分かってんの!? 400年! 400年だぞコラ!! もう少しで顔も忘れるとこだったわ!!」

「あぅあぅあぅ」



だから嫌だったんだ、と襟を掴まれがくがくとされながら茂った竹林の下で思う。


如何にも鬼気迫る顔でこちらを睨む。これはどうあっても事情を説明しない限り許されないパターンだと気付いたので、とりあえず言っておくべき事は言っておこうと思った。



「時に妹紅や」

「何よ!!」

「服が妙にボロボロだが、大丈夫か?」



そう、まるで今まで一戦こなしていたかのように彼女の服はボロボロであった。傷が無いのは蓬莱人だからとして、それはそれにしても乙女として見せてはいけないはずの部分まで見えている。


まぁ、それを堂々と見ている俺も俺なのだろうが、別に万年以上生きている俺にはそういったものに対する興味が薄い。老けたな~、と思う要因のひとつでもある。



「~~~~ッ!! この変態っ!!」

「なんでっ!?」



最後の最後で顔を赤くして胸やらを手で隠した妹紅。いきなり離され対策のないまま再び真下の落とし穴に落ちた。














「――なぁ、機嫌治せよ」

「嫌よ! 400年音沙汰無いと思ったらひょっこり現れて、なんで今まで姿を現さなかったのよ」

「いや、だってまさかお前らがここにいるとは思わなかったし……」



妹紅達の家の中。大体の事情は帰り道で説明したが、その怒りは収まらない模様。


よく考えれば偶然が多い擦れ違いだ。ベリーが二人に会ったのも俺と二人で、初めて人里へ来た時だと言うし。あの時は稗田の屋敷に浸っていたからまさか妖怪騒ぎがあったことなど気付きもしなかったが。



「……実際、数百年幻想郷で暮らしておいてようやく会えたんだからなぁ。偶然ってのは恐ろしいね」

「俺としては、お前が妹紅と一緒に数百年旅をした仲ってのが一番ビックリだよ」

「あれは成り行きだよ。ああ、あの時の妹紅は素直で可愛かったのに、どうしてこうなってしまったのか」

「アンタのせいよ」

「お前のせいだろ」

「舞風のせいだろ」

「満場一致です。本当にありがとうございます。畜生」



囲炉裏を囲む妹紅とベリー。割りと遠くで夕食の鍋の準備をしている三人から言われる、俺もそう思う。なんだかデジャブ。



「まぁ、こうしてまた会えたのも縁だ。今日くらいはゆっくりしていくといい」



やれやれと肩を竦めながら鍋を片手にこちらへ歩いてくる慧音がそれを囲炉裏の自在鉤じざいかぎに掛け、俺達同様に腰を下ろした。


確かに、妹紅が不老不死と言えどこうして同じ幻想郷にいるなんて、面白い偶然である。今はこの再会を喜べばいいだろう。


思えばいきなり失踪なんぞして、妹紅には随分と寂しい想いをさせてしまったのかもしれない。あの時点では慧音だって会ったばかりの存在、こうして今も妹紅に付き添ってくれるのだから、妹紅も本当によい友人を得たものだと思う。



「ま、何。居場所さえ分かれば会いにこれるさ。互いに」

「そうだな。今度はお前の山とやらにお邪魔させてもらおう。一瞬なんだろう? 転移結界とやらは」

「うぐ、そこで俺を頼るか。」



これは後々面倒なことになりそうだ、とため息をつきたくなった。


――しかし、変わらぬ友人がいてくれると言うのは、なんともいいものである。そうも思った。















☆〇☆☆〇☆














「――ただいま帰ったよ~」



そこは屋敷。竹林の中に建つ、静かな楽園。


そこに大手を符って戻ったのは先程の兎の耳を付けた少女。その背には黒い髪の美女がおぶられていた。


その声に反応し、屋敷の各所から現れたのは少女に似た沢山の兎。重い荷物を渡すかのようにそれらに背の美女を渡す。纏っていた美しかったであろう着物は所々に焼け跡のようなモノが残っており、それでも尚その体に傷はなかった。



「――お帰りなさい。てゐ。いつもご苦労様」



そんな少女達を出迎えた者達の中で一風強い存在感を放つ女性。赤と青を半々にしたような特徴的な服を着込み、頭にも同じ模様の帽子を被っていた。



「なになに。私は面白いものさえ見れればそれでいいよ。今日だって姫様とあの女が戦ってるところを見張ってたら愉快なやつらが網にかかってくれてね。特別楽しかったから」

「そう……つけられたりはしていない?」

「大丈夫大丈夫。連中も然程こっちを重要視してないみたいだし、秘密にしてるんでしょ」



そう言い笑う少女――てゐは悪戯気な笑みを浮かべながら女性を見上げる。それに少しばかり考える様子を見せた後、まぁいいかと言わんばかりの顔をした。



「その子の仲間だとすると後々対立することになりそうね。そいつらの特徴は分かる?」

「そうだね~。一人は少し影が薄そうな女。見る限りそれほどでもなさそうだったね。あと一人は最近人里で噂になってる女だと思うよ。兎達の話を聞く限りはだけど。最後の一人は、こいつが一番面白くてね、私より少し大きいくらいの男なんだけど罠に引っかかる引っかかる。あそこまで引っかかってくれると罠の掛け買いがあるうさ。名前は……まい……まい……」

「――ひょとして、舞風かしら?」

「そうそれ! 舞風! お知り合いだった?」



てゐが首を傾げている事には気を向けず、ただ女性の中に合ったのは『ようやくか』と言う想いのみ。


知らず知らず、笑みを浮かべる女性。てゐはそれを不思議そうに見た。





――――竹林の中。屋敷の名は永遠亭。


――――そこに住まう者の名は――













今回の回は色々な、過去に登場した者達をごちゃ混ぜて登場させた感じですね。初期では幽香の登場の予定はありませんでしたが、ちょうどいいって事で。


登校期間が七日から八日に変わった。大変だ。どうにか修正したいけどなぁ・・・


明日から金曜まで企業実習、ということで忙しくなりそうです。そういう意味でも投稿がどうなるのか……結局自分が寝ずに頑張るかどうかですよね。


さて、頑張るか……





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