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東方大精霊  作者: ティーレ
3.過去ノシガラミヲ越エ、未来ヘト進ム
43/55

舞風と天狗


一日と二時間近い遅れ。頭が痛い……


次回は頑張って金曜の投稿を目差します故。恐らく皆こうして更新が停滞したりするのかもなと密かに思ったり。





――眩い光が目を差した。



「――晴れ、か」



一言漏らす。結界山の天辺に聳える大樹の更に天辺に座り、空を見上げていた。


妖怪の山の標高には届かぬものの、それでも幻想郷の大部分を見下ろすことができる。この景色を見るのが好きだった。



「……少しだけ伸びてるな」



それはほんの微量の差。しかしたった一日ながら確かな成長。剣と、己と、この大樹を楔とした結界の一つが解除され、負担が減ったためであろう。最も、そのうちこの成長も止まってしまうだろうが。



一年は365日。そして、自分にんげんが生きた時代まで後400年程度。先はまだまだ長い。


だが、気が遠くなるほどではない。気が遠くなるような日々は、今まで歩んできたのだ。


遠い、遠い、あの青い空に薄く月が光っていた。



「――行ってみるか」



……妖怪の山に。












「――それで、どうして私まで駆り出されなきゃならないんですの?」

「そう言うなよ。お前、山に閉じこもってたじゃん。たまには外に出るくらいがちょうどいいのさ」

「私は好きでそこに留まっているんですの。それに昨日の今日ですの」



ぶつくさと、禍屡魔の文句を後ろに捉えながら山へ向かって飛んでいた。勿論、背には反星陣が浮かんでおり、俺の飛行をサポートしている。


しかし、如何にも気だるげそうに腕をだらんと放り投げたまま後を着いてくる。じっとりとした目は恨みがましそうに睨んでいたが、やがて諦めたようにため息をつく。



「……それで、山に行って誰に会うというんですの?」

「いや、別に特定の誰を探してる訳じゃないけど、一回くらい顔出した方がいいかなぁって」

「だったら一人で来ればよかったんですの」

「一人は寂しいの」

「死んで」

「即答かい」



こいつは専ら口から毒を撒き散らすばかりである。しかも、俺の家の空いた部屋を使っているのだから、それを今後毎日聞かねばならないのも中々耐え難い。でも少し慣れてきた。ちょっと気持ちよくなんかなったりしていない。


先に言ったように、禍屡魔は基本山から出る気が無い。



「――気配が少ないな」

「……と言うより、天辺の方に集結しているようですの」

「ふむ。辺りにチラホラといるのは哨戒天狗かな」



いつもなら烏天狗も飛び回る妖怪の山。だが見えるのは緑一色と、あって鳥くらいか。


邪魔があった方がおもしろ……印象に残りやすいとは思うのだが、そうなると今回は初めのような期待できないかもしれない。そもそもあの時は伊吹の奴が余計なことを言ったから――



「――ああ。なんかだんだん腹が立ってきたな」

「帰りますの?」

「いや帰らないけど。てかお前はなんで行きたがらないんだよ」

「私、無益な殺生は嫌いですの」

「お前は一体何を殺す気だよ。っていうかどうしてそうなったんだよ」



俺は只、挨拶に来ただけであるというのに。そう肩を竦めて、妖怪の山の中腹辺りに足をつける。


変わらない、と言うのは良い事なのか悪い事なのか。この場合は前者なのだろうな。


道はない。獣道すら見当たらない。まぁ、元々当てが在った訳でもないのだし、気儘に登山をさせてもらうとしよう。



「……どうして歩くんですの?」

「自然を見ながら歩く」

「どうしてそんなことを……」

「登山の醍醐味だろ?」

「帰って良いですの?」

「ダメ。帰ったら今晩の夕食は山菜尽くし」

「……はぁ」



禍屡魔は肉食系女子である。
















「――止まれ」

「ん?」



その声が聞こえたのは自分が見ているよりやや上に修正した場所。山の中、随分と茂った自然。またその中に立つ一本の木の幹。そこにいた二つの影。


白い毛並みを思わせる柔らかそうな白い髪。そこからひょっこりはみ出た獣の耳。もふもふとさわり心地のよさそうな尻尾。妖怪の山の、主に哨戒を担当している者。白狼天狗である。



「おお、やっと来たか。今の今まで一つも歓迎無しだから気付いて無いかと思ったぜ」

「……ここは貴様達の様な下等な妖怪の立ち入ってよい場所では無い。速やかに立ち去るがいい」



その手の剣の切っ先をこちらに向け、威圧する。その身に纏う物は一層白を強調するように、白装束を着込み、剣とは反対の手にはシンプルな丸い盾。


毎度ながら、白狼天狗の言動が上からなのはあまり好ましくないことである。力の差云々を語るつもりは無いが、万が一相手が重要な人物だったりしたらどうするのか。まぁ、それより侵入者であると決定付けた方が警戒としては意味があるのか。



「――せ、先輩。お、お待ちを……」

「遅い! もみじ。貴様それでも天狗かッ!!」



その白狼天狗の背後から現れた少女。これまたひ弱そうな白狼天狗。いや、未だ若いと言うべきか。偉そうで大人なほうはまだしも、これではまともに戦うことも出来まい。


椛と呼ばれた白狼天狗は先輩天狗からの怒鳴り声にひっ、と肩を震わせる。その後、主の気持ちを表すかのようにしゅんと垂れる尻尾。狼と言うより子犬の域である。それを見た禍屡魔の頬が紅潮する。



「……可愛いですわね。舞風、あの子を山で飼いませんの?」

「そうだねぇ……まぁ可愛いと言うことには同意するとしても、面倒を見る気にはなれないかな。ペットなんて、数千年飼ってないぜ」

「あら、何か飼ってましたの?」

「兎を一羽。運気が上がるかと思って癒し系ラッキーアイテムにした」

「兎ですの。それはさぞおいしかったんですの」

「食ってねーよ阿呆。ああ、なんで逃げたんだろう。うさたん一号」



懐かしい記憶。森の中の一匹はぐれていた兎を連れ帰り、夜は抱きしめて眠った。首から『うさたん一号』と板をかけておいたから間違われるはずは無いんだけどなぁ。



閑話休題。



木の幹の上に立つ、白狼天狗の先輩とやらと後輩の椛とやらはこちらを見下した――後者の場合はどちらかというと見下ろすが正解か――まま、こちらの反応を待っていた。


このまま睨みあいをして時間を食うのはこちらとしても勘弁願いたいところである。しかし、意味もなく哨戒天狗とぶつかるような事も避けたい。(昔のは例外である)



「……さて、どうしたら通してくれるんだろう」

「通す気など、ない。得体の知れない妖怪をこの山に入れないことが私達の使命だ」

「あー、ほら、あれよ。俺、あっちの山に住んでる妖怪」

「それを証明する手立ては? また、だからとってこの山に入る理由になるか?」

「あー、そっか」

「何やってるんですの。舞風」



うるせいやい、と禍屡魔を睨む。本来なら禍屡魔の能力で妖怪の山の奴らの記憶がどぼんしたりしなかったらこんなことにはなっていなかったのだ。


しかし、中々白狼天狗もしつこい。”見かけ上の”力が自分より下の妖怪にさえこんなに冷たく当たるなんて。もう少し年寄りを労わってくれないものか。全く、最近の若者は……と、愚痴になってしまった。


仕方なく、案でも聞こうと禍屡魔に振り向く――いない。一体いつの間に消えたのか。その姿はまるで元々なかったかのように消え失せていた。



「――わひゃあっ!!」



そして聞こえてきたのは少女の悲鳴。そちらへ向き直ってみると、なんと言うことか禍屡魔がその少女の尻尾に抱きついていた。なにやら気持ちよさ気である。



「ふふ。暖かくて、もふもふしてて、柔らかい……寒いときに最もほしい物ですわ」

「せ、せせせ先輩!! た、たしゅけてください~」

「くっ、いつの間に。その手を離せ妖怪!!」



そう、その手の剣を向ける頃にはそこから姿は失せていた。”ど忘れを誘発する程度の能力”。その記憶から一定時間自分を消すことが出来る。ある意味こいしの能力の弱体化、っぽくも感じることができる。


ただ、その動きはたまに俺も察知できない。それは本人の経験的なものであろう。



「う~ん。いい子いい子ですの。怖がらなくてもいいんですの」

「ひっ! せんぱ~い」

「何やってるんだよ……」



気付かぬうちに白狼天狗の少女を抱いたまますぐそばまで戻ってきていたその姿を見て肩を竦める。その耳や頭を撫でるわ、尻尾には抱きつくわ。やりたい放題である。


どうして禍屡魔相手にここまで怯えているのかやや不思議にも思える。確かに、妖怪を見た目だけで判断するのは愚の骨頂であるが。



「ま、いいか。俺も俺も~」

「ダメですの。この子は私のですの」

「わわわ私は貴方の物では――ひぃっ!」

「そんな事言っちゃダメですの」



そんな様を見ながら、頭上に振り下ろされた剣を手で受け止める。素手では間違いなく無理なので薄い結界を掌だけに展開している。


その事に目を剥きながらも力を込め、切りかかってきた無茶な体勢から再び間合いを取る。いきなり攻撃してくるところもまた相変わらずである。



「――っち」

「俺はまだなんもしてないでしょーが。狙うならこっちだろこっち!」

「はっ!!」



そんな言葉には耳も傾けず斬りかかって来る。並みの白狼天狗より出来るようだが、純正の剣士とは比べるまでも無い。見切ることもなく、反射だけでその剣をかわしていく。


最後、もっとも大振りの一撃を手で止め。剣を握り締める。



「ふふん。どうだ。参った――」

「せいっ!!」

「どぅふっ!」



油断してきたところを腹に正拳突き――ではない。獣の爪が腹部を抉っていた。普通の生物なら死んでいるところである。


どうだと言わんばかりに犬歯を覗かせるその顔を、またにやりと笑って見返す。その笑みが凍った。



「舞風さんの肉体は――完全無敵ぃぃぃぃぃ!!」



致命的なダメージを受けたことで体が二段階に移行。腕輪の封印が解放され、砕け散る。


背に、漆黒の翼が生え、頭に小さなノイズが走る。






「――ふっふっふっ。この姿の私は甘くは無いぜ!!」






……ん? 違和感が……何かがおかしい。


普段の”私”はこんな言葉を使わない……はずだが……


封印解除の弊害がこんなところで出てしまったのだろうか。



「か、烏天狗……ッ!?」

「そういうこと。それで、私達を通す? それとも通さない? いくら気の長い私でもそこまでは待てないぜ」



この妖怪の山において烏天狗と白狼天狗は書くとおり上司と部下の関係に当たる。同じ天狗の名を持つにしても実力にどうしても差があり、組織の中で末端に所属するのがほとんどだ。極稀に哨戒だけでなく、烏天狗付きの白狼天狗もいると聞いた覚えがある。


故に、今の私の姿を見て、白狼天狗がうろたえない訳がないのである。



「――貴女が、この山の物ではないのなら、通せない」

「……真面目と言うか、なんというか。実力は先ほどのやり取りだけで分かったんじゃないの?」

「貴女が力を抑え、なおかつ油断していた時に一撃をいれたことなら、把握している。しかし、退く事は許されない」

「組織の一員として、か……」



力の差を理解した上でその刃を向け続けるというのは、どんな気持ちか。遠い昔にあった気がするが、その時の気持ちなど忘れてしまった。


だが、きっとそれは今の俺には想像もつかないことであるに違いない。



「そうか……でもそうなるとな」



個人的には真面目に仕事をしているだけの白狼天狗に剣を向けるようなことは好きではない。不可抗力やらの言葉があるにしても、極力戦うことは避けたいのだ。


そうなると――



「――よし、それじゃ一緒に登山しないか?」

「…………は?」



呆けたように口を開き、訝しげにこちらを睨んだ。いきなり何を、とでも思っていることであろう。しかし、こちらに言わせてみればこの先に行きたい。でも戦いたくない。そんな状況である。


しかし、こちらが怪しい者として捉えられ、道が阻まれるのならばずっと監視できるような状況を作ってやればいい。


と、簡単には言えるものの、実際それは白狼天狗達の規則に反することになるだろう。任務を放棄するも当然なのだから。その辺りは自分が脅した、とかそう言えばこの白狼天狗の罪は無いだろう。俺の印象は最悪になるが。



「……何が狙いだ」

「いざこざなく山に入れればそれでよし。ほら、俺って平和主義者だから」

「そんなこと初めて聞きましたの」

「ちょ、おま。そこで何故口挟んだし」



禍屡魔の腕の中では白狼天狗の少女が諦めたように項垂れ、されるがまま。それだけ見ればまるでこちらが人質をとっているように見えてしまうから少し困った。いらんこと言うし。


断られるなら仕方ない。封印結界にでも閉じ込めて先に進めばいい。いくら私だってここまで来て渋々帰るなんて冗談じゃない。



「……いいでしょう。しかし。万が一にも大天狗様方に手を出そうと言うならばこの山の天狗全てが貴方の敵となる」

「相手が出さない限りもこっちも不用意に出さないよ。長生きしてるんだからそれくらい分かる」



逆を言えば相手が出してくるならこちらも出す、ということであるが。もう鬼はいないのだ。今更妖怪の山と敵対するようなことにはなるまい。


それでなんとか納得したか。その白狼天狗もまた諦めたように首を縦に振った。















「――椛ちゃん。もふもふですの~」

「う゛ぅぅぅぅぅぅ~」

「「…………」」



後ろから聞こえてくる陽気な声と唸り声には振り向かず、妖怪の山を登り続ける。途中天狗達に怪訝な顔をされながらも共にいる白狼天狗の女性のおかげで難なく登ることが出来ている。烏天狗の姿は目立つ、というより面倒なことになりそうなので元の姿に戻っている。


白狼天狗の少女――姓も含むと犬走椛と言う名らしい――は先程から先輩とやらに助けてほしそうに目を向けてくるが、どうも助けてやる気は無いらしい。ただ、無視しているわけではない。意識はしっかりと向けていた。ただ、俺や禍屡魔を警戒しているようで下手に口すら開かないのである。



「――にしても、随分烏天狗の姿が見えないな。何かあったのか?」



この山に立ち入り、不思議なことに未だ烏天狗の姿を見ない。


基本、烏天狗はいつも妖怪の山を飛び回っている。その姿は結界山の天辺からも確認できるほどだ。しかし、今日は朝から一度も見かけない。まるで皆隠れてしまったかのようである。



「……今この山の烏天狗の重鎮達は一箇所に集まり、情報の共有を行っている。また、他の烏天狗にも話を伺っているらしい」

「ほ~れほれ~。ここはどうですの~」

「重鎮が集まらなきゃならんほどの異常が起きたのか? 道理で、こんな半人前まで哨戒に駆り出す訳だ」

「きゃんっ!!」

「その子には特別才があるからだ。状況が状況と言っても子供を無理に働かすような真似はしない」



才、と言っても特別強い揚力は感じない。とするとこの幼さで能力でも持つのか。それは確かに将来有望である。


まぁ、その将来有望の白狼天狗は今も妖怪の手によって抱きしめられたままであるが。あいつはこのまま一生離さないつもりでは無いだろうか。してもあれだ、おもいっきり子犬だし。



――さて、基本的に組織として機能しているこの妖怪の山において、重鎮が集まってまでする必要のある話とはなんなのか。まぁ、大体の予想はついているが。



それにしても――



「……禍屡魔。そろそろ離してやれよ。抵抗する事も諦めてひたすら我慢してるぞ。そいつ」

「だって、可愛いんですもの」

「限度があるよ。流石に哀れに見えて居た堪れなくなるわ」

「……こんなにもふもふですのに」



渋々とその体を離し、直後先輩天狗の影に隠れる椛。そこまで嫌だったのか。俺に向けられる目に感謝が篭っているような気がしなくも無い。



それからはたまに俺が口を開き、会話をする程度で、妖怪の山の遥か上に辿り着くのにそれほど長い時間はかからなかったような気がする。





「――ふむぅ」

「……舞風。帰りませんの?」

「いやそう言う訳にもいかないだろ」





山の天辺では、なんと言うか、乱闘騒ぎである。


それはもう凄まじいほどに。辺りには多数の烏天狗の姿。皆目を回し、地に伏せている。大多数の天狗すらくなってしまうほどの、一体何が起きたと言うのか。



内輪揉めである、とそれを聞いたときは「え? なんて?」と思わず聞き返した。組織だろお前らしっかりしろよと心の中で呟いた。



しかし、これでは挨拶どころの話ではない。ちわっす。隣の山の舞風です。お歳暮持って来ました、なんて口が裂けても言える状況ではない。


と、そこで再び一際強い風が吹き、遠くで天狗が飛ぶ。これほどの力を持つ者など、大天狗くらいではないのか。そうでないのならどういて鎮圧にこれほど時間がかかるのか。


当事者の姿は天狗達のに隠れ、見えなかった。



やがて見えたのは――唯一親交のあった烏天狗。














☆〇☆☆〇☆














乾く。意味もなく、心が乾く。


尊敬できる、『誰か』がいた。


目標となった『誰か』がいた。



――いや、いたはずだった。そんな確信があった。曖昧な中でもそれだけは何と無く分かった。



絶え間なく続く焦燥感。それは、とても大切なモノであった筈なのに。それが思い出せない。


腹が立った。見えない答えを探し、妖怪の山を回った。烏天狗である自分の目指す存在が烏天狗でない筈が無い。


そう思って。しかし間違える。勘違いの根源に気付く。



妖怪の山の者では無い、と知る。縛られるのが嫌いだった。古い考えが嫌いだった。妖怪の山という小さな世界ではなく、幻想郷と言う世界に目を向けたかった。



そんな私が、この山の天狗共に憧れなど抱くものか。


答えは見えない。それを出すことには重要なものが欠落している。


でもそれは見つからない。焦燥感は強くなる。


私を今の私に至らせた何者かが。何故顔すら、名すら浮かばないと言うのか。



心は乾く。心は乾く。ぽっかりと抜け落ちた何かは見つからない。



気付けば私は押し込めた激情を爆発させていた。心が壊れそうなほどに。



”風を操る程度の能力”は大地を刻み、天狗を吹き飛ばす。



激情に抵抗する。答えはここにない。一度押さえつけられた体に巻きつく物を振りほどき、妖怪の山を出て、そして見つけなければならない。


しかし、それを天狗が邪魔をして、焦燥感は一層強くなる。



巻き上がる風は相手を寄せ付けない。だが、同時にこの身の篭と化す。



大天狗が相手でも劣らず、雑魚は風で吹き飛ばす。しかし、やがては劣勢を作り出す。



負けられない。見つけなければ、探しに行かなければ――あの自由な風の名を



――やがて、それは目に留まる。白狼天狗に連れられた少年。枯れた心が、疼いた。



「――――」



迷わず、私はそれに飛び掛る。何故かと己に問う。その答えもまた無い。


妖怪の山で最速とも謳われる翼のばねはコンマ数秒でその間を埋める。隣の白狼天狗が目を向く。それに縋りつく子供が小さく悲鳴を上げる。一瞬と違わぬその瞬間。



――その妖怪は、確かに笑っていたのだ。



「――危ないじゃないか。射命丸」



風は強固な壁によって防がれ、その身を貫こうと伸ばした腕は掴まれていた。そして、頭の上から聞こえたその声。



顔も、声も、種族も、そして何を言われたのかも思い出せない誰か。ただ覚えていたのは、それが自分にとって重要であったと言う焦燥感だけ。


だが、確かに――そう、確かに。



「――――あなたが」



心が、それと捉えて離さなかったのだ。確かに。


体から力が消える。焦燥感が失せていく。未だぼやけたままではあるが、確かに答えはそこにあった。そう、確信させる何かがあった。



「――それにしても、随分派手に荒らしちまったなぁ。お前」

「……え?」



そう言われ、辺りを見回してみれば確かに地獄絵図。立っている者の方が少ない。


未だ警戒を強める大天狗様や天狗達。戸惑う様子もいくらか存在している。しかし、やがて大天狗様が一歩踏み出し、少年を威圧する。



「貴様――何者だ」

「何者だ、か。酷く今更な事を言わせるな。大天狗」

「……何?」



その威圧をものともせず、真っ向から受け止めるどころか威圧し返す小さな体。その目には明らかに不愉快だと言っていた。何をそこまで怒っているのか。そんな事を思う。


その妖怪は確かに小さく、妖力も少なく、子供にしか見えない。だが、それをそうとは見せない『何か』があった。




「――八雲 舞風。結界山の主。前にそういったのは200年近く前だったか?」

「八雲――ッ!?」




人間に妖怪の賢者とも呼ばれる八雲紫の姓。それの意味は、幻想郷の管理者の関係者。


烏天狗達の少年を見る目に様々な感情が沸いた。



「こほん。此度の事、射命丸文に罪は無い。これは歪みによってもたらされた事象だ」

「歪み……だと?」

「そうだ。ここと人里との間に出来た大地の傷を既に知っているだろう?」



それは、昨日さくじつ起きた出来事。突如出来たもの。まるで凄まじい威力を持ったものがぶつかって抉れたかのような穴。それは未だにそのままの形で残されている。


私もまた、それが出来た瞬間を目撃したの一人であった。



「アレによって正気を失う者もいくらかいた。よって今こうしてあちこちを回っているところだ」

「待て。この件に八雲紫が関係しているのか?」

「事情を知っているだけで直接の関連は無い。これは異変であり、既に解決されている」

「異変……?」



異変と呼ばれるほどの出来事が起きたのは未だ量の指で数えることができるほどしか無い。それほどの出来事が起きていた。誰にも気付かれないまま。



「出鱈目を言うな!!」

「出鱈目ではない。特殊な結界の内で対処したため誰も知らぬだけだ。現に、影響は出ている」



烏天狗の一人が上げた声に間髪いれず答えた。その姿は堂々としているが、それを異変と言い切るには何分証拠が無い。


いや、そもそもここにいる烏天狗達にとって見れば本当に八雲紫の関係者なのかも怪しいところだ。比較するまでもなく分かる力の差。


しかし、



「……では、射命丸文にもう異常は無いのだな?」

「大天狗様!! こんな者を信用するのですか」



驚いたことに、それを口にしたのは山で二、三を争うほどの大天狗。取り巻きの天狗達が驚愕を声で表すが、当の本人は神妙な顔をしているが。



「信用している訳ではない。しかし、二百年前、ここを訪れ、鬼と戦った妖怪。それに似ている気がする。不思議と記憶から抜け落ちているがな」

「……見事記憶に残しているとはな。流石大天狗と言える存在か」



舞風さんが小さく呟く。それが聞こえたのは傍にいた私と白狼天狗くらいか。やがて、その顔を笑みに染め、威圧を消した。



「では、異常が無いか少しの間この者をお借りします。調べるだけなのですぐ終わります故」



そして、背に何らかの文様が浮かんだかと思うとその身が大地を離れる。


私も慌ててそれを追いかけた。その場から動こうとしない大天狗様の姿はドンドン小さくなっていく。何か一言くらい残した方がよかったのかもしれない。














☆〇☆☆〇☆














「……ふー」



何とかその場を後にする。結構適当な事を並べまくったが、無事なんとかなってよかった。正直ダメだと思った。


禍屡魔の槍の跡が重鎮を集めた理由の一つだと言うことは大体予想がついていた。最近でなくともアレは脅威に値する内容だ。正直あれが妖怪の山に直撃しなくてよかった気がする。


まぁ、肝心の射命丸の様子についてはさっぱりであるが。こちらに昇ってくるその姿を見てそんなことを思う。



「久しぶり。と言う言い方も、ダメか?」

「あややや……申し訳ありません。どうしても思い出せないのです」

「なに、それは仕方ないさ」



そもそもどうして俺を見つけて収まったのかも分からないのだ。いきなり攻撃してくるし。


俺は久しぶりにあって「腕は衰えていないようだな」なんて言う知り合いを持った覚えは無いのだ。いや、鬼とか言いそうで怖い。



「一つ聞いてもよろしいでしょうか?」

「ん? ああ、いいよ」



思いつめた顔をしてこちらを見つめる。その姿は何処か初めて会ったときを思い浮かばせた。



「貴方は、私にとってどんな存在だったのでしょうか」

「……う~ん。友人? いや気のいい知り合い? それとも……」



一番しっくり来るのは友人、なのだが。何故か敬われていたし、人生の先輩とでも言うべきなのだろうか?



「ま、なんにせよ。こうして異常の後には様子を身に来るくらいの関係さ」

「そう、ですか」



目に見えてしょげる姿がいつもの気さくな様子と全く合致しないが、どうしたことか。もしかしたら、中途半端に俺を覚えているのかもしれない。



「――さて、山に登るだけで随分時間食っちまったし、そろそろ帰るかな」

「もうですか?」

「うん。と言う訳だから、大天狗とやらに説明頼むよ」



そう言って。下を見下ろす。椛に手を振りながらこちらに向かってくる禍屡魔が見えた。


その姿にやはり肩を竦めながらも結界山に方に――



「あ、あのっ!」



向かおうとして、射命丸が呼び止める。聞き返すこともなく、その顔を見つめ返す。その顔は何を言うべきか迷っているように見える。



「そ、その、向こうの山に住んでるんですよね?」

「ああ、暇なら遊びに来るといいさ。ま、結構忙しいから外出しているかもしれないけどな」

「必ず行きます。だから、その時教えてください。貴方が私に教えてくれたことを」

「――あいよ」



短く了承し、手を振りながらその場から離れていく。禍屡魔が俺に追いつき、並んで飛んでいる間も、その姿が見えなくなるまで射命丸は手を振っていた。















「――舞風。聞いてもいいですの?」

「何を?」



帰り道、唐突に禍屡魔がそう切り出した。速度を緩めることなく、俺は体の向きをそちらへと向け、首を傾げる。


その表情はらしくもなく沈んでいた、まさか椛を飼おうとか言い出すつもりでは無いだろうか?



「今回の、幻想郷の妖怪達から貴方と言う記憶だけが抜け落ちた件について、貴方はどう思いますの?」

「ああ、それか……ま、ちょっと寂しいかな」



違った事に少し安心しつつ、そう返す。それが本音だ。


当たり前が当たり前でなくなると言うことに、何処か寂しさを覚える。それが結構な頻度で出会う射命丸なら尚更であった。忘れられたと言うことにショックだってあるし、正直イラつきもある。


が……



「まぁ、それくらいかな」

「どうしてですの?」

「だって、死んじまった訳じゃないからな」



記憶が消えると言うのは、言ってしまえばゼロになると言う事だ。全て初めから。それならまだ取り返しはつく。


でも死は、終わりだ。死者は何も喋らない。幽々子のような亡霊でない限り。だから、死んでしまうよりずっといい。


少なくとも、射命丸の場合は、であるが。



「お前だって、こればっかりは故意じゃないもんなぁ。そうなると怒るに怒れないだろうが。気にするなとは言わんけど、気にしすぎるなよ。運がいいことに、あの穴近辺で友人はもういないはずだからな」



地底には届かないだろうし、チルノは霧の湖。稗田は生まれ変わって無いし、そもそも忘れられてるか。



「そう、ですの」



その顔は僅かに緩む。それはよかった、しかし、とでも言わんばかりに。結局、記憶云々の罪悪感は残っている訳だ。怒ってはいないのだが。


まぁ、いつか晴れるだろう。


またいつか、射命丸と笑い合う姿さえ見ることができたなら。その時は――











今回は忘却異変も終わり、その後の処理の一番初めです。


本当ならもう少し時間を置いたように話を進めたかったのですが・・・


射命丸にとって舞風は数少ない友人です。尊敬もしてました。同じ烏天狗ながら鬼と対等に戦える云々とやら。その記憶が消えましたが。



椛。ようやく出せた椛。本作の椛はどちらかと言ったら二次過多でしょう。だって本編喋らないもん。一作品だけ喋るのがある、と風の噂で聞きましたが、あるのですか?


あ、それと椛の先輩の白狼天狗。あれぶっちゃけ一発キャラです。男か女かすら暈しているという超手抜きぶり。一様女性。


正直、時間がなくいろいろと無茶な部分が多いですが、そのうち修正加えたいと思います。それでは

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