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東方大精霊  作者: ティーレ
2.ソレハ空白ノ時ヲ経テ再ビ現世ニ舞イ戻リ
40/55

舞風と忘却



一ページが少ない。8000文字くらいだ。前回もそう。


さて、ティーレです。作者です。おはにちばんは。


中古のノートPCを買ってみました。これさえあれば外でも更新が可能に――



ハ ー ド デ ィ ス ク 破 損 っ て ど う い う こ と ?



ブルースクリーンなんて初めて見たよ。どうすればいい。返品……考えようか。


さて、そんな作者の最近(って言うか今日)の出来事ですが、時空の彼方にポイして。


さぁ、始まり始まり・・・





――忘却。つまるところ忘れることは大抵の人間に起き得る事態である。


昨日の食事を忘れる者もいれば一週間前に出会った人の顔を忘れる事だって、当然ある。


そんな事・・・・は些細なことである。



最も大切なのは、それが例え大切な事だとしても時と共に風化し、消えていってしまうこと。何十年も連れ添った大事な人を忘れ、自分たちが生きた場所を忘れ、



――そして、いつか忘れられると言うこと。



それは妖怪と言えど例外ではない。いや、長い時を生きるからこそ、妖怪もまた忘却を恐れる。生まれた頃の大切なものを忘れたくないと思う。


誰にでもある、最も大切なものを、忘れたくないと思う。



故に、忘却妖怪はあるとあらゆる存在の敵。ありとあらゆる者から忌避される存在になりかねるのだ――






☆〇☆☆〇☆






「――何も。何一つ変わりませんわね。この世界は。空も、空気も、わたくしを見上げる顔さえも」



空を仰いでいたそれはそう言葉を漏らし、やがてこちらを見た。べたつくような、非常に嫌悪感を感じる目。


血のように紅い髪は腰に届くほど長く、また目の上辺りで前分けがなされて耳の下辺りで両方を束ねられている。体の線が浮き出るようにぴっちりとした黒い服には白い線が入り、大きめな双丘を際立てる。上に白い花の刺繍がなされた黒いマントが重ねられ、紐で止められていた。



「さて、今更私を目覚めさせるなんて、どういった了見かお教えいただけますの?」

「……自分で結界を解こうとしておいて、よく言うよ」



妖艶な、と言う表現が一番しっくり来るであろう。そんな表情で明らかな皮肉を口にするそれに嘆息する。


そんな事を流し、睨む。何処吹く風の様に飄々と、その紅い髪を撫でた。



「さて、何のことやら。お仲間をぞろぞろ引き連れて、友情ごっこで私と戦うつもりですの?」

「違うな。皆は見ているだけだ。戦うのは俺一人だけさ。よかったな・・・・・?」

「――――へぇ。貴方が。一人で? この私と? それはそれは――」



笑みを潜め、しかし何処か挑発的に歪んだ目。敵意ではなく、呆れか。それともこちらの真意を探っているのか。


それさえも数秒で姿を潜め、現れたのは快楽に歪んだ表情かお。その目は虚空を映し、愉悦に浸っている。



「――楽しそうですわね。またあの時のように、私に嬲られる時間を過ごすと言うの? いいですわ。構いませんの。今の貴方をぐちゃぐちゃにして首だけにして飾り物にして、何もかもを思い出せない、忘却の海に、今度こそ落として差し上げますの」

「ふんっ。相変わらずとんだ趣味を持ってるな。だが、そう簡単に行くとでも?」

「行きますわ。相手が貴方だからこそ・・・・・



確信めいたその言葉にやや違和感を感じたが、それを振り払い腰のその手の神風を構えた。一つの封印を解放したその剣は、前に比べて少し軽くなったような気もした。


集中。背に現れる反星陣。煌びやかなそれはくるくると回り、時に一筋の光となって五芒星をなぞった。その足が地を離れる。



「さぁ、決着をつけよう――禍屡魔」

「ええ。ええ。何度でも引き裂いてあげますわ――妖精さん?」



そうして、ぶつかる。


互いが一筋の光となって。幸せも、不幸さえも、全てかき消してしまうその絶望の光に、飛び込んだ。






☆〇☆☆〇☆






その姿はまるで妖怪であった。感覚は随分昔、鬼に捕まったときに少し似ていた。


絶望感。有体に言うならそれだ。どうしようもないと言う虚無感。結果的に舞風に助けられた訳だが、確かに自分はあの時絶望した。あまりの力の差に。



――一瞬。ほんの一瞬、目が合った。それだけで、背筋は凍った。まるで世界が動くことを忘れてしまったのではないかと言うほど。



確かに間を遮る結界が存在していたはずなのに。まるでそれを紙切れのようにこちらへと干渉してきた。結界に不調は無い。声は聞こえるものの、向こうの妖気を欠片も感じることはできない。この結界は正常に作動しているのだ。


つまり、あれはただ俺を見ただけ・・である。それだけで、まるで違うのだ。力の差、などを具体的に説明するのは苦手だ。どれだけ強いのか分からないほどに強い、としか言えない。もしも、アキや舞風を直剣としたならば、あれはギザギザとした刃を持った、拷問器具のような刃物。しっくり来ないが、少なくとも自分にはそう感じた。



「――あれもまた、太古に生きた妖怪の一角、と言うことね」



背後から声。そこに立っていたのは八雲紫だった。先程からいたのか、今入ってきたのか。恐らく前者。彼女は空を、舞風と禍屡魔を見上げ、冷や汗を流していた。


あの・・八雲紫でさえもここまでの反応を示す存在。一気に事態が現実味を帯びた気がした。



「アキ、貴女はアレをどう思うかしら」

「……見た限り、封印の副作用で力は半減。おまけにこちらの状態は好調。舞風が負ける要素はない、と思いますわ」

「そう、私もね。そう思ったのよ。一目見て、なんだこの程度かって、思ったのよ」



――確かに。妖力を感じ取れないこともあって、最初見たときは普通の妖怪と変わりないように見えた。いや、もしかしたら感じ取れないだけで凄まじい妖力を持っていたのかもしれないが、少なくともその時は。


それが失せたのは、やはりあの眼を見た時。



「アレは、ダメよ。あの眼はダメ。幻想郷が如何に受け入れようと、内で暴れ、やがて全てを壊す種火になる。アレを受け入れる事はどんな世界にも出来ない。だってアレは――」





――底が見えない。いや、底のない狂気と憎しみに埋め尽くされていたのだから。






☆〇☆☆〇☆






「摩訶――天象砲ッ!!」



閃光が空を白く染める。何本もの光の光線は空間を焼き、世界を焼き、只進む。


しかし、それを微笑を浮かべたまま軽がると避けていく。気付けばその姿はすぐ傍まで迫っていた。



「遅いですの――」



振り下ろされる足。瞬時に結界を構築、それとの間に壁を生み出す。その瞬間、笑みを浮かべるその姿を確認し――



「――――がっ」



背後より、衝撃。自ずと近づくような形になり、結界は消えた。頭上に振り下ろされた踵。


それの痛みを感じる間もないまま、数秒、視線が真っ白に変わったかと思うと大地へ向けて高速で落下を始めていた。恐らく頭蓋が砕けたか。修復は完了。体勢を立て直し、空を見上げる。そこで禍屡魔は愉悦を浮かべ、頬を抑えていた。



「――もっと。もっとですわ。貴方はこんなものではないでしょう? 貴方は出来る子でしょう? その力を見せてみなさいな。さぁ。さあ! さあっ!!」

「一人でやってろ!!」



剣の切っ先を向け、その一点に力を集める。神風は光を帯び、粒子を纏う。



「――月下げっかっ!!」



剣を腰だめに構え、特攻。憎らしい笑みを浮かべた禍屡魔へと向かって行く。そして、直前にてそれを高く、掲げるように持ち上げる。



咆哮ほうこうッ!!」



真っ向からの渾身の振り下ろし。直後にその刃は妖力の刃となって何十倍にも巨大化し、世界を切り裂いた。


しかし、切れたものは世界だけ。禍屡魔と言う個体に対してのみ、空を切った。



「――甘いですわ。ただ大振りなだけの一直線な一撃で、私を捕らえられるわけないですの」



何処から、と言うわけでもないが、声は聞こえた。直後、背後より再び衝撃。目を向ける。しかしそこには何も無いのだ。勿論、それの正体など前回の戦いで理解している。


『世界』から『妖力弾』を忘れさせているのだ。当然、世界から忘れられると言うことはその存在を無いものと認識することと同じである。つまり、禍屡魔の攻撃は不可視、見えないのだ。



「――っち」



だからと言って、禍屡魔が己を世界から己を消すことができる訳ではない。それはつまり、妖怪としての基点、存在そのものの死を意味するからだ。


故に、忘却妖怪禍屡魔は自身に対して能力の行使が出来ない。



「――そこっ!!」



気配を読み、剣を振るう。その先は自らの背後。その刃はその頬をかすめ、止められた。


腕を掴まれていた。まるでビクともせず、うめき声を漏らす。



「……綺麗な手ですわね。まるで可憐な娘子の様。ああ、どうしてかしら。これほどまで綺麗だと――」



両手で掴む、押さえつけるように。その眼が、そして口が、狂気に歪んだ。



「――こんなにも壊したくなる」



そのまま、俺の腕を『捻じ切った』。断面はひしゃげ、神風は捥げた手から零れていく。光の粒子と化し、二の腕から腕輪が零れた。





「――じゃあ君も壊してあげようか?」





その顔に一撃。拳を繰り出す。瞬時に手を配置され、防御された。それでも、その体躯を遥か後方へと吹き飛ばす。


体は成人男性以上のモノと化し、力が漲る。当然だ。今のこの身は鬼なのだから。



「――あら。今回は天狗を跳ばしましたの? それも一興ではありますけれど」

「……随分と、余裕だね」



しかし、その身にダメージを与えることは出来ない。吹き飛ばしたはずが気付けば背後で楽しそうに笑っていた。


正確に言えば、ダメージはある。それを決定的なものに出来ないのは二つ理由が存在する。


一つは、こいつが『自身の痛み』を忘れること。僕が痛みを封じることが出来るように。自分でも使っているから分かるが、こういった輩は基本厄介である。どれほどダメージを与えようと向かってくる。普通とは一線を敷いた戦闘法。戦い慣れないのは当然だ。心情では対策を考えたつもりだったが、どうにも上手くいかない。


二つ目に、こいつが『忘却』への恐怖を糧に存在する妖怪だと言う事。結界で仕切られているため、結界山の外からの力の供給は出来ないが、それでも脅威。


何故ならば、その対象は僕含め、この山の動植物全てに渡るからである。生物には意識は付き物だ。そして勿論恐怖はある。その中に忘却の恐怖は、僅かながら存在する。その量は微量なれど、山も積もれば、と言うやつである。



「それで、貴方はその姿で私に何を見せてくれますの? 私の力を奪って、それでどうしますの?」

「…………」



”力を奪う程度の能力”。それが今この身にある能力の名。その名前の通り、これはその他からありとあらゆる力を対象に奪い、自らのモノに出来る。聞こえがよければすばらしい能力のように思える。


が、当然デメリットと条件は存在する。


前者は慣れない力、例えば能力ちからを奪ったとして、それを自由に扱える訳ではない、と言うこと。暴発する確立が十二分にある。今この状況でそんなことが起きれば、最悪自分で自分を消すことになりかねない。


後者は奪える質量に限界があること。単純に自分以上の力は勿論不可能だし、一個から奪える量は自分の力の一割程度と、条件は厳しい。地底の時は一体一体が強い妖力を持っていたわけではないから可能であったが、これは明らかに許容オーバー。



「――その減らず口も、すぐに叩けないようにしてあげるさ」

「あらあら。その言葉、まるで悪党のよう。お似合いですわよ」

「ほざけっ!!」



――別段。小細工は必要ない。正面から叩き潰す。


あの頃のように、怒りに狂っていたときとは違う。


俺は、俺は、焦ってなど、いない――






☆〇☆☆〇☆






「――どういうことだよ。これ」



舞風は、強い。


それはこんな自分にも分かることであったのだ。昔見た、烏天狗の強さだって相当なものだ。一個で百の妖怪を蹴散らせるような。


今の姿は、見たことこそないが、鬼の姿を象っている事など分かる。鬼は既存の全ての妖怪と一線を引く存在。なら、かなり強いはずなのだ。


それが、どうしてあそこまで、追い詰められると言うのか……



「――形態三。『優鬼天正』。その身は鬼。友の為に己を捨てた愚者」

「――えっ?」



いつの間にか、黙って戦いを見上げていた俺達の傍に鬼神が立っていた。同じく、その戦いを見届けながら。その姿は、何かの感情を押し殺しているように見えた。



「貴女は、いえ、貴女達はどうして舞風が別の姿に変身できるか、聞いたかしら?」



鬼神は顔をこちらに向けず、無表情でそう尋ねた。


聞いたことは、実のところある。その時は変身ヒーローだのと真面目に答えてくれなかった記憶があるが。妖怪としては己の正体がばれることが致命的に繋がるのやもしれないと断念し、いつか話してくれることを待ったが、結局その日は訪れなかった。



「鬼と烏天狗に変身できることは知っていたけど、彼がそれの理由を話してくれることはありませんでした」

「……ええ。私も、あの子を不思議な能力を持った存在としてしか見ていなかったわ」



アキと八雲紫がそう答え、俺もまた小さく頷いた。それを見ていたかは分からなかったが、蓮姫はクッと笑った。いや、そう聞こえただけかもしれない。


その眼はやはり上空の舞風を捉えたまま離さなかったが、やがてそれを瞑り、俯いた。



「――昔、昔。あるところに、一つの湖から一人の妖精が生まれました」



まるで子供に聞かせる昔話のように、唐突にそう言葉を紡いだ。勿論出てきた言葉は予想外で、三人揃って呆けてしまうほど。



「いきなりなん――」

「妖精は生まれたばかりなのに様々な事を知っていました。それはとてもおかしいこと。それ故に、同種の妖精の中でも浮いた存在でした。ある時、妖精は烏天狗の少女に出会います。初めこそお互いいきり立っていましたが、やがては意気投合しました。天狗の名前は『真可』。天狗の中でも才能を持ち、また同族の中では浮いた存在でした」



こちらに構うことなく、その言葉は続いていく。らしくない口調の言葉にやはり驚きながらもそれに耳を傾け始めた。



「結果的に、その妖精は妖怪と交友を初め、同じ妖精達には嫌われるようになりました。その頃、妖精と妖怪は互いに嫌い合っていたからです。本来なら馬が合うはずのない二人。それに興味を持った山の主は二人に会いに行きました。その名は天正。戦い好きな鬼にとっては異端な、戦いが嫌いな鬼でした」

「……天正?」



それは、先程鬼神が呟いた者の名前に似ている。


戦いが嫌いな鬼。才能を持つ烏天狗。そして、知恵を持った妖精。まるで、どこかで本当に在った物語のような話。



「鬼もまた、妖精に惹かれました。鬼は、戦いを強いられる己を嫌っていました。自分に恐れを抱くものを嫌っていました。しかし、知恵を持てど妖精は妖精。鬼を恐れません。鬼と、天狗と、妖精と。不思議な不思議な、三人は、仲良く暮らしました。しかし――」



そこで終われば、終わってくれればよかったのに、とまるでその想いが読み取れるほどに、その顔は歪んだ。



「――三人が出会って僅か。人間が、月へと移住を始めたのです。それだけなら何も問題なかった。人間が妖怪を毛嫌いしていなかったなら」

「……何があったというの?」

「人間は、今まで生きた世界を消し去ってしまおうといくつもの炎を落としました。自然を、星を、大地に住まう、生あるものを。そして、妖精は何処まで言っても妖精。存在するためには生まれた自然、湖が重要不可欠でした。故に、烏天狗と鬼は守るといって聞きません。妖精は、覚悟を決めました」



その言葉を吐いた時の姿が、まるで怪談をするかのように暗く、沈んだ空気へと変える。



「妖精は、守られるのではなく、己の手で守ることを決めました。落ち往く炎から友を守ろうと。全ての力を出し尽くしました。結果的に、山を、そして二人を守ることは成功しました。しかし、悲しきかな。その身は妖精。全ての力を出し尽くし、二人を守ろうとした妖精は全ての力を出し尽くし、風前の灯でした。どうしても助かりません。彼は山を、二人を守り、消える。そのはずでした」

「……はずでした?」

「最後の最後で消えかけた妖精を見て、二人は決めました。己の存在そのものを捧げ、妖精を救うと言う、彼の気持ちおもいの全てを無視した方法を」

「――ッ!!」



どうして……どうして、そこまでできると言うのだろう?


その妖精は、己の全てを投げ出しても価値があると思えるほど、大事な存在だったとでも言うのだろうか?



「……それは、成功。二人の全てを得た妖精は、気付きます。己が最早、己だけではないと言うことに。泣きます。怒鳴ります。悲鳴を上げます。それでも、もう二人は戻っては来ないのです……そこにいたのは、妖精でも、烏天狗でも、鬼でもない。全く別の存在。やがて、彼はこう呼ばれることとなるのです」



蓮姫は見上げる。そこで戦う者を見上げる。


悲しげで、しかしそれを堪えるかのように。ただ、舞風を見つめるのだ。






「――――『大精霊』舞風。そして――」






瞬間、空を光が埋め尽くし、その言葉の先を聞くことは叶わなかった。






☆〇☆☆〇☆






「――――ッ」

「貴方と言う妖怪は。まだ分からないですの?」



禍屡魔が見下ろす。その身に傷は在れど、ほとんどがかすり傷のような物。更に余裕がある。


対してこちらは傷が修復するため怪我の一つも無いが、明らかに攻撃をもらい続けている。傷が治るから全く問題ないと言うわけではないのだ。蝕まれるのは精神。こればかりはどうあっても慣れきれるものではない。


このまま戦闘を続けようと、僕の肉体が死滅することは無い。しかし、なんとか維持している体全体を覆う結界に、亀裂が入り始めている。そちらに割く余裕が少なくなっているのだ。


万が一、これが破られでもしたら、能力から保護されず、あっという間に記憶を失うだろう。長い、長い年月が消えるのにどれほどの時間がかかるのかは分かったものでも無いが。それだけは避ける必要があるのだ。


しかし、結界を気にすればするほど、おのずと余裕はなくなっていく。結界山の封印。自分への保護結界。それだけでも相当な妖力が奪われる。



「――今の貴方は昔よりも酷いですわ。あの時は錯乱してどんどんと打ち込んできたからよかったものを。今の貴方は戦いに集中が出来ていない。そんな状態で私に勝つと? 笑わせないでほしいですの」

「――――」

「どれだけの月日が経とうと貴方は変わらない。変われない。気付いていながら変える気が無い。分からないとでも思いますの? 貴方がほとんどの攻撃を加減していること。そんな貴方が、私に勝てるわけが無いでしょう?」

「――君がそう言うなら、そうなのかもな」



分かって、いる。


本当は分かっていたのだ。


僕は一つの例外を除き、常に相手を殺さない戦いを心がけてきた。それは、その戦いの後にきっと、友達になれると信じたから。いや、それだけでは詭弁だ。自分が死なないから、と言う理由もあった。


その戦い方が今こうして、自分と力量が拮抗するような相手との戦いに不利な理由を作り出す。



「――――蓮姫」



遥か下。結界の中。心配げにこちらを見つめる目。


恐らく、彼女も分かっているのだ。


分かりたくなくとも、分かってしまうのだ。



「……今度は余所見ですの? いいですわ。貴方がそれでいいならば、全力で叩き潰させてもらいますの。覚悟はよろしくて?」



声。声が聞こえる。禍屡魔の声。


見ればその手に妖力を溜めていた。収束する力。不愉快そうにこちらを見つめる目。


ああ、分かっている。


怖かった・・・・のだ。ずっと。ずっと。昔から。封印が解けて、この世界に舞い戻ったその時から、やがて来るその時を、ずっと恐れていたのだ。


だから、蓮姫に託した。封印を。封印される前に、鬼の封印までもを。


その時から、妖怪舞風は烏天狗に変身できるだけ・・の、されど特異な妖怪へと変わった。封印を取り戻し、鬼にも変身できる妖怪に変わった。



「消えなさい――」



収束された力が、はじけた。直線的にこちらに向かってくる光線。


眩く、高速で迫ってくるそれを、避けない。


光の奔流に飲み込まれるその瞬間。小さく口ずさむ。


僕に、私に、俺に残された。最後の封印の詞。









「――――具現ぐげん結晶けっしょう――」








温かい、光がはじけた――――






☆〇☆☆〇☆









――遥か昔の物語。魔王と呼ばれし存在。



それは憚られる存在の代名詞。



『魔』を束ねるモノでは決してなく、『魔』すらも食らう悪意そのもの。



それは千の妖魔を喰らい、その力を己の糧とした。悪逆の存在。



それの恐ろしさは力だけではない。形相も、それほどではない。



ただ、躊躇もなく、是非もなく、妖怪を喰らい、大地を妖魔の血で染めたモノ。



それの名は――








          魔王、舞風――



         『最低最悪の妖怪』と呼ばれたモノ――







ちょっと後悔している。


反省もしている。


質問は受け付ける。


さて、次で収束してくれるだろうか……



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