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東方大精霊  作者: ティーレ
2.ソレハ空白ノ時ヲ経テ再ビ現世ニ舞イ戻リ
39/55

舞風と災厄



まず初めに、謝罪を。


いつもより遅くなるとか抜かしておいていつもと全く同じ時間に投稿してすいませんでしたーーッ!!


それと、謝りたい理由がもう一つありますが、それは後書きにのせさせていただきます。


どうも作者、単位六つ落として後がなくなってしまったようで。両親に言う事すら怖い臆病な作者なので、若干ストレスのようなモノが溜まっております。だからどうしたと言われたらそれまでですがww


さてさて、それではどうぞ~




――遥か昔の物語。魔王と呼ばれし存在。



それは憚られる存在の代名詞。



『魔』を束ねるモノでは決してなく、『魔』すらも食らう悪意そのもの。



それは千の妖魔を喰らい、その力を己の糧とした。悪逆の存在。



それの恐ろしさは力だけではない。形相も、それほどではない。



ただ、躊躇もなく、是非もなく、妖怪を喰らい、大地を妖魔の血で染めたモノ。



それの名は――












☆〇☆☆〇☆














――気まずい。非常に気まずい。



そこは山の中の一軒家。それほど大きくはなくとも、人並みな生活が出来る家。ここにお客が来ることは山の主を除けば極めて珍しい。


の、はずだが……


俺はチラリと向かい側に悠然と腰を下ろす者に目を向ける。それは真っ直ぐと、何処か意地悪げにこちらを見つめている。それを見るとまた悪寒のようなものが走り、瞬時に視線を反らした。


今までにこれほどまでの気まずさを感じたことはあっただろうか?



「ふふふ。別にとって食べようと言う訳ではないのだから、もう少し落ち着いたらどうかしら?」

「は、はいっ! す、すいません……」



そう、八雲紫は口を開き、また俺を見つめるのだ。


これほどまでに、誰かの存在を求めたことは未だ無い。もうアキでも舞風でも、慧音でも妹紅でも、最悪チルノでもいいから、傍にいてほしい……風見幽香は勘弁してほしいけど。



「あらあら、待たせてしまったみたいですね」

「……アキッ!!」



祈りは届き、戸を開いて顔を覗かせたのは同居人。アキである。思わず飛びつきたいまでの衝動に駆られるが、足が震えて上手く動きもしない。



「ごめんなさいね紫さん。お客様がいらっしゃったみたいだから、先にそっちに対応してしまって」

「お客様?」



八雲紫が首をかしげた。俺も声には出さずとも同じ反応を示す。先程も言ったがここに来客なんて珍しい話である。結界で囲われているから舞風の許可を得ているもの以外は入れないはずなのだが……


アキは困ったような笑みを浮かべながら室内に入り、未だ外にいるであろう誰かを手招きした。



「――やはり、貴女も来ていたのね。八雲紫」

「貴女は――!!」



それの姿形は女性。不敵な笑みを浮かべ、腕を組む。頭には一本の角が生えていた。既に幻想郷からは姿を消したはずの存在、鬼である。それの姿を確認した瞬間、不思議と舞風に似ていると思った。服装も、何もかも、同じところなど無いはずなのに。



「……貴女とは?」

「察知しているのでしょう? この山の異常。いや、結界の異常を」

「最も舞風に関係している貴女ならまさかとは思ったけれど、鬼神」

「貴女達も把握しているのですか。それはよかった」



八雲紫が、入ってきた鬼が、そしてアキまでもがその口を開く。


……頭に情報が入りきらない。結界の異常? 鬼神? 把握? 一体何のことなのだ?



「……あら? どうやらこの子は気付いていないみたいだけど、教えていないのかしら?」

「はい、教えたところで状況が動くところでもなし、舞風が戻ってくるまでは放っておくつもりでしたわ」



やや無感情にアキはそう口を開いた。それに対して僅かに腹が立ったが、それも仕方の無いことだろうと諦める。彼女と自分の力の差くらい分かっている。それを踏まえ、説明しなかったのだろう。悔しいことに変わりは無いのだが。


と、そこで鬼の視線がこちらに向いていることに気づき、思わず背を伸ばす。その目はやや色を帯びていたが、やがてまるで興味を失ったかのように色を失う。



「そう。では、最低限の説明と自己紹介くらいはしておきましょうか。私は鬼神。地底の鬼の管理約、と言うことにしてもらってるわ」

「私はアキ。この山に住まわせてもらっている一人ですわ。こっちはベリーちゃん。見習い魔女ちゃんです」

「み、見習いじゃない! えと、ベリーウェルです。鬼神様」

「ふふ。舞風が集める子はいつも面白いわ。よろしくね」



鬼神は、ニコリと笑う。だが、何処かその工程には感情を感じられないような気がした。意味が無いと言うことを把握しきって、それでいて最低限の社交辞令で済ませてしまうような感覚。


自分と言う、小さな存在とは裏腹にあまりにも強すぎる存在達。どうしてこうなってしまったのだろうか。考える余裕すら沸かなかった。



「さて、異変と言っても起きているのは本来なら些細な出来事。結界の変質よ。この結界に刻まれた術式の一部が、僅かながら減ってきている。いえ、まるでなかったことにされている」

「そう。いまのところ山では大した問題は起きていませんわ。魂の封印結界には何も変化が起きていませんもの。異変が起きているのは、私でも閲覧不可の結界の深部。結界山の封印の非常に深い位置にある。彼は、それの説明はしませんでした」



結界山の封印。それの異常。本来なら俺にとっては大事件な話。しかし、深部の術式とは? 一体、何に作用している結界なのか。


舞風は何一つ詳しいことを言わなかった。勿論、聞かなかったからでもあるが、そもそも言う必要が無いと判断していたのかもしれない。



「それを知っているから貴女はここに来た。そうでなくて? 鬼神」

「……仰る通りよ。八雲紫。この結界山の封印は、舞風の剣と私の剣、二つを媒介にして構成を組み立てた。だから、異常が起きれば直ぐに分かる。直に舞風も帰ってくるはずよ。結界の歪みを知って、ね」

「結界の歪み?」



鬼神は深く頷いた。その顔に感情はなく、まるで、押し殺しているかのようにも感じられた。


八雲紫が目を伏せる。一つ、息を漏らして。



「……それは、貴女が言っていた、封印された最低最悪の性質の妖怪の仕業?」

「ええ、残念ながら、ね」



『最低最悪』の性質の妖怪。それは、どんなものなのだろうか? そもそもどうしてそんなものが、結界山の封印に関係するのか。



「――そう。やっぱり、この山は妖怪を封印していたの」

「気付いていたのかしら?」

「薄々ですよ。ただ魂の力を封じるためとはいえ、山一つに結界を張る理由なんてそれしか思いつかなかったもの」

「おい、おいおい。まさか、結界山にその妖怪が封印されて……」

「その通り、よ。遥か昔に彼が封印した、妖怪」



場の空気が沈んだ。それほどまでに信じられない事でもあった。


そんなものが、ここに? この山に?


身震いする。鬼神に、八雲紫までが忌避する存在がこの足の下に尚も眠り続けて――



「――ちょっと待てよ。封印の異常って、まさか、もう目覚めてる、のか?」

「……その可能性は高い。まだ半覚醒状態でしょうけど、ね。恐らく本能的に結界を解こうとしているのよ」



背筋がゾッとした。でも、何処か現実離れしているようにも感じて、よく分からない様な感情に囚われる。


もう、数十という年月をここで過ごしたのだ。なのに、今更封印された妖怪なんて言われても、いまいち浮世離れしたように思ってしまう。



「それで、舞風はどう思っているの? 因縁の相手、なんでしょう? 私としてもそれを優先してあげたいところだけど、もしも幻想郷に危険が及ぶほどの被害が出るなら……」



アキの疑問も最もと言える。それほどの悪名を持つ物ならば戦いは激戦になるであろう。ならばこそ、大丈夫なのか。


それを口にする前に、鬼神は言葉を遮った。



「大丈夫よ。最悪、私自身の手でけりをつけることも出来るから。アレの力は、あって貴女と同等か、それ未満。私なら軽く終わらせられる」

「……その言い方では私も簡単に止められるというように聞こえるけれど、まず置いておきましょう。なら、貴女はどうしてそれを最低最悪と言うの?」



八雲紫が鬼神を睨む。確かに、それも妙な話だ。


何故そんな簡単に消せるはずの存在を封印したのか。どうしてそれをそこまで忌避するのか。



「決まっているでしょう? 性質が悪いのはその能力なのよ。ほぼ確実に、周りへの被害は避けられない。酷い能力ちから

「……能力? それほどまでに貴女が恐れる能力とは一体何?」

「そうね……時に、八雲紫。生命が最も恐れることは何かしら?」

「それは、勿論『死』、でしょう?」



間髪もいれず口にしたその答えに鬼神は大きく頷いた。


死。それはありとあらゆる生物が恐れるもの。何者もいずれ来るそれから逃れることは出来ない。故に恐ろしい。生物の真理。



「――では、『死』を恐れない者が恐れることは何かしら?」

「『死』を恐れない者が?」



死を恐れない生物、なんて本当はいないはずだ。でも何かとかけて己の生命を捨てる存在はいる。大事な物を守るため。譲れない何かを守るため。


つまり、答えは――



「――失うこと。命に代えがたい、何かを失うこと」

「……そう、よ。貴女が答えることは予想外だったけど、まさしくそれ。命を捨ててもいいと思えるほどの存在。それを失うことは命を失うことより、もっと酷い。では続けて、どうしてそれは命に代えがたいほど大切なのかしら?」

「鬼神。私達は言葉遊びをしている場合じゃ――」

「……『思い出』」

「え?」



憤慨するように立ち上がった八雲紫の傍で、唯一顔を俯かせていたアキがそう口にした。まるで気付いてしまったとでも言うかのように、その顔は真っ青で。何処か、心が騒いだ。


鬼神が頷いた。その目には、怒り――いや、そんなモノでは証明できないほど濁った感情は存在した。



「己の『死』よりも重い、大切な者との『思い出』がその人を大切にする。そう、なんでしょう?」

「……貴女は気付いたみたいね。これは死と同じ、全ての生物が逃れられない事。即ち、『忘れる』こと。それを自在に操れる存在がもしいたとしたら、どう思うかしら?」

「忘れる事を、操る?」



だとすれば、それは、とても残酷なことだ。


命に代えがたい大事な者を、全てを捨ててもよいと思った物を忘れさせられ、ただ、ただ思い出そうと、思い出そうと、もがくはずだ。苦しむはずだ。


命を捧げた誰かがいるとする。もしも、その人物を忘れさせられたりしたら、一体どうなってしまうのだろうか?


ああ。嗚呼。そうだ。それは、よっぽど、性質が悪い話ではないか。















「それは”忘却を操る程度の能力”。忘却妖怪『禍屡魔かるま』。それが最低最悪の性質の妖怪よ」















世界から音が消えた気がした。そう思うほど、場は沈黙していた。


”忘却妖怪”。まるで聞き覚えの無い恐らく一人一種族の新しい――いや、この場合は古い妖怪、と言うべきか。そんなものは勿論原作において登場はしていない。その姿形は想像だにつかない。


しかし、仮にそうだとして、その妖怪が千の妖怪を皆殺しに出来るのは、何故だ?


そう考えあぐねていると徐にアキがその口を開いた。



「同士討ち。不意討ち。騙まし討ち。そんな能力があればなんでもござれ、ね」

「そういうことよ。分かるかしら? 見たことの無い場所。名も知らぬ隣人。自分にすら理解できない自分。それがどれだけ恐ろしく不安なことか。結果的に疑心暗鬼は膨れ上がり、名も知らぬ隣人に凶刃を向けることになった。隙を突かれればあっという間。悪魔のささやきにすら耳を傾ける。それが悪魔と知らないから」

「なんで、そいつは。なんでそんなことを?」

「それは……今はどうでもいいわ」



歯切れが悪く、言葉を濁す。しかし、確かに優先すべきことがあるのも確かなのだろう。


だが、未だ理解が及ばない。いや、話の順序が繋がらない。その言葉は俺を無視し、八雲紫やアキにだけ向けられているようである。



「……なるほど。もしそんな妖怪が本当にいるのだとしたら、幻想郷、いえ、世界そのものを危険に晒しかねない。多分だけど、そいつは能力をばら撒くんでしょう? いえ、制御をしないと言うべきかしら」

「ええ。あちこちに忘却を振り撒き、ありとあらゆるものに恐怖と不安を与えるもの。確かに在り方は妖怪らしいが、その牙が妖怪に向けられた結果が、希望の里」



また、聞き覚えのない名称。希望の里、とは一体なんなのだ?


こればかりはアキも知らないのか、戸惑った表情を見せた。それに気付いた鬼神があら、と声を漏らした。



「流石に教えていなかったのね。いいわ、これも話してしまいましょう」



そう言い、一つの物語を語り始める。


一人の妖怪の、世界を作り、そして壊れるまでの物語――















「――そうして、希望の里は滅び、千の妖怪の血に沈んだ。そして舞風は、忘却妖怪を封印した」

「…………」



百年程度しか生きていない自分にはまるで、到底、想像もつかない次元の話。まるで神話のような出来事。そんな事が実際に起き、その当事者は長らく隣に存在していた、と言うのだ。


正直、スケールが違いすぎるような気がしてならない。



「不幸にも、その時私は里の外に出ていたわ。それを突かれ、帰ってきたときにはほぼ全員が血の海に沈み、空では舞風とあいつが戦っていた。涙を流しながら、ね」

「……それは、相当無念だったでしょうね。ようやく作り上げた世界と、集めた妖怪を同時に失ったのだから」



そう、八雲紫は目を伏せる。いや、俺だってそうだ。舞風が、そんな想いをしていたことなど、知りもしていなかったのだから。


と――




「――貴女。本気でそう言っているの? だとしたら、貴女は全然分かっていないのね」




顔を上げる。鬼神が八雲紫を睨んでいた。それは呆れたような、軽く失望したような、そんな目で。



「……それは、一体どういうことかしら」

「貴女は舞風のことを全然分かっていない。そう言ったのよ。どうしてあの子が希望の里なんて物を作ったか、貴方には理解できないはずよ」



希望の里を作った理由。確かに未だに挙がらない事。何故。何故?


世界を作るなんて、そんなとんでもないことをするにはそれ相応の理由があるはずだ。そうでなければ、それは成り立ちその物に矛盾をきたす。ではその理由とは?



――舞風は、そもそも世界の成り立ちなどを深く考える妖怪か?



「まさか……彼は妖怪と自分の生きる世界が欲しいがために?」

「妖怪が、じゃないわ。あの子はね。希望の里が作られる以前。旅をしていた。長い、長い。途方もなくなるような長い時間を。妖怪達は数千、数万と言う時をかけて築き上げた絆そのモノ。あの子は夢を、そして絆までを殺された・・・・のよ。錯乱による同士討ちと言う最も見たくない光景と共にね」

「――ッ!!」



殺された千の妖怪が、全て親友のような存在だったとして。



――それが目の前で、殺し合い、そしてそれを止める事もできないその時の感覚は、どんなものなのだろうか?



俺には想像も出来ないことであった。だって、あいつがそんな過去を持っていたなんて、想像もつかなかった。


憎み、怒ったのか。それとも、この上ないほどの無力感を感じたのか。恐らく両方だったのだろう。


耐えられる訳が、無い。自分の立場に置き換えるなんて出来ない。だって、俺には千人も友達だっていないし、そんな長い間連れ添った存在だっていない。その両方を、夢と共に壊される。



ああ。嗚呼――



それはどれだけ――



どれだけ辛いことだったのだろうか――















☆〇☆☆〇☆















「――相当、時間がかかったか」



転移結界でその山に降り立つ。いつものように、高く聳える木が出迎える。生憎の曇天が空を覆っていた。


封剣『神風』に届いた結界の不調。その兆しは随分と前から出てはいた。しかし、それを考えることもまた怖くて、何処か自分を誤魔化している節もあったかもしれない。



「――お帰りなさい。舞風」

「来てたんだな。やっぱり……」



背後から聞こえた声に振り返り、そこにいる者の顔を見る。


何万と言う、気が遠くなるほどの遠い時間を共に生きた存在。八斗蓮姫。そこで何処か悲しげに、こちらを見つめていた。



「……封印が、解けるわ」

「ああ……本当ならこの封印は俺の復活の千年後に解けるはずだった。早まったのは、大地から結界の記憶を忘れさせたからか。このままじゃあ不定期に干渉されて結界が不安定になる。だから――」



樹を、見上げる。高く、高く。聳える一本の樹を。





「――忘却妖怪との因縁を、今日、断つ」





強い雨が、降り出した。


気付けば蓮姫の背後にはいくつかの人影。見知った顔があった。


紫に、アキに、ベリーに。この数百年で得た。新しい仲間。



「……話したんだな。ここに封印されている妖怪のこと」

「ええ、事情くらい説明してあげなきゃ可哀想でしょう? 本当なら、戦うにはこの山は狭すぎるかもしれないけど」

「この山じゃなきゃダメなんだ。希望の里の、唯一のシンボルだったこの山じゃなきゃ」



春か昔の記憶。みんなが笑っていた世界の記憶。一度失った絆が恋しくて、それでまるで穴を埋めるように欲しがった。一度手に入れたら貪欲に、もっと欲しいと子供のように。


そして、夢が出来た。人と妖怪とを完全に分け、自分達による自分達の世界を作り上げたいと願った。


夢は、叶って、一ヶ月で崩れた。砂場に作った砂のお城のように。


それがいつか、遠いいつか、人間たちが妖怪への恐れを失い、破綻してしまうのには心では気付いていた。でも、それでも、今はそうしていたいから、俺は今を大切にしようと夢を描いた。そんな希望を持って、希望の里と名付けた。



――納得がいかない。納得ができる訳が無い。




「結界山の封印は、元々中に閉じ込めたものの力を奪うための結界。その為に、全ての力を注いでまでここの結界を強めたんだ」

「舞風……貴方は」

「ずっと、思っていた。今の俺にどれだけの意味があるのか、とか、そもそも意味なんかあるのか、とかさ。正直、分からなかった。分かろうとする前に、逃げた。千の親友を見殺しにして、今更何をほざくんだって。だから、これだけは自分で断ち切らなきゃ、意味が無いんだ」




雨は強かった。口に流れこんで来た。


―しょっぱかった。それが雨か、気付かず流れた涙か自分で把握できないほどに。



「――蓮姫。封印を、解くぞ」



返事は聞こえなかった。顔を合わせるのが気まずくて、背を向けていたから頷いたのかも分からなかった。














「――舞風」

「……どうした? 紫」

「貴方は、どうして私を友と呼んだの?」



そう、彼女は言った。何処か戸惑いを含めた目で。


蓮姫は全てを語ったのだろう。とは言っても、希望の里の経緯を、だろうが。それを踏まえてこんなことを尋ねてくるのはどうしてか。



「逆に、それを聞く理由は?」

「無神経を承知で聞くけど、貴女は関係を作ることを怖いと思わなかったの? 一瞬で全てを失えば、誰だってそれを恐れるはずだもの」

「……そう、かな。そうなのかもしれないな」



皆が互いに傷つけ合い、死んでいく姿を見て、頭が真っ白になったことを覚えている。そしてそのまま、あいつに突撃して行った事も。


失う事を怖いと思った事は、いくらでもある。だって、それらは大事なものだ。掛け替えの無いものだ。


だからこそ、失うことを恐れはすれど、得ることに俺は恐れは抱かない。否、抱く訳にはいかない。それが俺にとって全て。重要な他こそ俺の存在意義。誰かのためにあるからこその『大精霊』なのだ。



「俺は、逃げられないよ。生きることから逃げられない。なにより蓮姫が逃げなかったんだ。俺が逃げる訳にはいかないんだ。目を逸らした分だけなくなっていく物が在る。だからこそ……」

「……ふぅ。貴方のことは分かっていたつもりだったけれど、私の思い違いだったみたいね」

「紫……」

「全部終わったら、宴会でもやりましょう? 希望の里は確かに滅びてしまったのかもしれないけど、幻想郷はこれから。貴方はまだまだ幻想郷に必要な存在なのだから、しっかり片をつけてきなさい」

「――ああッ!!」



小さく頷いた。それを見て満足そうに頷き、笑みを浮かべた。


次に、変わるように顔を出したのはこの山に住む二人であった。



「舞風……どうして、今まで教えてくれなかったんだ?」

「それは……」



責めるようで、しかし何処か悲しそうに、ベリーはこちらを見た。こうして悲しみのような感情で歪んだベリーの顔を見るのは初めてな気がする。


その隣のアキもまた、目を伏せてこちらを見つめていた。事情を聞いたならばこそ、か。



「……話さずに済むならそれが一番だと思った。当初の予定じゃここにいるのは俺と蓮姫と、紫だけのつもりだった。それだけ、過去じゃなくて、今の俺を見てほしいから」

「……舞風。貴方は――」

「『最低最悪』の妖怪を見せたくなかった。ただ、それだけ」



そう、俺は結界を閉じた。二人を隔離する結界。絶対に壊されたりしないように、二重三重、幾重にも重ねた。


そしてそれに背を向けた。もう振り返りたくはなかった。今見たら、俺は多分酷い顔をしている。



「馬鹿っ! 封印された妖怪とかっ! お前の過去とかっ! 俺には分からないことだらけだけど。だけど! 俺は覚悟は出来てるから!! だからっ、終わったら、全部終わったらっ――」



声は、切れた。これでこの結界の外からの干渉は完全に不可。内側にも物理的な干渉は完全にシャットされている。逆を言えばそれ以外は生きているのだが。







「……縛、封、戒。『禍屡魔の結界』。完全解放――」







囚われているのは妖怪か。それとも己の心か。


……いや、両方なのだろう。だから今、こうして自分でも良く分からない、緊張に似た感覚を覚えている。


一つ一つ。まるで糸を引くように優しく、繊細に引き抜くように、結界を解く。


今だから、分かる。俺は――











「――嗚呼。懐かしき世界。夢にまで見た緑。蒼が見えないのが、本当に、心の底から残念ですの」










――俺は、俺には、こいつを――――義務と理由と、責任がある。



妖艶に、されど無垢に、しかし残酷に、故に恐ろしく、それでいて美しく、まるで泥の海に浮かぶ黒い宝石のように混沌と。


忘却妖怪『禍屡魔』は、そこに存在していた。あの時と、何一つ変わらぬ姿で――











皆さんは忘れることを怖いと思った事はありますか?


ぶっちゃけ自分はあんまりないです。作者ですが。テストに出てきた問題やら、もしくはスピーチの内容やらを忘れたときには焦ったりしますが、まぁそのくらいですので。


でも、それは自分にとって。どうしても忘れたくないものがある者にとってはどうなのか……



さて、前書きに書いた謝りたいこと二つ目は、急展開過ぎること、ですね。自分でも焦るほどでした。しかし、これ以上長引かせるのは蛇足。故に、ここで決行しました。



さて、作者は諸事情で金、土はパソコンに触れることが出来ないので、感想等は返せないかもしれませんが、どうかご了承ください。




因みに、これ二部、三部を想定して作成しています。



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