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東方大精霊  作者: ティーレ
2.ソレハ空白ノ時ヲ経テ再ビ現世ニ舞イ戻リ
37/55

舞風と妖精


※単位を二教科落とした。あと二つで留年である。



最近の金曜日夜八時の更新が定期的。自分でもこの時間まででかせばいいやという枠のようなモノが出来てなんとも言えない気分になっております。


テストがね、もうね。100点取れるのもあれば30点しか取れないものもあると言う展開。100いらないから不可を可にして欲しい。


神霊廟買いました。しかしやる時間はあまり無い。新キャラをこの小説に出すかどうか……そもそも星蓮船の方も出てきてないが。これはちょっとしたミスです。






「――そうだ。妖精がいない」



徐に、しかし突発的に、頭が狂ったかと思うほど瞬間的に。結界山の主、舞風はそんなことを口走った。それに目を向けることもなく。



「バカじゃねーの」



と言い放つ。するとその顔は愕然とした。言い表すならば梅干が入っていると思っていたおにぎりの中に入っていたのは実は乾燥させた苺だったみたいな顔である。



「な、なん……だと? ダ、ダメ?」

「そもそも妖精がいないのはお前がそういう風に結界を張ったからだろ?」



張った本人曰く、この結界山に張られた結界は魂の力に大きな影響を及ぼすものなのだそうだ。それはどんな生物にでも魂はあると言う当然の事を建前に、それの影響はありとあらゆる存在の侵入を防ぎ、妨害する力を持った。


故に、この結界山はある意味隔離された空間になっている。それほど大きくない山。しかし人の手が絶対に入らないとなれば当然小動物が馬鹿馬鹿しいほど多数生息してもおかしくはない。


しかし、逆を言えばどんな生物もこの山を出ることは出来ても入れるのは極少数、出た物だけに限定される訳で、ここで生まれた生物でも無い限り、結界山の出入りが不可能なのだ。この前他所で嫁さん見つけてきた山猫が結界の際で鳴き合っている所を見てこっちが泣きそうになったものである。


当然、妖精も入ってこないし、新たな妖精が生まれるにはこの山はまだ未熟なのである。



「うぐぐ……そうだった。なにか言い案は無いだろうか?」

「結界を解けばいいんじゃないか?」

「そうなったら外の妖怪が入ってくるから却下」

「ならせめて魂じゃなくて妖怪を入れないようにすればいいじゃないか?」

「ぶっちゃけると今更結界を作り変えられない」

「お前……」



ここまで来ると流石に呆れも沸いてくる。何も考えずに張ったんじゃ無いだろうかコイツ。あの時の猫に謝れ。



「くそ、妖精がいないんじゃ自然って感じがしないじゃないか。どうすればいい」

「そんなに妖精が見たいんだったら外に行けばいいじゃないか。霧の湖ならいるだろ?」

「何処そこ?」

「知らんのかい」



うんうんと首を捻り続ける舞風。それを無視して手元の本に視線を落とそうとすると入り口のドアが開く。



「あれ? 私達の家で何をやってるんですか?」



アキである。その手には蔓で編んだ篭を持っている。中身は山菜のようだ。一部毒々しい茸が見えたが


首を傾げ、普段ならいないはずの舞風そんざいに問う。重たげな頭を持ち上げて、舞風はアキを見た。



「ああ……妖精が、欲しいんだ?」

「飼うの?」

「いやそうじゃなくて」

「監禁するの?」

「いや違うって」

「食べるの?」

「お前の中で俺はどんなカテゴリに属す生物なんだ?」



舞風がじっとりとした視線をアキに向けた。しかしそれも数秒。再びため息をつき、天井を見上げた。



「……はぁ、どっかから攫ってこようかな。それで餌付けして結界山に置けば……ってダメだ。おもいっきりさっきの飼うと監禁に当てはまってるじゃないか。むぅ……」

「そうねぇ……確かにいても悪戯してくるだけだけれど、いなくなると寂しいですねぇ」

「そうそう。風流って言うの? なんていうか自然って感じがしないんだよな。妖精がいないと」



それは確かに頷くことがある。旅をしている最中もしつこく悪戯をしてきたりする場面はあったが、今はそもそも誰も入ってこないのでそんな事がない。全く無い。本を読むなら静かな方が助かるが、それでも三日に一度くらいなら騒がしくてもいい。でも本をビリビリに破くのは勘弁して欲しい。



「……自然発生しないのは予想してた通りだけど、ふむ。そこら辺は実際に妖精に会いに行ってからでも考えるか」



舞風の視線が窓の外へと向いた。鋭く、非常に暑そうな日差しが照りつける空。



――今更であるが、今季は夏である。気温は30℃を軽く越えている。














☆〇☆☆〇☆














「――ベリー。格好のピクニック日和だとは思わんかね?」

「こんなクソ暑い日が格好の日和なのは運動会だけで十分だっつーの」



人里近くに転移し、徒歩一時間程度。そこに霧の湖はあった。


非常に規模の大きな湖である。対岸は遠く、目を凝らさなければ見ることが出来ないくらいに。上空では何匹かの妖精が戯れている姿が目に入った。



「でも、霧の湖って言う割には霧が無いんですね」



ぽろっと零したアキ。確かにそうなのである、確かに湖としては凄いと思うが、これの何処が霧の湖かと疑いたくなるほど、その湖は晴れている。


それについて聞いてみようかとベリーの方を見れば本人も意外そうに頭を掻いていた。



「……おっかしいな。いつもなら真昼も霧が出てるはずなんだけど」

「何かあったのかもな。そもそもどうして霧が出るのかも分かって無いんだろ?」

「……いや、多分氷の妖精のせいだと思うけど」

「氷の妖精? そんなものもいるのか?」



だとするならば、興味深いことである。単体でこの湖全体を覆うほどの霧を作り出す妖精。さぞ力を持った妖精なのであろう。本当ならそういった存在は極稀であるが、幻想郷なのだからいてもおかしくは無い。



「まぁ、妖精に話でも聞いてみればいいさ。ちょっと弁当持ってて」



片手の、今回のピクニックのために持ってきた昼飯の篭をアキに手渡す。


そうすると軽くふわりと空を飛び、戯れている妖精に近づいていく。ちょうどよく、緑色の髪をサイドポニーにした、平均よりは賢そうな妖精を見つけたので話しかける。



「もし、ちょいと氷の妖精の話を」

「わっ! 人間だ!!」

「人間が来たよ~」

「やっつけろ!」



……予想はしていたが、こうもその通りだと流石妖精という気にもなってくる。


小さな妖力弾をつくり、こちらに投げつけてくる無数の妖精達。もう少し見てくれを見て欲しいものである。こんな子供が危害を加えるように見えるのか?


まぁ、そんな事は向こうには関係ないのか。そんな事を心中でぼやき、反星陣を展開する。流石に何もなしでこれほどの弾幕は避けきれない。



「どいつもこいつも可愛い顔してやることが怖い。これだから妖精ってのは……」



普通に人間がもらっても間違いなく骨折以上は免れない攻撃。そんなものが顔の真横を通り過ぎていくのだから若干ひやりともする。


しかし、所詮数だけ。速度もなく、十分に避ける事は可能である。



「でも、このままじゃ話も聞いてもらえなそうだな」



見た瞬間に攻撃を仕掛けてくるのだからよっぽどだろう。そうなるとただ説得するのは難しい。


ならば……



「――捕獲結界」



それはブロック上の箱をイメージし、作成した結界。それはどこからともなく現れ、少女を囲ってゆく。それに大仰に驚きながら少女は壁に激突する。


簡単なものだが、相手は妖精だから抜け出せないだろう。


そう思った瞬間、妖精は結界の中から唐突に消えた。



「……はい?」



そこに存在した要素を一つも残すことなく、妖精の少女は消えた。目前から消えた。


目の端に映った妖精達を正面に移し、その妖精がその輪の中に当然のように存在することに愕然とする。



「……おいおい。瞬間移動かよ。最近の妖精はレベルたけーなオイ」



それしか浮かばない。少女は箱の中から消え、そこにいるのだから。これを瞬間移動、もしくは転移と言わずなんと評するべきか。孫悟空もビックリである。ただし西遊記ではないが。


妖精達の攻撃は続く。こちらとしては傷つける気にはなれない。わざわざ妖精と戯れるためにここまで来たのだ。何が嬉しくてスケジュールを妖精狩りに変えねばならない。



「捕獲、が無理となると……」



やはり、対話か? 一度捕獲しようとしておいて? しかしそれ以外はない、か。



「こーんーにーちはー。俺は悪い人間じゃないからお話しませんかー?」



返答は妖力弾の弾幕によって返された。ため息をつきたい気持ちになりながらも、くるくると空を回りながら避けていく。一度きりではめげずに説得を試みる。



「――あたいの友達に何してるんだ!!」

「――はぇ? ぶふっ!!」



上空よりとび蹴り。俺の頭に突き刺さって多大なる衝撃を食らわせてくる。視界の端に見えていたのは一瞬の出来事。青い服と小さな足。そしてそれが俺に当たる瞬間、なにやらひんやりとした空気が身に当たる。


体勢を立て直してみてみれば、そこにいたのは腕を組んだ妖精。しかしそれの風体は既存の妖精と大きく異なっていた。背にはガラス細工のような三対の羽、青い髪、青い服。そしてその身から滲み出るような、寒気かんき



「あたいが相手になってやる。かかって来い人間!」



一際強い妖力。これは、今の俺より多くね?


ただの妖精の域を越えた力。それが、この氷精か。



「いや、参ったね。本気で、どうも」



流石に想定外だ。たかが妖精と括っていただけにこれほどの力を持つ妖精は初めて見た。



――故に、血が滾る。



今の自分とどちらが強いのか? ただそれだけ。当然封印を解いてしまえば楽に勝てるがそれでは意味が無い。


『元』妖精である俺と、現時点で最強の妖精と。どちらが強いのか。



「おい、氷の妖精!」

「なによ!」

「俺と勝負しろ!!」

「ふんっ! 上等よ! アンタなんか氷づけにして椅子に使ってやるわ」



いくらなんでもそれは酷いんじゃないだろうか? 一瞬そんなことを考えたがすぐに振り切り、真正面から相対する。氷精の後ろにいる妖精達は黙ってその事態を見ている。


緊迫した空気が漂い始める。そして……



「――あだっ!?」

「――いてっ!!」

「はいはい。喧嘩はそこまでにしておきましょうね~」



その姿に見合わず、俺と氷精の脳天に拳骨を食らわせたのはアキであった。ニッコリと笑ったまま、しかし俺にはそれが『次はない』と言っているようで思わず身震いする。



「別に喧嘩って訳じゃ……」

「舞風ちゃん?」

「ひぃっ」



怒ったアキは、怖い。経験談である。故に渋々と俺は引き下がってため息をついた。



「アンタ! 痛いじゃないの! あたいを誰だと思ってるの!?」

「氷の妖精ちゃん、かしら? お名前なんて言うの?」

「どうしてあたいが――」

「妖精ちゃん?」

「あ……う……チルノ」



氷精もまた、アキの眼力に押さえ込まれたようである。


しかし、一応俺ってば結界山の主であるはずなのに、どうしてこうも女達に頭が上がらないのか。現代の草食系男子の気持ちを今なら理解できそうな気もしなくもない。















「――で、何がどうなって妖精と昼食を食べることになった訳?」

「ベリー。これだけは言っておく……俺にも分からない」



大量に。そう、それこそ三人では食べきれないような量を持ってきたのは理由は、正直言ってアキの進言である。別に余ったら夜食べればいいじゃない、と特に考えずに了承。全てはこの時のためだったのか。アキってば策士である。



「……いや、でも妖精を餌付けする奴は初めて見た気がするな」



数え切れぬほど無数の妖精達におにぎりを渡していく。そんなにほいほい渡しても大丈夫なのか。主にうちの蓄えとか。


もしかして、こいつ餌付けして山まで連れて帰るつもりか? いやまぁ確かにこの氷精とか傍にいるだけで涼しいし夏とか便利かも知れんけど冬とかきつくね? って言うかさっきは監禁とか飼うとか危なげない言葉を投げかけてきていたのに? いやまさか、大体ここから結界山までかなり距離あるし湖の妖精は力がもたないはずだし――



「――ちょっと。舞風? 聞いているの?」

「――え?」

「まったく、ぼけっとして……チルノちゃんが言いたいことがあるそうですよ」



しまったしまった。すっかり思考の海に浸かっていた。咳払いをして、氷精、チルノに向き直る。少女は高飛車な笑みを見上げ、見下ろすようにこちらを見ている。身長は大体同じくらいなのだが。



「さて、チルノちゃんとやら。俺になにか――」

「アキに免じてアンタをあたいの手下に加えてやるわ。感謝しなさい」



――えーっと。はて、どうしてこうなったのだろう。さっぱり見当がつかないのだが。



「ベリー。俺こういう時どんな顔したらいいか分からないの」

「笑えばいいんじゃない?」

「それが出来れば苦労しねえよドカス」



顔面殴られた。痛い。骨に響く。


さて、そんなことはひとまず置き、アキを見てニコリと笑った。



「お前いったい何言った?」

「あなたが妖精を集めていることと霧がない理由についてですけど?」

「それがどうしてこうなった?」

「さぁ?」



入力、出力の間でどんな文字化け起こしたらこんな言葉が出てくるんだろう。全くを以って訳が分からない。


しかし、ここで「あ、アンタなんかの部下なんてごめんなんだから!」と返すのは簡単であるが、それではあまりにも子供っぽいでは無いだろうか? 俺は万年を越えた、言わば永遠の妖精とも言うべき超長寿なのである。それが子供の言葉をポイなんて、大人気ないとは思わないだろうか?



「ぃよかろうっ。ただし、お前の方が強いと認めたわけでは無いぞ?」

「ふふん。アンタなんかがあたいに勝てる訳ないじゃない。氷づけにされたいの?」

「ほほう。言ったな? この俺に言ったな? いいだろう。その喧嘩買っ――」

「喧嘩を売ってるのは貴方じゃないですか」



頭殴られた。痛い。躊躇がない。一体どういうことだ。















「――お前らも霧がない理由は知らないのかよ。なんなんねん」

「だって、いつもならあるのに今日だけないんだもん」



それを聞いて俺達三人はふむ、と首をかしげた。そうなると原因がまるで俺達にあるようにも聞こえてくるが直接不法投棄やら湖を汚す真似をした覚えは無いし、なにより霧がある方が涼しいだろうに、わざわざ消す理由だって無い。



「……おいベリー。霧は氷精の仕業なんじゃなかったのか?」

「そう、だったと思うんだけど……発生理由は別にあってチルノは操るだけだったのかな……」

「何処情報だそれ。その情報屋を御贔屓ごひいきにするのは今日でやめなさい」



はためく服とカタカタと揺れる剣を押さえつけ、俺はクルクルと回りながら後ろのベリーに視線を向けた。結局、ピクニックの名目は何処へやら。妖精達と平行飛行なんて珍しい体験をしているが一行に霧の消失の原因は不明である。


もしも本当に氷精が霧の発生を促しているので無いならば、元々湖が一帯を覆うほどの霧を出せるという事だ。つまり、問題は湖にあると言うこと。


そうは言っても、原因などそう分かる訳が無い。こうも広大な湖を全て回ることも難しいし、よほど運がよくなければ原因の究明は今日中には不可能だろう。



「しっかし、あのチルノってのも随分だな。能力や妖力に力を持っていかれてる割には普通の妖精並みの知性。まぁ、人間から見れば随分頭は悪いほうだろうけど」

「そうですね。でも妖精はあのくらいが可愛いと思いますけど」

「あの生意気さがなくなってくれればどんな妖精でも可愛く見えるよ。まったく、一介の妖精が妖怪を手下、だなんて聞いた事ないぜ」

「ふふ。でも、満更じゃないんでしょう?」

「……まぁ、な」



こういった存在と触れ合うと、よく昔を思い出す。敵も、身の危険も、今後のことなども、なにも考えずに遊んだ。あの時のこと。


アキとじゃれ付いているチルノは、正に境遇が似ているような気がしている。


基本、妖精は自然に宿る結晶体。大概は花や湖、山などにも存在する。これらは年中存在している。


しかし、チルノ。氷精は寒さに関連する妖精。傍にいるだけで寒さを感じるこれの存在は、普通の妖精との相性はおそらく最悪。


現に、自分達について来る妖精は少数いたが、自分達に――否、チルノに近づく妖精はいなかった。夏のこの暑さに少女の寒気は気持ちよい。しかし順応した妖精にとっては結局は近寄りがたいものなのだ。



「……一人、ね」



思えば、自分が妖怪と仲良くなったときも妖精達には嫌われたものである。その時はまだ自分が妖精だという自覚がなく、近寄ろうと思わなかったことが原因でもあるだろうが。


結局、自分もまた孤立した存在であった。そんな自分が今存在していることすらも……



「……今はいいか。さて、チルノ親分。私達は何処へ向かっているのかね?」

「当然! なんか黒くてもやもやしたところよ!」

「……黒くて?」

「もやもや?」



はて、そんな物はさっぱり見えないのだが。一体どういうことであろう? せいぜい魔法の森と湖の端が見えるくらいであるのだが。



「いや、待てよ? 黒くてもやもや?」

「心当たりでもあるのか?」

「……霧が消えた原因元、かもしれないな。もしかしたらこの湖の妖精だからそう見えているのかもしれない」



それは例えば、穢れとか?


いくら妖精が妖力を扱うとは言っても元の力は自然に起因する。即ち、自然はプラスの存在である。それに裏返し、マイナスに位置するものは『穢れ』と言われるものである。生物が纏ったところでそれほど害がある訳ではないが、起因するプラスとマイナスが混ざるようなことになれば話は別である。



「……それっぽいな。よし、行こうかチルノ親分」

「お前、何気に楽しんでるだろ?」

「バレたか」



まぁ、滅多にない体験だと考えれば何でも意外と楽しい物である。















「――ビンゴ、だな」

「うぇ。妖怪かよ」



湖の端の端。そこにあったもの。それは妖怪の死骸であった。それも一つや二つどころではない。山と呼んでもおかしくないほど妖怪の死骸は重なり合っていた。


なるほど。妖怪は穢れを纏って存在する。更に死と言う概念には穢れが付き物であり、元々穢れを持った妖怪が更に死んで湖に放り込まれたから湖の機能が狂ったと。


それにしても、いくら見慣れているといっても流石に顔はしかめたくなる。ベリーやアキも同じようだ。



「いったい誰がこんなところに不法投棄したのか……性質たちが悪いな」

「……でも、これほどの妖怪を相手取れるってことは並大抵の妖怪ではないはずですね」

「躊躇もないみたいだし、これは説得とか無理そうだよなぁ」



更に言うなら、死骸の外傷に斬られた傷や妖力で穿った傷も無い。恐らく、単純な筋力のみでこれらの妖怪を潰したのだ。そんな妖怪、鬼くらいしか浮かばないものだが……



「なぁ? こっちのほうには何があるんだ?」

「この先? この先にあるのは黄色い花がいっぱいの花畑くらいよ?」

「黄色い花?」



黄色い花、と言うと真っ先に浮かぶのはたんぽぽくらいだが、それが何者かの正体に関係するとも思えなかった。


が、ふとベリーを見てみると額に汗を滲ませて固まっていた。その様子に皆首を傾げる。



「黄色い花って……まさか太陽の畑か!?」

「太陽……向日葵か。知ってるのか?」

「し、知ってるとか以前に、もし予想があたってるなら幻想郷で最も会いたくない妖怪だぞ!?」

「……お前がそこまで言うのか」



普段、幻想郷の情報を仕入れてくるベリーであるが、ここまで妖怪のことで焦っているところも見たことが無い。と、なるとその妖怪を悪い意味で知っているのか。



「フラワーマスターだよ。太陽の畑には近寄るなって人里では当然だぞ?」

「ふらわーますたー……ね。えっ? ダメなの?」



それだけ聞くと普通に花好きな妖怪としか聞こえないのだが、そんなにやばい存在なのだろうか?



「……花が好きだからこそ、それを傷つける奴らには一切躊躇が無いんだ。分かるだろ?」

「へぇー、なら花に手を出さなきゃいいだけじゃん。よし、チルノ親分。太陽の畑に行ってみないかい?」

「いいわね。行くわよ手下一号!」

「あれ? 俺一号? せめて名前で呼んで欲しいのだけど?」

「待っ、やばいんだって! 別にこれで妖怪達が花を荒らすこともないだろうし、行く必要なんて無いって!!」



チルノが楽しそうに飛んでいく背後でベリーが心底嫌そうに声を荒げる。


まぁ、正直そんなことはどうでもいいのである。



「甘いな。俺はただ、向日葵が見たいだけだ!!」

「胸張って言うことじゃねえ! お前は死なないだろうけど俺とアキは死ぬんだよ! そこんとこ分かってるのか」

「大丈夫。アキなら、アキならきっとなんとかしてくれるっ!!」

「人任せ!? お前が頑張れよ! アキはそれでいいのかよ!?」

「ふふふ。私はふらわーますたーにも興味があるし、ひまわりも見てみたいですから」

「もうやだこいつら! 命知らずってレベルじゃない!!」



そんなことを言いながらも、結局着いて来るのである。















――チルノの言う、黄色い花畑はそこからそう遠くない場所に存在していた。



「――おおぅ!」



それは思わず声を漏らしてしまうほどの絶景。一面黄色によって満たされた花畑。自然の結晶。


今まで見たことも無いほど広大で美しい世界がそこに存在していた。



「なんだなんだなんですかぁ!? フラワーマスターってのがこれを作ったのか!? だとしたらすっげぇじゃん! いやぁ、最高の花見だぞこれは。なぁチルノ?」

「そうね。満開ね!!」

「何言ってっかわけわかんねーけどいーや。うぉ、これはいい向日葵。やっぱ夏に映えるよな~」



まぁ何処も彼処も向日葵だらけなのだが。よくもまぁ一妖怪がこれほどのモノを作り上げたものである。それを含め、俺の中で未だ出会わぬフラワーマスターの株はぐんぐん上昇中だ。



「……はぁ。留守なのか? いや、そうだったらそれで安心できるんだけど……」

「ベリーちゃん。今はこの綺麗な花を見なさいな。これほどのものは滅多に見られませんよ」

「でももしもフラワーマスターに気付かれたりしたら……」

「もしもも何も無いの。そうなったらその時に考えましょう。大丈夫よ。これほどの花畑を作り上げる人に悪い人はいません」



正確には妖怪だけどな。アキの言葉に心中でそう付け足し再び視線を向日葵に移す。アキの言葉もあながち間違っている訳でも無いだろう。何であれ、何かに愛情を向けられる存在なれば何も考えず暴虐を尽くす者とは似ても似つかない。



「ふむふむ。しかし、今生で向日葵を見るのは久しぶり……いや初めてか?」



旅の最中に向日葵を見かけることなど一度もなかった。それ故に、また新鮮に見えるのだが……



「――まぁいいか。ピクニックするならここにすればよかったな」



この花畑を見ながら食べる弁当は最高だろうに。そう考えると少し惜しくなった。



「……おい。舞風。ここに来た理由を忘れてないか?」

「えっ? いやだから向日葵を」

「そうじゃなくて! 湖に捨てられた妖怪のことだよ!」

「……ああ! そうだったそうだった。向日葵に夢中で忘れてた。そうだな。これほどの花畑を作る妖怪に会ってみたい――」

「だ、か、らっ!! そうじゃなくて、さっさと逃げようぜ!!」



逃げる? 何故?


そう口にも出さず表情と首を傾げることで表現するとベリーが頭を抱えながら悶絶した。こいつ昼間に悪い門でも食べたんじゃないだろうか?



「やめろ! その哀れんだ目をやめろ!! 分かれよ! どうしてこんなに綺麗なのに人間どころか妖怪一匹もいないのかくらい!!」

「なんだ。まだフラワーマスターが怖いのか? 大丈夫だって。大抵の妖怪は紳士な態度で対応すればなせるもんだぜ?」

「今回は規格外なんだよ! フラワーマスターはな。八雲紫と肩を並べるほどの大妖怪で、ホントの怪物で戦闘狂なんだよ! こんなところにいたら命がいくつ在っても足りないぞ!!」






「――へぇ。『怪物』で『戦闘狂』、ね」




ビクリ、とベリーの体が震えた。声はすぐ近くから聞こえた。気配など何もない、いや、ほとんど・・・・ない。


まるで道を作るかのように向日葵たちは分かれ、礼をするかのように首を折った。現れたのは、緑髪の女性。赤のチェックと言うシンプルながら品のある服、その手の日傘をクルクルと回し、何処か寒気がする笑みを浮かべている。隣のベリーの顔が目に見えるほどに蒼白になっていた。



「さて、聞こうかしら。貴方達は迷い込んだ人間? それとも――昨日の妖怪のようにこの畑を荒らそうとするお馬鹿さんかしら?」



瞬間、女性の体から噴出したのは威圧感、妖気、殺気に敵意。ありとあらゆる敵対感情が同時に発せられた。


それの凄まじきこと。単純な力だけでは紫と同等。さて、まさかこれほどのものとは思いもしなかった。隣のベリーは完全に圧倒されて今にも膝をつきそうである。



「……これはこれは申し送れた。俺は舞風。辺境の山の主だ。立派な向日葵畑があると聞いて是非見てみたくてな。そちらの機嫌を害したなら謝ろう」

「……へぇ。あなたが主。てっきりそこの女かと思ったのだけど」



そう言ってが睨んだのは俺とベリーの背後で穏やかな笑みを浮かべていたアキであった。


それをどう思ったか、クスリと笑って女性を見返す。



「とんでもないですわ。私は舞風と共にあるだけの妖怪ですもの。彼あっての私ですわ」

「そう……自分より力の弱い存在につく。酔狂な妖怪もいたものね」



そう言うと再びこちらに視線を戻す。いつの間にかベリーが俺の裾を握り締めている。もう少しで泣きそうである。



「それで、本当の用件はなにかしら? 辺境の山の主さん?」

「……一応。嘘でも無いんだが、まぁ話が早くていいか。湖に妖怪の死骸を捨てたのは、お前か?」



それを聞くとなにやら驚いたように僅かに目を剥いた。しかしそれも一瞬のこと。先程までのような笑みを浮かべ、こちらを見下ろした。



「ええ、確かにそれは私よ。でも、それが貴方達に何の関係があるのかしら?」

「妖怪の穢れが湖に移って不調をきたしたんだ。おかげで霧の湖は只の湖だよ」

「そう……そういうことなら仕方ないわね」



そう言うとニッコリと満面の笑みを浮かべた。敵意や殺気も水が引くように消えていく。


やはり、話せば分かるのだ。こういう存在だからこそまともに話せば活路が開けるのだ。紫や伊吹に比べれば数倍マシ――



「ちょっと舞風。手下の分際で何勝手に言ってるのよ!」



今まで会話に混じることもなかったチルノの声。しかしその姿は見当たらない。辺りを見回してみると、空。向日葵の畑の上にぷかぷかと浮かんでいた。



「――そうそう。聞き忘れてたわ。あのうるさいな氷精を連れて来たのは、貴方?」

「妖精はいつだって気まぐれに、思ったままに行動するもの。きっかけはあったかもしれないけどね」

「へぇ、まぁいいわ。それで、他に用は無いのかしら?」

「後はのんびり向日葵眺めるだけさ。それ以外にすることは無い」

「そう――それじゃあ、散々そちらの言葉を聞いたのだから、一つくらい私の頼みを聞いてくれても、いいわよね?」



背筋が冷えた。まるで穴を覗いたら、そこにおぞましくて言葉に出来ないような怪物がいたような、そんな感覚が。


その赤い目が、楽しげに、しかし興味は別に、俺の目を捉えていた。



「……用件による、ね」

「簡単よ。少しだけ、そこの妖怪を借してもらえないかしら?」



視線はずれ、真っ直ぐアキへと注がれる。その目には喜び、なるほど。ベリーが言っていた戦闘狂はこれか。



「本人に聞いてくれ。アキが俺に着いて来ているのだとしても、俺の所有物って訳じゃないんだ」

「そう。それじゃあ、少しお相手願えるかしら? 私の名は風見幽香。この辺り一帯の主」



女性、風見幽香は口元をゆがめアキを見る。その視線はまるで楽しそうである。対するアキも涼しげな笑みを崩してはいない。今にも背景的にゴゴゴゴゴゴゴゴッ、なんて音が聞こえてきそうである。


そして――





「――お断りしますわ」





見事に、その空気が崩壊した。


流石アキと言うべきか。風見の方も表情こそ笑みを浮かべているが何処かポカンとしているようにも見える。それも仕方の無いことか。



「どうしてかしら? 貴女ほどの力の持ち主が逃げたとは思いたくないのだけれど?」

「理由なんて、舞風と同じですわ。この花を、貴女の作った世界が綺麗だから、見ていたい。ただそれだけ」

「――そう。仕方が無いわね。今回は諦めるわ」



幽香は残念そうに、しかし何処か嬉しそうに目を閉じた。個人的にはどっちに転んでも面白そうだったのだが、やはり平和が一番か。



「ホント。綺麗だ。皆に見せてやりたいくらい――」















「――さて、そろそろお暇しようかな」

「そうね。チルノちゃんを送り届けなきゃいけないし」



日は西の空に浮かび、幻想郷を照らす。向日葵もまた、それを追いかける。


向日葵を満喫しきって気付けば風見の姿はなかった。無害と感じて興味をなくしたか、それもまぁいいだろう。どうせまた来るつもりだし。


ベリーが聞いたら悲鳴を上げそうなことを心中で呟き、氷精の姿を探す。太陽の畑の上でぷかぷかと。少女はまるで子供のように丸まって眠りについていた。遊び疲れたのだろう、こういうところは普通の子供のようだと思わず笑みが零れた。



「おーい。チルノ親分? ほれほれ」



頬っぺたをつんつんと突っつく。ひんやりと冷たく、柔らかくて気持ちいい。まるで子供の肌である。


しかしうーん、と身じろぎはしようと起きる気配はなく、背中におぶる。流石氷精。背中一面が冷えるかのようだ。非常によい氷嚢になりそうである。



「……ま、たまにはこんな子供の相手も悪くはないか」



眠りこけるその顔を見て、何処か懐かしいような気持ちになる。それがなんなのかは分からなかったが、俺にはこういった存在と馬鹿騒ぎする方が合っているのかもしれない。


アキが口元に指を当てる。見ればベリーもまた子供のように眠りについていた。風見との遭遇が心を抉ったのか、何処かうんうんと悪夢を見ているようである。悪戯気な笑みを浮かべながらアキはそれを背負った。



「――――あったかい」



声は後ろから聞こえてきた。チルノはくすぐったそうに俺の肩に頭を乗せる。その冷たい髪が俺の頬を撫でた。


それにアキと顔を合わせ、苦笑いをすると霧の湖へと飛んだ。



――まぁ、たまにはこうやって手下ごっこに付き合ってやるのも悪くは無いだろう。















☆〇☆☆〇☆















「――聞いてもいいですか?」


「何をだ?」


「結界を解けない理由。ベリーちゃんに本当の事を言わなかったのは何故?」


「……言う必要は無いと思った。その時が来たらベリーには山から出てもらうから」


「そう。では内緒にするんですか? 結界山の『本当』の封印の意味を」


「時が来れば、自ずとばれるさ。どうせ……」









世界は巡る。


幻想の世界であろうと。楽園であろうと。


希望の里が、そうであったように――






ど う し て こ う な っ た 。


作成当初はチルノと舞風が盛大に馬鹿ぶりを起こす予定だったのに、いつの間にかゆうかりん登場。そうなるとチルノが発端で舞風VSゆうかりんが起こるはずが


ど う し て こ う な っ た。


そもそもチルノは向日葵に近づいても大丈夫なのだろうか? と言う設定が気になった。触れるだけで凍傷なんだから傍にいられるだけでゆうかりん怒りそうなのだが。


あと、口が滑ったベリーさん。お仕置きされなかったのは子供だと思われたから。舞風も同義。彼女にとってはアキが格好の標的に見えた。しかし紳士。断られたならば仕方なく。しかも自分の鼻まで引き合いに出されたから引くしかなかった。



さてさて、次週。作者は留年しないでいられているのか!?


どうでもいい? あ、そうですか……


まぁ、頑張って書きましょう。

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