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東方大精霊  作者: ティーレ
2.ソレハ空白ノ時ヲ経テ再ビ現世ニ舞イ戻リ
36/55

魔女と人里


慌ててでかしました。しかし遅刻。前書きすらも簡略化。


ここに来て何故かベリーの髪色の設定が執筆されていなかったことに気付いた。あばばばに陥り、急遽元ネタの『金髪』を入力。できればアリス、魔理沙と被るから使いたくなかったんだけど、やっぱり印象が金。


急いででかしたので誤字とか微妙にあると思います。あったらご指摘お願いいたします。



今回はややシリアス中心です。




「――そうか。君も最近ここに来たのか」

「君も。と言う事は慧音さんも?」

「慧音でいい。私も外で放浪の旅をしていたが、それに限界を感じてな。ここに至ったんだ」



慧音さん――もとい慧音はやや苦笑いをしながら頭をさすっていた。会った時は正直驚いたが、話してるとやはり常識人。落ち着いた会話が出来る。アキとはまた違った感覚だ。


こうして会ったのもなにかの縁。近くにあった甘味屋に再び入り、団子を頼む。またとかは言わないで欲しい。さっきとは別の店だから大丈夫。



「さて、君はウェリーベルだったか?」

「……ベリーウェルだよ。覚えにくいならベリーとでも呼んでくれればいい」

「そ、そうか。すまない。ベリーは人里に住んでいるのか?」

「いや、知り合いと山に暮らしているよ。流石に人外の身でここに住むのは風当たりが悪そうだからな」



実際、万が一にでも人間に攻め込まれようものなら俺は勝てないだろう。自分の未熟は承知だし、身体的な能力は人間と変わらないのでナイフを心臓辺りに突き立てられれば死ぬ。そんな俺が、人間と共に生きるなんて不安でしかない。


そういった意味では今回の訪問も危険ではあったのだが……



「まぁ、見た目は人間だからなんてことなく溶け込めるかなって思ったんだけど、自分で明かしちゃ意味無いよなぁ」

「……計算あってのことじゃなかったのか?」

「いや……実はついカッとなって」



慧音の呆れた目が突き刺さる。地味に痛い。それを苦笑いでやり過ごし、手元の団子に手を伸ばす。


それにしても、帽子一つ無いだけで分からない物である。もし見かけたら見分けられないことは無いと思い込んでいたのだが。



「――ベリー。尋ねたことがあるのだが、いいだろうか?」

「聞きたいこと? まぁ俺が答えられることなら」



慧音が突然笑みを消し、見るからに真面目な表情となる。それにやや驚きながらも出来るだけ自然に受ける。


幻想郷の歴史が分かるはずの慧音がわざわざ質問などをする真意が分からなかったが、もしかしたらまだそれほどまでの力をつけていないのかもしれないと無理矢理納得し、耳を傾けた。



「なに、二人ほど探している者がいてな。見覚えか聞き覚えが無いか知りたいだけだ」

「探し人? どんな奴なんだ?」

「片方は白髪の妖怪退治屋の少女なんだが。見たことは無いか?」

「白髪の妖怪退治屋……」



知ってるかと聞かれたなら知っていると答えられるが、見たことがあるかと聞かれたなら俺は無い。会ったことが無いのだから。予想があっているならば、その少女は迷いの竹林にいるのではないだろうか。


先程、舞風と共に甘味処にいた時、里の人間が言っていた妖怪退治屋の噂。正体が不明、と言う事は人里の者では無い。つまり人里にはいられない妖怪退治屋なのか、それとも噂に過ぎないのか。



「……白髪で少女なのか分からないけど、迷いの竹林に妖怪退治屋が現れるって噂はあるな。それもついさっき聞いたことだから信憑性に欠けるが……」

「いや、それだけでも十分だ。ありがとう。それで二人目なんだが……」



はて、俺の記憶に違いがなければ上白沢慧音に二人目の知り合いなどいない筈なのだが……


そんな事を思いながら、先程よりは随分朗らかにその口を開いた。



「君は、『大精霊』の名前に聞き覚えは?」

「『大精霊』? なんだそれ?」



それは今までに聞いた事のない名。大妖精ならば知っていなくも無いが、大『精霊』と来たものか。



「大妖精じゃなくて?」

「いや、大精霊だ。もしもまだ生きているなら幻想郷にいると思ったのだが……すまない。忘れてくれ」



尻つぼみになるようにその声は小さくなる。それには何処か諦めを感じさせられた。彼女にとってはもしくは重要なことであったことなのかもしれない。


自分が知っているのはあくまで『東方project』。上白沢慧音と言う存在の過去を全て知っている訳ではないのだから。



「悪いな。力になれなくて」

「いや、十分だよ。大精霊については半ば諦めてもいたからな。妖怪退治屋の情報だけでも得られたならそれで」

「……そうか。会えたらいいな」



その言葉に顔を俯かせ、その目を閉じる。一体何を思っているのか。それを知ることも叶わないが、やがて再び顔を持ち上げたときはその目から曇りは消えていた。



「――ああ。そうだな。ありがとう。ベリー」















☆〇☆☆〇☆















「――ありがとうございました。八雲舞風様」

「様、なんてくすぐったいだけだ。さんでいいよ」

「そう、ですか? では、舞風さん」



種族、能力、住処、考え方、その他諸々。聞くだけ聞かれ、ようやくお暇できる。種族や能力については多少暈したが、その方がいいだろう。住処だって名だけ。辺境だから人間が足を踏み入れることも無いだろう。



「――ふぅ」

「大変そうだな。それらを一人で編集するのか」

「えぇ、まぁ。生まれたその時からやっていますから、もう慣れたものですが。しかし、そうですね。もう一人博識な方の手を借りたいとは思います。ですが……」

「……あぁ。人間は通常寿命が短いからな。手伝いもまた数十年で死んでしまうか」



こちらのことを教えるついでに阿礼乙女の事も僅かながら教えてもらった。彼女の一族は短い寿命と言う代償の変わりに同じ魂での転生が閻魔によって許可されているらしい。それはつまり、同じ魂に刻まれた力。つまり能力を継いで生まれることができると言うことだ。それが何かは聞かないで置いたが、通常通り寿命を迎える辺り過去に出会った人間ほどの力ではないのだろう。


立て続けに出会ったとんでもない力を持った人間達。やはりあれらは例外と言うことだろう。



「はい。私自身言えた口ではありませんが人間の寿命は短いですから。寿命の長い、貴方の様に無害な存在がいてくれたなら……」

「無害な妖怪か……それは難しいかもしれないな。危険もある」



妖怪にとって、いや幻想郷に住む人外にとって幻想郷縁起はその詳細を書き記した物。つまり、行動範囲や対処法もそれにまた記されている。それが公になると言うことは妖怪が人間を襲うことが困難になることを意味している。


それの作者の傍に妖怪を持ってきて、襲う理由を尋ねるのも馬鹿馬鹿しいだろう。


そもそも、この幻想郷はいくら人妖が共存していると言っても、結局は人が妖怪を恐れる構図が出来てしまっている。妖怪にとっては恐れられてこそなので当然だ。故に、里の外ならば人が襲われるのもまた仕方ないと言うことになるだろう。


それをわざわざ、対処法を教えるなど。妖怪の反気を高める理由にはならないだろうか?



――と、これは自分の勝手な言葉であるが、いつしか綻びが出来るだろう。間違いなく。



それを分かった上でやっているのか。確かに昔もこうだったのだろう。妖怪の対処法を書物に記し。それを今尚続けるのか。


……まぁ、自分には関係ないが。



「ところで、ご迷惑でなければこれから共に昼食でもどうですか? 舞風さん」

「ん? ああ、別にいいが……どうしてだ?」

「いえ、深い理由は無いのですが……すぐに用意させますね」



……なんだと言うのだろうか。どういう訳か嬉しそうに女中を呼びあれやこれやと注文を言っている。別に俺は食わなくても問題ないからそんなに注文いらない。食後のデザートもいらない。



「――はい。それでお願いしますね。準備が出来たら教えてください」

「かしこまりました」



そう言って扉の奥に消えてゆく。それの何が嬉しいのか。再び元の場所に腰を下ろし、ニコニコと笑う。



「……なにがそんなにおかしいんだ?」

「いえっ、そんなおかしいだなんてっ! 私自身、実は八雲様以外の妖怪の方と接するのは初めてなんです。なので、その……」

「ふーん。そうか」



それにしてはなんと言うか、妙に嬉しそうと言うか。逆に不自然に見えてしまうほど。


少女はクスリと笑う。何を想っているのか、悪戯っぽく。



「それに、こうして会えた妖怪がこんなにも優しいお方でとても嬉しいんです」

「おい。お前妖怪をなんかいろいろと勘違いして無いか?」

「そんなことありません。古今東西、可愛いは正義と言う言葉がありまして」

「……要するに?」

「貴方のような可愛い妖怪が悪い妖怪な訳ありません」



……喜ぶべきやら、悲しむべきやら。そもそもそんな言葉初めて聞いたのだが。そうか、俺はカッコいいではなく可愛いにカテゴリされるのか。へこむ。まぁいいさ。封印さえ解けば俺だって……



「そろそろ準備も出来たはずですし、行きましょう」

「偉く早いなっと」



腰を持ち上げ、大きく伸びをする。ずっと同じ体勢だから固まってしまったようだ。



「……で、この手はなに?」



気付けばこちらに伸ばされた少女の手。並んで気付いたが僅かに少女の方が身長が高いようだ。そんなことより、この手はなんなのか。


少女はなにやら疑問そうに首を傾げる。それはそっちの顔だろ、と思わず零す。



「だから、行きましょう?」

「お前は俺の母ちゃんか? いや寧ろ俺は子供か?」



自信満々にはいと返事する。そこはかとなく傷ついた。まるで姉が弟に接するかのように対応してくる。



――いや、待てよ。



少女が言うに、稗田という一族は代々転生を繰り返す者であるらしい。では、転生とは? そもそも短い寿命とは? そんな例外的存在がまともに死に、まともに生まれることが出来ているのか?


答えは、否。そもそも幻想郷縁起と言う、人里の者全ての為の書物を書くためだけに存在しているような少女に、人並み以上の生活が出来ると? 否である。特異な力を持って生まれた少女が、得意な再生を繰り返す。すでに五代も続いているサイクル。



では、家族は? 母は? 父は? 兄弟は? 祖父母は?


いない。いる訳が無い。彼女以下、全ての阿礼乙女は皆彼女自身なのだから。


友人は? 知人は? 遊び相手や話し相手は?


いない。何故なら彼女は幻想郷縁起の為にいるのだから。


気にかけていてくれたものもいただろう。友人になってくれた者も、過去にはいたのかもしれない。しかし、時間の流れが違う。妖怪とは逆、寿命が短いからこそ、本当の意味で彼女は心を開くことが出来ない。嫉妬すらあるのかもしれない。


本来なら、俺も嫉妬される対象になるのかもしれない。羨み、泣き言を言われる立場なのかもしれない。


だが、こうして話した事で分かったのだろう。恐らくそれは安心感。紫にでも抱くであろう。人で無いからこそ出来る安堵が。



――しかし、これではまるで。



「――ああ。行こうか」



考えを捨てる。待たせるのも失礼。己は手を出し、引かれるだけでいいのだから。少女の笑顔が輝いた。まるで壊れ物を扱うかのように丁寧に、その手を握り締めた。















☆〇☆☆〇☆















「――マジでか?」

「ああ。どちらにせよ、未だ妖怪が人里に住むことは許容されていないようだし」

「だからってなぁ……」



慧音が突然。しばらくの間住まわせて欲しい、と頼んできた。それについては驚きながらも納得があった。未来の幻想郷がどうなのかは知らないが、この里に住むのは本当に・・・人間だけなのだ。妖怪は皆外から来た物。


一人住んでも居心地が悪かろう。それどころか刃を突きつけられて追い出される危険性もあるのかもしれない。



「……無理か?」

「いや、無理じゃあないと、家だって一応スペースはあるし……」



つい最近出来たマイホーム。舞風の協力の下、こちらの要望どおりに魔術で組んだのだ。材料こそ手間はかかったが、作るのは数分ですんだ。


結界山の中だから一応舞風の許可が必要だろうけど、アイツがそんな事を断る奴とも思えない。



「まぁ、どうしてもダメならなんとか野宿をするが」

「お、おいおい。幻想郷で野宿なんてしたらそれこそどうなるか分からないぞ。今は人間なんだろ? 別に迷惑じゃないし、一応世帯主の許可はもらうけど。」

「世帯主?」

「俺が住んでる山ってそいつのなんだよ。結界を張って妖怪が入って来れないようにしてるんだと」

「それは凄いな。山一つ覆う結界を張るのか」

「本人が言うには朝飯前らしいよ」



まぁ、封を操る程度の能力だしな。と心の中で呟く。舞風は八雲紫の能力を反則とか言ったりするが、正直言ってあれも随分反則である。


攻撃能力こそ確かに高くないが、防衛能力は遥かに高い。やろうと思えば一人で要塞化とか出来るんじゃないだろうか?



「……ふむ。それほどの大妖ならば一度会ってみたいな」

「大妖って言うか、本人はそんな自覚無いみたいだけどな」



基本、妖怪と言うのは歳をとればとるほど行動範囲は狭まるもの。そのはずが、気付けば家にはいないし、数年前までは外で放浪までしていたほどだ。カリスマとか威厳とか、そんな物も無い。


――ただ、時折見せるその表情は、確かに長い時間を生きていることを気付かせる。



「た、大変だ!!」



と、思考に意識を埋めていると唐突に響いた大きな声。ふとそちらへ意識を向けるとまだ若い男が肩で息をしながら人々の視線を集めていた。


何かあったのだろうか?



「も、門の前で遊んでいた子供達がっ、妖怪たちに攫われて――」



辺りからはどよめき。合間には悲鳴。慧音の目が微かに鋭くなった。


そう言えば、男は門の前で番兵をやっていた奴だと思い出す。何処か気の弱そうな、頼りにならなそうな。



「……慧音」

「このタイミングだ。恐らく、さっきの奴だろうな」



先程、追い払った妖怪。それの顔が浮かんだ。もしその予測が当たっているのなら、よほどアイツは短気なのか、無駄にプライドが高いのか。どちらにせよ、人里の者に手を出した。


恐らく、『門の外だから』などと言う言い訳を重ねるのだろう。確かに、それに関しては正しいだろうが、少なくともただではすまないだろう。



「――すまないが。その妖怪はどちらに逃げた」



視線が集まったのは慧音。その目は真っ直ぐ、男を見る。睨むと言っても過言ではなかったかもしれない。



「ま、魔法の森の方に」

「……魔法の森か」



人里からはそれほど離れていない位置にあるはずだ。一度だけアキと共にその上空を飛んだ記憶がある。


こちらを見た慧音に一度頷き、慧音と共に里の出口へと向かう。



「あ、あんたら。何処に行こうってんだ」

「無論。子供達の下へ」



男の言葉に間髪入れずに答え、歩みを進める。今はそれに構うほどの余裕も無いだろう。


ただ黙って、こちらを見送る人間達は気悪そうに俯き、目が合った傍から反らされる。とんでもなく気概がないものである。
















本来なら、助ける義務も義理も無い。


人妖の関係の悪化を防ぐため、と言うのも確かにあった。だが、自分を動かすのはそうではないのだ。


多分、人が妖怪に食われると聞いても、今なら未だ納得できるだろう。人間を捨て、魔女になってしまったからこそ、摂理と知るだろう。だが、これは違うだろう。


門の前で遊んでいた子供を攫うような、卑劣な行為なんて、幻想郷には似合わない。自分勝手な意見は承知。妖怪の心持など無視していることも承知。



――だが、ここは幻想郷なのだ。自分が憧れた・・・・・・幻想郷なのだ。



納得できないなら捻じ曲げる。それくらい、いいだろう。俺だって、魔女の端くれなのだから。




「慧音。分かるか?」

「……ああ。微かだが妖気の跡がある。追跡は可能だ。だが……」

「少し、違和感を感じるな。罠なのか?」



本来なら妖気の疎い俺でさえ言われれば分かるほど残された妖気。慧音は微かと言ったが、常に微量の妖気しか発しない舞風がわざと散らすよりも多い。


正直、罠か、それとも誘っているかにしか思えない。



「危険……だけど」

「行かねばな。君は後ろについていてくれ。私が前に立つ」



深い森を慧音が先導し、それについて進んでいく。感じられた妖気は一つではない。恐らく複数体の仕業。しかし、もたもたしていては結果は見えてくる。


いや、そもそも今既に希望に縋っている状態なのだ。攫われた子供たちが既に妖怪の腹の中であるということをどうして否定できる?



「……最悪の場合は、これしかないか」



懐に仕込んだ三枚のカードを確認し、そのうちの一枚を握り締めていく。指に当たる硬さが僅かながらに体に現実味を与えてくれる。


数分、歩き続けて唐突に慧音が足を止める。それと同時に聞こえた微かな声。それは子供のもの。身長に歩みを進めていく。先程よりも更に姿勢を低くし、近づいていく。



「――離せ! 妖怪っ!」

「けっ、威勢だけはいいガキだ。そんなに焦らずともあの女共が来たら一人残さず食ってやるよ」



聞こえた二つの声はどちらも聞き覚えがあるか。やはり、と言う思いが頭に巡った。低い姿勢のまま、草むらからそちらをうかがった。


紐で足を縛られ、転がされている子供が五人。その傍らにいるのは村で見かけた妖獣。腕には何も拘束が無いのは余裕の表れなのか。


慧音と目を合わせる。一応最低限の作戦としては俺が魔法で援護をしているうちに子供達を確保、後に殲滅と言う物が上げられていた。互いが互いを知らないのだから仕方ない。






「――まぁ、もう来てるみたいだけどなぁ」

「――!!」




妖獣がこちらを睨む。目こそ合わなかったが、確かにこちらの茂みを見る。直後、頭上で激しい金属音。



「くっ、気付かれていたか!」



慧音が、頭上から突如現れた妖怪の凶刃を防いでくれていた。その主もまた妖怪。慧音の剣と妖怪の爪とがしのぎを削るように交差し、やがてそれを弾く。


直後、俺は懐に手を伸ばしていた。それは使い慣れた。いつもの手札。



「魔符『アウターウィッチ』!!」



宣言と同時にカードに埋め込まれた魔法媒体が機動。偽・スペルカードは今や魔力を使ってしか発動の出来ない言わば劣化版。それでも、舞風の力あって様々な問題は解消できた。



その一に、魔力の消費を大きく抑えることが出来るようになった。一日ならば三度まで使える。


その二に、砲弾の数は三つではない。五つだ。



「ぶちかませっ!!」



魔力砲台から放たれた魔力弾は妖怪の体を穿ち、削る。断末魔を上げることも出来ぬまま、妖怪は息絶えた。


もう一方、子供達の傍にいる妖獣に二つ砲台を送る。自動では敵味方を認識できないがために、どうしても操作に余裕が無い。



「慧音!」

「分かった!!」



同時に走り始める慧音。足の向く先は子供達へ。それを妨害しようと立つ妖怪を砲台が狙う。小さく舌を打つ音が聞こえ、その場を弾かれたように退いた。


俺もまた、慧音の背を追うように走る。俺を囲うように回転する砲台があくまで妖怪を狙う。そして、子供達の元に到達した慧音がそれらを守るように背に庇う。形勢逆転である。


と言うのに、その顔から苦渋のものは感じられなかった。それどころか何処か小ばかにした風もある。



「…………結局、罠かよ」



今の今まで隠れていたのか、まるで何かに誘われるかのように妖怪たちが現れる。風体は様々。どれもが異形。知能など欠片も感じられそうに無い怪物共。


無論、狙われているのは妖獣ではない。人間である子供達や人の因子を持った自分達。ふと見れば、子供達は皆小さく分かりにくい傷を負っていることに気付く。この妖怪たちはこの微かな血の匂いに誘われてきたのだろう。



「ぎゃははは!! バーカ。まんまと引っかかりやがって。お前ら揃って餌になっちまいな。余ったら俺も食ってやるよ」



その妖獣の言葉に耳を貸す余裕も無い。じりじりと迫ってくる。飛んで逃げる、と言う案が浮かんだが、手が足りない。子供達を置き去りにすることになってしまう。


ふと、慧音を見る。その足元にしがみつく子供達は皆震えていた。あの、妙に威勢のいい小僧もまた。


慧音もまた、難しい顔をしていた。必死に策を見つけ出そうとしていた。


そして、唐突にハッとする。真っ直ぐにこちらを見る。



「ベリー。ほんの少しでいい。時間を稼いでくれないか?」

「策があるのか?」

「策なんてものじゃないただの博打だ。しかし、頼る背がこれしかない。私達ではこの数を相手にするのは不可能だ」



慧音がそういうのなら。信じるしか無いだろう。彼女はこんなところで死ぬ存在ではない。ならばこそ、彼女の最後の手段に賭ける。



刹那、血に餓えた妖怪妖怪たちが一斉に動き出す。考える余裕すらも無い。俺は懐に手を伸ばし、二枚目のカードを掴み取る。



「『魔風まふう』っ!!」



それはあくまでスペルカードルールという物のためにのみ作り上げたカード。それの真意は撃破ではなく、防衛。カードを掲げ、強く宣言する。



「『ミラクルタービュランス』ッ!!」



引き金は引かれ、カードの術式が具現、発現を起こす。瞬間、自分達を囲むように現れる数え切れない程の妖力弾。それは絶え間なく増え続け、そして。



「発動ッ!!」



直後、回転を始める。ゆっくりと、しかし段々と早くなる。僅かに存在する隙間は妖怪が通れるほど大きくない。飛び掛ってきた妖怪は瞬く間に体を削られ、または弾かれて大地に落ちる。



自分が作り上げた二枚目のカード、魔風『ミラクルタービュランス』。目的は防衛。自らに迫る敵から己を守ること。発案は舞風。封を操る能力があるからこそ浮かんだ守るためのスペル。



「しっかし、結構魔力を食われたな」



消耗量は普段ならこれ一つでバテるほど。既に一枚使っていた事もあり、かなり来ている。


集中を途切れさせないように慧音を見れば、彼女はその手に何かを握り締めながら目を閉じていた。額を滲ませながらも彼女は一心に何かをしている。



「っく、そ。あっさりばれやがった」



思わず額に汗を滲ませる。それらが知能のほとんどない妖怪だからこそもう少し気付かれるのは遅れてほしかった。ついさっきまでガンガンとぶつかっては跳ね返されを繰り返していた妖怪たちは今は黙ってこちらを見ている。


この魔法はあくまで防衛目的。攻めに転じることが出来ない。故に、刻まれたパターンはただ延々と回り続けるだけ。俺が動けば別だが、基本同じところしか回れないのだ。故に、時間が経ってこちらの体力が切れれば、こちらの負け。本当の意味で未だ時間稼ぎにしか使えない。未完成のスペルなのだ。



「~~っ! まだなのか慧音っ!!」



振り向く。その時の俺の顔は焦りに満ちていただろう。しかし、彼女の顔は凛として、何かを、もしくは誰かを信じて疑わなかった。


そして――





「――――来る」






直後、天に昇るほどの巨大な火柱が立ち上がる。



「……は?」



あまりの出来事に、思わず呆けた。今の今までそこに鎮座していた妖怪共が空を飛び、焼かれ、一瞬で墨となって落ちてきた。


集中が切れてスペル、ミラクルタービュランスは終わる。しかし、何も動かない。誰も動けない。その場における絶対強者は突如舞い降りた。



「おーおー。雑魚妖怪がうじゃうじゃと徒党を組んで。女子供を襲ってるの?」



――それは白い、綺麗な髪をしていた。



「本当なら無視するところだけど、手を出した相手が悪かったわね」



――背から生えるは焔の双翼。



「ま、なるべく苦しまずに殺してあげる。早いところ切り上げて友人と再会の祝杯を上げたいもの」



――舞い降りて、圧倒的威圧感を撒き散らす少女。



「さぁ、不死の炎に焼かれたいのは、前に出な」



――蓬莱の人の形。















それからの戦いは圧倒的過ぎた。突如現れた少女に指一本触れることも侭ならないまま、妖怪達は焼かれていく。灰すらも残されることなく。


呆けて見ていた事を責められることもないだろう。強いだけではなく、その炎は純粋に美しい。強く燃え、川の流れのように時に静かに、時に激しく燃え盛る。



「そ、んなばかな」



気付けば残りはあの妖獣だけになっていた。全てが燃やされたかその前に逃げた。ただ唯一、勝利を確信して止まなかったそれだけが取り残された。



「後はアンタだけみたいね。時間が勿体無いから。もう殺すけど、遺言とかある?」

「ま、待ってくれ! もう人里の子供を攫ったりしないから、見逃してくれよ!!」



少女は首を傾げる。事情を知らないのだ。彼女は慧音のSOSに答えただけなのだろうから。



「ふぅん。通りで。私は別に人里を襲うとか襲ったとか。そういうのは割りとどうでもいいのよ」

「じゃ、じゃあ」

「うん。そうだね」



ニコリともせず、少女は妖怪に向き直ると、その口を開いた。





「めんどくさいからもう殺すわ」

「へっ……?」





直後、特大の火焔が妖怪を飲み込んだ。悲鳴も断末魔も上げず、まるで他の妖怪と同じように、それもまた灰となって消えた。



「さて、と」



少女はこちらを振り向き。第一に俺を睨んだ。冷や汗が頬を伝う。



「で、アンタは何? 人間じゃないみたいだけど」

「俺は、魔女、だ」

「魔女? 魔力の専門ね。慧音、知り合い?」

「ああ、彼女がいなかったらお前が来る前に死ぬところだったよ」

「いきなり慧音の気配がこの辺りにあふれ出すから飛んできたわよ。久しぶり」



少女が笑顔をその表情かおに灯す。まるで人形のように無表情な少女が初めて人間らしさを見せたので、微かに安堵した。



「ああ。私もだ。彼女は魔女のベリーウェル。人里で出会って一緒に子供達を助けに来たんだ」

「そう。藤原妹紅よ。慧音が助けてもらったみたいだね。ありがとう」

「そんなこと……」



ない、と心中で呟いた。実際、彼女が間に合わなければ自分達はやられていた。



「積もる話もあるが、まずはこの子達を人里に届けるのが先だ」



慧音が視線を下に下ろす。一人残らず気絶していた。いつの間にと思ったが、それも些細なことであろう。














「――そうか。ではお前も大精霊には会ってないのか」

「ええ。八雲紫に問いただそうにも神出鬼没だからね。聞くこともできやしない。今は迷いの竹林の中の小屋に住んでいる状態よ」

「……大精霊、ね」



やはり聞き覚えの無い名を復唱しながらも人里への帰路へついていた。俺の手には子供。攫われたうちの一人を抱えて飛んでいる。筋力は普通の少女レベルなので、俺は重いものを持てないのだ。だから慧音達には二人ずつ持ってもらっている。



「なぁ、その大精霊ってどんなやつなんだ?」

「そうだな……よく場を引っ掻き回す煩い奴、か?」

「見た目は子供、やることも子供。一緒に旅をしてたけど、いきなりいなくなったのよ。アイツ」



不満げに、しかし何処か嬉しそうにそんな事を口にした。


……なんだか、一人それっぽいのが身近にいるが、まさかそんな偶然は無いだろうと思考を払った。


ようやく人里の近くに降りるも、妹紅はそれから一歩も進まなかった。



「どうかしたのか?」

「いや……人里には入りたくなくてね。私はここで待ってるから代わりに連れて行ってくれないかい?」

「そう、か。分かった」



慧音は肩に子供を二人ずつ担ぎなおす。辛そうだが、人里までならば行けそうだ振り返り、妹紅に頭を下げると人里に向かって歩き出した。


慧音は悲しげに、それを見ていたがやがて諦めるように人里へと歩を向けた。



「……聞かないのだな」

「? 何を?」

「妹紅のことだ」



それに少し考えて、気付く。確かに、彼女の存在は疑問の対象になってもおかしくはないだろう。彼女の体は確かに人間である。見た目も、筋力も。故に、その身から発せられる妖力は違和感にしか感じられないだろう。人が人の身で妖術を扱うのは本来不可能なのだ。


そう、それが人で無い・・・・限りは。



「……ま、幻想郷なんだから色々いるだろ。今更妖力を扱う人間がいたとして驚いてもおかしいとは思えないもんな」

「そうか……ならよかった」

「よかったって、なにが?」



確かに、事情を知っていると言う理由もあってそれほど驚くことは無いが、それを安堵される理由なんてものも無いはずだ。


首を傾げると慧音はフッと笑った。



「彼女を恐れないでいてくれた者は多くない。私が知っているのは大精霊だけだ」

「ふ~ん……」



人里の門の前に立つ。待ち構えていた人里の人間達が駆け寄り、まるで奪い取るかのように子供達の体を持っていく。それに対し、若干怒りが沸いたが攻撃しようとも思えなかった。



「……侭ならないな」

「仕方あるまい。私達は人外。人と共に在ることなど出来はしないよ」



そうなのだろうか? そんな思いが頭に過ぎったが、そんな事はないと言うことを知っている。だからそれを脳内で否定するのは簡単だった。だが、実際はそうではない。


気絶した子供を抱えた親の俺達に向ける視線は感謝ではなく、疑心であった。寧ろ感謝など欠片もなかったのだ。共存とは、ほんの一時なのではないだろうか?


それは幻想郷の在り方そのものを否定しているような気がして、慌てて頭を振った。



「慧音。お前は、どうするんだ?」

「そうだな……友人も見つかったことだし、こちらに泊まることにするよ。すまないな」

「いや、いいよ……慧音?」



ふと、人も立ち去り自分達しかいなくなったその場で慧音は一つのものに目を奪われていた。


それは剣。一本の剣。こちらとしては見慣れた一本。舞風が里に入れないからと渋々置いていった封剣『神風』。



「あの剣がどうかしたのか?」

「――――いや、何処かで、見たことがあるような気が……気のせい、か?」



慧音がそれに手を伸ばす。そして、俺が思い出して声を上げたときは既に遅く、バチッと言う音と共にその手が弾かれた。



「あ~、悪い悪い。それ俺の知り合いのなんだけど。多分アイツのことだから自分の知らない奴が触ったら反応する結界を張ってるんだよ」

「いや……そうか。知らない者が、な。勘違いだったようだ。すまないべりー。妹紅を待たせているから私は行くよ」



少し気落ちするように、慧音は笑顔を作り、手を振りながら去っていった。


……あっという間の事であった。こうして出会えたのは凄い偶然だ。少し、いやかなり嬉しい。死にかけたけど。



「……舞風の奴。いくら持ち込めないからってここに刺しておく必要は無いだろうに」



そう思って、それに手を伸ばす。わざわざこんな目立つ場所に置いておく必要は無いのだ。


と、



「イタッ!」



バチッと、再び発動する結界。ひりひりする手には最大限の手加減がみてとれるが、これはまさか……



「……もしかして、誰が触ってもこうなるのか?」



そうだとしたら……


考えることをやめ、人里に入る。その予想が当たっていることを否定したかったからである。















「――で、どうしてそうなったんだ」

「……俺に聞くな」



視界に映るは両手いっぱいに袋やら装飾品やらを身につけた舞風。しかし欠片も嬉しそうではなく、げんなりとした顔をしている。


はぁ、とため息をつくと頭の上のガラス球が零れ落ち、慌ててそれを受け止めた。



「いやな。俺も挨拶だけのつもりだったんだよ。稗田の家にな。一応結界山の頭目だから。しかたな~く。それでな、いきなり飯に誘われてな。まるで子ども扱いだ。この俺が。分かるか? この気持ち」

「知るかボケ」



自分が命がけで戦っていた合いだコイツは暢気に食事やらでお楽しみと来たものだ。そりゃあ怒りも沸く。


が、



「飯を食い終わったと思ったらな、何をどう思ったのか衣裳部屋に案内されて、着せ替えごっこの始まりだよ。女装までさせられた。見るか?」



袋から数枚の紙を取り出す。上手い。めちゃくちゃ上手い。舞風が描かれていた。様々な衣装で。別にお前女装とか必要ないだろ。



「ともかくな、あいつは妖怪を弟かなにかと勘違いしてやがる。お前も気をつけろ」



多分、それはこいつだけなんじゃないだろうか。なんてことを口には出さず、少しだけ目の前の子供を不憫に思った。ほんの少しであるが。














☆〇☆☆〇☆















「――すまない。待たせたな」



こちらに駆け寄ってくる友人。長い髪を大きく揺らし、こちらに手を振りながら。



「それほどでもないよ。子供達は?」

「ちゃんと親元に返したよ。心配せずともな」

「心配なんてしてないよ。信じてるからね」

「そうか。ありがとう」



百年ほど前に、旅の途中にたまたま会ったぶりか。まったく変わっていない様子に安心した。


と、ふと先程まで共にいた魔女の姿が無い事に気付く。



「あの魔女は?」

「ベリーとは人里の前で別れた。里の中に知り合いを残していたらしいよ」

「そう……」



思い出す。あの魔女の姿を。


妙に特徴的な、目に痛いような色彩のドレス。光に反射する金の髪。と、いう特異な姿の割には腕が立つというわけではない。


しかし、あの慧音たちを庇い、立つ姿が、



――何故か、舞風の姿と重なった。



二百年もの月日で特徴的な顔と服装以外思い出せなくなりそうだが、それでも何処か似ていると思うほど、それを連想した。似ているところの方が無いだろうに。



「……ま、そのうちまた会えるか」

「どうかしたか? あ、それと今日から私もお前のところに泊めてくれ。場所が無い」

「……はいはい。分かったよ」



そうして、その歩みを迷いの竹林へと向けた。今は今でやることがある。




――会えるだろう。またきっと。アイツがそんな簡単に消える訳が無いのだから。









もこたん登場。しかし道は重ならず。


慧音と舞風が会ったのは実質一度だけ。それも二百年前。顔すら忘れていても不自然では無い気がします。


ベリーウェル第二スペル『ミラクルタービュランス』。最後に(笑)がきてもおかしくなさげなネーミング。でも個人的に語呂が好き。ミラクルが。



えっ? 阿悟さん? 寂しがり屋なんですよ。いいじゃない。一人くらいはっちゃけててもいいじゃない!!



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