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東方大精霊  作者: ティーレ
2.ソレハ空白ノ時ヲ経テ再ビ現世ニ舞イ戻リ
35/55

舞風と人里

時間の流れが妬ましい。


今単位を落としそうなのは4つ。それも漏れなく。心が折れる。勉強の合間におもむろに始めたニーアレプリカント。2週目初っ端から泣ける。どうして始めた俺よ。


最近すっかり週一投稿。でも執筆はやろう。最早生き甲斐。賞なんてもらえないけど確かに生き甲斐。


地底はひどほどに終了し、場面は再び幻想郷へ。区分的には地底や天界などは幻想郷とは別らしいね。いつか妖怪が地底に入れなくなるときどうしよう・・・



※外伝章、”天狗と妖精”及び”鬼と妖精”を今夜中に合併してページ数減らします。ページ削減です。



では、本編どうぞ――






「――人里に行きたい?」



結界山の天辺。大樹のすぐ傍に存在する一軒家。ささやかながら、一応多人数が入れるように設計をしたそれは、我が家である。新築である。自慢の一軒であるっ!


そんな我が家に唐突に押しかけてきた魔女、ベリーウェル・ガラーンが開口一番そんなことを口にした。その目はわくわくと言うか、何はともあれ輝いている。



「ああ! 一度行ってみたかったんだ。甘味処とか、よろず屋とかさ」

「お前は子供か。しかしまぁ、そうだな。人里か……」



思えば、この幻想郷に来て結構時が流れたが、未だに足の運ぶ先は八雲の家か地底くらいである。そう言えば前にベリーが地底に連れて行けとせがんでいた事も思い出す。



「……別に一人で行けばいいんでない?」

「うー、それもそうなんだけど……ほら、俺って魔女だから妖怪に狙われやすいじゃん? だからさ」

「怖くて一人じゃ出歩けもしない、と? お前は一体何歳児だ」

「う、うるさいな! 怖い物は怖いんだよ!!」



今まで外出の際アキが付き添っていたのはこの為か。事あるごとにアキを探すかと思えば……



「だったらアキに頼んだらどうだ? いつもそうしてるんだろ?」

「今日に限っていないんだよ。いそうな場所は全部探したけど、何処にもいない」

「お前の探す範囲は結界山の中だけだし、と言う事は外に出たか?」



まぁ、アキの実力なら外に出てもいきなり襲い掛かってくる妖怪程度なら退けられるだろう。ならばそれほど気にとめることでも無いか。


しかし、俺が”仕方なく”な上に最終手段ってのが気に食わない。そんなに俺に頼みごとをするのが嫌なのか。



「……そうだな。一度くらいは見ておくか。人里」

「よし! そうと決まればすぐ行こうさっさと行こう止まらず行こう」

「そうは言っても、お前俺より飛行速度遅いだろ?」



そんな言葉を聞いてはくれないか。見た目年相応の笑顔で俺の手を引きながら我が家から飛び出す。



――因みに、ただいまの時刻は卯の刻。要するに朝の6時くらいである。もっと寝かせろというのが正直な言葉。















人里への至る道は歩いてなぞれば半日ではすまない。結界山は幻想郷の隅に立っている。人里から見ればちょうど妖怪の山と被ってみることもできないであろう場所にだ。


故に、通る際には致し方ないと言う言い方になるが、妖怪の山を横切る。



「――おや? 舞風様。このようなところで会うとは。奇遇ですね」

「お前は……射命丸か」



そこで出会った烏天狗。なにやらメモ帳のようなものを片手にこちらへと近寄って来たので何事かと思えば顔見知りであった。とは言っても二、三度会って顔を合わせたくらいだが。



「射命丸って……まさか射命丸文!?」

「あやや。私の名をご存知な貴女。舞風様の背で何をしておられるので」

「なに。こいつが一人で飛行するより俺が引っ張った方が早いからこうなっただけだ。それにしても、お前は何処でこいつの名前を聞いたのか……」



射命丸文。それが眼前に舞う烏天狗の名。もう片手には葉の扇を持っている。


基本、結界山から出ないベリーが誰かと関わることはほとんどなさそうであるのだが……まぁ、アキと一緒のときに誰かに聞いたと考えるならありえないことではない。



「……もしや貴女は舞風様のお山に住まわれている魔女ですか?」

「そ、そうだけど。どうして――」

「有名ですよ。山ごと幻想郷に越してきた舞風様は元より、そこに住まう者なら。割とご近所でもありますし」



まぁ、確かにいきなり山ごと越してくれば有名にはなるか。最も、妖怪の山にとっては『警戒』と言う言葉の方が合っているだろうが。



「時に舞風様。これからどこかへお出かけになるのですか?」

「ああ、人里にな。未だ一度も行ってないし、一度くらい挨拶に行かなきゃ。行けば転移結界で移動の手間も省けるようになる訳だし」



因みに八雲宅と地底にはいつもそれで行っている。おかげで最近運動不足になりはしないかと心配になっている。



「人里ですか。それだと私は行けませんね。残念です」

「行けないって? なんでまた」

「それが妖怪の山の基本的な方針なんですよ。あまり外の者と関係を作るのも組織としてまずいですからね。残念です。色々と話したいこともあったのですが……」

「ふむ……」



思ったより妖怪の山は面倒な場所なようだ。何度も行って、一応組織としての形が出来ているという印象だったが、鬼がいなくなってから本格的な統治を始めたか。



「――それじゃ、とりあえず道中くらいは供してくれないか? こちらとしては幻想郷を良く知るものがいてくれた方が助かるからな。無論、迷惑じゃなかったらだけど」

「いえいえ! この射命丸文。喜んで同行させていただきます!!」



そういうと嬉々としてこちらの傍につく。大概、コイツが俺と話すときはこんな顔である。


一応、懐いてはくれているんだろうが、どうもこいつは俺を”力を隠した烏天狗”と誤解している節もあり、何と無く話しづらいのである。それに気付いたのも百年程度前なのだが、今更自分烏天狗じゃないんですよ~、なんて言えばどうなることか……



「改めて。射命丸文です。よろしくお願いします。結界山の魔女」

「べ、ベリーウェル・ガラーンだ。よろしく頼む」



背中のベリーに挨拶。どちらかといえば高圧的なはずの烏天狗である射命丸がこうして自身より劣るベリーに礼儀正しい挨拶をすることには違和感も感じたが、それも結界山の、というより俺の立ち位置上か。


望む望まぬ関係無しに、俺には八雲の縁者と言う名がついて来る。それがどういうことか、分からぬ訳が無い。幻想郷の創者に縁のある存在。妖怪にしてみれば警戒する存在の一つであるだろうし、人間にしてみればまた恐れるか、それとも敬うものもいるか。


それが嫌で。俺は常に八雲の姓を名乗らない。名乗るのはさとりのような、一つを任される身分の者にのみ。しかし、妖怪の山には既に知れ渡っている。当然だ。あんなに目があるところで名を名乗ったのだから。その件にしては伊吹に恨み言を申した。



「貴女も羨ましい方ですね。舞風様と同じ山に住むことができるなんて、是非変わっていただきたいほどですよ」

「移り住みたいのは妖怪の山が嫌だからなんじゃないのか?」

「あややや。それも一つありますが、やはり私としては先駆けた存在の傍らに居れる事で師事を仰ぎたいと言うこともあるのです」



まぁ、確かに生きた年月は伊達だけでは無いし、教えてやれることもそれなりにはあるのだろうが。こいつほどの存在なら師事をなくとも妖怪の山のトップに立つのはそう遠い話では無いだろう。才能もあり、努力もするときたものだ。



「……なぁ、舞風ってそんなに有名なのか?」



唐突に俺の背のベリーがそんなことを口にする。それについては俺も疑問である。確かに少し力が強いことがあれど、大妖が目をつけるほどではないし、地底の一件は射命丸の様子を見る限り届いていないようだ。


そんな俺の感覚とは程遠く、射命丸は目を向いた。まるでそんな事も知らないのかと言うように。



「勿論ですよ! 確かに幻想郷全域には広まっていないとはいえ、妖怪の山近辺の者達にとって舞風様の名は大きく轟く物です。あの鬼神伊吹萃香と引き分けるほどの力を持った妖怪であり、八雲紫の縁者ともある存在ともくれば当然です」

「あー、そっか。それもそうだったな。迂闊」

「へっ? 伊吹萃香ってまさか……酒呑童子の!?」

「……よく知ってるな。そんなこと。まぁ名だけで言ったらそっちのが有名か」



日本三大悪妖怪、酒呑童子。妖怪の山で始めて戦ったときに聞いたが、後々考えると衝撃は凄まじい物である。考えてもみてほしい、それほどの悪名を轟かせるほどの鬼がなんと見た目幼女なのである。おぉこわいこわい。



「……有名かどうかは別にして、お前の交友関係が凄まじく気になってきた」

「失礼だな。失礼だぞお前」



まるで紫のような、胡散臭さマックスの奴を見るような目で見るなと言ってやりたい。















「――思ったより賑わってるんだな。人里って」



空からそれを見下ろし、ボソッと感想を零したのはベリーである。俺も少し意外には思った。その規模はそれこそ外の世界の村なんぞよりは随分大きいし、見るからに活気があるように見える。



「……結構当然のように妖怪もいるみたいだしな」

「私もここまで近づいたのは初めてですが、ここまで妖怪の数が多いのも驚きですね」



あちこちからチラホラと感じられる妖気。どれも大きい訳ではないが、特に混乱が起きている様子も無い。眼下の一匹の妖怪が人里の者の視線に晒されているのを見て、やはり珍しくはあるのだな、と密かに思う。



「さて、助かったよ射命丸」

「いえいえ。こちらも興味深い話を聞かせていただきましたし、為になる時間となりました。私はこれにて失礼しますね」



手を振りながら去っていく。それを名残惜しそうに見つめるベリーを離し、そこに浮かべる。流石にこれ以上引っ張る必要もないだろう。



「……ふむ。入り口はあるみたいだな」



木で拵えた門を見つけ、そこに降りていく。まさか空を飛んで移動するのはいただけないだろうし、郷に入れば、というものだろう。


門の前にふわりと降り立ち、それを潜る。



「ま、待てっ!」

「……ん?」



見れば一人の青年が竹槍をこちらに向けていた。その先端は体から伝わった震えでプルプルと振動している。いくら妖怪と言ってもこんな子供の風体にそこまで怯えることは無いだろうに。



「なにか用か人間。咎められる事はは無いつもりだが?」

「……背の剣は、何に使うんだ?」



と、その言葉でようやく背中の剣を思い出す。何処に行くにしても基本持ち歩くのですっかり忘れていた。紫やさとりもほとんど気にしないので、俺も当然のように持ち歩いていたが、よくよく考えれば人間にとっては脅威となってしまうのだろう。


ため息一つ、俺はそれを背から取り外すとすぐそこの地面にズンッ、と突き立てる。青年の体がビクッと揺れる。



「……ここに置いていくから、触るなよ。もし汚したりしたら――」



首をクイッと掻っ切る動作。青年の体が更に震え始める。こちらとしてはこれでもかなり譲歩したものだ。


この封じる剣『神風』は俺が丹念に力を込めた、人間には過ぎた武器である。俺自身の元々の力の弱さを考え、使用の際の副作用は皆無。つまり、内に秘めた力の割りに誰にでも使えると言う特性を持っている。


故に、間違っても誰かの手に渡っては困る物なのだ。しかし、ここと結界山の転移結界の術式を刻むにはどうしても必要だ。



「……念のため結界でも張っておくか」



本当に簡単な。弱小妖怪にでも破られそうな結界一枚。それだけを張って俺は里に入る。そこではベリーがまるで待ちくたびれたと言わんばかりの顔をして待っていた。


なんでベリーは何も言われないし……



「うおおぉお! 見ろよ舞風! 甘味甘味!!」

「はいはい」

「よろずよろず!!」

「はいはい」

「人間人間!!」

「……はいはい」

「妖怪妖怪!!」

「はいはいはい」

「お前絶対適当だろぉぉぉぉぉ!!」

「バカめ。今更気付いたか」



こちらとしては何のために人里に来たのか分からないほどなのだ。人外の身となってまで今更人と関わる気になどなれないし、正直ベリーのためについて来た様なものだ。だからといってベリーを責めるつもりは無いが、正直楽しむ気にはなれない。


……周りの目も気になることだし。


その視線は僅かな興味が混じった物がほとんどであったが、偶にいるのだ。憎しみか怒りか、負の感情をぶつけてくる人間が。相手が俺だったからよかったものを。そこらにまぎれている妖怪ならばどうなるか分かった物ではない。


それでも、基本的な平和が保たれているのは単に八雲紫の影響力の大きさか。どちらにせよ、妖怪には未だ居辛い場所であることには変わりないだろう。



――まぁ、四の五の考えるのも馬鹿馬鹿しいか。



一応付き添いと言う形で来ているのである。ベリーに嫌な想いをさせるわけにもいかないだろう。


見た目相応の少女の笑みであちこちを指差し、はしゃぐベリー。思えば魔女としての生が長いために人とかかわりを持ったのが短かったのかもしれない。


それならば、このはしゃぎ様も理解できる。もしかしたら彼女も妖怪に対する視線に気付いているのかもしれない。それを考えると、こうしてはしゃぐベリーを少し見直せた。





「あっ、舞風。俺金無いから奢って」

「少しでもっ、少しでもお前を見直した俺の気持ちを返せっ!!」




台無しである。















「…………団子……割と高いな」

「胡麻が無いのか。まぁ、餡と御手洗でいいか」



高い。団子が高い。紫から前もってもらっておいた資金がこんなところで消耗されることになるとは。なんだか申し訳ない。しかし他に使い道が無いのも確かである。アキは欲しい物は現地調達の何気アウトドアだし、俺自身服や食料を必要としない。と、なるとベリーくらいか。金の使用者は。



「へい、餡に御手洗でさ」

「おっ、来た来た。甘い物って久しぶりに食うな」



まぁ、確かにそうだ。旅の途中だって妖怪がそんなところによる訳にいかないし、食い物は狩りで足りていた。


……はて、最後に団子を食ったのはいつだったろう?


そんなことを考えながら俺は団子を食う。柔らかい弾力ある食感である。



「あっ! それは俺の団子だぞ! 食うなよお前!!」



『舞風。それは私の団子だよっ!!』



「――あ」



なんと言うか、とんでもない思い出し方である。全然似ている訳で無いのに、何処か被った。いつぞやか、共に旅をしていた少女に。


すっかり忘れていた。というよりそういった過去の記憶はよほど重要で無い限り思い出さないので、当然の帰結である。結果として放置した事になってしまうのだろうが、別に一人取り残した訳でも無いから、というのが思い出さなかった一つの理由でもある。


会わなくなって随分だが、元気にやっているだろうか?



「――おい、聞いたか? 迷いの竹林の話」

「ああ? もしかして、あの噂のことか? 所詮眉唾物だろうよ。迷いの竹林の妖怪退治屋なんて」



――――ん?



店内で聞こえた話し声。聞きたくも無いのに大きな声で喋っていたが、それを聞いた途端ベリーの方がピクンと跳ね、そちらを凝視し始めた。


その様子の真剣さと言ったら珍しいことこの上ないが、話題その物は珍しいことだろうか?



別に幻想郷の何処に妖怪退治屋が隠れ住んでいようと、有り得ない話でもない。と、言うか何が起こっても基本ありえないと言えないのが幻想郷と言ってもいい。



――まぁ普通ならそんなことを考える奴はいないだろう。なんせ、霊力持ちは妖怪にとって最高の糧になる。自らの位を上げるための。妖怪退治と言え、そんなことをする奴は命いらずくらいだろう。



「……で、お前はいつまで聞き耳立ててるんだ?」

「とりあえず、団子食うまでは」

「なら俺が早く終わらせてやる。ありがたく思え」

「触るな」



拝啓 母さん。最近友達が冷たいんだ。どうすればいいかな?



答えは返ってこなかった。















甘味処、よろず屋、ついでに書物やらなにやらの専門店まで。色々な場所を回っているのだが、未だにベリーが満足する様子は無い。これ以上何を求めるというのか。俺はため息をつきながららんらんと歩くベリーの後ろを付いて歩く。


――と、なにやら顔を上げれば見えたのは人里の中でも極めて大きい屋敷であった。人里の権力者がいるのかもしれないとふと思い立った俺は先を歩く少女を呼び止める。



「ベリー。俺は寄るところあるから適当に回ってろ。変な奴について行くなよ?」

「りょうか~い。金はたんまりあるし、せいぜい楽しませてもらうよ」



だからそれは紫から……と言うのも面倒なので俺は息を一つもらし、そちらへと歩を進めた。



「……にしても、随分でかいな」



あくまで他の家と比べれば、であるが。それでも規格違いの規模であることは間違いない。敷地は一般の数倍あり、見上げるほどの門。番はいなかったが、それを潜ればただっ広い庭。


その辺りにいた召使と思われる女性を捕まえ、話を聞いてみる。



「失礼。ここの家主は在宅しているか?」

「どうしたの? お父さんのお使い? 偉いですね」

「いやそうじゃなくて家主は……」

「稗田様ならご在宅よ。 あの方は滅多に外には出ないから。今呼んで来て上げますね」



そう言って手の放棄をそこらへんに立てかけると屋敷に中に小走りで走っていった。思わずポカンとする。どんだけ話を聞かないんだ。人は見た目じゃないってことが分からないのか。俺は妖怪だった。泣ける。


しかしながら、そこまで言われてしまっては勝手に中に入るのにも抵抗が出来る。ある意味面倒を増やしてくれたものである。今日何度目かのため息をつき、さてどうするかと門に寄りかかる。


門の外から道行く人が一度はこちらをちら見して通り過ぎていく。いる場所がダメなのか。それとも服装が珍しいのかと僅かに疑問に思いながらも空を見上げた。憎らしい位いい天気である。



「……ふぅ」



眼下の親子の家族連れを視界にいれ、平和な事だと思わずため息をつく。ここまで平和だと逆に落ち着かない。そもそもこんなところにいる方が場違いな気がしてくる。


あれだ。一家の大黒柱がようやく取れた一日の休日が何らかの理由で潰されたときの気持ちってこんななのだろうか。


そうなるとあれか。ベリーは手のかかる娘でアキは……姉? 蓮姫が母さんで……











『――そんでもって、――がお父さんで――がお姉さん兼妹、俺はやんちゃな末っ子だ』










――――、



「――お待たせー。稗田様がお会いになってくれるって。よかったね!」

「……ああ、ありがとう」



戻ってきた女性に礼を言い、俺は屋敷の中に足を踏み入れる。



……昔の楽しかった記憶を思い出すのは、歳をとった証拠なのだろうか?



先導してこちらを導いている女性は俺が緊張してるのとでも思ったのか、肩に手を置いて「気さくな方だから大丈夫」とだけ言って笑う。


違う。そんなことじゃない。そんなことじゃないんだ。



――早く済ませて帰ろう。それが一番だ。



気付けば襖の前に案内されていた。手を振りながら去っていく女性を見送るとそれを開き、中にいる者に無造作に一礼した。いたのは少女。人妖の境を乗り越え、治めるものはいつも少女のようだ。驚いたようにこちらへ向けている。



「突然の訪問失礼する。俺は舞風。幻想郷の辺境にある山の主だ。今日は挨拶のため参った」

「……そ、そうですか。どうぞ、座ってください」



少女は慌てて場所を整える。辺りには本やら何やらが散らかっていて正直汚い。とは言ってもゴミが散らかっているようではない。あくまで書物だけが、足の踏み場も無いほどに散乱している。



「辺境から遠路はるばるとご足労いただきありがとうございます。私は稗田阿悟。五代目阿礼乙女です」

「阿礼乙女? それは当主という事なんだよな?」

「はい、初代より私の一族は人里に住み、与えられた任をこなしています」

「任、とは?」

「? それを知って参った訳ではないのですか?」



ますます意味が分からない。こちらとしてはあくまで義務的に挨拶に来たつもりだったのだが……



「……阿礼乙女は代々、幻想郷縁起なるものを作成しています。それはこの幻想郷の全てを書き記した書物です」

「そんなものを……なるほど。だから人々に重宝されているのか」

「そう……ということになるのでしょうね。てっきりそれのことかと思ったのですが」

「俺のは個人的な挨拶回りさ。八雲紫にもやっておけと言われてね。同じ世界に住むものでもあるわけだし、最低限の付き合いは必要だろう?」

「そ、そうなんですか。八雲紫。妖怪の賢者に、言われるほどの者」

「妖怪の賢者、ねぇ」



それは聞く限り紫の事を指しているのだろう。まぁ確かにこの世界に住むものにとっては創始者である訳だし、それなりに有名であってもおかしくはないか。



「……ま、聞きたいことがあるなら聞けばいいさ。どうせ人間に敵対する気も襲う気も侵略する予定も無いからな」

「はい、ではまず種族を教えていただきますか?」

「……そこからなのか」



これから随分と長引きそうである。ひとまず今日何度目かのため息をついた。


つけばつくほど幸せは逃げると言うが、もう逃げるほどの幸せも無いんじゃないかと密かに思った。















☆〇☆☆〇☆















「いや~。いい場所だな人里」



予想以上の収穫。このご時世仕方ないからと半ば諦めていた塗料や繊維まで手に入るとは思わなかった。アキにもお土産買ったし、上々だ。


一度は来てみたいと思っていた。これからは何度も利用するだろう。その時はいつも舞風に送ってもらえばいい。便利なものである。



「……ん?」



と、ふと見れば小さな人だかり。それに何事かと思いながら近づき、輪の中に潜り込んでみると……



「この糞ガキが!」

「離せっ! 離せよ!!」



小さな男の子が首根っこを掴まれ、持ち上げられていた。持ち上げているのは一目では人間だが、よく見ると牙やら尻尾やら。


妖怪。それも妖獣である。それを取り巻き見ているにも限らず、誰も止めに入ることはしない。臆病な連中である。


と、言う自分も前に足を踏み出さない。一見すれば確かに妖怪が加害者に見えるが、実際は八雲紫の影響力で妖怪が手を出すなど通常ありえないはずである。



「離せ妖怪っ! 父ちゃんを殺した妖怪が里に入ってくんなよ!!」



――ああ、そういうことか。


先に手を出したのは少年なのだ。見れば妖怪の背後には鉄の塊――よくよく見れば錆びた剣に見えなくも無い――のような物が落ちているのが見えた。


結果としてこのまま少年が殺されてしまっても、もしかしたら正当防衛として処理されてしまうのかもしれない。人里においてはお互いが不可侵でなければならない。それでようやく幻想郷は成り立っている。しかし、そう都合よくいくわけが無い。心があるのだから。目の前に親の敵でもいようものなら黙っていられないだろう。



「それは俺じゃねえ! 勝手な濡れ衣を着せるなガキが!」

「うるさいっ!!」



しかも人違い、ならぬ妖怪違い。ここまで揃うとどうしようもないだろう。


助ける義理は無い……が。



「……見殺しにするのも後見が悪いよなぁ」



懐に忍ばせたカードを手に取る。もしこのまま放置して、あの子供が妖怪に殺されてしまうような事になれば再び人妖の間の溝は深まるだろう。それはこちらにしても望んだことではない。


前に歩き、輪からはみ出す。その手のカードを向けながら。



「そこの――」

「そこの妖怪! やめないか!!」



……なにやらちょうど反対側から姿を現したのは女性。腰まで伸びた髪は青と白とが混じり合っており、髪と同じ彩色のゆったりとした服を着ている。



「なんだ。まさか離せとでも言う気か?」

「そうだ。ここでは人妖が争うのは禁止されているはずだ。知らないとは言わせないぞ」

「先に手を出してきたのはこの小僧だ」

「長い時を生きる妖怪たる物が子供一人の行いすら許せないのかっ!」



二人の間に一触即発の空気が流れる。周りの人間が一歩退く。こちらとしては珍しく人前で発言しようと言うのに、とんだことである。妙に苛立つ。妖怪に。自分を遮って入った女性に。



「――ぁあもう! 規則くらい守れよ! ここは人里なんだぞ! 妖怪が好き勝手やっていい場所じゃないんだ!!」



思わずそう声を荒げた。視線が一気にこちらを向いて思わずしり込みそうになったが、それに耐えて妖怪を睨む。向こうは向こうで鼻で笑うような顔をしている。



「なんだ小娘。貴様のような人間にようなどないわ!」

「うっせぇ! こちとら百年近く生きてる魔女だ! 元人間として物申すけど、幻想郷には幻想郷の規則があるだろ! お前みたいな一介の妖怪が好き勝手すんなボケ!!」



周りの人間はどうも俺が人間で無い事に目を剥いているようだった。妖怪も、女性も同じく。


相手が人間で無いことを不利と判断したか、妖怪は憎憎しげに顔を歪めるとその手の子供を放り投げ、ずんずんと大股で歩いていった。人ごみは道を作るかのようにの避けていた。



「……はた迷惑な妖怪もいるもんだ」

「そうだな……君。大丈夫か?」



女性は俺の言葉に望んでもいない相槌をうつと尻餅をついている子供に手を差し伸べた。と、事もあろうか少年も憎憎しげに顔を歪めその手をはたいた。



「余計なことすんな!」

「余計なことって……ガキだねぇ」

「なんだとっ!」



こちらを睨みつける。その目は先程の妖怪と向ける目とさほど変わり無かった。しかしすぐにそれを逸らし、踵を返して走る。



――俺も、人から見ればただの人食い妖怪と変わらないように見られてるって事かね。



感慨深く、走り去っていくその子供の後姿を見送る。今更気にする訳でもないが、まだ自分を人間と思っている、と言う表れなのだろう。


女性もまた、それを見送るとこちらに向き直った。人間が魔女に向けるとは思えない笑顔を浮かべながら。



「ありがとう。助かった」

「……今後人間との関係を悪くするかもしれないきっかけを見逃すのが嫌なだけだよ。そっちも、人間なのによく割ってはいる勇気があったな」

「ははは。よく言われるが、実は私も人間では無いんだ」



周りの人間が完全に散ってしまった頃、女性はそう口にした。思わず首を傾げる。とても人外には見えないが……


――と、徐に浮かび上がってくる一つの人物像。青と白の髪、それと同じ彩色の服。頭の上が寂しいような気がしながらも、それは結果的に一つの予想を作り上げた。



「え、えっと。お名前をお聞きしても?」

「ん? ああ。上白沢慧音だ」



人里。上白沢。白と青の髪。人外。それは一つの形を作り上げ、答えと成した。



せんせぇぇぇぇぇ!! と思わず悲鳴を上げてしまいそうになりながらも、俺はこうして半白澤ワーハクタク、上白沢慧音と出会った。











けーねせんせェェ――――ッ!!


稗田ァァ――――ッ!!


wikiった阿悟がどうやって読むか分からない。あご? いやいや、まさか年頃の乙女があごなんて。でもそうとしか読めない。字の当て方からしても。


ベリーは基本いい奴。困ってやる奴は助けられる範囲なら助けます。舞風は、まぁ場合によるかな。



「つらい時に……楽しかった頃の夢を見てしまうと更につらくなるものだな……」



自分が好きな漫画に登場する王様の台詞です。全く以ってその通りだと思います。


舞風にとって今が不幸と言う訳じゃ無いにしろ、楽しかった頃の思い出を、更にそれが戻らない物だと分かっていて思い出したなら、どんな気持ちなんでしょう?


そんな心情が少し揺さぶられるような。



多数の評価、お気に入り登録ありがとうございます。非常に励みになります。


これからも東方大精霊。よろしくお願いいたします。




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