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東方大精霊  作者: ティーレ
2.ソレハ空白ノ時ヲ経テ再ビ現世ニ舞イ戻リ
32/55

舞風と地底


今日で夏休みが終わり。絶望した。明後日はテスト。


更新がままならない。案が出ても繋ぎ方に悩む。やっぱり自分複線とか苦手です。


題名どおり、舞風がとあるところに向かいます。地霊殿をやったのが三日前って言うそれなんて急ピッチ。




「――と言う訳で、旧地獄に行ってもらうわ」

「どういうわけだよっ!!」



久しぶりに頼み事かと思いきや、いきなり地獄に落ちろと言われた。なにそれ怖い。


わざわざ隙間で呼ばれてまで話しているというのに、あんまりすぎる。



「話はよく聞きなさい。別に貴方が思うほど地獄って酷い場所じゃないし、そもそも旧地獄よ」

「新旧関係なく地獄だろ。間違いなく溶岩とかだくだく言ってるだろ?」

「…………否定はしないわ」

「しようぜ!!?」



隣に何故かいる伊吹が徳利片手にケラケラと笑いながら寝っ転がっている。一体どういうわけだ。って言うかいて大丈夫か鬼神代理。



「旧地獄って言うのは元々地獄の繁華街だった部分を切り離し、スリム化を図ろうとしているところよ。私達は今それを地底と呼んでいるわ」

「何故地獄をスリム化するのか、そして呼び名からしてそれ絶対地下にあるだろ」

「地底には今鬼の移住が始まっているわ。それと同時に忌み嫌われる力を持つ妖怪の受け入れもね」

「おいこら無視すんな。一体いつの間にそんなこと……まさか俺が行くのって」



八雲の口が嫌らしげに歪む。もうやだこの人。



「察しがついたみたいね。今回貴方を推薦したのは貴方が数少ない能力の影響を受けない存在だから。次に八雲の縁者として今地底の管理を任せている者に会ってきてもらいたいから」

「そうだろうと思ったよ!! なんで八雲の姓なんか受けたかなぁ」

「そんな事言わないの。藍が睨んでるわよ?」

「ん? ……うげっ」



確かに襖の陰からこちらを睨んでいる。尻尾が思いっきりはみ出してるので寧ろ微笑ましい物に見えそうだが、その目は呪殺されそうなほど怨念が篭っていそうで洒落にならない。



「なんでお前が何でお前がなんでお前が何でお前がなんでお前が何でお前がなんでお前が何でお前がなんでお前が何でお前が……」

「……なぁ? 俺ってあそこまで恨まれるような事したっけ?」

「あの娘は貴方まで八雲の姓を使っていることが気に食わないらしいわよ」

「いやあれ気に食わないってレベルじゃないから。隙あらば殺そうって魂胆まで見えてくるから」

「ま、自業自得だね」

「くそ、酔いどれ鬼幼女め。山へ帰ればいいのに」



今すぐ姓を返してやりたい。それはいずれ来るペットにでも取っておいてやれよ。もしくは子供とか。


ああ、結界山に置いてきたあの二人は何をしているだろうか? ベリーは独立のために自分で家作り始めるし、アキは幻想郷を楽しそうに飛び回っているし、帰って来た時には孤立してそうだな。



「で、俺にそこで何をしてこいと? まさか挨拶回りだけって訳じゃないだろ?」

「勿論。貴方には少しの間面倒ごとの処理をお願いするわ」

「……それって面倒ごと起きること前提?」

「忌み嫌われる妖怪や鬼たちをまとめようってのよ? なんらかの事が起きない方がおかしいわ」



おい、すぐ傍に当事者いますけど、言っていいんですか? どう聞いても貶してるようにしか聞こえない――って笑ってる!! そりゃそうだって感じに笑ってるよこの鬼。どういうことだよ。



「今回は萃香にも同行してもらうわ。あと大半の鬼ね」

「ま、そういうことだからよろしく頼むよ」

「絶対なんか起きる。俺はそう確信している。間違いない。ところでそろそろアレを何とかしてくれ。殺気で禿げる」



毛根が目に見えない重みで潰されそうである。割と本気で。


















☆〇☆☆〇☆















「――おいおい、真っ暗じゃねえか」



八雲の隙間で送られたそこは日の光が届かない暗黒の世界。隙間の中もそれなりに暗く感じたが、こちらも随分だ。



「そりゃあ地底だからね。暗いのは当然さ」

「一言言ってくれたら前もって準備が出来たのに、っと」



背後の反星陣が辺りを照らす。元々の使用法でないにしろ、これを使うのが一番手っ取り早い。


いつの間にか目前には伊吹と星熊が立っていた。



「久しぶりだね。舞風」

「久しぶりって程でも無い気がするけど、いるなら明かりくらい点けておいてほしかったな」

「ははは。生憎こっちじゃ燃やす物も貴重でね。なるだけ使わないようにしてるのさ」



酒は湯水の如く飲むくせに、と内心悪態をつきながら星熊の案内で先へと進む。術式の光が自分で思うより随分明るい。先を大分照らしてくれている。


と――



「――あぐぅ」



頭に突如衝撃。上げたくも無い悲鳴を上げて何者かの落下を堪える。弾力からして木製の何かである。掴んでみればそれは桶。なんの変哲も無い桶である。


と、思いきや、中になにやら入っている。それは少女であった。ふるふると信じられないような目でこちら――と言うより目線の進行上の鬼二人――を見、がたがたぶるぶるしている。



「……お、お、お、鬼?」

「鬼じゃねーよ。鬼はあの二人だけだよ」

「そいつは……釣瓶つるべ落としかい? こんなところで何してるんだ」

「あ、あぅ……」

「釣瓶? 桶じゃなくて?」

「取っ手があるだろう? 釣瓶さ。ご丁寧に縄までかけて、上から落っこちてきたのか」



それを地に下ろし、見てみる。なるほど、確かに見れば取っ手もあるし。ふと中にある少女と目が合う。少女は緑色の髪を左右二つに括り、やや怯えながらもこちらを上目遣いで見上げている。



「……鬼じゃない?」

「角はなければ怪力じゃないし、そもそも酒はあんまり飲めない」

「……弱い?」

「答える前にその質問の真意を問いたいんだけど、どうか?」

「……いや」



ぷるぷる震えながらも少女は伊吹や星熊と目を合わせないように勤めている。それほどまで鬼が怖いのか。まぁ分からないでも無いが。


その視線はしばらく落ち着かなかったが、俺の背後を見て定まる。何を見てるのかと思いきや、背の反星陣に向けられていた。確かに珍しい物だとは思うが。



「……きれい」

「そりゃどうも」

「……ほしいな」

「それは翼をください並に難解な願いだな」

「……むぅ」



少女の手が伸ばされ、光を掴む……訳もなく、その手は術式を貫通して向こう側へ。



「そろそろ行くよ。アンタも着いてきな。釣瓶落とし」

「……ッ!?」

「目的地は一緒ってことか。名前は?」

「……キスメ」

「俺は何故かこいつらにこき使われる妖怪、舞風だ」

「……奴隷?」

「……それはやだな」



鬼の奴隷なんて本気で何をされるかわかったものではない。少なくとも戦いと酒の日々だろう。


そんな考えをめぐらせていると、つんつんと肩を突っつかれる。キスメがなにやらこちらに手を伸ばした状態で震えていた。



「……抱っこ」

「…………」



俺の荷物が増えた瞬間である。















端から見れば俺は何故か少女の入った桶、もとい釣瓶を抱えた妖怪である。解せぬ。


即座に星熊にでも変わってもらおうと思ったが、服を掴まれて涙目ながら首をブンブンと振られれば流石に諦めもした。



「……旧地獄、ね」



それを地獄と言われたなら信じられなかったろう。旧地獄と言われても半信半疑である。


それは都。沢山の光に照らされた。一つの世界。見上げればそこは確かに闇なのに、世界は明るく彩られている。



「ま、実際はこんなもんさ。鬼の建築技術も伊達じゃないだろう?」

「ま、大体は元々こんなだったけどね。紫も言ってたろう? 地獄の繁華街だったって」

「そう言えば、そうだっけ」



地獄に繁華街ってこと自体が信じられなくて思わず聞き流した気がする。手の中の釣瓶の中のキスメは慣れたものなのか、特に気にした様子もなく辺りを見回している。


尚も歩みを進めてみるとなにやら人ごみ、じゃなくて妖怪ごみ。鬼を中心に様々な妖怪が集まっていた。



「そうだ。一つ言い忘れてた」

「なんだ? すっげぇ重要なことじゃないよな?」

「重要さ。そこそこ重要。舞風、アンタの姓はここで名乗らない方がいいよ」

「そりゃまたなんで?」

「……妖怪の賢者はね。地底の、嫌われ者の妖怪たちに嫌われているのさ。人妖のバランスを保つためと言え、外から自動的に妖怪が幻想郷に入ってくる仕組みを作り、害があるものをこうして地底にやろうとしてるんだから」

「……なるほどね」



いつになく真面目な伊吹の言葉に耳を傾け、俺は頷く。キスメが不思議そうにこちらを見上げていたが、それには気付かないふりをする。



「これで全員かい?」

「鬼神代理ッ!! それが、前鬼神様と橋姫が全く動こうともせず……」



それを聞いた伊吹はやや呆れたようになる。さしずめ、だらしの無い上司のことを考えているようである。



「鬼神は寝てるだろうし、橋姫はこっちの話を聞かない、か。仕方ない、舞風。ちょっと行って――」

「だが断る」

「――来ないんなら、勇儀、力づくで連れていきな」

「ごめんなさい」

「……弱いね」

「うるせぃ」



なにやら未だに引きづられるようだ。俺は何処に行くんだろう。いつまで釣瓶を抱えていればいいんだろう?



「全く、あの橋姫にも困ったもんだね」

「顔見知り?」

「ま、そんなところだね。私を前にしても物怖じしない珍しい奴、とも言うか」

「へぇ、橋姫ね。妖怪についてはそれなりに知識を得たと思っていたが。橋姫については全く聞き覚えが無いな」

「妖怪らしからぬ事を言うね。橋姫ってのは名前どおり橋に住む女神さ。悪い奴じゃないんだけど、めちゃくちゃ嫉妬深くてね」

「へぇ、珍しい性格」



寧ろ妬まれるなんて新鮮である。周りにいる妖怪が大抵紫なり伊吹なりアキなり藍なり、こちらが嫉妬してしまいそうな実力者ばかりなのだから。



「……見えた。あの橋だよ」



星熊の指差す先には大きな川。そしてそれにかけられたまた大きな橋。見ればそれの中心辺りに一人、手すりに肘を置いて立つ存在がいる。


遠目から見た限り、それもまた少女である。しかし伊吹やキスメなど、幼女とは違う。普通に少女である。こちらの接近に気付き、如何にも気だるげな目でこちらを睨む。緑の髪、そして尖った耳と珍しい存在である。



「……なんのよう? 勝手に私の家に入ってこないでほしいのだけど」

「…………? ああ、橋。橋ぃ!?」



どうも橋が家らしい。確かに橋に奉られた神なのだから、彼女にとっては橋が寄り代のような物なのかもしれないが、様々な者が通る橋に入るなと言われても反応に困る。



「えっと、土足ですいません?」

「……そう思うなら、さっさと出て行きなさい。地上の妖怪」

「あれ? 分かる? そうしたいのは山々なんだけど、なぁ?」



俺が視線を後方に向けるように促すと、僅かに視線をずらした橋姫がやや呆れた様子で理解したことを汲み取る。今頃俺の背後では星熊がストレッチでもしながら俺の顔でも狙っている頃だろう。主に物理的な意味で。



「私には関係ないわ。あなた達の都合も、あなたがどうなろうと」

「いやまぁそうだろうけど、んじゃとりあえず集まりくらいには来てくれないか?」

「嫌よ」

「即答かいっ!! なんでさっ!!」

「わざわざ忌み嫌われた妖怪を集める理由が分からないからよ。どんな魂胆があったものか、分かったものじゃない」

「……そういえばなんでだっけ?」



そこで詳しい事情にまで耳を傾けていなかったことに気付く。まぁ、鬼達の事だし、それほど深い理由も無いと思うが。



「まぁ、流石にとって食われるわけじゃないだろうし、少しくらいならいいじゃんか」

「とって食われるかもしれないから行かないのよ」

「…………平行線だな」

「そもそも私達のように封印された妖怪を纏める事に意味があるとでも? 憎まれ、蔑まれ、追いやられ、果てにここにゴミのように送られた私達をなんとかできるとでも? 大層頭がお花畑なようね、ホント、妬ましいわ」



睨む。緑の、宝石のような目は厳しくこちらを睨んでいた。今の会話だけでも思わぬ内容が出ていた。


『封印され、送られた妖怪』、誰が封印し、誰がここに彼女を放り込んだのか。幻想郷の仕組みで送られたと思えば彼女はそれより前からここにいるような節のことを口にする。


何も知りはしなかった。それがまた彼女の心を引っかいたのではないのだろうか? 今手の中の、キスメもまた、憎まれ、追いやられた妖怪なのだうか?


そうだとしたら、鬼の行動に意図はなく、鬼達は都合よくここにいることを選び、結果元々いた妖怪たちと仲良くすることを選んだだけではないのだろうか?



「……ま、頭が春のお花畑ってことを、今は否定しないでおいてやる。一応聞くけど、来る気は無いんだな?」

「言ったでしょう? ぽかぽかした地上の空気に当てられて全身春なのかしら。妬ましい」

「そっか。じゃ、仕方ない。行くか」



くるりと反転し、背を向ける。そこには星熊がムッとした表情のまま立ちふさがっていたが、こちらの意図を読み取ったのか、それともなにか考えがあるとでも思ったのか――恐らく後者――退いた。



「……いいの?」

「仕方ないだろ? 本人が来たく無いって言うんだからさ」

「…………」

「ま、でもこれくらいは言っておかなきゃな」

「?」



再び向き直り、その緑の目を睨む。あくまで笑顔は崩さずに。




「――自分だけ不幸みたいな事言ってんじゃねーよバーカ。なんだかんだ言って集まったら嫌われるかもしれないのが怖いってだけじゃねーか臆病者。いつまでも橋に引き篭もってんならそのうち解体作業して粉砕するから覚悟しとけ」



「…………」

「…………」

「…………」



脅迫である。まごうことなく脅迫である。因みに前文は挑発である。


一気に言葉を並べすぎたか、怒り心頭の模様。恐らく中途半端に聞き取ったのか。それとも挑発だけ聞いたのか。



「――何も知らないくせに、よくもそこまで言えるわね。妬ましい」

「分かるわけ無いだろ。俺は心なんか読めないんだよ。それに、お前だって俺のこと何も知らねーじゃねーか」

「知りたくもないわ」

「一々言うことがきっつい。ま、さっきは臆病者なんていったけど、多分皆そうなんだよ。嫌われていたからまた嫌われるのが怖い。心の痛みに慣れはあっても無傷はないからな」

「…………どうでもいいわ。でも、橋を壊すと言うなら仕方が無い」

「よし、作戦成功ッ!!」



しかし周りの視線は冷たい。俺が一体何をした。色々やったな。ごめんなさい。



「それならこのまま地霊殿に向かうとしようか」

「チレイデン? なにそれ?」

「最近地底の管理を任された妖怪がいるのさ。元々話し合いはそこでする予定だったから。多分他のやつらも向かってるよ」

「ふーん……ところでキスメ。そろそろ降りてくれないか?」

「釣瓶じゃ歩けない」

「いや取れよ」

「……釣瓶なのに釣瓶に入ってない。それって何妖怪?」

「……いや知らんけど」



子犬のような目で見られては流石に拒否できない。星熊は笑うが橋姫の視線が冷たい。



「そういえば、名前何?」

「……水橋パルスィよ。貴方は名乗らなくてもいいわ」

「まぁ聞けよ。俺の名前は舞風って言ってだな。風の様に舞うって意味合いがあるんだぜ」

「明るい名前ね妬ましい。言いやすそうね妬ましい。ああ妬ましい妬ましい」

「…………」



改めて変な奴だなぁ、と思いながら俺は星熊に着いて行った。















「――そういえば地霊殿? だっけにいる妖怪ってどんな妖怪だっけ?」

「アンタ、よく知らずにここまで来たね」

「……地霊殿の主は覚妖怪よ。名は古明地さとり」

「さとり妖怪……ってなに?」



周りの三人の視線が呆れたものに変わる。それになんだか居心地の悪さを感じながらも俺は追及した。



「覚妖怪ってのは、心の声が聞こえる妖怪のことさ。だから地底の奴らには特に恐れられてるんだ」

「心の声……テレパシー? そんな妖怪もいるんだなぁ」

「力は強くないかもしれないけど、敵にしたら厄介なことは確かだね。悪い奴じゃないんだけど、先入観があるんだろうね」



何も嫌われる妖怪が皆悪い妖怪では無いということ。水橋だってそう。存在自体が厄介と思われるような存在なのだろう。例え本人の意思が正しいものであろうと。


しばらく歩いていると遠目に大きな屋敷が見えてくる。そしてその辺りにちらほらと妖怪の姿。水橋がやや星熊の影に隠れるように歩幅を狭めた。



「あれ? 伊吹の奴何処に行ったんだろ? そこの鬼さん。伊吹知らない?」

「鬼神代理なら地霊殿の主のところだ」

「あいよ。あんがとさん。じゃ行ってくるから、キスメ降りろ」

「……えぇー」

「星熊、パス」

「断る」

「……水橋。パス」

「嫌よ」

「…………降りろ」

「……うん」



なんだか背に哀愁の視線を受けながらも真っ直ぐと、地霊殿とやらへの道を進みだした。それは近づけば近づくほど大きく見え、そう、800年くらい前に見た都の屋敷を髣髴とさせる。ほとんど忘れたけど。


門のような物を潜り、出迎えたのは無数の妖精……かと思いきや何故か肌が黒かったり、と言うよりどう見ても血色が悪いだけだった。そんな妖精が無数に迎えたのだ。



「うわ~。俺は一体どうすればいいんだ」



ここまで反応に困る応対は初めてである。と、奥からのそのそと歩いてくるのは一匹の黒猫。それも二股である。それを訝し気に見ていると、いきなりなにやらの黒い球体に包まれる。それが明けた頃に立っていたのは一人の少女。赤毛に猫耳、加えて二股の尻尾。今の猫で間違いなさそうである。



「いらっしゃーい。地霊殿にようこそ。今さとり様は地上の鬼と話しているので少しお待ちください」

「伊吹と? 現在進行形で? あらまぁ、仕方ない。まったりと待たさせてもらおうかね」

「はいはーい。お客様一名ごあんなーい。お名前をどうぞ」

「聞いて驚け知って慄け!! 俺の名前は舞風。地上からきた妖怪である!!」

「へー、すごいですねー」

「……棒読みで。もう少しリアクションがほしいと思うのは傲慢なのだろうか?」

「それでは、こちらの部屋にてお待ちください」



すぐに一室に案内される。割と普通の和室である。真ん中の小さなテーブルの上にはポツンと置かれたお茶一つ。いつからあったのか、しかし俺宛であることは間違いなさそうである。


手を伸ばし、喉に流す。ややぬるいが中々上手いお茶である。



「あぁー、ホッとする。ホットなだけに……」



……我ながら寒い冗談である。しかも独り言。誰かに聞かれていようものなら軽く死ねる。あ、でもホットの意味が分からないか。


――と、なにやら襖の開く音。伊吹か先程の少女が来たのかと思いきや、そこにいたのは先程会った少女とはまた違う少女である。


黒い帽子に銀の髪。やたらとフリルの多い服に胸の前の紐の生えた球体。それは見ようによっては閉じた大きな目にも見えるかもしれない。その少女はなにやらこちらを注視していた。視線の先を辿ると、そこは俺の持っている茶飲みに注がれている。


……もしや、これはこの少女の物だったのであろうか? ふむ。



「……ズズズズズズ」

「あーッ! 飲んだーーッ!!」

「……茶が旨い。身に染みる」

「ちょっと! どうして飲んだの! う~」



ちょっぴり罪悪感。でもそれを振り払って茶を飲む。俺はこんなところで立ち止まってられないんだ!!



「も~! 返せ!」

「ふぼほ!!」



後頭部に衝撃、走る。勢いのままテーブルに叩きつけられる顔。お茶は飲み干していたので零れなかったが、それなりに痛い。どうにも背中に、と言うより頭に飛び掛られたようである。お茶の恨みが重い。



「…………痛いので退いていただけると助かるでござる」

「やだ。私のお茶返せ」

「吐き出せと? そりゃ無理な注文だ。大丈夫、あれは旨かった。俺が保障するよ」

「保障されて? 私はどうすればいいの!?」

「新しいのでも持ってくればいいジャマイカ」

「それが出来たら苦労しない! 大体見えないようにしたはずなのにどうし……て?」

「ん?」



少女が背から降りる。こちらの想いをようやく分かってくれたのかと向き直ると、少女はなにやら信じられなさそうに俺を見ていた。



「う、そ。どうして見えてるの?」

「どうしてもこうしても見えているのだから仕方ない。そうは思わんかね?」

「……ふーん。よく分かんないけど、私が見える妖怪を見たのは初めて。貴方名前は?」

「舞う風と書き、舞風。いい名前だろ?」

「私は古明地こいし。貴方、能力が聞かないようにする能力を持ってるんでしょ?」

「スルーされた。なんで皆スルーするし。確かに自分には能力の影響が届かないようにしてるけど、それが?」



それを聞いた少女、こいしがはしゃぎだした。しかし、古明地。何処かで聞いた名なような……



「貴方地上の妖怪よね。どうして地底に来たの?」

「パシられて」

「ここにはなにしに?」

「覚に会うため?」

「貴方なんて妖怪?」

「舞風妖怪……嘘。俺も知らない」



矢継ぎ早に質問され、考える合間がない。最近よく子供に好かれているような気がする。でもこういう腹に黒い物を持ってそうな子供はご遠慮したいのだが。



「もしも~し。さとり様がお会いになられるそうです」

「あ、お燐」

「お燐?」

「あれ? どうしてあたしの名前を?」



それは初めにここまで案内した猫少女。こいしが彼女をお燐と呼んだが、その視線は俺にだけ注がれている。まるでこいしがいないかのように。



「お燐には私が見えてないよ。見える方が異質だからね」

「へぇー、そう。とりあえずさとり様とやらのところに案内してもらおうか」

「?? う、うん。分かった」



まるでおかしいものを見るような目で見られてしまった。本当にこいしが見えてないのだとしたら、確かに虚空に話しかける不振人物にしか見えないのだろうか。



「分かってると思うけど、さとり様は覚妖怪。なにかしら注意しろとは言わないけど、責任は自分持ちで頼むよ」

「それはたとえ機密が漏れても自己責任ってことか?」

「まぁそういうことだね」

「……ふむ」



とりあえずは能力遮断の結界がある限り、心を読まれたりはしないだろうし、そもそも聞かれて困ることはない。あって、八雲のことか。だがそれは広まらない限り大丈夫だろうし。


後ろで手を振るこいしを一度だけ振り返り、ウィンクすると俺は踵を返して部屋を出た。



こいしのやや冷たい瞳がやたらと印象に残った。









                                   続く(笑)



最後はなんとなくやった。ちょっと反省している。いいジャマイカ。


結構原作キャラ登場。ヤマメ様がいらっしゃらないことはやや反省。キスメの喋り方は他二次創作より。釣瓶落とし可愛いよ釣瓶落とし。語呂悪し。


当初の事情はすいかがパルスィを引っ張るつもりだったけど、地霊殿をやってみると面識がないらしい二人。解せぬ。


お燐とこいしちゃんはちょっとだけ出ました。なにやら性格が違うような……気のせい気のせい♪


前後編、もしくは中を入れるか。それで地底辺は終わる予定ですが、さて一名不可思議な存在にお気づきでしょうか? それについては、また次話。


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