魔女と仲間
本日も前回に引き続き、三人にて旅模様。個人的には戦闘シーンかほのぼのとした空気が一番好きなんだがなぁ。
ちょっと舞風を信頼し始めたベリーウェル。舞風はいつも通り、のほほ~んと生きていくのでしょう。
それでは、本編です。
――私は、きっと何処かで間違えたんだ。
だから私は、こんな地の、泥沼のような場所に横たわっているんだ。
体に力が入らない。心から漏れてゆく何か。とてつもない虚脱感。全てを無駄だと、意味の無いことだと悟ってしまったような。
立ち上がると言う行為が馬鹿らしくも感じた。
歩くという事すらも無意味と思った。
考えると言う言葉自体に目を背けたくもなった。
落ちて、落ちて、落ち続けて――
地の底にいた私の手を引き上げてくれた彼の名は――
「――――」
見慣れた天井。見慣れた壁。見慣れた一室。
そこはいつもの小屋。私達三人の過ごす場所。同行人である二人は未だ眠っているようだった。
どちらも酷い寝相で、片や部屋の隅まで転がり、片や何があったのか机の上で丸くなっている。
思わず零れた笑み。それからすぐに朝の食事に取り掛かる。毎日の食事は当番制にしてはいるが二人とも朝が弱いのでほとんどが私の役目のようになっている。
「簡単に、昨日の残り物にしまようか」
まだまだ目を覚ましそうに無い二人を横目に見て、それにしようと決める。
それが私こと、アキの朝の日課になっている。
☆〇☆☆〇☆
「――いただきます」
「いただきます~」
「いただきます……ねむっ」
食卓に並んだ干し肉とおにぎり。眠り足りない頭をなんとか起こしながらも俺はおにぎりに手を伸ばす。横から舞風の手が掻っ攫っていった。
「…………」
「怖い目するなよ。早い者勝ちだぜ」
毎朝の風景である、舞風の掠め取り。少しでも寝坊したら朝の食事はなくなるといっても過言ではない。それがそれなりの間旅をして、俺が気付いたことの一つでもある。
――舞風たちに出会い、恐らく一ヶ月は経過しただろうか?
その旅は一人だった頃より熾烈な気がしてならない。一週間目で鬼が出たと思いきや、二週間目には妖怪の群れ、その次には妖怪の退治屋――これは舞風が一人で撃退したが――とさて次はなにかな~、なんて楽しみにしている節もあるくらいだ。
「もう少し落ち着いて食べた方がいいですよ。舞ちゃん」
「……だから舞ちゃんはやめろって――」
「隙あり!!」
「俺の干し肉に何をするっ!!」
兎にも角にも、今日もまた騒がしく、飽きない一日が始まった。
「――お前って『魔女狩り』から逃げてきたのか?」
「ああ、放浪の旅の途中いきなり襲われたからな。大した準備も出来ずこっちに来たんだ」
「他所の国ではそんな物騒な事もやってるんですね~」
舞風はやや驚いたように、アキさんはまたいつものようにぼんやりして何を思っているのか。
下手に身の上を話して同情されるのも嫌だったので、この反応はそれでありがたいが。
「ま、一人で余計な荷物がなかったのが幸いして逃げ延びることが出来たわけだけど」
「でも魔女狩りって、大概無関係な人が魔女呼ばわりされて殺されるんだろ?」
「そうだろうな。何百年も生きたような賢い魔女がそうそう殺されることも無いだろうし、狩られたのはは成りたてくらいだろ」
「どうして分かっんですか?」
「どこぞの霊能力者はともかく、普通の人間は魔力を感じることができないし、せいぜい疎ましい隣人を殺すためにでも活用されたんだろ」
舞風が言ったこともなかった訳で無い。村一番の美人を妬んだ女がそれを魔女呼ばわりするところを見たことがあるし、後は大概教養がなかったり友人が少ない。言うなれば死んでも困る者がいない者が対象になっていた。
「どいつもこいつも魔女は一人ひっそり暮らしていると勘違いしてやがる。普通魔女は群れて暮らすんだけどな」
「そうなのか?」
「ああ、森の中で一人静かにとかは寧ろ童話の話だな。実際は群れるんだ。一人に異常があれば全員に伝わるようにな」
「それじゃ魔女ってみんな仲良しなんですね」
「仲良しって言うより互いを利用しあってるって感じだよ。そんな綺麗な物じゃない」
当時のことをひっそりと思い出す。たまたま行った村で魔女狩りの最中で、誤解を解けぬまま罪のない者が殺されている風景。
「胸糞悪い話さ。一部の過激な奴のせいで俺みたいな無害な魔女まで場所を追われるんだから」
「いつか誰かが間違いに気付くだろ。そうすれば魔女狩りはなくなる。それにこの国には妖怪は居ても魔女狩りなんて法は無いんだ。冷めるまでここでひっそりと暮らせばいいさ」
「そう、だな。この際幻想郷に移り住むって言うのもありかもしれないし」
「ははっ、その時は俺の山にでも住むか?」
「考えとくよ」
俺の記憶が確かなら魔女狩りは18世紀まで続くはず。先はまだまだ長そうだ、と憂鬱気味にため息をついた。
「おっ!!見えた見えた!!」
「……なにが?」
舞風がいきなり声を上げたかと思うと、唐突に前方を指差した。ここから見えるのはややぽっこりと聳える山が一つくらいなのだが。
「結界山だよ! 俺の山!!」
「へぇ」
「そうなの」
「リアクションちっさ!!」
そうは言われても内心だからどうしたとしか言えない。あの程度の大きさの山ならいくつも見たし、今更と言う気にもなる。
「まぁまぁ。早く行こうぜ~っ!」
「あっ、ちょっと……」
一人パタパタと走っていってしまい。俺は嘆息するとやや早歩きで歩き出す。アキさんはなんだかおかしい物でも見るようにクスクス笑いながらも同じくその歩みを速めた。
近づき、やはりその山がそれほど大きなものでは無いと再認識したとき、舞風はなにやら立てられた小さな看板を見上げていた。
俺も近づき、その看板を覗いてみると、以下のことが書いていた。
『この山は聖なる山であり、妖怪が入ること叶わず』
「…………」
「…………」
「…………」
「……ねぇ舞風ちゃん。貴方って」
「言うな! 分かってるから!!」
なんと言うことか。妖怪である舞風の所有する山に妖怪立ち入り禁止の看板。思わず絶句してしまう。
自分は山の主だと言い張っておきながらこうではなんとも締まらない。
「ふん! 勝手に入るから構わないよ!! ここをちょいちょいっと弄って……」
「何やってるんだ?」
「結界を適当に弄る」
そう言えば舞風はそれのエキスパートなのだった。恐らく結界の物と思われる術式が舞風の目前に浮かび上がり、それを手で本当に適当に弄くっている。
「――よし、これで大丈夫だろ」
術式が電源の落ちたウィンドウのように消え、山の空気がなにやら変わる。先程まではただの山に思えていたそれが今はとてつもない力の塊に感じた。
「さて、ようこそ。我が結界山へ」
「……これ入って大丈夫なのか?」
「大丈夫大丈夫。なんせ俺の山だぜ?」
自信満々にそう答える舞風に「だから余計心配なんだ」なんて言葉を浴びせることがなんだか出来なかったので黙って入った。
そこは一歩踏み入るだけで穢れのない大地であることに気付く。確かに聖なる山を関するだけはあるのかもしれない。
「基本的にこの山には一定以下の力の妖怪は入れない結界が張ってあるからな。妖怪によって荒らされる事はなく、辺境だから人の手もほとんど入ってない」
「……ん? それじゃあ俺達が入れてるのは?」
「俺がそういう風に弄ったからに決まってるだろ? ま、約一名これを突破してきた妖怪がいたけどな」
「それって……」
「八雲紫だよ。ま、それがきっかけであいつの手伝いをすることになったんだ」
と言う事は八雲紫がここに訪れたことがあるのか。それだけでその山は特別な物に感じた。山中が霊力に満ちている。
「舞風ちゃん。ここに訪れた理由って?」
「それについては後ほど。山の天辺に小屋を転移させるから手伝ってくれよ」
そう会話を区切り、舞風はまた道無き道を通り、山を登っていく。俺もアキさんもそれについていくことしか出来ず、山頂に着く頃にはもう足ががくがく震えて動けそうになかった。
結界の影響で空を飛ぶことが出来ないらしい。この時ばかりは舞風死ねって――よくよく考えたらこの時だけじゃない。ひとまず死ねばいいと思った。
それなりの高さを誇るその山の天辺に存在した大樹。それが外見に一つの異質を放つ元になっているが、ここまで壮大に聳える大樹を見たのも初めてかもしれない。ただ一本、樹齢は想像もつかないほど長い。
小屋を転移し終えたかと思うと、舞風は大樹の傍に座り込みその樹を撫で始めた。優しく、慈しむかのように。
「……どうかしたのか?」
「ン? いやなにも?」
その表情はやはりいつもと変わらない胡散臭げで飄々とした物で悲しみなど欠片も無いように見えた。
「――ま、そうだな。俺は元々この辺りの生まれなんだ。だからちょっと、懐かしいなって……」
「?」
やはり、変わっていないが……その目には、確かに悲しみと言う感情が見て取れた。
「それはいいや。まず、二人に聞きたいことがあったんだ」
「聞きたいこと?」
「ああ、幻想郷のことだ」
その言葉には思わず首を傾げた。それはアキさんも同じようで、同様な反応をしていた。
幻想郷のことを、わざわざ俺達に聞く必要などあるのだろうか? そんな俺らの反応を見て頭をかきながら「ちょっと間違えた」と言い、俺たちに向き直った。
「幻想郷に行きたいって気持ちに、変わりはないんだよなって事」
「? 俺はその為に旅に着いてきてたようなもんだぜ?」
「私も舞風ちゃんにそうお願いしたはずですけどね」
ま、随分先のことだとばかり思っていたから。思ったより早いのかもしれないな、と頭の隅で考え、舞風の返答を待つ。
その答えに納得したのか、ニッと笑い、虚空に緯線を向ける。
「――だ、そうだ。紫」
「――そう、それじゃ誘いましょう。幻想の里へ」
何処からともなく聞こえた声。その透き通りようには若々しさを感じるが、なんだろう。言うなれば何処か舞風に似た感触があると言うべきか。
俺の疑問を解決する前に、舞風が見つめる空間にリボンが現れ空間を裂いていく。その避けた空間に見えたのは光源色が混ざり合ったような禍々しさすら感じさせるようななにか。
その何かから、揺らめくように現れてくる一人の女性。派手な紫のドレスと特徴的な帽子、金の髪に扇子で隠す口元。俺はその名を知っている。
「初めまして。私は八雲紫。幻想郷の管理者ですわ」
ニコリ、と笑う。背筋がぶるっとした。中途半端とはいえ、強くなったからこそ分かる。八雲紫の強さ、が。まるで空間が歪まんばかりの妖気、圧倒的なまでの存在感、その顔は何を考えているか分からず、ただ笑みを浮かべていた。
「そう……貴女が八雲紫なんですか」
「初めまして。ご高名は聞いているけど、今はアキ、と呼んだ方がよろしいかしら?」
「ええ、それでお願いするわ。この状況で現れるって事は今すぐ私達を幻想郷へと誘ってくれると考えてよろしいのですか?」
物怖じなど欠片もなく、アキさんは八雲紫と会話している。会話できている。それがどれだけ凄いことか。自分はあの目を見ているだけで口を開くのも恐ろしくなると言うのに。
にしても、彼女が現れた理由は、やはりソレなのだろうか。
「――ええ、そうよ。正しくはこの山その物を移動させるため。だけどね」
「ま、後の楽しみって事で秘密にしてたけど、元々の目的地はここだったのさ。俺と八雲が共同でこの山を幻想郷に持っていくための転移結界を作成し、完成に至るまでの間ちょっとした旅をするつもりでな。道中幻想郷に行きたい者が居たら連れてこうって」
「だから私を誘ったんですか? ベリーちゃんも?」
「強制する気はなかったからな。そっちの判断に委ねる様にはしたけど、そういうことになるか」
初めから山ごと移住するつもりだったのか。目指していたのは幻想郷ではなくこの山と言うことが分かったけど、こうして幻想郷に行けるなら満足だ。
当初の目的である八雲紫に会うということはこうして叶っているはずなのに、声が出せない。そして何処かそれをホッとしている俺が居る。
「――ところで舞風。この二人はなんの意図があって連れて来たの?」
「意図? いや? 別に行きたいって言う奴だけを連れてきた――」
「嘘、でしょ? どちらも貴方はなんらかの意図を持って連れて来た。道中で会った他の妖怪を誘わなかった理由は何?」
「――ま、大体が血の気の多い奴ばっかりでこられても迷惑だったってくらいだな。アキを誘ったのはいい友人になれそうだったから。ベリーを連れて来たのは――」
俺を見る。その目が静かに、そして無感情に、俺の目を射抜く。
「……ま、もしかしたら同類かなって思ったから」
「……同類?」
「根拠もあったし、連れてくるには十分な理由だったのさ」
何を言っているんだ? 何のことなんだ?
考えは纏まらない。存在するはずの共通点。では何を持って同類と指すのか? そもそも特異性のないただの一介の魔女である俺の何処に――
「――――」
……いや、ある。俺にだけ存在する特異性。
それは”前世の記憶を持っている”こと。そしてこの世界のことを知っていること。
――元々俺は冴えない学生に過ぎなかった。人並みに人付き合いもあり、人並みに家庭に恵まれ、人並みに楽しい。そんな生活をこの日本で送っていた。
そんな俺が友人に勧められてはまってしまったのが『東方project』と言うゲーム。元々弾幕ゲーが好きで始めたつもりが、いつの間にか別の意味でどつぼに嵌り、いつかはオタク、言うなれば東方オタと呼ばれるものになっていた。
唐突に、そして気付かぬうちに、この世界に生まれ変わりを果たしたのはやはり大層驚いた物だった。自分が死んだのか、直前の気持ちがなにもかも曖昧なまま、俺は魔女の娘として物心をつけた。
初めは辛いことばかりだった。言葉は通じないし、体は子供で不便。突然の家族との別れもあるし、戸惑いだって当然あった。そんな俺がそれでも生きていけたのは死の恐怖から。
生きながらえていれば色々なことが耳に入ってくる。他の魔女の話も。その中に『ノーレッジ』の名を聞いたときは驚いた物だ。
その姓は俺にとって聞き慣れた、『東方project』に登場する魔女、パチェリー・ノーレッジの姓である。その時初めて疑問を持ち、ようやく魔術に精を出し始めた。
自分の家、ガラーン家は僅かながらノーレッジ家と交流が存在した。しかしこちらは一般、向こうはエリートだったらしく、ほんの僅かな関係だったので目通りが叶うことはなかった。
東方を知っていた俺が幻想郷の存在を考えるのはすぐのことだった。そして、俺が日本に、幻想郷に行くことを決意したのは母が死んだ時。魔女狩りに追われ、最中で妖怪に襲われ逝ったその時、決めた。
ここが本当に予想通りの世界ならば、八雲紫は存在するのだろう。彼女は特別好きなキャラであった。関連動画を見ても分かる幻想郷への愛。ある意味妖怪らしく、そしてある意味妖怪らしくない、そんな彼女が好きだった。いや、憧れていた。
「――そうなんだろ? ベリー」
「ッ!! ……分かんねえよ。でもそれじゃ」
舞風も、前世を覚えているのか。知って、八雲紫に関わっているのか?
だとしたなら――
「お前はどうして日本語を話せる? どうしてスムーズに土下座ができた? どうして玉藻前を知っている? そして、どうして俺を知らない?」
「ッ!!? じゃあ……やっぱり……」
「ああ、お前と同じだよ。ベリーウェル・ガラーン」
「――――」
そう、そういうことだ。
こいつもまた、俺と同じ世界から来たもの。そういうことだったのだ。何故か気が抜けるような、そんな失望感のような物が心の底から沸いてくるのを感じた。俺が舞風を知らないのもまた、元々そんな奴が存在しなかったから。
「……ま、紫の式の名をどこで聞いたのかは知らんけど、それはまぁ目を瞑ろう」
――――ん?
何故それを気にしない? 寧ろそれこそ証明するための一番手では無いのか?
……まさか、こいつは。
「……おい、東方projectって知ってるか?」
「東方? 知らんけど、なんかのグループの名前か? そんなの知るわけ無いだろ」
――やっぱり。確かにこいつは俺と同じところから来たのかもしれない。でも、知らないのだ。知らずに、こうして八雲紫に関わっているのだ。
どっと、荷が下りたような、気が削がれたような。失望感は霧のように失せた。嘘を言っている様子もなかった。あれは本心から知らないといっている顔だ。ポーカーフェイスの可能性も捨てきれないが。
改めて、こいつを疑う理由もなくなった。何も知らず、ただ人生の延長戦として舞風は生きているだけなのだ。目論見など、なく。
「それは後で話を聞くとして、間違いは?」
「……ああ、間違いないよ。多分ね」
「なんの話かしら?」
「二人して、除け者は面白く無いわ」
「なに、ちょっとしたことさ。気にすんなって」
舞風は悩みが晴れたような顔で笑っていた。思えば、そういった人物は自分以外に存在しないと思い込んでいた。子供の俺に浴してくれる人はいたけど、恐怖や望郷の想いを誰にも打ち明ける事が出来ず、寂しいと思った事だってあった。
舞風は妖怪だ。人間だったのに、人間からは忌み嫌われる存在になり、また俺と同じだったんじゃないだろうか?
「……よし、やろう。紫。結界山を幻想郷へ」
「ええ、準備は出来てるわ。後は貴方の手で操作できる」
そう言った八雲紫が手を振ると舞風の目前になんらかの、恐らく山ごと転移するための術式が現れた。そして、それに手を翳すと発光を始める。
そして、立ち上る光。拡散し、山周辺を覆う。眩い光に目を閉じてしまいそうになりながらも俺はその光景から目を離さないように。
……気のせいだろうか。舞風の頭に、角が――
「――ようこそ、幻想郷へ。我が縁者、舞風。歓迎するわ」
☆〇☆☆〇☆
「――着いたの?」
私は空を見上げた。何一つ変わらない、青い空。違って感じるのは多分気のせいではない。
周りを見れば立ち尽くし、目を閉じて何かを探るような仕草を見せる舞風と地に腰を落ち着けたベリーちゃん。
「……ああ、間違いない。転移は無事完了したみたいだな」
「八雲紫は?」
「アイツもあれで忙しいみたいだし、次に行ったんだろ……あっ、くそ。結界がダメになってるな。直ぐに直さないと」
「ここはどの辺りなの?」
「幻想郷の端の端だ。妖怪の山が近くにあると思うけど、人里は随分遠いな」
そう、と短く返し、未だに感じるその力に過敏に反応しながらも舞風を見る。
「……ベリー、手伝え。アキ、暇なら行ってもいいぞ?」
何処へ? とは言わない。何故? との理由も言わない。その目は真っ直ぐ、ただ私の何かに答えるように。
「――ええ、そうするわね。頑張って」
「散歩? 一人じゃ危なくないか? 俺も――」
「大丈夫。だからベリーちゃんは結界の修繕頑張って」
ちぇ、とつまらなそうに立ち上がると舞風のほうへと歩いていく。それを見送り、私は空に浮かび上がって山を離れる。
少し離れ、二人の姿が見えなくなるところまで来てから辺りを見る。力はそこら中から感じられる。
「――いますよね。出てきたらどうですか?」
「……言われなくとも、誘ったのは私ですもの」
再び先程のように隙間から這い出てくる八雲紫。転移をする前から私に対する視線は厳しい物だった。終わってからも私に集中した意識、間違いなく私に用が在るのは明白だった。
「用件は、なんですか?」
「……用件なんて程では無いわ。貴女がこの幻想郷にて何を為すのか、聞いておきたかっただけ」
「なんだ、そんなことですか。私は元々静かに暮らせる場所を求めてここに来たのだから、そうして暮らしますよ」
「その言葉に、偽りは?」
「ありません。それに、何を為すにしてもそれが幻想郷に仇名すことなら貴女が黙っていないでしょう? 私は自殺に来たんじゃないもの」
私の言葉を聞き、それなりに満足したのか。一つ小さく頷くとニコリと笑った。
「そう、ごめんなさいね。貴女ほどの者が来るとなるとどうしても警戒してしまって」
「警戒するほど私は強くは無いはずですが?」
「それは今の時点では、よ。そのうち貴女は幻想郷で上位を争うほどの実力者になるでしょう」
「買いかぶりすぎです」
まだ数百年しか生きていない私は目の前の間違いなく数千の時を生きる八雲紫にしてみればちっぽけな存在に過ぎないはずだ。それでも、ここまで危惧される理由は?
「確かに、妖怪としてはまだまだ若いかもしれませんが貴女は違う。なんせ、人間から妖怪になったんですものね」
「…………」
もう用も無いようだし、と私は背を向けた。本当ならこうして話すことすらあまり好まない無いようなのだから。
「一つだけ、言っておきますわ。幻想郷は全てを受け入れる」
「そう……それは残酷な事ですね」
全てを。それは喜びも悲しみも、楽しみも苦しみも、再生も破壊も、敵も味方も、ありとあらゆる物を受け入れると言うこと。
知らず知らずのうちに様々な物を内に溜め込めばいつかは破裂する。ではどうするのか?
誘われた、余計な物を切り捨てる。それを実行するのが管理者、なのだとしたら……
「八雲紫。いえ、妖怪の賢者。私からも一つ」
「なにかしら?」
「私は、貴女に、そして幻想郷に受け入れてもらったと言う意識は全くありません。
――私は彼を受け入れ、また彼も私を受け入れた。ただそれだけのことです」
背後から息を呑む音が聞こえた。それを無視し、私は結界山へ降りていく。引き止めるように後ろからかけられる声はもうなかった。
☆〇☆☆〇☆
「……大分心酔しているようね。舞風に」
私は三人仲良く結界をあーだこーだと言い合う三人を見下ろしながら、少し舞風を羨んだ。
簡単に、とは言わないが数年で彼をあそこまで信用するような友を得ているのだから。
「貴女が、この幻想郷を蹂躙するようなことにならないことを祈ってるわ。大精霊」
踵を返し、隙間へと入る。まだまだやらねばならないことは山済みなのだから――
こうして、16世紀初め。大精霊とその一行。そして彼の者の山は幻想の里へと至った。
人が気付かぬほど、奥地に……
これで君も幻想入りさっ!
ベリーウェルは前世は未来の東方オタさん。あくまで気付いたら魔女。なにそれ怖い。
よく言えば俺っ娘、悪く言えば元男。前者のが断然いい。皆後者を頭から削除してくれーーッ!!
彼の親、まぁ母親ですが、既に他界しております。即ちガラーンの名は彼女で最後。実力は未だ二面ボスくらい。ぱっちぇさんとは出来が違うんです(悪い意味で)いつか出会うときは超年上でしょう。おばはん(笑)
アキの謎。これは多分分かる人は分かるんじゃないかとよんでいます。
万が一分かった、もしくはこれかっ! と思った方、書き込まないでください。実は自分嘘が苦手なんで。って言うか良心の呵責に響くと言うか……ともかく自分からネタバレして今後つまらなくなる危険性があります。
今の時代はだいたい1520年くらいを予想してます。これより少し後か、まぁそのくらいの誤差でしょう。実はこの頃に幻想入りの仕組みが誕生したそうです。まだ博霊大結界もないから勝手に出放題なんでしょう。呼び寄せる意味なくね?
次話ですが、これから補習等あるのでやや遅れる予定です。お盆も挟みますしね。