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東方大精霊  作者: ティーレ
2.ソレハ空白ノ時ヲ経テ再ビ現世ニ舞イ戻リ
30/55

魔女と二人


くそ、遅れた一時間以上遅れた。


今回は外伝章のようなもの、と思ってお読みください。未だ課題が残る状態での投稿。


最早時系列が曖昧になって自分でも今何年くらいか分からない。


さて、どうするか……


今回は非常にシリアス、と言うより淡白?




――随分と長い生を生きた物だ、と俺はしみじみと思っていた。


ただ、もう地面にはいつくばって動くことも出来ないが。



「は、ははは。流石に、あの数はやばかったかなぁ……」



ようやく、念願の日本に来たと言うのに、こうもあっさり妖怪なんぞにやられてしまうとは。最初はよかった。問題はその後。バカスカ撃って魔力はなくなりかけ、それでも残りでなんとか撃破したかと思えばもう動くこともままならない。


お気に入りの服が台無しだ。それに杖も。これじゃ魔女なんて名乗れやしない。それでも折れた杖は抱きしめるようにして手に握られている。


まだ、百年も生きてはいないけど、随分長かった。志半ばなことが非常に悔やまれる。


朦朧とした視界の中、獣のような妖怪が茂みから姿を現したのが見えた。恐らく周りの妖怪の血の匂いに誘われてきたのだろう。


魔力も尽き、体は動かない。ここで終わりだ。俺は。



「……死にたくねえな」



ぼそりと呟けど誰にも届かない。届いたところで誰が助けてくれるわけでもなかろうに。


せめて――せめて幻想郷を見るだけでも、俺は――



瞬間、辺りに閃光が走る。


何が起きたか分からないまま、最後に誰かの小さな背中を見た後、気を失った。















目が覚めた時、一番初めに考えたのはここが死後の世界なのか、と言うことだった。


見えたのは、まるで優しげな、そう。天使のような女性。



「目が覚めました?」

「……ここは?」

「ただの山の中の小屋よ。あの子が貴女を運び込んできたときはビックリ」

「山の、小屋?」



なるほど、よく見ればそこは古めかしい小屋の内装である。それも随分と。


重い体を起こし、礼を言おうとするが、鋭い痛みが体の至る所から走る。普段運動していないだけに筋肉痛まで相まっている。



「無理なさらず。ここは安全ですから」

「本当、か?」

「ええ、なんたってあの子と私がいるんですから」



女性がニコリと笑う。その美しさに思わず見惚れる。和服を纏い、それを含め、大和撫子と言う言葉がまるで似合い、髪こそ白いが、それもまた透き通るように美しい。



「ところで貴女、この地域の人じゃないですよね? 何処から?」

「ッ!? ……異国から。こっちの国に興味があって」



これを言うと大概いい反応をもらえない。この時期はまだ日本人は異国の存在を快く思っておらず、それがまともになるのはどれだけ先の出来事だったか。


しかし、その女性はやや驚いた様子をみせると、あらあらとまるで子供を見るような優しい目でこちらを見た。



「それではさぞ大変な目にあったでしょうね。よく妖怪に狙われたんじゃ?」

「どうしてそれを?」



確かにこちらで妖怪に襲われる事は非常に多かった。向こうでだってここまで襲われたことはなかった。何か理由があったとでも言うのだろうか?



「皆貴女の持つ魔力に誘われているんですね。こっちの妖怪達は魔力や霊力を持った存在に敏感だもの」

「そ、そうだったのか……ってどうして私が魔力を持ってることが?」



驚いて半ば咄嗟にたずねていた。その質問に疑問を持ったのか女性が首を傾げる。



「どうしてって、私も魔力を持ってるからだけど、分かりませんか?」

「え、じゃ、じゃあ、貴女も魔女?」

「魔女じゃないわ。それは西洋の魔法使いを指すものでしょ? 私はそれだけではありませんから」



やや不思議そうに返答したが、なにやら俺の頭の中はこんがらがっている。


と、小屋の戸が唐突に開き、小さな影が日の光に照らされる。それは少年だった。



「おかえりなさい。どうでした?」

「ただいま! 取れたのは魚ぐらいだったぜ。残念。そこの子は目を覚ましたみたいだな」

「……お前は?」



その少年は白いヒラヒラとした衣を纏っていた。しかし裾が二の腕辺りで終わり、無骨な腕輪が両腕から覗いている。腰には不恰好な、年代物の剣一本。その顔立ちは見るだけでは男女の見分けがつかないが、恐らく男だろうと思う。


その口元には不敵な笑みが浮かんでおり、何処か胡散臭さを滲ませている。



「通りすがりの旅人さ。詳しい話は飯の途中聞くとして、これ頼んでいいか?」

「ええ、さっと炙るくらいでいいですよね?」

「ああ、焦がすなよ?」

「もう、貴方じゃなんですから」



何がなんだか分からないうちに二人はテキパキと動き出し、自ずと話は後に回される事になった。















部屋の中央に火が起こされ、そこには魚が串に刺さって置かれている。しかしそれが刺してあるのは焼くためでなく、保温である。



「ふふ、これが私の魔法です」

「…………」



魚は既に女性が起こした魔法でなんともいい感じにこんがりと焼けた状態。よくもまぁ魔法をこのようなことに使おうと思った物だと感心する。正に微量の火調整。職人技である。



「さて、それじゃまずは自己紹介といきますか。俺は――」

「私の事はアキ、と呼んでください。未だ修行中の魔法使いです」

「おいこら」

「なんですか? 貴女、この前私に自分がやられて嫌なことは他人にしないっていいましたよね? ならいいじゃないですか」

「……ごめんなさい」



お前が先にやったのかよ!! って言うか謝るのかよ!! と内心でツッコミが飛ぶ。女性、アキさんもなにやら雪辱を晴らしたかのように清清しい顔をしている。



「改めて。俺は舞風。妖怪だ。とあ――」

「妖怪!?」

「待て待て待て待て。俺は悪い妖怪じゃないよー。いい妖怪よー。人なんか食べないよー」



舞風、と名乗った妖怪は冷や汗を浮かべながら手をブンブンと振るう。確かにアキさんと一緒にいる時点で悪い妖怪、と言うわけでもないことは推測できる。


警戒を解き、つい咄嗟で探った懐に杖が無い事に気付く。



「そういえば俺の杖は……」

「あれ? 無視? 無視ですか?」

「残念だけど、あれの修復は難しいと思います。かなり破壊されていたようだから」

「そう、でしたか」



残念だと思いながらため息をつく。それなりに愛着があったのだけど。壊れたなら仕方が無い。近いうちに代用品でも捜そう。


ひとまずその話を切り、二人に向き直る。



「――俺はベリーウェル。ベリーウェル・ガラーン。魔女だ」

「魔女だ。なんつー割には一人称『俺』なんだな」

「ほっとけ。癖だ」

「そう。ベリーウェルちゃん。長いからベリーちゃんって呼びますね」

「え、あの。出来ればちゃんは止めて欲しいんですけど。アキさん?」

「私の事はアキ、でいいんですよ? ベリーちゃん」

「諦めろ。俺も時々舞ちゃんなんて言われるくらいだからな。自分含め名の半分だけな愛称が好きらしい」



舞風はやれやれというように肩を竦めていた。こいつはこいつなりに妥協してきたんだろう、と思った。同情はしないが。



「自己紹介云々もともかく、魚でも食え。取れたて新鮮だぜ?」

「……これ、どうやって取ったんだ?」

「妖怪を餌にして」

「え?」

「え?」



なにそれ怖い、と言いそうになったが。その前にアキさんが舞風の頭を叩いたので言わず終いとなってしまった。


……それにしても、妖怪を餌にした魚は食っても大丈夫なのだろうか?















「――なるほど、異国の魔女か。通りで見ない服だと思った」

「すごい物ね。向こうでは皆そういうの着てるの?」

「え、いや、これは自作なんだけど」



食後、俺は出来る限りの質問に答えていた。多分向こうからすれば雑談なんだろうが、文化が違う今何処に地雷があるのかも分からず、ついつい尻込んでしまう。


それにしても、俺の服はそんなに変だろうか? 確かに派手だという意識はある。色は赤と黒のやや毒々しく、模様はベリーの果実等をを参考にしたウィッチドレスなのだが。



「お前、派手だから狙われたんじゃないか?」

「え? 嘘、そんなバカな……」

「でも、確かに目立ちますね」

「そ、そんな……自慢の一張羅なのに」



それも妖怪の襲撃でボロボロなのだが。今はアキさんの着物を借りて重ねている状態だ。



「それはそれとして、わざわざこんな辺境の島国まで何の用だ?」

「……ちょっと興味があって」

「魔女が興味を示すほどの物がこの国にあるとは思えないけどな」



舞風が口元を歪めながらこちらを見返す。明らかにこちらを疑って、と言うよりは目的を引き出そうとしている。


恐らく言うまで確実な安全が保証されることは無いだろう。アキさんはどうか分からないが。俺は諦め、本当の目的を口にする。



「――俺が見たいのは”幻想郷”。とある妖怪が作り出したという理想郷。それを見てみたいだけだ」



それを聞いた瞬間、明らかに警戒が緩んだ。と言うよりまるではぁ? と言う言葉を口にしそうなほど眉をひそめている。



「幻想郷って、あの隙間妖怪が作ったって言う?」

「! 知ってるんですか!?」



アキさんの口から零れた言葉。それに思わず聞き返す。これは思わぬ情報を得る事が出来そうだ。正直に言ってみる物だと自分を褒めた。



「私の最終目的地も幻想郷よ。彼が幻想郷に行ったことがあるらしいからって」

「おいおい、アキ。簡単にばらすなよ」

「本当か!? 幻想郷に行った事があるのか!?」

「うぉうおうおうおう!! 落ち着け! とりあえず俺の襟を離せ!!」



つい興奮して気付けば舞風の襟を掴んだがくがくと揺さぶっていた。しかし、それほど俺にとっては重要なことなのである。



「まったく。幻想郷に何の用があるのか知らないけど、別に大した物なんて無いぞ? 人里に妖怪の山、それに迷いの森くらい」

「そんなんじゃない!! 会ってみたいんだ!! 八雲紫に!!」

「アレにぃ? 気でも狂ったか? 魔女とは言えあんなのに勝負挑んだら一瞬で隙間送りだぞ?」

「何で勝負挑むこと前提なんだよ!? 俺はただ会って話がしたいだけだ!!」



八雲紫。それは俺にとって畏怖の象徴。そして尊敬できる存在である。


一妖怪でありながら”境界を操る程度の能力”と言う世界に干渉できる能力ちからを持ち、幻想郷と言う世界を作り上げた存在。一度は会うことを夢見た存在。


しかし、俺の力説も舞風は悩ましげな顔をするだけである



「話がしたいって、アイツがそう簡単に応じるかね?」

「……お前、八雲紫と面識があるのか?」

「ん? 一応な。近いうちに幻想郷には引っ越すつもりだったし」

「紹介してくださいっ!!」



舞風に対し土下座をする。先程まではずいぶん偉そうな子供だと思っていたが、もしかしたら凄い奴なのかもしれない。




――でも、”原作”にはいなかったよな。舞風なんて。




「無茶言うな。あの気まぐれ妖怪を呼び出すだけでどれだけ大変なことか。最近は式に任せっぱなしで随分だらけてるみたいだし」

「ら……式神がいるのか」

「ああ。あいつ、玉藻前なんて式神にしてどうするんだろうな」

「玉藻前っ」



日本三大悪妖怪に認定される一体、玉藻前の悪名は有名だ。出来れば彼女にも会ってみたい。



「ま、今更俺はお払い箱だろう。旅を始めて随分長い間会ってないしな」

「……そんな」

「ま、幻想郷に行きたきゃ日本を回るんだな」

「二人も幻想郷目指してるんじゃ」

「それが舞風ちゃんったら何処にあるか忘れちゃったんだって。だから旅ついでに捜してるのよ」



期待が脆く崩れ去った。それなりに舞い上がっていたから落ちっぷりも半端じゃない。



「ま、見たところそっちも年取らないみたいだし、気長に捜しなって。その内見つかるさ。幻想郷はなんだって受け入れるからな」

「!! それって……」

「あいつが口癖みたいに言ってたよ。なんでも受け入れるって。その代わり害なすものには、ってな」



――――幻想郷は全てを受け入れる、か。



「……なぁ、俺もお前たちの旅に着いて行ってもいいかな?」

「どういう心境の――」

「いいですよ、歓迎します」

「……おい」

「いいじゃない。旅は人が多いほど楽しいですし」

「……ま、いいけどよ。ただし! 一緒に行動する以上は勝手な行動は許さないからな!」

「ああ! ありがとう!!」



そうして、俺ことベリーウェルは舞風たちと旅をすることになった。














☆〇☆☆〇☆















――時間の経過とはさぞ早い物である。たったの一週間だが、今までに無いほど早く、濃い一週間を送った。



「ベリーちゃん。火お願いします」

「分かりました。アキさん」



いつもと同じ、ボロ小屋にて俺は中央に火を起こす。それはいつもと同じ小屋だが、移動していないわけではない。備え付けられた小屋を転移結界を用いて呼び出す、舞風の能力である。


初めはそれに随分と驚いて、その正体を問い詰めようとした。その返答はにこっと笑って「自分で考えろ」の一言。数秒後にアキさんのネタばらしがあるのは毎度の事となっている。


”封を操る程度の能力”、それが舞風の持つ能力である。主に結界に関わることに万能に作用し、防御等はござれだそうだ。恐らく八雲紫と面識があるのはこの能力のおかげなのだろうと思う。



――この一週間の結論、舞風は俺より”弱い”。妖怪にしては魔力を持っているが、妖力と合計しても俺の総合量には至らないだろう。アキさんはいまいちその力量が把握できないが、多分俺と同じ、もしくはそれ以上と見た。



「魚、今日も大量だぜ~」

「おかえりなさい。舞風ちゃん」

「ちゃんは止めろって。少なくとも”今”は」

「……?」



まぁ、対して意味のあることでも無いだろう。網に入った大量の魚を見て、能力を羨ましいなと思う。舞風は能力を使って魚を掬い上げている。


俺に能力は”無い”。そもそも能力持ちは稀である。ただ、魔法を使えることだけを考えれば俺は”魔法を扱える程度の能力”を所持していることになるが、それは自分の手で身につけたものだ。生来のものとは意味合いが違う。


正直、なんでコイツが、という気にもなってくる。



「それにしても、いくら近くが川とは言え、このところ魚ばかりだな」

「文句を言ってはダメですよ? 魚だって皆生きてたのだから。感謝していただかなければ」

「今更誰に言ってるんだっての。分かってるよそのくらい」



アキさんもどうしてそこまで実力が下の相手に好意的感情が持てるのか。


いや、確かに俺の場合は助けてくれた恩などがあるが、アキさんは何故?















「舞風ちゃんと出会った時の事? どうしてそんなことを?」



気になった俺は舞風が外に散歩に出かけた合間に尋ねてみることにした。流石に腹が立たないかなんて聞けないので、外堀を埋めるように聞いていく。



「どういう経緯で幻想郷に案内してもらうことになったのか」

「……ふふ。それじゃ私は舞風ちゃんと出会う前から幻想郷に行こうとしたみたいですね」

「違うんですか?」



アキさんはこくりと小さく頷いた。その表情は曇ることなく、俺の質問に答えてくれる。



「――あの子と会ったのは数年前ですよ。その時の私にはどうしても決着をつけなきゃならない相手がいたの。それを手伝ってくれたのが舞風ちゃん。彼女がいなかったらどうなっていたことか」

「決着を……うん?」

「どうかしたの? ベリーちゃん」



あれ? と思った。何かおかしかった気がする。今の会話の中に何か違和感を感じた。


呆けているのも失礼だと思い、なんでもないと首を振る。なるほど、なんらかのきっかけがあったならあれだけの信頼を寄せる理由も分かる。あいつの能力はサポートに非常に適している。



「それで決着を果たして行き場の無くした私を誘ってくれたののもあの子。たまに変な事言うけど、いい子よ」

「そう……ですか」

「そろそろ夜も遅いわね……危険だろうし、舞風ちゃんを呼んできてくれません?」

「はい。それじゃ行って来ます」



その言葉を聞いて、俺は小屋を出た。舞風は基本開けた場所で空を見上げているときが多い。恐らく近くで夜空でも見上げているだろう。


予想は当たり。小屋を出て少しのところの原っぱに舞風は腰掛けていた。その目はやはり上を向いている。こちらの接近に気付いたのか、一瞥すると再び視線を上に戻し、手招きをした。


訝しみながらも俺は近寄り、舞風の傍に立った。



「旅には慣れたか?」

「おかげ様で、と言いたいところだけど旅自体は前からしてるんだ。とっくに慣れたよ」

「そっか。ま、それならいいけどな」



舞風はこちらを見ることなく、その口だけを開いた。その視線はやはり夜空――と言うより欠けた月に釘付けになっている。



「――なぁ、聞いていいか?」

「? なんだよ」



態度を今までとまるで改めて舞風は口を開いた。いつの間にか俺も空に釘付けになっていたが、ふと舞風を見るとその目はこちらを向いていた。



「お前、異国の人間の割にこの国の言葉に詳しいみたいだけど、何処で習ったんだ?」

「……独学だよ。書物で」

「会った日にした土下座も、書物か?」

「……それがどうしたって言うんだ」



舞風の目はぶれることなくこちらを捉えている。それが普段の無駄に活発な様子と差がありすぎて、何処か不気味に感じて仕方がなかった。



「おかしいんだよ。それらはまだいい、だけどどうしてお前が八雲紫を知っている? 式神の玉藻前を知っている?」

「人に聞いたから……」

「嘘だな。なによりお前、俺が式神のことを言い出したときに言い掛けた言葉、忘れて無いぞ? ら、ってな」

「!! 何が言いたい」

「お前、八雲の式の名前を知ってるんだろ?」



核心を突かれた……そんな些細なミスが、この場で命取りになるなんて。顔の感情が隠せない。驚きが出る。



「玉藻前の名こそ知っていて不自然じゃないけど。式神になって名を変えてからあいつの本名を知るものはほとんどいないはずなんだよ」

「じゃあ、幻想郷に連れて行ってくれないのか?」

「それは知っていると取っても? ……ま、いいんだよ。お前が何しようが八雲紫には傷を負わせることも出来ないだろうし、式神に至っても勝つことは出来ないだろう。それを聞きだしたかっただけだ。不可思議なことが大概能力で解決できるのがこの世界だからな」

「……怒らないのか?」

「何に? どう? 別にいきなり襲われた訳でもあるまいに、怒る理由も無いだろう」

「…………」



変な奴だ。飄々として掴みどころが無い。そもそも目的が分からない、がこちらを害する様子も見られない。しかし、もしも幻想郷の出身者ならば、他の者を無駄に襲わない奴がいてもおかしくは無いんじゃないだろうか?


ふと唐突に、そう思った。



「――それに、今は他のお相手がいるみたいだしな」

「なに?」



それを合図にするかのように辺りの草むらが揺れ始める。風ではない。あまりにも不自然、そしてその動きは全方位。


何者かに囲まれている。



「めんどくさいことすな。そこまで臆病な種族じゃないだろうが、お前は」

「――気付いているならば仕方が無い」



舞風の一言で風の揺れは収まり。急激に一点に集中する力。姿を現したそれは頭に巨大な角を持っている。



「まさか、お、鬼?」

「こんなところに一人、野良鬼か?」

「おま、そんなはずないだろう!!」



鬼、それは日本の中でも上位、と言うよりほぼトップを独走する恐怖の象徴。何故こんなところにいるのか。それを思考する前に、その口から目的が飛び出した。



「その人間を寄越せ。貴様にはもったいない物だ」

「――――」

「ん? ベリーのことか? そりゃなんで?」

「食らう」



地の底から聞こえるような、そんな風に錯覚するような声。すぐ近くに鬼が、俺を食らおうとして立っている。今までに無い危機に、いや絶望に、足が震える。


魔女の肉は妖怪にとってその格を上げるほどの極上なエサである。と言う事をアキさんは言っていた。霊力、魔力が人体に好影響を及ぼし、結果非常によい糧になるのだろうという考察も。


相手は鬼。あの鬼だ。見て分かる相手と自分の力の差。すぐ傍に死を感じている。



「ん~? そんなことしたら俺がアキに殺されちまうよ。お引取り願えない?」

「ならば俺に勝ってみせろ。俺が勝てばそいつはもらう」

「うげぇ。ダメだこりゃ。これだから鬼ってやなのよ」



鬼から視線を逸らせない。故に舞風がどのような形相で、そう言葉を口にしているか理解できない。


――だが、今この場においてこれは舞風において都合の良いことなのでは無いだろうか? 怪しい、俺と言う存在を消すことが出来る選択肢があるのだ。それが怖くてならない。


まだ一週間しか共に過ごしておらず、舞風のことを何も知らない。我ながら自身の保身ばかりを考えることを嫌になるが、それでも怖いものは怖い。



「そもそも、俺みたいな弱い存在に交渉を持ちかける意味って、なんかある? ほしいなら奪い取ればいいんじゃないの?」

「……強者たる物、弱者に哀れみをもってやるのも当然だ」

「うわ、やな感じ。お前絶対『鬼の頂点になる』とかほざくタイプだろ」

「……黙って聞いてやれば小生意気な口を、ガキが!!」



凄まじい形相で拳を振りかぶるその姿は正に鬼。喉の奥から飛び出しそうになる悲鳴を抑えられなかった。


しかし、それはなんなく止められる。その空間には何も無い。何も無いのに。停止する。



「血の気が多いぞ子鬼さん。個人的には鬼とやりあうのは色々嫌いなんだけど――」



舞風が腰の剣に手を当てる。胡散臭げな笑みを、そして溢れんばかりの苛立ちをその目に込めて。



「――柄の悪い子供を更正するのも大人の役目。俺は伊吹鬼みたいに同族に優しくないぞ?」



小柄な体なのに、まるで鬼よりも巨大に錯覚するほどの圧力。舞風は一歩踏み出した。















――圧倒的である。


圧倒されているのは鬼、圧倒しているのは舞風。まるで鬼が子供のようにいなされ、舞風は全ての攻撃を捌いている。


よくよく見れば鬼の攻撃は非常に単調だ。妖力とガタイの大きさには騙されたが、まるで素人の力任せの戦い方。それは硬い物を砕けど、素早い物に触れることが出来ない。



「ふっ!!」

「!!」



また一太刀、鬼の体に斬撃が繰り出される。そのどれも鬼の強靭な体を断つには至らないが、確実にダメージを与えている。正に蝶の様に舞い、蜂の様に刺すを体現したような攻撃法。


そして、この場唯一の足手まといとも言える俺は舞風の結界によって守られている。その攻防に俺は目を奪われていた。



「ちょこまかとっ、貴っ様ぁぁぁ!!」

「はいはい子鬼子鬼。口ほどにもねえとは正にこのことだ~」

「っく、当たりさえ。当たりさえすれば――」

「そう? 試してみる?」



舞風が動きを止め、地に足をつく。声を聞いたか。それとも反射か。鬼の拳が真っ直ぐに舞風を捉え、その顔に炸裂……はしない。


軽々しく、舞風の腕で止められた。あの強靭な鬼の拳がだ。



「なんだ。本当に口ほどにないな。こんなんで弱者を哀れむとか言ってるんだから笑いしか出てこないよな~」

「な、何故。まさか貴様、鬼だとでも言うのか!?」

「俺に角が生えてるように見えるのか? だとしたら相当お前の目は腐ってるな」



舞風は余裕に溢れている。相手が鬼にも関わらず、圧倒している。力ではない、技を以って。



「今退くなら見逃してもいいけど、返答は如何に?」

「……誰がお前のような雑魚に」

「わぁお。こんなにも頭がファンタジーな鬼も久々に見たぜ。じゃ、後悔してろ?」



舞風が掌をそれに向ける。鬼は圧倒的に不利なのに畏怖も後悔も抱いていない。それは自らの命をベットにして己の敗北を悟ったなら、まだ俺はそいつを誇り高い鬼と認識できたはずだ。


しかし、その口元は歪んだ。狂笑が浮かんでいた。



「っむぅ!?」



突如、背後からの衝撃。組み伏せられるように大地に顔を埋める。なんとか首を捻り、押し倒した当人を見る。


それもまた、鬼であった。



「……おいおい。もう一人いたのかよ」

「貴様のような奴に対してあるまじき行為だが、敗北こそ耐え難い。故に貴様らはここで死ね」

「分かってるならやるなよっと」



舞風がその手の剣を捨てた。武装を解除した。そのまま手を上げた舞風の顔に叩き込まれる鬼の拳。その体が飛んだ。


ぐるんぐるんと何回転かした後、うつ伏せに落ちる。



「おい、そいつは抑えていろよ」

「分かった。さっさと終わらせろよ」

「まぁ待て。これまでのお礼をたっぷりしてやらなきゃ気がすまん」

「――――」



何と言うことだろうか。自分のせいでこうまで戦況が反転してしまうなんて。不甲斐なかった。こんなにも無力を呪ったことも無い。



「あいたたた……いきなり顔って、一生門の傷でもついたらどうして――」

「舞風!?」



のっそりと立ち上がろうとした舞風の顔面に、顔面だけに拳を叩きこんでいる。口元から声が零れた。


殴打の音。延々と。目の前でなぶり続けられる。そしてその様をただ見続けさせられる。自責に駆られて心が壊れそうだ。



「あいだ~……お前言ってたことがまるで違うな」

「口の減らない奴め……その余裕の顔が歪むのが楽しみだ」

「何を――」



鬼が舞風の腕を掴む。両手で掴む。端から見ればまるで万力で締め付けるようなメキメキと言う嫌な音が鳴る。今にも耳を塞ぎたくなるような音が聞こえる。




もげた。いや、捻じ切れた。




「――――」



不甲斐ない。不甲斐なさ過ぎる。どうしてこうなった? どうしてこんなことになってしまった?


俺だ。俺が何も出来ずまんまと捕まってしまったから。舞風が俺より弱いなんてどの口が言った? そんな考えはもう頭の中には存在しない。


腕が切れようがその顔から余裕の笑みが消えることは無い。しかし心なしかその顔は苦痛に歪んでいるように見えてくる。



――――俺は何をしている?



「――――」



ドレスのポケットに入れておいたソレ・・を取る。それは俺が残しておいた唯一の切り札。


触れればそれでいい。トリガーは自分おれ言霊せりふ




「――――『魔符』」




それはまだこの世に無いはずの、俺の唯一の試作品。


『東方project』と言う二次作品の、スペルカード。





「――――『アウター・ウィッチ』」






衝撃。



それが俺を抑える鬼の体を弾き飛ばし、更なる遠くへと吹き飛ばす。


スペルカード、魔符『アウター・ウィッチ』。今現在、俺の唯一の切り札。


それは俺の周りをくるくると停滞しながら魔力の砲弾を鬼に浴びせる自立式魔法砲台。


その数、たったの三つ。それが俺の限界である。


何が起きたか分かっていない鬼を尻目に俺は舞風を見る。その顔は暗くて見えなかったが、それでも届くように心の底から声を出す。



「――――」



出す、ことも出来ず魔力切れ。発動の時点で大半の魔力を持っていかれるこれは所謂失敗作。これを使ってはもう打つ手がないからこそ使いたくは無かった。


鬼はゆっくりと立ち上がり、こちらへと歩み寄ってくる。今度こそ、動けない。


死を覚悟した。その時である。




「あらあら、そこの方。その子をどうするつもりかしら?」



声は背後。舞風が嬲られていた方から聞こえてきた。聞こえてくるはずの無い女性の声。しかし、それはアキの声とは少し違う。


振り向く力は残っていた。だから振り向いた。そこにいたのは見たことの無い女性。でも、既視感を感じさせる女性。



「聞いているの? その子をどうするつもりかしら?」



既視感の正体に気付く。彼女が着ている服は似ているのだ。舞風が着ていた服に。その手に持つ剣も、黒い髪も。


視線は僅かに逸れ、それより更に奥へ。そこにあったのは、何者かを閉じ込めるように存在する透明の箱。



「――まぁ、いいわ。私は貴方を、そしてあの鬼を責めないわ。だって妖怪ってそういうものだもの。だから――相手が悪かったと、思いなさい」



――そこから先の記憶は無い。















既視感デジャブである。また俺は古臭い小屋の天井を、そして天使の如く美しい女性を見上げていた。



「大丈夫? ベリーちゃん。一応酷い怪我はないらしいですけど」

「怪我……? 俺って、どうして」

「鬼に襲われたの。覚えてませんか?」



そこでハッとし、半覚醒の頭は無理矢理に目を覚ます。起き上がってみれば僅かに痛む節々に顔をしかめる。そこはやはり一週間ながら見慣れた小屋の中。


いつものもう一人の姿は、ない。



「アキさん!! 舞風は!?」

「? 舞ちゃんなら外ですよ?」



痛む体など気にも留めず、俺は布団から這い上がり、小屋の外へと飛び出す。背後から制止の声が聞こえていたような気がする。


そこに一人、立ち尽くしていたのは、一人の美しい。黒い翼を生やした女性。荒々しい音に気付いたのか、こちらを振り向いてニコリと笑う。



「目が覚めたの。随分早かったわね」

「貴女は?」

「舞風よ」

「…………へ?」



あろう事か。目の前の美しい女性はあのちんちくりんなガキの名を名乗るのである。こんな恐ろしいことは無い。


俺の疑わしげな視線に気付いたのか、疑わしげな表情からぶすっとした表情に一変し、こちらをじとめで睨んだ。そうして腕を組む。胸の大きなものが自己主張するかのように持ち上げられる。



「どうしてそこまで疑うのか……着てる服だって一緒でしょう?」

「それは……そうだけど」

「どんな虚言であろうとそれを嘘であると判別するまでの頭は持ちなさい。ベリー」

「…………」



この言い方、間違いない。舞風だ。腕を組み鼻を鳴らすその様も何処か面影がうかがえる。


僅かな間呆けている後ろから抱擁される感触。首の後ろの辺りに何か柔らかい物が――



「もうっ、病人なんだから勝手に出てはいけません」

「あ、あ、アキさん!?」

「舞ちゃんも、早く中に入りなさい」

「アキ、舞ちゃんはやめてといつも言ってるでしょう? 全く……」



ぶつぶつと文句を言いながら舞風、さんは小屋へと入っていった。


それを見たアキはおかしげに笑い、俺の手を引いて小屋へと歩いていく。



――この日を経て、俺の中で舞風と言う存在の認識は格段に上方修正が為された。












なんだか無理矢理感every day.私はどうすればいいんだろう?


舞風無双。ただの「鬼世界の神になる」なんていう夢想家には負けられないとです。


オリキャラかける2登場です。若干反省していますが、いずれ出すつもりだったので後悔はしていません。



簡易紹介みたいな↓


・アキ(本名未登場)


見た目は綺麗なお嬢様。大和撫子。でも髪は白い。おっぱい大きい人。包容力がある。ポジションは優しい、でも怒ると怖いお姉さん。着物を着てる。戦闘方法はまた今度。


本名はいつか……多分、きっといつか、登場する、はず。



・ベリーウェル・ガラーン(通称ベリーちゃん)


魔女の少女。魔法少女では決して無い。でも幻想郷にいるのは魔法使いだけって言う。捨虫と捨食は習得済み。でも飯は食う。


来ているのは赤と黒の色彩のウィッチドレス。髪の色は……印象的には金。


ポジションは次女、もしくは三女くらい。少なくとも長女っぽくはない。そもそも娘じゃないけど。


実は日本に来た理由は幻想郷のためだけじゃない。それについては曖昧な時系列と共に考察なさってください。


とんでもないくらいバレバレですが、彼女は舞風と似たようなものである。




☆おまけ


・舞風 (八雲 舞風)


今現在は八雲姓の舞風さん。でもこれはあくまで応急処置。そのうち自分で考える。でももしかしたらのらりくらりと利用するかもしれない。


ポジションは通常状態が背伸びのお父さん。天狗状態が母、もしくは長女。


見た目はやや女っぽい顔に首下まで隠す程度に伸びた髪、しかし仕草はいちいち男っぽいと言う。服は無駄にひらひらした白い服。喪服とはまた違う。言うなれば一枚の服に無駄に布を貼り付けたようなデザイン。背中はまるでマントを何十にも重ねたようにとにかくパタパタとうざい。腕の拘束腕輪を強調するために半袖。妙に合っていない。


下も細部が無駄にヒラヒラしたズボンを採用。ダボダボ。でも丈は一応あわせている。腰の剣は特に設定がないが、強いて言うなればけーね先生が持ってるあれなんかを小さくした感じ。あと無骨に。



ここまで書けばいいだろう、誰か絵を書いてくれないだろうかと言う勘定がダダ漏れである。



※アキの口調が固定されないため、ちょびちょび修正中

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