妖精と能力
再編。元々2話あった部分を繋げ直しただけなので、面倒な方は読み直す必要もありません。
さて、こうして前のを振り返ってみるとそれなりに違和感を感じると言う……
「ま~い~か~ぜ~っ!!」
「はいはい。今行きますよ」
寝床から抜け出して、瓶に溜められた。水で顔を洗う。朝、と言う符雰囲気が小屋の外から表れており、清清しい気持ちになる。
――真可との出会いから数日が経過した。
味方をやっつける妖怪を追い返して俺ってば人気者!! ――と言う展開をあわよくば予想していたのだが、実はそうでもない。むしろ受け入れがたくなってしまったようだ。
自分以外の話なので本当は何とも言えないが、妖精は記憶力が悪い。それも格段にだ。昨日あったことを覚えていればいいほうで。妖怪をやっつけたのが自分とは覚えてもらえなかったのだ。お前ら頭の中は年中お花畑ですか? それは俺か。
オプションに痛みがあるせいか、真可を覚えている者の方が多く。妖精達にしてみれば俺は「自分達を攻撃した妖怪と一緒にいる奴」と言う立ち位置らしい。だからといって真可との付き合いをやめなかったせいか、どうにも嫌われてしまったようだ。コミュニティーに帰ろうにも一人覚えてればそれがだんだんと広がり、追い出される。出来れば妖力弾は止めて欲しかった。
そうなってしまうと今までどおり湖で一緒にぷかぷかと浮かんで寝ることも出来なくなり、しぶしぶ山の上で一人孤独に寝ることになったのだが、それをよしとしなかったのが真可で、俺はほぼ強制的に真可のねぐらに連れて行かれた。
どうにも俺は真可の中でも上位に位置する面白い奴らしい。高評価を受けるのはありがたいが、遊びの一巻として決闘が追加されたのは中々に忍びない。そろそろ妖精の人権を持ち出してみようと思う。妖精だからダメなんて言われたら黙って枕を濡らすしかない。
だが、初めてそれらしく語り合うことができる友人ができたのは非常に喜ばしい事であった。前の世界での部員と同じくらい気さくで、時に姉のよう(体格差的な意味で)に、時に妹のよう(知識的な意味で)に接していた。
「準備できたぞ~」
「よし! なら行こう! すぐ行こう!」
こうして同居に近いことをしておいて、文句はない。しかし、お互い男と女なのにいいのか? と質問した時、「舞風なら大丈夫!」とお言葉をいただいて嬉しいような悲しいような気がした。そもそも異性だと思われてないのかもしれない。妖精だし。今では服も貸してもらっている(布を直接体に巻きつけるようなものだが)
真可と共に過ごすようになり、山では沢山の知り合いができた。真可と同じ天狗だったり、熊や猫の妖怪――一般的に妖獣と呼ばれるらしい――だったり、最上に居座る鬼と呼ばれるものだ。俺以外の妖精はいない。これなんて疎外感?
当然ながら初めは様々な目で見られた。奇異の目、見下す目、更には敵視の目もあった。しかし、真可が俺を友人だと宣言してくれたお陰でそう言った目は随分と減った。たまに岩が飛んでくるくらいだ。せめて石にしてください。
一週間、二週間と時間が経てば経つほど嫌な目は減っていった。これは大変喜ばしいことだ。皆俺がただの妖精でないことをなんとなく理解したのかもしれない。今度高笑いしながら敬え下郎と言ってみようと思う。
しかし一ヶ月。されど一ヶ月。この一ヶ月で俺の周りの状況は随分と変わっていくのである。
「真可。天正様が呼んでるぜ?」
そう言ったのは何処からともなくやってきた烏天狗。この山の住人の一人である。名前は知らない。基本的に真可以外は名も知らぬ知り合いだ。
「天正様が? なんの用だろ?」
「真可。またなんかしたのか?」
「し、してない! もう天正様の寝床を吹っ飛ばしたりなんかしてないよ!?」
「……そんなことしたのか」
天正、と言うのはこの山の頂点の鬼のことだ。最初に真可に鬼だと聞かされていたからどんな人かと思っていたが普通に気さくなお兄さんでした。なんでも「皆の力を集める程度の能力」と言う個人に起こりうる特殊能力らしきものを持っているらしい。それなんて元気玉?
この山で俺に好意的に接してくれるのは天正と真可を含めて片手で数えられるほどだ。皆妖精という格下の存在を好きにはなれないらしい。まぁペットのような目で見られるのも嫌だが。
閑話休題。
俺と真可は雑談しながら天正のところへ向かった。彼とはたまに会った時に話はするが、呼び出されるのは始めてである。天正は山の天辺に小屋を構えており、そこに行くまでは飛んでいった方が非常に楽だ。実は入るのは初めてで、真可もそうなのか妙に緊張している。何故か真可を含めるほとんどの妖怪は天正をまるで神さまのように見ている。いや、確かに尊敬できるのは分かる。しかし、ああも恭しく対応するのはやりすぎと言うものだ。
真可が天正の小屋の戸を叩き、中に入る。俺もそれについて行くとそこには地べたに座り込んだ天正がいた。
「おはよう天正」
「ああ、おはよう舞風くん」
さわやかなスマイルを振りまきながら挨拶を返してくれた。その頭には唯一鬼と呼べるべき角が耳の上辺りから一本ずつ生えており、弧を描いてもう少しでくっつきそうだ。因みに俺が嫌われる理由の一つに失礼だからと言うものがある。天正が気にしてないんだからいいじゃないか。でも髪が白かったから前に白髪って笑ったら凄まじい形相で睨まれた。今後は自重しようと決めた。
「て、天正さま。おはようございます。私達を呼んだ理由は如何に?」
「うん。それを今から話すから、そこに座ってくれ」
気性は穏やか。笑顔は爽やか。歩く姿は一流ホスト。これなんて主人公補正? そんな彼はやはりこの山の天辺なだけあって一番強い。それこそ山の妖怪全てが束になっても勝てないほどにだ。滲み出る妖気は隠し切れず、彼の周りに漂う。真可もそれに圧倒されているのか、それともやはり緊張か。「ひゃい!」、と返事をすると天正の前に座った。因みに俺は怖くない。短い付き合いながらこの天正の人柄を理解しているから。
「さて、話の内容は君達自身のことだ。君達は己の中にある力の大きさに気付いているかな?」
「力……ですか?」
いきなり何を言い出すのかと思ったが真可はまるで心当たりがあるように表情を曇らせた。俺の場合は前世の記憶がある以外は結構普通だと思うんだけど。
「ちょっといきなり過ぎたね。君達は自分が他の皆と違うと思った事はないかい?」
「……はい」
「まぁ……たしかに」
「君達は特別に力を持っているんだ。僕と同じような、ね」
「天正様と同じ、ですか?」
今度こそ本気で何を言い出すのかと思った。確かに俺は他の妖精とあらゆる面で異なっているが、力は普通の妖精と差がないことを知っている。
「真可はともかく俺は勘違いじゃない? 俺はただの妖精だぜ?」
「そうは言うが、普通の妖精は君ほど頭は回らないよ。言っちゃ悪いが普通じゃない」
オーマイガッ!! 何気に普通じゃない発言をいただいてしまった。意外とショック。確かに自覚はあるけども。
それにしても天正と同じってことは能力と言うものを持っていると言うことだろうか? それを考えると自分にどんな能力が備わっているのか気になったりしている。そこで俺は真可が黙っていることに気付き目を向けた。
「……真可?」
「っ!! なんでもないよ舞風」
いや、どう見てもなんでもなくなかった。俯いたまま歯を食いしばり、何らかの感情に震えているようだった。多分怒りではないと思う。
「天正。それは確かなのか?」
「……絶対、とは言えないと思う。だが少なくともこの山の他の妖怪よりは可能性が高い」
「それで。もしそうだとして俺らに何をさせたいんだ?」
真可が驚いたように俺を見る。天正は驚いた様子はなく、俺を射抜くように真っ直ぐ見た。えっ? それそんなに驚くこと?
「……どうして、僕が何かをさせようとしていると思ったんだい?」
「天正。俺だって短い付き合いながらアンタが戦いをあまり好まない妖怪であることは知ってる。そんなアンタが俺達に力の素養があることを教えるなんて、普通はない。
――それこそ、一人ではどうしようもない敵が現れたりでもしない限りは」
その場を沈黙が支配する。天正はその笑みを消したりはしなかった。だがその沈黙がどれほど続いたか分からなくなってから一つ息をついた。
「君は、本当に妖精とは思えないね。意外と僕より年上だったりしないかい?」
「生憎俺は生まれてからおよそ一月のピチピチだ。この山で一番若いぞ」
「それこそ信じられないよ。まぁいい。君の言うとおりだ」
天正は嘆息すると諦めたように、語り始めた。
――この山からそう遠くない、山を更に二つほど越えた山に俺達とはまた別の妖怪の団体がいるらしい。そことは昔はよく交流を行っていたが、最近は疎遠になっていたらしい。しかし、つい最近そこから使者が来た。
既にその山は他の妖怪に乗っ取られていたのだ。その乗っ取った妖怪の頭領はとんでもない戦闘狂で、使者に、「次はお前達だ。月が満月を描くとき、それを命日だと思え」的な伝言がきた。つまり、そう遠くない未来に敵がやってくるのだ。どうも相手方の頭領も天正と同じ鬼らしい。
逃げるにはその先がない。迎え撃つには戦力が足りない。どうしたらいいかと頭を悩ませ苦渋の決断ながらこれを選択したらしい。
「一応聞くけど、勝算は?」
「……ほとんど、ない」
天正の無表情に近い表情を見て、俺はため息をついた。
彼はいい鬼だ。いや、優しい奴だ。だからどちらかと言ったら多分人の上に立つ器じゃないんだろう。誰だこいつを鬼なんて言った奴は。まぁ確かに鬼だけども。でも、こいつはいい奴だから。背負ってしまう。この山のリーダーとしての責任を。
「ま、どちらにせよ。何もしないわけにはいかないか」
「舞風くん……」
「だけど、あんまり過度な期待はするなよ。俺はある意味限界値が低いんだからさ」
「私も、私もやります! 舞風がやるなら、私にできることがあるのなら」
俺達の答えに天正は笑顔で頷いた。今日この日より、逃げ回るためではない、戦うための特訓が始まったん。
痛く無い程度に頑張ろうと思った俺は悪くないと思いたい。
☆〇☆☆〇☆
アレから更に数日後、訓練が想像以上に激しくて二回くらい死んだかと思いました。まぁ妖精だから死なないんだけど。
あれから侵略者の話は山中に広がった。俺が口を滑らせた訳じゃありません。天正が公言したんです。
次の満月の時、近隣の山の侵略者が攻め込んでくる。各々で準備を怠るなとのことだ。それからは山はいつも以上に活発になる。まるで山中お祭騒ぎだ。やってるのは訓練だけども。
あれから訓練の賜物があった。とうとう能力が発現したのだ。真可のだけど。
彼女曰く、「譲渡と譲受を操る程度の能力」だそうだ。これもまた天正のものより質が悪い。
天正の能力、「皆の力を集める程度の能力」には発動条件がある。それは力を収集する相手に信頼的な感情を抱いていることだ。この条件から敵や天正が会ったばかりの者からは力を集めることができない。
しかし、真可の能力は違う。これはある意味無感情なビジネス的なものに近い。信頼などの感情は必要あらず、肯定の有無さえ伝えてくれれば誰でも対象にできる。譲渡もまたしかり、自分が相手に譲り渡したいものを自己完結で譲渡できるのだ。だが、この能力の一体何が質が悪いのか?
それは天正のものとは違い、力以外を対象に出来るからだ。つい最近実験を称して真可の能力の訓練を手伝った時、彼女はなんと自分の足の怪我を譲渡しやがったのだ。すぐに再生する俺だからよかったものを。だがこれが戦闘に役立つのもまた確かである。なんと言ったって自分の怪我を治し、尚且つ相手に怪我を負わせるのだから。一撃で昏倒でもさせない限り、彼女に勝つことはできない。
―そう思っていた時期も、まぁあったっちゃーありました。
「ほらほらほらーー!!」
「待っ! ちょっと待った!!」
朝早くから俺達は戦闘訓練――を称した遊びに夢中になっていた。
皆訓練に勤しんでいるのか、前みたいに見かけることが少なくなった。今では毎日真可と一緒に訓練漬けだ。真可も寂しいのかたまにそんな感じの顔になる。
真可は能力が発現して以来、俺に負けなしの戦績を誇っている。全く、感服でござる。はてさて、そんな俺は能力の発現する予兆すらない。とは言っても真可に予兆があった訳でもないのだが。
天正の話を聞いてみるとそもそも能力はふと頭に浮かぶものであり、発現自体いつになるか分かったものではないらしい。しかし、天正はそれを滝に打たれて瞑想した結果によって現れたと言っている。アンタは一体何者だ。
そういう訳でハードな特訓さえしてればそれに近いものを得られるかもしれないとのことで結局は毎日訓練だ。筋肉痛がないのだけは救いである。そう言えば筋肉痛がなきゃ筋肉が発達しないんじゃあ……
まぁそんなどうしようもない事を考えながらも真可の視界を埋め尽くすほどの妖力弾が迫ってくる。最近彼女は俺に恨みでも抱いているんじゃないかと最近思い始めてきた。そうでもなきゃこの弾幕はハード過ぎる。痛いものは痛いんです。ハッ! もしかしたらこれは巷で噂のヤンデレか!? そうだったのか! 謎は全て解けた!!
「舞風、次で終わりにするよ!」
「って、んなわけねえですよね~」
真可の宣言の直後、俺の体が一気に重くなる。真可の能力で疲労などをモロモロプレゼントされたのだ。俺はドM気質じゃないのでぶっちゃけいらない。そして、動きが鈍ったその瞬間に一気に畳み掛ける。それが真可の仕留め手だった。
くどいようだが、当たっても痛いだけだ。まぁかなり至上のごとき(嫌な意味で)痛みなのだが。最近は再生するのが早くなっていた。しかも湖の上に浮かぶのではなく、倒された場所で寝そべるようになった。
俺はとうとうあの湖から追い出されたのかもしれない。なんだこの自分だけ授業参観で親がいない気持ちは。馬鹿なの? 死ぬの? 現在進行形で死にそうです。主に俺が。ああ、またか。また服を一着失うのか。いくら見た目10歳以下の子供の体だからと言って俺の裸体を直視するのだけはもう止めてもらいたい。
嗚呼、目の前が真っ白に――
「だから痛いのはいやだって言っただろうがーーっ!!」
”封を操る程度の能力”
気付いた時、やはり俺は寝そべっているのかと思いきや、先程の風景がそのままあった。真可が驚いたようにこっちを見ていた。
あん? もしかしてもしかしなくても今のって……
――こうして俺の能力、「封を操る程度の能力」は発現したのであった。
☆〇☆☆〇☆
「封を操る程度の能力」、それは真可や天正の能力とは全く違った。
例えとするならば天正や真可の能力を行動としよう。俺の能力はそれを止める。その為の能力だ。与えることができず、止めることしかできない。
言葉の一つとして、封印と言うものがある。それを意識してもらえばいい。俺の能力とはありとあらゆる行動を妨害できるのだ。指先一本止めることから飛んでくる弾丸を止めることまで。
ぶっちゃけ俺も一応は喜んだ。真可に関しては狂喜乱舞するほど喜んだ。いやはや、こうも喜んでもらえたならば痛めつけられた甲斐が……あるわけでもないか。
因みにさっき真可の攻撃を防いだのは一時的に俺と言う存在と外の空間との間を封じたから。ようするに簡易結界と思ってくれて構わない。なんと言う素敵パワー。これからも俺を守ってください。
「やった! これからはもっと本気で攻撃しても大丈夫だね」
能力と引き換えに氷河期並みに厳しい世界に突入だ。現実って厳しい。