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東方大精霊  作者: ティーレ
2.ソレハ空白ノ時ヲ経テ再ビ現世ニ舞イ戻リ
29/55

舞風と妖山



タイトルは”あやかしのやま”と呼んで(くれるといいなぁと言う勝手な注文)



今回も題通り(?)です。今回も多分誤字あるんだろうなぁ、と思います。一応三回くらいは見直しました。


微量の厨二要素があります。ご注意ください。







「――なあなあ」

「んー? なんだい?」

「なんで鬼って豆に弱いの?」

「知らない。でも痛いものは痛いよ」

「なんでなんだろうなー?」

「さぁ? って言うかなんでいきなりそんな事を?」

「暇だから」



本日は晴天である。まごう事なき晴天である。そんな空の下、俺は伊吹とともに森の中を歩いている。


さて、何がどうして俺がこの酔いどれ鬼幼女と歩いているか、説明せねばなるまい。いや、むしろ聞け。でないと針千本飲ます。


あれは、前日の事である。最近だとか言うな。












「――頼み? 昨日起きたばかりの俺に?」

「ええ、本当なら私が行きたいけど、今日は藍と行かなければならないところがあるのよ」

「因みに何処へ?」

「妖怪の山よ」

「却下」

「却下は認めないわ」



目覚め、藍の作った朝ごはんを食べていればこれである。八雲の人使いの荒さは今に始まったことではないと理解しているが、まさかここで俺を使ってくるとは思わなかった。普通だったら「後一週間くらい安静にしてなさい」、とか言わない?


……八雲に期待するだけダメか。



「大丈夫よ。それほど難しい用件じゃないもの。詳しい話は萃香に話しておいたから」

「……ん? 伊吹も? なんで?」

「本人の希望よ。同行させてほしいって」

「チェンジで」

「却下よ」



どうして俺の意見はこんなにも通りにくいのだろう? なんらかの事象が働いているようにしか感じられない。



「ま、そういうことだから頼むよ。舞風」

「……」



どうしてこうなった。その言葉を口に出したくも歯噛みした瞬間である。



「ま、簡単な挨拶回りとでも思いなさい。妖怪の山は幻想郷の中でも巨大な組織よ」

「挨拶、かぁ。嫌な予感しかしないんだけど」



基本的に妖怪とは実力主義である。そりゃ人権もなんもまだない社会。人間の格差のように妖怪にも実力の格差はある。結果、強い物がトップになる。


それではそのトップに挨拶する。それは大体どういうことであろう? わざわざトップになるなんて相当好戦的である。そんな奴に挨拶。そうなると?



「……そういえば貴方。姓を持ってないのよね」

「なんだ? 藪から棒に」

「そうでもないわよ。姓もないような妖怪を使いに行かせたと思われたら問題が起きそうだし……仕方ないわね。今限定でこう名乗りなさい――」












「――八雲姓、ねえ」

「何ぶつぶつ言ってんだい? 妖怪の山はもうすぐだよ」

「あぁはいはい。今行きますよ。ったく」



こっちとしてはこれから八雲をなんと呼ぶべきか試行錯誤を繰り返しているというのに、暢気な物である。豆のくだり? さて、なんのことか。


やや憂鬱なまま顔を上げる。聳え立つ大きな山。辺りが基本的森だけなことに比べ、やはり圧巻である。しかし、それはそれ、である。


それにしても、最近は友人に自分の姓を与えられるのか? その辺り非常に悩ましいが、自分の式神に八雲姓を与えている辺り、まぁ俺もその枠組みに当てはまらない訳ではない、のかもしれない。


なにはともあれ、無茶苦茶なことは確かだが、今は頼まれたことをパッパッと終わらせてしまおう。



「――ここから先が妖怪の山だよ」



伊吹が立ち止まる。より一層自然が茂り、辺り一体霊気が満ちている。霊山のような物なのだろう。


では先に進もう、と一歩踏み出した時、伊吹がふと思い出したように手をポンっと叩いた。



「そうそう。私は先に行ってるからね」

「へ?」

「だから一人で頑張って上ってきな。舞風」

「ちょ、おまっ」



突然である。とんでもないことにそのまま伊吹は霧状になり、消えてしまった。恐らく能力なのだろうが、そんな事は些細なことだ。



「ふざけんなーーーーッ!! こんなとこに放り出されたら迷子になるわーーーーッ!!」



叫びは悲しくも山に反響し、後に残ったのは風にまぎれて聞こえた伊吹の笑いを抑えた声である。


そして始めてきた山に一人置いていかれ、寂しくも上っていくことになる俺である。



「……うわー。帰りてえ」



会話なく 静けさ虚し 山の中。一句である。なんか妙に馬鹿馬鹿しくなってきた。茶番に付き合わされている様だ。


それでも行かない訳にもいくまいと歩みを進めていく。空を飛んで楽をしたかったが、これから会いに行くと言うのにそれはなんだか失礼だろう。人様の土地を勝手に飛び回るなんて。


歩くのはいいのか、なんて聞かないでほしい。



「全く、いい森だよチキショー」



妖怪の山、人が聞けば灼熱焦土の地獄でも想像しそうだが、実態はこんなにも穏やかな森である。流石にそんな場所は妖怪だって嫌だ。種族によるやもしれないが、少なくとも天狗は好まないだろう。


空気も澄んでるし、霊気も満ちてるし、果てには瑞々しく茂った自然。


思わず結界山と比較してみたくなる。そう言えば随分帰っていない。どうなっているだろう?


……随分と遠い。山の天辺がかすんで見える。歩けば一刻はかかりそうである。どうして伊吹だけ一人で行ったのか……



「……うわー、嫌な予感しかしねぇ」



ぶつくさ言っても早くは着かない。現実は常に非情なのだ。泣く泣く歩みを進めていく。


今日は帰ったら藍の尻尾もふもふしてやる。















「――止まりなさい」

「お?」



半刻は歩き、ようやく山の住民達に会うことが出来た。天狗。それもただの天狗ではない。白狼天狗である。


通常、天狗は翼を生やし、鼻が長い物だと書物には書かれているが、実際は鼻が長い方が稀である。少なくとも大天狗くらいだ。


白狼天狗は名の通り、白い狼をそのまま人型にしたような妖怪である。その力は天狗の中では弱く、基本使いっぱしりである。


いつの間にやらこちらを囲むように展開しており、一人の白狼天狗――恐らくリーダー――が一歩前に出る。



「なんだなんだ? ようやくお迎えか?」

「迎え? なんのことか分からぬが、ここは妖怪の山。無関係な者は今すぐ立ち去れ。これは警告である」

「……ゑ?」



驚きである。伊吹、なんのために先に行ったんだ? 俺が思いっきり侵入者扱いなんですが?


しかもこいつら、哨戒しょうかい天狗だ。厄介な奴等に出くわしてしまった。



「あ~、聞いてない? 伊吹からなんも聞いてないの?」

「伊吹、萃香様のことか? 先程そのうち山に侵入者が来る、と言っていたが、貴様か?」



お前が元凶か。謎は全て解けた。後で絶対ボコす。



「僕悪い妖怪じゃないよー。ちょっと挨拶にいきたいだけよー」

「忠告を無視するならば攻撃を仕掛けるが、いいのか?」



ちょ、酷い。この白狼天狗のお姉さん酷い。


その白狼天狗の言葉を境に辺りから問答無用と言う空気が流れ始める。見ればその場の全員が臨戦態勢に入っていた。


先程の様付けを見る限り、伊吹はそれなりの地位の鬼なのだろう? そんな者の注意で警戒し、そして敵を見かけたりしたらどう思われるだろう?


伊吹萃香が警戒するような妖怪、と思われたりしないだろうか? 故の一度だけの警告。元々逃げないことを前提にしていたのかもしれない。


だとしたら、これは伊吹の悪戯。帰って後日、なんてことは簡単だが、このまま帰るのも……癪だ。



「……俺ってば病み上がりなのに……どうしてこうなるんだか」



はぁっ、と一つため息をつく。本当ならこのまま形振り構わず突っ込んで蹴散らしたいが、白狼天狗は悪くない。上司の言うとおり警戒しただけなのだから。



「ま、なんと言われようと。舞風一匹通りまーす」

「かかれ!!」



号令と共に飛んでくる妖力弾の弾幕。避ける隙間などまるでないそれを見て、やっぱりため息をついた。



「やっぱ、帰ればよかったかな……」



ボソッと一言。時既に遅し。


――弾幕が着弾。そして轟音。山が揺れた。















☆〇☆☆〇☆














「――ん。やっと着いたんだ」

「やっとだよ伊吹コノヤロー」



眼前には見た目やや疲労感の見える舞風。その周りには恐らく山のほとんどの白狼天狗が集結していた。



「まさか白狼天狗全ての攻撃を全て防ぎきるとはねえ。予想以上に根性がある」

「……そりゃどうも。こいつらはただ上司に命令されただけ、なら攻撃するわけにはいくまいよ」



そう、舞風は攻撃することなく、この山の、私のいるところまでたどり着いた。数十の白狼天狗の攻撃全てをいなし、ここまで辿り着いたのだ。ただの名も無い妖怪が出来る芸当ではない。



「で、お前はどういう魂胆だ? 伊吹」

「……自己紹介がまだだったね。改めて名乗ってやるよ」



上等な椅子から降り、地に足をつけ、笑みを作る。


辺りの鬼たちがざわめく。烏天狗も、白狼天狗も。



「妖怪の山、鬼神代理、『酒呑童子』伊吹萃香。この山の今の頭領さ」

「なるほど……最初からお前の企みの上って訳か」



だからこそ最初のうちに山に登り、待ち焦がれるような時間を過ごしたのだ。全ては舞風の力を見たいがために。


紫にも感謝しておこう。どうなっても知らないとは言われたけど。



「私も名乗ったんだ。アンタも名乗りな。名と与えられた姓を」

「ませてるガキです」

「ぶっ潰すよ?」

「ユーモアが足りないぞ。伊吹」



舞風は先程までの僅かな怒りを納め、腕を組むとため息をついた。



「これ、八雲……紫も関わってるのか?」

「妖怪の山に行けってその口で言った奴を忘れたのかい?」

「ああはいはい。全て理解した。そして俺の中で結論」



舞風は組んでいた腕を解いたかと思うとこちらを指差す。その額には青筋が浮かんでいる。



「紫をボコそうにも絶対逃げられる。だからお前をボコす!!」

「安易だね。それも動機がカッコ悪い」

「今更だよ。俺はそんな妖怪だ。鬼みたいに嘘をつかないわけじゃないし、お前みたいにどこぞの頭領やってるわけでもない。どこまでも、そしていつまでも自由」

「他人の在り方に口を出すわけじゃないけど、アンタ、何処となく紫に似てるよ」

「それは勘弁して!!」

「間髪無いね」



自由とは、人によって様々な意味を持っている。何かが出来るとか、縛られていないとか、その在り方自体に要因する。舞風はそのどれかに想定し、それを貫いている。それがどれだけ難しく、辛いことか。



「いいのさ。俺はそれで。誰かと同じである必要なんて何処にも無い。縛られて無いのだから」

「――なら、その気概。この私にも貫いてみな!!」

「当然だ! 俺は舞風。八雲の縁者、八雲、舞風だ!!」



野生的な笑みを浮かべ、一つの生命が、吼えた。


――大地が揺れる。














☆〇☆☆〇☆












――先手を取ったのはこちらである。




「――伊吹ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

「ッ!!」



突撃。策など何も無く激情に任せて剣を振る。そのまま振り下ろした場所には既に伊吹はいない。一テンポ速いタイミングで退き、カウンターを繰り出そうとする姿が横目に映る。


――関係ない。


そのままは剣は振り下ろされ、大地が割れた。



「な、にぃぃぃっ!!」

「逃がすかぁぁぁぁ!!」



衝撃で吹き飛んだ伊吹をまるでばねの様に追う。剣を振りかぶり、叩きつける――ことは出来ない。


振り下ろす直前に柄に添えた俺の手を殴り、骨を砕いた。指が思うように動かず、剣は手から零れる。直後に蹴りが腹に決まり、後ろへと吹き飛ぶ。


背中から地面に叩きつけられるがその衝撃を利用して体勢を直す。



「いきなりだね。それもしつこく追撃なんて」

「しつこい奴は嫌われるってか? 俄然承知さ。俺は好かれるために戦うんじゃないんでね!!」

「それはこっちも、さ!!」



伊吹が構える。磨きぬかれた純粋な近接戦闘術が今こちらを向いている。さきほどは不意打ちだからこそあんな上手く言ったが、次はそうもいかないだろう。剣も伊吹の傍に落ちている。


刹那、同時に大地を蹴り、直後激突。手と手を合わせ、まるで力比べのような体力の削り合い。先に後退したのはこちらである。伊吹の力に逆らわぬようのけぞり、伊吹の体を蹴り上げる。



「ッ!!」

「破ぁッ!!」



がら空きの腹に妖力を込めた掌底を叩きつける。延長線のように延びていく妖力弾は確かに入った・・・


しかし伊吹はなんら堪えた様子もなく、体勢を直すとこちらを睨んだ。



「まるほどね。やっぱり見かけじゃない。それっぽっちの力で私とこれだけ戦えるなんて。でも、それだけなら私には勝てないよ」

「こちとら三文芝居の相手をしてやったんだ。このぐらいで終わらせるわけ無いだろう」

「はっ、言ったね。じゃあ、少しだけ本気、出してやるよ!!」



伊吹の妖気が急激に高まる。セーブしていた、と言うよりばらけていた力を幾分か自分に戻したんだろう。





直後、脳髄が揺れた。



何故か気づく間もなく、目を横に向けると握り拳を振り下ろした伊吹の姿。全く見えなかった。目元が霞む。


眩む頭のまま、妖力を手に集め、放つ――


直後、それは空気に霧散する。伊吹がにやりと笑う。こいつの能力か。迂闊であった。


拳はまたこちらの頭を的確に捉え、視界が揺れる。



「ぐっ、うぅ」

「まだまだぁぁぁぁ!!」



伊吹の殴打は止まらない。的確に、こちらにダメージを与えてくる。全て急所だけは外しているのは恐らく狙ってだろう。俺はこの期に及んでまだ手加減されている。



――まったく、腹が立つ。



一定量のダメージを越え、俺は私・・・へと変化する。


伊吹の目が一瞬剥かれ、殴打が止まった隙に後退。すぐに冷静さを取り戻す。驚いたのは女性化か、それとも背の翼にか。



「なるほど……それがアンタの本性ってことかい」

「……そんなこと、どうでもいいでしょう」

「そうさね。重要なのはアンタがさっきより強くなったって事くらいさ!!」



再び、正面衝突。拮抗はするが、さきほどより体格差が出てしまい、後退の間なく伊吹が懐に入り込んでくる。その拳を私の腹に、今度は手加減すらなく。



「ぐぅっ!!」



痛みに呻いたのは、伊吹だった。私は手の一本も動かしてなければ反撃をしたわけではない。伊吹の拳は私の腹に確実に決まっている。



「――”能力は魂に内包される”」

「!? なにを――」

「なら、もしも二つの魂が重なったらどうなるのか……」



根底に存在する舞風わたしの魂。そこに重ねられた――と言う魂。封印が解放され、混じり合い、それでも魂が元の形として内包されているのだとしたら、それは二つ分の魂の力を持っていることに他ならない。


故に――



「”譲渡と譲受を操る程度の能力”。それがの私の能力。ペイン・リフレクト。私の痛みをプレゼントするわ、伊吹萃香」

「――なんて性質たちの悪い能力だよそれ!!」

「私の痛みは貴女の物。貴女の痛みも貴女の物よ!!」



何度陰湿な能力と言われたことか。この身の痛みは全て相手に返る。痛覚のない相手には意味をなさず、相手が人型でなくとも意味は無い。そして痛みは返せど、壊れるのは私の体。メリットだけがある訳ではない。


しかし、再生ができ、”封を操る程度の能力”まで備えたこの体に普通の攻撃はほぼ無意味である。



「これから一気に挽回させてもらう!!」

「ッ!! ちぃっ!!」



迫る拳。それを肘で受けられ、私の拳が砕けた。しかし顔をしかめるのは向こう。


その隙にもう片腕に集めていた妖力を至近距離で爆発させ、自分もろとも自爆する。



「っつぅ!! やってくれるじゃないか!!」



私の体と伊吹の体の痛みを同時に与える。中々に答えたようで、彼女の体にもようやくそれらしいダメージが見えてきた。


――と、今まで黙って観戦を決め込んでいた鬼達がざわめき始める。鬼だけではない、烏天狗も白狼天狗も。



「お前達!! 絶対に手を出すなよ!! これは私の戦いだ!!」



そう周りに吼え、今にも飛び出しそうになった鬼達を見て、やはり本当に頭なんだと感心する。僅かに口元が歪んだ。


ほんの少し気を抜いた隙に伊吹がこちらに肉薄する。こいつの能力は体重やらの物も霧散できるのかもしれない。それゆえの高速移動か。



「っぅう!! やりにくいね! 全く!!」

「皆そう言うわ。でもね、私だってこれだけで生きてきたんじゃない!!」



拳を流す。しかし完全には消しきれず、わき腹を掠める。やや冷や汗が出たが、僅かに空いた隙間に針を通す勢いで掌底を放つ。込めた妖力は先程の比では無い。



剛烈ごうれつしょう!!」

「――グッ!!」



手応えあり。今のは確実に入った。それを期に一気に攻め上げる。


それからはお互いの削り合い。いや、伊吹だけは痛みで精神の方も削られているだろう。だが私も無傷ではない。痛みを返すには当然ロスタイムが存在する。僅かな一瞬だが、それでも痛みは焼けるような痛みは精神を蝕む。


こんな痛いだけの戦いはもう終わりでいい。



「……お互い消耗戦。長引かせるのは私あんまり好きじゃないの、だから」

「……次で決まり、ってことかい? いいよ。自分だけ痛い思いする戦いってのも腹が立つ。その嫌な力もやめてくれるんだろ?」

「勿論。一発勝負ならこれは無粋なだけ。本気で、行くわ」



妖力を集中し始める。面倒ごとが嫌いな私がここまでやったのだ、もう終わり。


後方に出現する反星陣。それによって力は増幅され、反星陣はその数を増やしていく。合計数は、六。


対する伊吹もその全身に力を込め、こちらに構えている。私の一撃を受け止めるつもりだ。確かに一発勝負には違いないし、それならそれでこちらは最大まで力を込めさせてもらうだけだ。



「行くよ伊吹。これが私の――」

「来な! ミッシング――」



同時に、そしてお互い目が合い、口元に笑みが浮かぶ。



「摩訶、天象砲っ!!」

「パワーーーーッ!!」



収束された妖力と魔力。両方を練り合わせ、反星陣と言う砲台から一気に発射される六本の光線は伊吹の正面にて交わり、一撃の力を六倍にのし上げる。


対する伊吹は能力か、巨大化し、真正面からそれを受け止める。一瞬目を剥いたが、同時複数展開した反星陣の制御が離れたりしないように一層集中する。


こちらの魔力のほとんどと妖力の大半を注ぎこんだ甲斐あったか、だんだんと伊吹の体を押していく。しかし、力がまだ足りない。


もう一押し――その力がもう残されていない。


まったく、大した鬼だ。流石酒呑童子である。



――まぁ、アイツには、遠く及ばないが。















☆〇☆☆〇☆















「なによ、これ……」



眼前で起きていた出来事に知らずと言葉は零れていた。


今の今まで山の警護にあたっていたが、侵入者が鬼神様のところに進入したとの情報あって高速で戻ってみれば、途中凄まじい力を感じた。


それが今山に侵入者だと気付いた時、足が竦んだ。自分も烏天狗としてそれなりの生を生きてきた。烏天狗の中では飛びぬけた才能を持っており、自分はそれなりに強いと自信を持って言える。


だが違う。それは何か違う物だ。そう、感じる。


気付けばそれは消え、まるで掘削するような破壊音が山に響いた。気配が消えて尚躊躇する。それでも興味が勝り、鬼神の元へ行くと。



――相対しているのは小柄な、萃香様と差して変わらない程小さな妖怪だった。お互いが真正面からぶつかり合い、力の削り合いをしていた。正直、正気を疑った。体の作りからして普通の妖怪と異なる鬼と、正面から衝突するなんて愚かな事である。


しかし、驚いたことに負けず劣らず、戦うことが出来ていたのだ。そして、ある時を経て状況は一変する。


名も知らぬ妖怪が黒い翼を持つ女性。烏天狗に姿を変えた。自分よりも年上、とは言っても見た目は当てにならない。その身の力は恐らく私より上だが、大天狗様と拮抗する程度。鬼に、鬼神様には叶うまい実力。



しかし、果敢に前に出る。私はそれを上から見ていることしか出来なかった。


相対する二人が何事かを口にしたかと思うと距離を取り、力を溜め始めた。その時、その力は確かに大天狗様を越えていた。


収束する力、放たれる光線は眩く、迂闊にも目を閉じそうになった。応戦する萃香様と光線とが拮抗し、その時間はとてつもなく長く感じた。それが終わる頃には私も気が抜け、ひゅるひゅると大地に降り立っていた。



「――ったく。なるほど。妖怪の山の頭領も伊達じゃない……わよね。当然」

「そうさ。私は伊吹萃香。鬼神代理。そう簡単に皆の間で跪く前にもいかないよ」

「それもそっか……ま、気も晴れたし、よしとするよ」

「そうするんだね。舞風……私の勝ちだ」



――烏天狗の女性が、膝を折った。


それと同時に歓声が沸く。伊吹萃香を讃える声が。しかし当の本人はそれに耳を貸す様子もなく、膝を折った舞風と言う烏天狗に歩み寄る。小さな体で見下ろすかと思いきや、手を差し伸べたことで場は騒然とした。


侵入者に対してすることでもないはずであろう。そんなことを平然と、当たり前のように。



「――――」

「――――」



何事かを口にし、談話していた。この距離からは聞こえない。私は能力を使い、風を操ってその音を自分の耳元まで届ける。盗み聞き、とは言わないだろう。隠している様子も無いようだし。



「――ま、流石八雲の縁者だけあるね。まさか力を萃めないと止められないなんて」

「――でも、貴女本気じゃないでしょう? なら私の負けよ。妖力もほとんど使い切ってしまったしね」

「――楽しかったよ。またやろう」

「――ごめん。それは嫌。次は紫でも誘って頂戴」



話の大半は意味も分からず、半ば聞き流すようだったが、一番初め、八雲の縁者と言う部分は抜け出せない。


『八雲 紫』、幻想郷の管理者。それの縁者と言うことは烏天狗の身でありながら普通の存在ではないのだろう。思わず身が震えた。こんなにも強い、鬼神様と拮抗するような烏天狗が存在したのか。


興味は尽きなかった。周りの者はもっと別のことに捕らわれているようだったが、



――それから萃香様の命で宴会が始まった。侵入者、と言うよりは力の試し合いであったことを皆に知らせ、騒ぎは収束した。














☆〇☆☆〇☆















「私は飲まない。そんなの絶対飲まない」

「そんな事言わないで、諦めな。鬼の宴会ってのはこういうことだよ」

「それが身に染みてるからこそ嫌なのよ」



夜、もう夜である。宴会を始めたときはまだ日が出ていたはずなのに。止まず酒を勧めてくる伊吹をなんとか避けながら私はちびちびと飲んでいる。元々酒はあまり飲めたもので無いのだ。



「お、いたいた」

「ん? 貴女は?」



こちらに声をかけてきたのは一本角の鬼。なにやら体操着のような物を上にまとい、下はスカートを着ている。私に言わせれば違和感の塊である。


その鬼が杯片手にけらけらと笑いながらこちらを見てくる。



「星熊勇儀。萃香とは昔からの付き合いだよ」

「そう。ならもう少しやることを自重してくれるよう言ってくれないかしら」

「あれが萃香なりの付き合いなのさ。諦めな」

「……ままならないわねえ」



ため息をつく。何かある度にこんな陥れがあるのは正直勘弁願いたいのだが。


気付けば周りの鬼や大天狗の視線を集めていることに気付く。まるで様子をうかがっているようだが、気にする必要も無いだろう。



「そうそう。アンタ私と戦わな――」

「遠慮しとくわ」

「連れないねえ。確かに今すぐは無理かもしれないけど」



鬼と言うのは基本的に好戦的だから困る。その力が自慢の一つだからと言って付き合わされるこちらはたまった物ではない。正々堂々過ぎて断るのも気が引ける場合があるし。


酒をちびりと飲み、一息つく。



「アンタって烏天狗なのかい?」

「貴女にはどう見える?」

「烏天狗」

「でしょうね……別になんだっていいでしょう?」



自らの正体ほど、明かしてメリットがないものも無い。恐らく、八雲は気付いたか。でもそれ以外で名だけ知っているのは妹紅か永琳達、それと慧音くらいだろう。



「あの~、少しよろしいでしょうか?」

「ん?」

「……烏天狗かい。何か用か?」



話しかけてきたのは烏天狗の少女。年はまだ若そうで、その顔は見るからに作った笑顔が張り付いている。星熊はやや水を差されたことが気に入らないのか睨んでいる。それにややびくびくしながらも、私を見た。



「貴女を気高き烏天狗とお見受けて、聞きたいことがあります」

「……ま、質問によるわ。なに?」



実際は烏天狗と言うわけでもないのだけど、と内心苦笑いしながら安受け合いする。


すると目を輝かせながら少女は顔を寄せ、尋ねてきた。



「どうしてそんなにもお強いのですか?」

「――――ん。それを聞いてどうするんだい?」



少女の顔に歪みは無い。先程の作り笑顔でもない。至極自然に、それは興味があって尋ねてきている、と言うことがまるで顔に出ていた。


――何故か。その姿が――と被った。



「え――えっと、今後の参考にさせていただこうかな、と」

「別に、無駄に歳だけは食ってるだけよ。当然修行はしたけどね」

「修行!? どんなですか!?」

「それは秘密よ。歳もね。貴女、名前は?」

「あ、あややや。失礼しました。目上の方に名も名乗らないなんて」



少女は姿勢を正し、笑顔のままに口を開く。



「射命丸文と申します。まだまだ未熟者の烏天狗です」

「そう、文。貴女は、私の若い頃に似ている。強く、誇り高い烏天狗に育つことでしょう」

「あ、ありがとうございま――」

「しかし、同時にその力の業を背負うことになる。それに負けぬよう、頑張りなさい」

「は、はい!!」



少女、射命丸文を名で呼んだことに深い理由は無い。気付いた時には癖である姓ではなくそう呼んでいた。単に射命丸と言うことが長く感じたのか、それとも――



「ま、いっか」



考えるのも長々しい。どうせ休息が終わればまた旅に出るのだ。深く考えるのは、また今度でいい。



遠くで聞こえる伊吹の自分を呼ぶ声にため息をつき、また酒に口をつけた。















今回は萃香メインの物語でした。勘違いしないでください。俺の中の萃香は現舞風にてこずる様な子ではございません。


あくまで、そうあくまで、力を分散させていたために全力でなかっただけです。ペイン・リフレクト(笑)のせいで全力を出し切れなかったという理由もあります。


それと、そろそろ登場人物を妖怪として訳すことを諦めました。妖怪を他人と言ったり、何人とか言ったりしてますが、他の人はどうなんだろう? そう言えば意識して見ていなかった。



あと、これはこちらからの勝手なお願いなのですが、どなたか本主人公を絵にしてくださる絵師さんはいらっしゃらないでしょうか? ないならないで諦めますが、募集しています。


次回、恐らくシリアス多めになると思います。では――






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[気になる点] 負けるんかよ古代スタートして2人吸収しておきながらこれは残念すぎるわ
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