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東方大精霊  作者: ティーレ
2.ソレハ空白ノ時ヲ経テ再ビ現世ニ舞イ戻リ
27/55

幕間



昨日から夏休みが始まりました。今はバイトを探しています。もうこのまま休みが終わらなければいいのに。


買ってみた鉄扇も昨日届いたのですが、実は鉄なのは骨組みの端の二本だけ、泣いた。でも殴ったら痛い。


物語がここまで来ると辻褄合わせも難しくなってくる。半分ほど破綻している部分があるのはご愛嬌。





――薄暗い一室。最低限の蝋燭一本の最低限の明かりのみで照らされたその部屋は隅に目を向けたところで闇だけが映り、見えるのはせいぜい手元程度まで。


そんな場所で、私は今日も集めた情報を元に文を書き綴る。その名は幻想郷縁起。この幻想郷の情報を余すことなくかき集めた言わば私の粋の結晶。この部屋はそれを書くための私の個室でもある。



「――こんばんわ。稗田」



そんな薄暗い場所で声一つ。戸が開いたわけでもなく、そしてまた何処かに穴が開いているわけでもない。ただいきなり、正に神出鬼没と言える現れ方をするその存在を、私は知っている。



「――貴女ですか。妖怪の賢者様」

「……貴女ねぇ。こういうときくらい名で呼びなさい」

「申し訳ありません。八雲紫様」



なにやらため息でも吐きた気な様子でこちらを半目で見てくる。彼女はこの幻想郷の管理者にして創始者。よって、里の者からは妖怪の賢者として崇められている。実際は人目に触れるようなことが無いので里の者が見たところで誰か気付かないやもしれないが。



「……まぁいいわ。頼んでおいた件はどう?」

「物……ああ、あれですね。少しお待ちを」



私は立ち上がると部屋の隅に重ねておいた巻物を一つ手に取り、中身を確認する……うん。問題ない。



「頼まれていた情報は、『舞風』、と言う妖怪の情報でよろしかったでしょうか?」

「ええ、どうだったかしら?」

「過去の文献を探してみたところ、舞風という妖怪が存在した記録はありませんでした」

「そう……やっぱり」

「ただ、他に気になった情報があったので、集めておきました」



そう伝え、手の中の巻物を手渡した。少ない時間、更に資料の少なさにより大した情報を集めることは出来なかったが、それでもそれがどんなものか最低限のことは書いておいた。



「……『舞う風物語』?」

「はい。遥か昔の文献をなんとか再生したものを見せていただきました。それには舞う風と言う何者かの物語について書かれていました。いえ、正確には舞う風を登場人物においた物語、ですが」



その情報を集めたのは単に名前が似ていたから。だが私はそれが同一な存在ではないかと予測している。それだけではない、そんな気もしたからだ。



「……これ、名前の割りに主人公は舞う風じゃないのね」

「はい。たまたま舞う風が主人公に味方するだけであり、一介の登場人物に過ぎないのです」

「……これの作者は何を思ってこれを書いたのかしらね」

「私には分かりかねますが、恐らく書きたかったのは舞う風なのでしょう。似た物語が複数存在するのとは異なり、舞う風の立ち位置だけは絶対に変わらないように出来ていましたから。なんらかの意図はあったのだと思います」

「そう……助かったわ。稗田」

「いえ、この程度であるならおやすい御用です」



説明を終え、そろそろお茶でも持って来るべきかと思い始めた頃、私はふと八雲様の様子が変なことに気付く。何と言うか、違和感。本当に気にならない程度だが、雰囲気が前よりも暗い。そんな気がする。



「……どうかなさったのですか?」

「ん? なんでもないわ。ちょっと、ね」

「そうですか」



はぐらかす、と言う事は聞かれたくないことなのだろう。それならば私が追求する理由は無い。


しかし、その反応が不満だったのか何故か八雲様は唇を尖らせた。



「貴女、つまらないわね。そういう時はもう少し聞いてみるものよ」

「さて、今の私になる前の私・・・・・・・・・がのこした情報にはむやみに首を突っ込まない、と念押しされていましたが?」

「過去の人物を掘り下げなくていいわ。私は貴女に聞いてるの。稗田阿未?」

「……はぁ、それでは、お聞かせ願いますか?」

「もう、仕方ないわね。そこまで言うなら教えてあげる」

「…………」



――まぁ、真面目に相手するだけ無駄だろう。今までの経験から言って。


八雲様は清清しいまでの笑顔だったが、一瞬のうちにそれは冷め切って、真顔になってしまう。



「――言ってしまうなら、友人を看取ってきたばかり、よ」

「――――そう、ですか。それは大変失礼なことを」

「貴女も先代に似て真面目ね。そこがいいところでもあり悪いところでもあるのだけれど」

「……申し訳ありません」

「怒ってるんじゃないわ。寧ろ褒めてるのよ。幻想郷に貴女を招いておいてよかったわ」



再び怪しい笑みを口元に取り戻す。しかし、心なしか寂しげにも見えたのは恐らく――















☆〇☆☆〇☆















「――なんで」



なんで、私はあんなことを口にしたのだろうか?


幽々子は亡霊となり、再び現世に戻ってきた。ただ、記憶が失われていたことだけは悔やまれるが、それも悪くないかもしれない。辛い日々の記憶を失ったなら。


なら、何故私は。舞風の事を悔やんでいるとでも言うのだろうか?


思えば、彼との仲も随分となる。私が彼をただの使える存在と思うように、彼もまたただ恩を返すだけの存在と思っていた。


そんなことはない。確かに何を考えているのか分からない時もあったし、その存在を危惧したときもあった。


だが、実際彼は私と敵対する気など微塵もなかった。それどころか笑って手を差し伸べようとした。


私は自らの家――境界の狭間に建てられた屋敷――の壁に立てかけられた剣を見る。彼が唯一置いていったもの。いや、彼自身と言った方がいいのだろうか。


その在り方が未だに理解し切れていない。力を失ったかと思えば剣に吸い込まれていくし、そう言えばいつも手放すことはなかったなと思い出す。


歪んだ光が抜き身の刀身に反射し、光る。それを見て、ふと前のことを思い出す。


――あれはどれほど前だったろうか。
















――いつものように、私は舞風に用件を頼もうとしていた。初めは普通に隙間に落としていたが、同行者が増えたその時から仕方なく控えるようになった。それ以外は仮式神契約に呼びかけるか、隙間を使って呼ぶくらい。


その時は式に呼びかけていたのだが、生憎と返事がなかった。はて? と思いながらも私は隙間で所在地を覗いて見た。


見えたのは、古い小さな小屋の外装。山奥に一つポツンと建った寂しい物である。


ここに滞在しているだろうかと、私は隙間から抜けると小屋の入り口から出て来たのは……



「あら、八雲じゃない。どうしたの?」



――黒く、長い髪をポニーテールにした女性である。何処かで見たような白い衣服と飛び出た胸部、そしてその整った顔を見て私は勿論こう口を開いた。



「……どちら様?」



向こう側も何故か首を傾げた。その時の驚きは私の妖怪生においてトップ5に入る驚きだった。














「――年に一度の封印が弱まる日?」

「そうそう。貴女にだってあるでしょ?」



ないわよ。と即返し、私は再びその容姿をまじまじと見た。正直言って元々着ていた服以外見分ける要素がない。そもそもずっと男だと思っていたので初見で見破れる方がおかしいだろう。



「……なんだか気が抜けちゃったわ」

「そう。なら上がってけば?」

「お言葉に甘えさせてもらうわ」



開かれた戸を潜り、私は小屋の中に入る。と、中は外装とは全く異なり生活観溢れる仕様であった。なんだか無性に納得がいかない。


どうにも旅道連れは不在らしく、小屋から気配は感じられない。



「あの娘なら別行動中よ。今日限定で、ね」

「あら、どうして?」

「私がお願いしたのよ。なんだか嫌じゃない。普段とは違うって自分でも理解してるのに、それを見せるのって」



そんなもの、なのだろうか? 自分には分からないが、持たぬものの悩みなのだろう。考えるだけ無駄だ。



「そうね……普段道行く人にガン飛ばしてる奴が雨に濡れた猫を可愛がっていた瞬間を見られるようなものかしら」



もっと分からなくなった。最早説明下手とか言う問題では無い気がする。何故そこでそれが出てくるのか。寧ろ上方修正な気がするが。



「まぁもうバレたのだけれど」

「ダメじゃない」

「だってあの子ったら、わざわざ近くの山奥まで来た私を追跡していたんだもの。諦めもするわよ」

「…………」



まぁ、あの娘は私以上にショックを受けたのどうと推測する。なんせ数年男だと思って旅を共にしていた存在がその時になってようやく女と気付いたのだから。



「それで? 用件はなにかしら? 今なら三十五割増しくらいの力な出せそうなのだけれど」

「……ちょうど良く妖怪とお話よ。主に肉体的な意味合いで」



よし来たと言わんばかりに立ち上がり、舞風は勢いよく立ち上がり、辺りの手荷物をごそごそと漁り始める。


なにやら厄介ごとを持ち込んだはずがその倍にされた気がして、無性にため息がつきたくなった。



そんな、一つの思い出である。















「――実際は封印を解放すると女になるようだったけど」



回想を終え、私は部屋の中の布団にゴロンと寝っ転がる。その際、頭の帽子がポスンと落ちる。


あの時はそのまま妖怪へ交渉、断られることは想定内で即戦闘に縺れ込んだ。その時の舞風の活躍のしようは普段とは比べ物にならず、幻想郷に強制連行した記憶がある。



――その時と、今回のことでは相手が違いすぎたが。



そんなことばかり考え、不思議と寝付けずにいた私は稗田にもらった巻物を開いて観始める。



主人公には名前すら与えられず、非常に粗末な扱い。それを見て再び書いた人物の気を疑ったが、次第に進んでいく物語に少しずつ目は横へと動いていく。


それはそう、誰かによる『舞う風』の物語。何故彼が主人公では無いか疑問に思って仕方が無いほどの物語。


意図は分からない。


だが、きっとこれの作者は、彼を、舞う風と言う英雄ヒーローを、愛していたのではないだろうか?



「……やっぱり、彼なのかしら」



姿形不明。性別不明。種族不明。生きた年代すらも不明。何もかもが分からないことばかりだが、この物語の舞う風の在り方は、彼に似ている気がする。



「――貴方はいつになったら目覚めるのかしらね」



そう呟き、再び立てかけられた剣を見る。ちょっと疲れた。寝る。そう言っていた。きっといつかは目が覚める。それがいつかは分からないけれど。



――その時は、幽々子も含めて宴会でも開こう。



「……それにしても、手伝いがいなくなっちゃったわね」



そろそろ本格的に式を探すべきかなと、真面目に考え始めた。








――その数年後、運よく網にかかった妖孤を式神にするのは、今の話題においては余談である。















☆〇☆☆〇☆















「――本当に、行くんだな」

「うん。世話になったね、慧音」

「忘れ物は無いか? 路銀は持ったか? 服の替えは?」

「ちょ、ちょっと。ちゃんと持ったって」



朝霧によって森は白く塗りつぶされ、上ったばかりの太陽の日が木漏れ日となって差し込む。それは少女、妹紅の白い髪に反射し、光を放った。


彼女の共の護符が力を失い、何十年もの時が流れた。唯一の存在と言っていいものを失った妹紅は泣き喚き、私の家に引き篭もるようになってしまった。


長い介護の日々在って今はこうして再び笑みを作ることが出来ているが、当時は本当に酷かった。それがあって、私と妹紅もまた互いを信頼できる存在になったというのは彼女にしてみれば皮肉なことらしい。



「――探すのか。八雲紫を」

「――ああ、舞風のことは間違いなくアイツが一枚噛んでる筈だからね」

「だが彼の妖怪は神出鬼没だと言う。はたして見つかるか?」

「慧音。私は不老不死だよ? 時間はたっぷりある」



だから余計心配なのだが、と内心呟いた。死なないから、不老だからと言う理由で妹紅が無理をすることは非常に多い。いくら不老不死だからと言って、痛みはあるだろうに。


恐らく、舞風もこれで大層世話を焼いていたのだろう、となんとなく思った。



「近いうちに私もここを引き払う。流石に無理があるようだからな」

「……流れ者達の言などに耳を貸す様な奴ら、ほっとけばいいんだ」



小さな村は時間の流れで大きくなった。それがまた人を呼ぶ。当然私を不振に思う存在だっているだろう

。村の長やご老人は私を守護者と称えるが、それは新参者には縄張りを張っている妖怪として見るものもいる。かつて、そう言われたことが懐かしくも頭に浮かんだ。



「……それじゃ慧音。行ってくるよ」

「ああ、また会おう。妹紅」



手を振りながら背を向け、そのまま歩いていく。整備などされておらず、雑草も何もかもがそのままの風景の中に妹紅は消えていった。


彼女は不老不死、再び会う日がきっと来る。だからか、それほど寂しさは感じない。




「――さて、いるんだろう?」




先程からずっと気配を感じている方を向き、私はそう言い放つ。がさりと草むらが揺れた。


そうして現れたのは一人の大柄な男。その手には一本の短刀が握られており、服装は無駄に値だけはつきそうな羽織。その口元は嫌らしげな笑みが浮かんでいる。



「ふむ、気付いていながら仲間を行かせたか、その意図はなんだ?」

「さて、なんだと思う? ところで、お前は最近村に来た妖怪の退治屋だな。私に用か?」

「とぼけた事を。お前が人外であることは里のものが証明している。私はお前を退治するために村から頼まれ――」

「嘘だな」



男の言葉を遮り、私は肩を竦めた。よくもここまで嘘八百を並べられるのか寧ろ感心できる。


そんなもの、つい最近の記憶を見てしまえば明らかである。



「……何をもって私の言葉を嘘と判断したかは知らぬが、お前が妖怪であることには違いない。ここで滅す」

「ふむ。そちらも何を持って私を妖怪と判断したのか。理解しかねるが?」

「老いない。それだけで貴様が人外であることなど決まりきっている。お前は仲間を逃がした気でいるらしいが、街道に出たところで私の弟子達が待ち伏せしている。今頃は片もついていることだろう」

「……その言動。聞き覚えが……ああ、そうか。妹紅に聞いたな」



それは妹紅が笑いながら語った思い出の一つ。意味は私もよく分からないが、雰囲気にかまけて言ってしまおう。




「それは『死亡フラグ』だよ妖怪の退治屋。そう友人が言っていた」




と、その直後妹紅が去っていたほうから立ち上がる火柱。景気よく行ってる様だ。少しばかり安心する。




「な、なんだアレは!? 化け物か!?」

「あれで化け物なら過去に存在した安部晴明やら陰陽師も十分化け物さ。さて、本当にやる気か?」

「……ここで退けん。覚悟しろ妖怪!!」

「またそれか……」



短刀片手に飛び掛ってくる人間。懐に忍ばせている符はどうも奥の手らしいが今の時点で看破されていては意味が無いだろうに。


さて、先程からこの人間は私を妖怪妖怪と言っているが、私は普段は人間だ。白澤になるのだって満月だけだし、そもそも白澤は妖怪ではなく聖獣だ。それなのに何故身に滾るのが妖気なのか。何度か考えたがそれは完全ではないから、と言う推測しか出来ない。


自分は聖獣だから敬え、なんて言う気は毛頭無いが、流石に妖怪妖怪言われると腹も立ってくる。



「――さて、お前のようなペテン師を相手にするのも馬鹿らしい。しかし降りかかる火の粉を無視するわけにもいかない」



少し考え、仕方ないと再び肩を竦めた。



「では少し相手をしてやろう。殺しはしないよ。代わりにその記憶は残させないがな!!」














――その後、村で上白沢慧音を見かけたものはいない。


只残ったのは記憶が無い妖怪退治屋と黒焦げになってしまったその弟子達。恩人の消失への関連アリと思われ即刻村を追い出されたそうな。


また、それからしばらくして火の術を用いて戦う一人の妖怪退治屋の少女が有名になったが、すぐ様情報の海に沈んでいった。











そうして時は流れる。ゆりかごで目覚めを待つ、一つの存在を残して。












未だに謎。30話とか突破してるのに謎。舞風の秘密が明かされる日はいつ来るのだろう?


あっきゅん登場。東方のキャラの中で三番目に好きだ。結婚してくれ!!


因みに一番は犬走さん。もみじもみもみ。


二番はゆかりん。BBAなんて言わせない。


四番にモコたんがランクインしてるんだけど……今はいいよね!!



「これは『死亡フラグ』だよ。って舞風が言ってた」

         ↓

「これは『死亡フラグ』ってけーねが言ってた」



うん、大体あってる。






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