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東方大精霊  作者: ティーレ
2.ソレハ空白ノ時ヲ経テ再ビ現世ニ舞イ戻リ
26/55

舞風と死姫



最近はいきなり感やグダグダ間が否めない。


閲覧数が思ったように増えないのはやはり序盤が長すぎるのが問題かしら?


つい最近友達に「あと10年ちょっとで魔法使いじゃん。よかったな」といわれました。チェリーボーイで悪かったなと私の右フック炸裂。もうなにも怖くない。


※時系列的な大きすぎるミスを発見、これについては二次創作の賜物……でもカバーしきれませんが、其れで何とか……ッ!!(土下座)




桜の花びらが舞い散る。それを見て今が春なのだと言うことを思い出す。旅道中桜など見なかったからすっかり忘れていた。



「……ここは?」

「ここは白玉楼。死霊達のたどり着く場所よ」



隣にいる八雲がそう教えてくれた。その顔は何処かそわそわしている。



――真夜中にも関わらず、俺は八雲の頼みを受けてその場にいた。詳しい話しはまだ聞いてないが、友人に会ってもらいたいらしい。


八雲の友人……さぞ奇特な人物なのだろうと会う前から予想済みである。それも楽しみではあるが、最も気になるのはその意味合い。



「それで、お前の友達とやらに会って俺は一体何をすれば?」

「花見よ」

「……は?」



間髪もなく。八雲が答えた。その内容は今までのものに比べると、いや比べることすら出来ないほどのものだ。


言うなれば、俺を娯楽に誘った。と言うことなのだろう。


八雲にしては珍しく気が利くなぁ、なんてことを考えながら歩いていると、一つため息を吐かれた。



「貴方、顔に大概の事が出るわよね……まぁいいわ。今回のそれは私の友人の頼みなのよ」

「花見するから人を集めてくれーって? 奇特な妖怪だな」

「違うわ。どちらも違う。ただ彼女に貴方の話をしてみたら会ってみたいと言われたのよ」

「おっ、なんて言ったんだ?」

「『飄々として白々しくて何考えてるか分かるようで分からない妖怪。ついでに死なない』」

「……お前の俺に対する評価がよぉく分かったよ」



すたすたと歩いていくと、それなりに大きな門に当たる。そこには一人の男が腕を組みながら立ち尽くしていた。珍しく妹紅を思わせる白い髪。腰の剣を見る限り、門番だろうか?


その鋭い眼光がこちらをギラリと睨む。見る限り客に送る視線ではない。しかし八雲は意に介した様子も無いように近づいていった。



「……やはり貴様か。八雲紫」

「ええ、私よ。庭師さん。その口ぶりからすると誰か来ることは知らせ済みなのよね」

「……そちらの小さいのは何者だ?」



鋭い目がこちらを射抜く。腰の刀と相まって通常ならば僅かでも身が震えそうだが、寧ろ男の後ろの白いものが気になった。更によくよく見るとその目が向けられていたのは俺の腰の剣。確かにこれは不仕付けかもしれない。



「彼は私の友人よ。意味もなく誰かを害したりするような輩じゃないから心配はいらないわ」

「ふん。どちらにせよ入れねばなるまい。出来ることならばここで追い返したいものだがな」

「あら? 貴方にそれだけの力量があって?」

「――抜かせ妖怪ッ」



……えっと、なにこのいつの間にか緊迫した空気。俺なんかした? 何もして無いよね。


八雲は扇子で笑みを隠しながら今にも剣を抜きそうな男、妖忌を見ていた。


…………よし。




「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇ!! おれのために争わないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「…………」

「…………」

「……えっと、あの、出来心ですごめんなさい」




一度言ってみたかった仲裁台詞を口走ってみれば向けられるのは絶対零度の冷たい瞳。めっちゃ怖いです。



「まぁいい。お嬢がお待ちだ。入れ」

「貴方と言う人は、庭師よりも監獄に勤めた方がお似合いなんじゃない?」

「黙れ塵芥」



……これはアレだ。見るからに犬猿の仲って感じだ。俺にはどうしようもない。















門を潜れば、そこはまるで桜の道と言っても過言で無いほど桜が咲き乱れていた。


奥へ続くように桜の木が道を作り、その花吹雪がまるで奥へ奥へと吸い込まれているようにも見える。


遠い、ずっと遠い場所になにやらの屋敷が立っているのが見える。八雲は一片の迷いも鳴く、やや早歩きで進んでいく。その目は桜を見ていない。



「そういえば、貴方さっき間違ったことを言っていたわよね」

「ん? どれが?」

「これから会う娘のことよ。庭師こそあれだけど、この白玉楼のお姫様は妖怪では無いわ」

「と、言うと?」

「――人間よ」

「……へぇ、それまた、ねぇ」



――最近。人間と関わることが増えてきた気がする。妹紅にせよ慧音にせよ、そして今から会う少女にせよ。


その言葉の気になるところは沢山ある。なんで八雲が人間と友になるのか。そして何故わざわざそれを友と呼ぶのか。どちらかといえば妖怪は人間を見下す傾向があるので非常に珍しい話だ。確かに八雲が例外であることは理解しているが。



「そう言えば、聞いてなかったな」

「なにが、かしら?」



問い返し、その足を止めた。これから質問される内容を理解しているかのように。


そして俺は気にすることもなく、問うた。




「何故、俺だ?」



「――貴方が死なないから、よ」




間髪なく返された声。それには先程まで混じっていた感情は潜め、剣呑な物へと変わった。


しかし、それも一瞬。なんてことなかったように八雲は再び歩みを始め、立ち止まる俺からドンドン離れていく。


しかし、それだけで大体は理解した。結局のところ、今までと同じなんだ。


これから会うのは只の人間ではないということ。


――まぁ、八雲と友人って時点で分かりきっていたことだが。



「そ。じゃ俺はあったらすぐに忠告をしてやろう」

「あら、なんて?」

「八雲の友達になると疲れますって」

「消えたいの?」

「だが私は謝らない!!」



……その場において、早く行こうなんて言葉は無粋にしかならなかったのだろう。














八雲に案内されるまま、白玉楼の縁側に回りこむと、そこには一人の少女。少女は桃色の髪で、それを方まで揃えており、年のころは十代後半、もしくは二十代前半? どちらにしても自分から見れば少女だ。その傍らには団子の串と皿だけが置かれていた。


と、少女がこちらに気付き。その目が八雲に気付いた時、僅かに歪んだように見えた。それは一瞬でほのかな笑みに変わり、次に俺を見た。



第一印象だけを語ってしまうなら、『儚い』。それが一番しっくり来る。肌も潤っているし、至って健康そうな少女。だが、目を離した瞬間にポックリ逝ってしまいそうな、そんな『死の気配』。



「――どうもどうも、清く優しく掠め取れ、がモットーの妖怪、舞風です。僭越ながら名乗らせていただきました」

「そう、貴方が舞風……いかがですか? 我が宅の桜は」

「満開ですね。見事に。花吹雪が目に入って痛いくらいです」

「……ふふ、紫が言っていた通りね。真面目なんだか不真面目なんだか分からない」



……どうしてこうなった。俺の汚名を流すための言葉は更に意味合いを深めてしまったらしい。


少女は立ち上がり、こちらに体ごと向き直るとニコリと笑って小さく会釈した。



「申し送れました。私はこの白玉楼に住まう西行寺幽々子という者ですわ。以後よしなに」

「……なるほど、八雲の友人だけあるか。妖怪を見て物怖じもしないなんて」

「ふふ……貴方よりも口うるさい庭師の方がよっぽど恐ろしいもの」



……ああ、あれか。と門の前に立っていた白髪青年を思い出す。


それにしても、この世の物とは思えない立派な建物だなぁ、と辺りを見回していると、なにやら妙に大きな桜が目に入った。その大きさは道中の物と比べても数倍の大きさを誇っている。



「ありがとう。紫。願いを聞いてくれて」

「こんなことでいいならいくらでも連れて来るわ」

「それは悪いわ。ここは冥界だから、この子みたいな正の存在を引き込みすぎるわけにはいかないもの」

「チョット待テ」



今とても聞き捨てならない言葉を聞いた気がするんだが。



「ここが何処だって?」

「冥界よ。さっき言ったでしょ? 白玉楼は死霊のたどり着く場所って。まさか、気付いてなかったの?」

「気付くか! いつの間にか冥界なんて気付くか! どんな質悪い状況だよそれ!!」

「……そう」

「冷たい! なんか冷たくない!? これ気付いてたら死んでました並にとんでもないことだぞ!?」

「大丈夫よ。貴方なら。多分」

「だったら最後にそんな不穏な言葉を付け足すな!!」



それが八雲の性であることは理解しているが、時々こうして不安になるのも確かである。



「ふふ、貴方達。仲がいいわね」

「そんなバカなことはない」

「冗談にして笑えないわ」

「「あ゛?」」

「ほら、いいじゃない」



思わず膝をついて拳を叩き付けた。信じたくなかった。現実は常に無常である。



「それじゃあ、準備をしましょうか。二人とも、手伝ってくれる?」

「あの庭師を呼ばないの?」

「あら、貴女、彼のこと苦手じゃない」

「自分が働くことと天秤にかけたらそっちの方がマシってだけ」

「そう。でもいいじゃない。たまには」



いきなり連れて来られて花見だとうきうきしていれば本当の用件は雑用だったという新事実。泣ける。

















――何と言うことを先程口走ったりした気がするが、実際のところ快適である。


この大それた屋敷の主とは思えないほど軽々しく、そして気配りをする西行寺には感服する。


しかし、何故召使等が一人もいないのか、聞いてみたところ一人も居らず、この屋敷には魂魄という庭師と西行寺しかいないらしい。それについての事情は睨む八雲の目が聞かせてくれなかったのだ。



「――そう言えば、あの一際目立つ桜はなんなんだ? 随分と……アレだが」

「アレ? ああ……西行妖のことね。アレはこの白玉楼にある中で最も恐ろしい妖怪桜。幾人もの生命を惹き、そして殺した魔性の桜よ」

「随分と曰くつきな桜だなオイ。そんなのあって大丈夫なのかよ」

「ふふ。そうは言うけれどね。ここじゃなければダメなのよ。これほどのものを現世に放置するわけにもいかない。言わばこれの管理は白玉楼の主の務めなのよ」



そう言う西行寺は笑っていた。儚げに、そして愛おしそうに桜を見ていた。さながら親愛を持つ友をみるかのように、心底心酔したような目を向けていた。


それを見て、やはり普通ではないのだと俺は理解する。これほどおぞましく、見ているだけで鬱になるようなもの負の塊を見てそんな顔をできるのだから。


能力で直接の接触を断っていながらもそれがどれほどの物か分かる。一個体には制御すらままならない恐ろしい力。美しく咲き誇るその桜はいつ暴れまわってもおかしくないはずなのに、ただ風に揺れ沈黙を保っている。



「――そ。なに、確かに凄い桜だな」



故に、放置する。恐らく、これが暴れないのには彼女の力が関係しているのだ。でなければ、ただの人間がこんなものに近づいて無事にいられるわけも無い。八雲が連れて来た死なないからと言う理由はこれに基づいていたのだろうか。



「――さて、俺はそろそろお暇しようかな」

「もう、帰るの?」

「連れを待たせてるんだ。もう何年も面倒見て、ようやく親離れできそうな娘がな」

「……そう」



慧音と交流を持つことで、妹紅はもっと周りに目を向けるべきだ、たとえ人に恐れられようと、それが『人』の総意では無い。出来ればかぐや姫と仲良くなって欲しいものと思っているが、妹紅のしがらみから考えてそれは難しいだろう。外堀は少しずつ埋めるしかない。



「それじゃあ私もそろそろ行くわ」

「あっ――」

「大丈夫よ。また明日も来るわ。また一緒にお茶しましょ」

「……ええ」



西行寺の顔は暗い。友と、八雲と別れるときはいつもこうなのだろうか?


その少女は桃色の髪を揺らし、儚げな笑みを向ける。その様は――まるで、無理をしているような、そんな気がした。




「――ええ、また・・、ね。紫、舞風」















「――詳しい説明、してくれるよな」

「…………ええ」



帰り道、先程と同じく無数の桜が道を作っていたが、それには先程までの迎え入れるような感覚が持てなかった。まるで帰す事を拒んでいるような気がした。



「あの娘――幽々子はね。この屋敷に住んでいた主の一人娘。嘗て西行法師と呼ばれたその人はその命をあの桜――西行妖の下で終えた。それが始まりだったの」



八雲は遠く、何処か見つめるように。暫しその足を止め、それに耳を傾け始める。














☆〇☆☆〇☆














あの娘はね。昔、死霊を操る程度の能力を持っていた。私が興味を持ち始めたのもそれが始まりね。その力を私が作る理想郷のためにどうにかできないか……その考えは会った時に崩れたわ。


あの娘はね、孤独だったのよ。人でありながら人と違うと言うものがどんなものか、あなたなら分かるわよね?



――まぁ、な。



西行法師が死んだとき、幽々子の力は変わったわ。それは人が持つには強すぎる力。”死を操る程度の能力”。彼女はそれを制御できなかった。



――そりゃあ、人間には過ぎた力だ。



ええ、その為にここで軟禁紛いの扱いを受けながら暮らしている。それも庭師とたったの二人で。


あの娘はね。幼い時からそれを仕様が無いことを分かっている。それでも、彼女はやはり人なのよ。繋がりを求めて止まない。そしてそれもまた仕様の無いこと。


だから私は出来うる限りあの娘に会うようにしたわ。妖怪である私にとっては人間の百年程度の生くらい見取るのは簡単だもの。彼女は喜んだわ。でも、それに満足できない。


決して口にはしないけど、あの娘は私に様々な感情を抱きながら接している。喜び、羨み、楽しみ、悲しみ、それらを全て混ぜ込んだような、そんな感情を。


一時期は人と妖怪の境界を曖昧にして妖怪にすることも考えたわ。でも、言えなかった。それ自体が彼女を侮辱するような行為に感じたから。だから、言い出せなかった。



――大事な友達なんだな。



……ええ。気付いたらそうなっていたわ。私はあの娘を受け入れる。だってあの娘が教えてくれたんだもの。どんなものでも受け入れる、その美しさと残酷さを。















☆〇☆☆〇☆














話は最中にて区切られる。今までにはなかったざわめく感触。周りの桜が風に揺れ、桜吹雪を散らす。



「これはッ!?」

「一体何が……西行妖が、狂っている……?」



直後、周りの桜達はざわめきを止める。そして、激しく光り始める白玉楼。



「――幽々子!!」

「待て! 八雲――」

「何があった妖怪共!!」



白玉楼に向かって飛んでいく八雲を尻目に門の方角から駆けてきたのは庭師、魂魄。その手は腰の剣に添えられていた。



「分からない。帰ろうとした矢先にいきなり西行妖がおかしくなっちまった。何あったか分からないのか?」

「未だ嘗てアレがこれほどの妖力を放ったことは無い。まさか、お嬢になにか」



俺と魂魄もまた西行妖に向かって走り始めた。ただ事で無いことを理解し、背に反星陣の術式を刻む。


直後、背から五芒星。この身が空に舞う。



「貴様、それはなんだ!?」

「そんなことは後だ! 今は白玉楼に急げ!」



焦りが不安を呼び、不安はまさかを思わせる。その輝きを強め、白玉楼に急行する。



そこにあったのは、激しい猛攻を見せる西行妖とその攻撃を捌く八雲の姿。その木の根元に立っているのは、西行寺だった。



「幽々子! 止めなさい!! 今すぐ西行妖を止めて!!」

「八雲! 前に出すぎだ!」

「うるさい! 幽々子が、あの娘が!!」



ただ一心に西行寺に手を伸ばす。八雲は強い、が今の状態では死角からの弾幕に気付いていない。俺は舌を打つと八雲の死角を結界でカバーする。これではやがて支えきれなくなる。


それでも尚。八雲は西行寺に呼びかけていた。対する少女の顔には愛想笑いのような、作り笑顔のような、そんなまがい物が浮かんでいた。


何処に仕舞っていたのか、その手には短刀が握られていた。抜き身のそれを掲げる。八雲と魂魄の顔が蒼白になった。



「やめなさい幽々子!!」

「お嬢!! よせ!!」



制止の声は彼女に届いていたのだろうか? その時には分からなかった。しかし、それを聞いた後に少女が笑いながら涙を浮かべたのだけは、間違いようの無いことであった。









――短刀が、その細く、白く、美しい首を貫いた。














☆〇☆☆〇☆














「どうしてッ……どうしてなのよぉ! 幽々子ぉ!!」



その小さな腕の中に抱かれた少女はもう動かない。だって生きていないのだから。


自害した少女を他所に、西行妖は未だ狂ったように破壊を続けている。今は魂魄が一人で対応に当たっているが、あれほどの存在。時間の問題だろう。


八雲が泣くところを見るのは初めてだった。そしてまた、人間――それもこんな少女が自ら刺し殺す場面を見たのも。


だが、俺は後者に対して悲しみを覚えていない。今日一日、それも数時間花見をしただけの少女に対して親愛を抱くことは出来ない。だが、八雲は別だ。



「泣くな。八雲」

「…………」

「『友達』が泣く所を、見たくない」

「―――」

「ちょっと、行って来る。それまでにはどうか――」



泣き止んでいて欲しい――


俺は黙ったまま左腕の封印を――左腕を捥ぐ事によって外す。元来、力を使うことを良しとしないため、この封印を術式で解除しようとするには時間がかかる。それは力を使わないために理由付けであったが、今は関係ない。


重要なのは、力を使う前にこんな結果を生み出してしまったこと。


風が舞う。足元の桜が再び立ち上る。背からは黒い翼が生え、その背には魔法陣。



故には戦う。泣かないように。泣かせないように。



飛翔。高速で西行妖の下へ降り立つ。魂魄は腰の剣で弾幕を払いながらこちらを睨んだ。


説明も何もかも、後だ。



「はぁっ!!」



迫り来る弾幕を切り払い、術式を手で紡ぐ。



「転硬盾!!」



眼前に出来上がる盾。弾幕を防いでいく私の様子見の技。しかし、それは数発もらっただけで無残に霧散する。見た目こそ普通だが、この一撃は並みの結界では対応出来ない。


致し方、なし。



「――隔絶しなさい」



抜いた剣。それに集まる力。太古に人間の兵器を防いだ力。


これを、一個の生命に使うときが来るなど、思いもしなかった。




「封鎖大結界ッ!!」




それは少しずつ形を成して行き、西行妖を包み込んでいく。今の私の全力の結界。やがて西行妖を包み込み、完全に無効化した。















「――恐らく、辛かったのだ」



庭師、魂魄は西行寺の傍に跪き、生気の抜けた顔でその顔を覗き込んだ。後悔、諦め。そんなものがその顔にあった。



「お前が来るようになって、お嬢は笑顔を取り戻した。しかし、同時に人を羨む想いまでをも思いだしてしまった。結局、ここから出られない自分を憎むようになってしまった」

「貴方は……それが分かっていながら何故!?」

「お嬢は夜一人で泣いていた。毎晩のように。そして次の日、笑うのだ。何事もなかったかのように、それを見てからだ。俺にはどうしようもないと思ったのは」

「……だからって、貴方は――」

「八雲……」



亡骸を抱きしめ、どこか放心したように八雲は少女の顔を見ていた。


どうして、こうなってしまったのだろう? 人でありながら強い力を持ってしまったから? 本人が望んだ訳でも無いのに?



「――八雲。そろそろ私の結界もまずい。手を貸してくれないかしら」

「……どうする気?」

「西行寺を、封印の要にして結界を作るわ。西行妖にだけ作用する特別な結界を。その娘の、力を持つ娘の体なら」

「幽々子を、楔にするつもり? ふざけないで。どうしてそこまでこの子がここに縛られなければならないの? この娘は、なにも――」



八雲はなにかをいいかけのまま、目を見開いた。その目は西行寺を真っ直ぐ捉えていたが、やがてこちらを向く。



「ええ、分かったわ。ただし、それだけでは終わらせない」

「……どうする気?」

「――生き返らせるわ。この娘を、亡霊として」



八雲の選択は私達を驚かせるには十分すぎるものだった。














☆〇☆☆〇☆














恐らく、この選択は自ら死を選んだ彼女の意思と相反するもの。それに気付いていながら、私はこの選択をしようとしている。


死者の亡霊化。一体それがどんなことか、分からない訳ではない。


それでも、私は失いたくないと思っている。無理矢理この世に繋ぎ止め、その存在を求めようとしている。



「八雲……私の準備は出来たわ」



その姿を今は女に変え、その手に剣を握り締めるのは舞風。その問いに頷き、幽々子の体そのものに術式を加えることで私もまた準備を終える。西行妖に目を向けると同じく準備を終えた庭師、魂魄妖真ようまがこちらを睨んでいた。


私の案を持ち出した時、彼は何も言わなかった。それが少し意外でもあったのだ。きっと、彼ならばこれを否定するのではないかと思っていた。


本人は自分ではお前らを止められないと言い訳がましいことを言っていた。彼だって、悔しいのだ。何も出来ぬまま、恩人の娘を死なせてしまったことが。



「舞風……貴女はこんなことを実行しようとしている私を、軽蔑するかしら?」



私は目を合わせられないままそう尋ねた。彼はいい意味でも悪い意味でも人間らしい。それ故に、この選択を最も嫌うと思っていた。



「――確かに、人道には反するのかもしれないね。人から見れば命を弄んでいるようにも見えるかもしれない」

「…………」

「でもね、私達は人間じゃないわ。完璧では無いけれど、わざわざ人間の定めた理を、守る必要なんてない。私も貴女の友よ。手伝わせて頂戴。ゆかり

「――――」



――私の、名前。


顔を上げれば小さく笑う顔。それには蔑む感情は一切なく、ただこちらを案じているようにも見えた。



「やるからには絶対成功させる。いいわね?」

「……ふふ、誰に言ってるの? 私は八雲紫。境界を操る妖怪よ」



そうして私達は笑い合い、配置につく。


魂魄は前、極力背後への攻撃を遮る。次に、舞風。私が西行妖に幽々子の体を封じるサポート。


最後に、私。遠距離から直接干渉し、引き剥がした幽々子の魂を固定する作業と西行妖の封印を同時にこなす。難しい作業だ。


しかし、私達は諦めない。



「それじゃあ、私の結界を解くよ。準備いいわね!!」

「応っ!!」

「こっちもいいわ!!」



そして、舞風が仕掛けた封印が少しずつ解除されていく。直後、再び西行妖は暴走を始めた。


私達が動き出すのもまた同時。あらかじめ作っていた術式に妖力をこめる。



「妖怪! 抜けたぞ!!」

「大丈夫! この程度なら問題なし!!」



魂魄その手の刀で弾幕を切り払い、払いきれなかった妖力弾を舞風の力で防いでいく。


それを目の端に捉えながらも私は術式を施していく。しかし、どうも簡単には行きそうに無い。


西行妖の激しい猛攻にあろうことか術式が押され始めている。影響が少ないように地の下から這うように術式を組んでいるのに。



「まさか……地に埋まる西行法師、他にも沢山の人間の怨念が邪魔をしているというの?」

「八雲! このままじゃ貴女の力が先に尽きるわ!」

「分かってる! なにかいい方法は……」

「――もう!!」



今まで空を飛びながら弾幕を防いでいた舞風が地に足をつき、術式への干渉を始める。それを期に一気に押し始める。


しかし、それまでのカバーが消えたのだ。後衛が無事で済む筈が無い。いくつかのばら撒かれた妖力弾が私の傍に着弾する。しかし私の前にいる舞風の状況はもっと悪い。


猛攻が激しくなり、魂魄だけでは十分なカバーが及ばなくなった中距離地点には雨あられのように弾幕が降り注ぎ、舞風の体を抉っている。その痛みに歯を食いしばりながら舞風は干渉を続ける。


今ここで舞風の干渉が打ち切られては一気に形勢が逆転する。この現状を維持するしかない。



「っくそ、痛いじゃない!! ただ一本の桜が私を殺す気!?」



その背の術式の光が更に強くなる。それと同時に更に術式は地中を突き進んでいく。



「っち! もう一つ解放できれば、楽なのにぃ!!」



舞風がギリッと奥歯を噛む。もう少し、それが分かっていながら押し切ることがままならない。


――と、その直後西行妖が強い力を集め始める。私はギョッとしながらそれを見た。だんだんと収束されていく力は弾幕に割く力を奪っているが、もうすぐ来るのは今までとは比べものにならないほど強い力。



「こっ、ざかしい!!」



大地から手を離し、舞風は逆手に剣を握り締める。高まっていくのは妖力、そして魔力に神力。



「たかが桜が、私の友達に何してくれてんのよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」



腕の封印が、外れた。


眩い光に何もかもを隠されながら、その光の中心地に立つ者がその手の剣を投擲する。


ありとあらゆる力がこめられた剣が真っ直ぐ西行妖に突き進み、同時に発射された桜色の眩い力と衝突する。


呆気なく、剣はそれを突きぬけ、西行妖に突き刺さった。


まるでこの世のものとは思えない断末魔が響いたかと思うと西行妖の力が急激に弱まっていく。意図したわけでもなく、術式は一気に進行し、目的の存在に辿り着く。



「――封印ッ!!」



掛け声とともに西行妖を縛り付ける結界、苦しげに呻くような声を上げながら、


西行妖は全ての花弁を散らした――














「――舞風!!」

「あつつ……八雲か。封印は?」

「無事、終わったわ。幽々子にしても出てくるのには時間がかかるかもしれないけど」

「そう……ならいっか。俺の剣、は?」

「ここにある」



いつの間にか傍に立っていた魂魄の手には舞風の剣。西行妖に突き刺さっていたものを抜いてきたのだろう。力を弱めたそれには術式が完成した今刺さっている意味は無い。


舞風の体は少年のものに戻り、地に倒れ伏していた。その力は見るからに弱まっている。今にも消えてしまいそうなほど。



「そ……ちょっと疲れた。寝る。だから、その剣は任せた」

「貴方、どうして……」

「……あっはっは。意外とままなら無いね。余力を残すのを忘れるなんてらしくない。特にここは冥界だから、供給できる力が少ないから」

「それが分かっていながら、行動を?」

「別に、死ぬわけじゃないし。あ、でもあいつに、なんか一言くらい、言っておけばよかった。ま、いいか」



だんだんと舞風の体が薄れていく。その力が弱まっていく。


最後といわんばかりにニヒルな笑みを作り、剣を抱きしめた。



「――それじゃ、八雲」




――――おやすみ。




そう言って、その体は剣へと吸い込まれていった。




「……ええ、おやすみなさい。舞風」




――――また、会いましょう?







今生ではない別れを告げ、私はその剣を抱き締めた。












※重要報告


白玉楼は幽々子が亡霊になってから冥界に移されましたが、本作では初めから冥界となっております。


仕様? いいえ、 確 認 ミ ス です。


読者には多大なる勘違いをもたらしたこと、謝罪申し上げます。


↓あとがき


プロットどおりに進めるのはやはり難しいと再実感。しかもいつまで経っても消えない無理矢理感。どうしよう。


夏休みはバイトをします。しかし探してない。あと一週間を切った。どうする俺?


昨日、ふと思い立ってアマゾンにて鉄扇を注文。中二病? 男は変態で中二病なのさ。違いない。中学二年生は模造刀を持って町の中を歩き回ったりしましたし。



コミケに行きたい。しかし金と時間がない。泣ける。





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