舞風と半獣
一話更新に一週間以上かけてしまう。更新とろくてすいません。
夏休みは補習漬けです。
「――災難な事もあるもんだなぁ」
「本当よ。最悪」
日は落ち、欠けた月のみが照らす獣道。長い長い旅の最中、今夜には野宿ではなく村の宿に泊まれるかと思った矢先、妖怪共の襲撃を受けた。
それ事態は珍しい事でも無いが、数が多い上に無駄にすばしっこい奴がいたために時間を食ってしまった。
それにより実害は妹紅が傷を負ったくらいだが、流石蓬莱人。瞬く間に治ってしまう。まぁ大して自分も変わらないのだが。
今頃は既にたどり着いて温かい風呂や食事をいただいていたはずが、災難だ。
「……腹減ったなぁ」
「また木の根でもかじれば?」
「……お前が妖怪と一緒に食料を焼かなかったらなぁ」
「黙って見てただけなお前も悪い」
妹紅の妖術は火が主である。それは彼女が不死鳥を意識して形作った結果であるが、ともかく火が得意だ。そんな妹紅は取り付かれた場合相手を自分ごと燃やす癖がある。それ自体はまぁいいのだが、一緒に持っていてもらった食料が燃えたのが大問題だった。
「………………」
「………………」
「……なんか喋って」
「……死ね」
「……うん……また今度ね」
なにはともあれ、俺達のテンションは駄々下がりである。
随分長い間旅を続けてきた。正確な年月は思考するだけ無駄だが、それなりの積み重ねはあったとだけは言える。何故いきなりこんなことを言い出したのかと言うと、こうして長く旅をして様々な物を見ることで何度も驚いたり、珍しいものに眼を剥くこともしばしばである。
しかし……
「……おい。村って確かここであってるよな?」
「……多分ね」
「……なにこれ」
そこにはなにもないがあった。おかしい言い回しであることは理解しているが、その通りなのである。
言うなれば、その空間だけ虫に食われてなくなったかのよう。混沌を更に混ぜ合わせたような異質感。正しくあるんだけどないような感覚。明らかな異常。自然的な物ではない。
「……なんか、災難続きだなぁ」
「アンタ、なんか呪われてるんじゃないの?」
「否定できない自分が怖い」
さてどうしたものかと途方にくれていたとき、ふと視線を感じる。周りを見回してみると、いた。上方に一人。ぷかぷかと浮かんでいる人影。
「お前達、妖怪だな?」
それは女性だった。腰に届くほど長い髪は青と白が入り混じり、その目は敵対心……いや、疑心に満ちているように見える。
「いきなり妖怪だななんて随分とご挨拶だな。アンタ、なにもん?」
「お前達には関係のないことだ。ここは人間の里。即刻去れ」
「人間の里ぉ? これの何処が」
「ま、この一件はアンタの仕業ってことだろ? 美人さん」
「……貴様らには関係のないことだ。妖怪が人の住む里を跨ぐことは叶わない。もう一度言う。去れ」
「おいおい。こんな可愛い二人組みを入れてくれないなんて酷いじゃないか。なぁ妹紅」
「吐きそうだ」
「っておい」
「――去らぬというならば力ずくでも……」
女性は何処からともなく剣を取り出す。まるで日本神話に出てくるような剣。それの切っ先をこちらに向け、威圧する。
「ま、ようやくたどり着いた場所だ。去る気は無いな。だいたい去ったところで結果は変わらないだろう?」
「……どういうことだ?」
「だってアンタ、人間じゃないだろう?」
「――――――」
「自分の縄張りを荒らされるのが嫌なのか、それとも他に理由があるのか。どちらにしても今退くという選択肢は無いな」
「なんだ。散々言っといてそっちが妖怪なのか。随分と茶番が好きなんだな」
「……なんとでも言え。お前達には関係のないことだ」
威圧感が増す。無言のプレッシャーとかくして恐ろしいものである。
女性の力が強まっていく。その力は妖力だけではない。恐らく霊力と僅かながら神力。
「なるほど……混血。いや、無理矢理混ざった? お前、神様でも食ったか?」
「おいおい。それは罰当たりなんてものじゃすまないよ?」
「……否。これは私の力。歴史を作ることにより、そうであったことにしただけだ」
「おいおい……最近の人間はどうなってるんだよ。不老不死だったり歴史の改変が出来たり、妖怪よりよっぽど怪物揃いじゃないか」
「……どうしても引かないというなら、お前達の存在をなかったことにしてやる!!」
「そんなこと言ってないで、来るよ」
突如切られたスタート。直後に弾幕が飛来する。その場からバッと離れ、様子を見る。見た感じ、確かに力はあるが未だそれに振り回されている印象が見られる。弾幕の威力があっても統一性、そして速度がないのが最たる根拠だ。その手の得物を見る限り、本領は近接にあるのやもしれない。
「じゃ、妹紅。任せた」
「こら! さっき戦ったのも私じゃないか!! アンタも戦え!!」
「まぁまぁ。こういうのは実力が拮抗している同士の方が経験になるんだぜ」
俺は弾幕を避けながらもその戦域を離脱する。そしてその戦いが見渡せる程度の場所で結界を張り、それを見下ろす。妹紅がなにやらギャーギャー言ってるが何も聞こえないもん。
「ああもうめんどくさい!! なんで私がこんなことを……」
「隙あり!!」
「おっととぉ! 面倒だけど、痛そうだからそう簡単には当たってやれないよ」
そうして始まる戦い。始まる前から泥沼になりそうなのを予感させた。
と、面倒なのは割合させてもらい、結果から言えば和解には成功した。
戦闘経験は妹紅が劣っているにしても蓬莱人だから死と言う敗北は無い。最初こそ妖怪としての力か傷を治す程度の能力かと錯覚していた女性だったが、流石に首を落とされても復活したことには目を剥いていた。
お互い根気果てるまで戦い、同時にぶっ倒れるまで戦いは続いた。身動きがとれなくなった女性にようやっと話し合いが出来るようになったのだ。向こうは負けを認めての行動だったようだが。
こちらの正体をそれとなく明かした後、女性はなにやら考え込む仕草をすると唐突に妹紅を見た。
――と、すぐにこちらを受け入れてくれた。彼女が言うには妹紅の歴史を見たらしい。全くを持って反則である。プライベートなんて欠片もない。
次に俺の歴史を見ようとしたようだが、それは止めておいた。今から見るには長すぎる歴史だろう。
そうして彼女は隠した村を再び目に晒し、俺たちを招き入れた。
――女性の名は上白沢慧音と言った。
☆〇☆☆〇☆
「――それにしても、蓬莱人に大精霊か。未だ嘗て見たことのない種族だ」
「妹紅の場合は種族って言うより薬のせいなんだけどな。俺はまぁともかくとして」
「ふむ、ならばお前の歴史を見せてもらった方が早いのだが」
「だから、それはおススメしないって。気付いたら朝なんてことになりかねないぞ」
招かれたのは慧音の家。もうすでに夜も遅く、更にこの村には宿と言うものがないらしい。まぁ別段珍しいことではないが、ちょっとがっかりしただけである。それを見た慧音がどうかと聞いてきたのだ。悩む前に妹紅が即応じた。止める時間はなかった。
その家は集落の隅にあり、迫害を受けているようにも見えたが、それは彼女自身が望んでここにいるらしい。
先程は縄張り云々と妖怪的観点から物を申したが、彼女は例外中の例外であった。元々人間でありながら妖怪になった彼女は、人間が好きだった。
ならば何故妖怪になどなったのだろう? その問いには答えてもらえなかったが、複雑な理由があることだけはうかがえた。
「それで、慧音さん?」
「慧音でいい。君は実際私より年上そうだしな」
「……でも俺には敬語とかないんですね」
「どうしたても違和感が沸くからな。しろと言うならするが?」
「……いや、いいや」
なんだか遠まわしに年下っぽいとか言われている気がした。何気に傷つく。
「慧音はいつからここに?」
「藪から棒だな……数年前だ。ちょうど訪れたときにこの村は妖怪に襲われていてな。追い払ったら歓迎された」
「へぇ、珍しいな。妖怪なのにな」
「……一応秘密なんだ。村の者には私はただの旅人だと言ってある」
「そ。ま、それが無難か」
たとえ妖怪が人間を受け入れようと、人間が妖怪を受け入れることは無い。そこに確かな境界が存在するからだ。食うものと食われるものと言う。
「勘だけど。能力も秘密なんだろ? 人の能力持ちは稀だからな」
「まぁな。今回の一件も村の人には結界の一種だと言って納得してもらった」
「歴史を操る程度の能力、だっけ?」
「いや、歴史を隠す程度の能力だ。相手の記憶を覗くのはおまけ、色々と条件がある」
「そのおまけ。明かさない方がいいよ。人からしたら考えることを知られる方が怖いみたいだし」
「大丈夫だ。使う相手は限定している。今回はあの娘の記憶を見て話しても大丈夫そうだからこうして話してるんだ」
「妹紅、な。となるとあいつがどんな人生歩んでるか大体は見たんだろ?」
「大体は、な」
そう言うと慧音は悩ましげに首を捻っている。今は風呂に浸かっている妹紅への対応を考えているのか。生真面目なものだ。
と、俺は物は提案とばかりに慧音に話を持ちかけてみることにした。
「なぁ、頼みがあるんだけど」
「ん? ああ、なんだ?」
「出来ればでいいんだけど、俺と妹紅をここに置いてくれないかな?」
「……は?」
「ようやく妹紅を理解できそうな人に会えたんだ。どうかあいつと仲良くやってくれないかな?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! いきなりすぎて話が――」
「別にこの家に置けって言うわけじゃない。ただこの村において、妹紅の理解者になってくれないかと言っているだけさ」
「理解者ならばもうお前がいるじゃないか。お前も不死みたいなものなんだろう?」
「ああ、でも多分。俺はアンタより早く死ぬ」
クッと慧音の顔が引き締まる。俺の顔を見て真剣さを理解してくれたか。
「……それは一体」
「詳しくは話せない。俺の歴史を見ることもさせない。悪い提案じゃないはずだ」
「だから何故お前が――」
慧音が何事かを言おうとしたとき、ガタガタと言う音が聞こえる。妹紅が風呂から上がったようだ。
「――この話はまた後でな」
「待て、舞風!」
それに聞く耳持たず、俺は部屋から飛び出した。
出たのは外。なんの意味もなく出たわけではない。
「――いるんだろう? 八雲」
「……気付いていたの」
すぐ傍の空間を裂いて現れたのは八雲紫。今までは問答無用で隙間に落とされていたが、今回は空気を読んでくれたのか、それともわざわざ出向く用事なのか。
「あれほどの妖気を隠しきれるわけも無いだろ。俺の探査結界に引っかかってたよ」
「……そう、先ほどの会話についてはひとまず聞かないでおいて上げる。貴方に頼みがあるのよ。舞風」
その目はいつになく真剣で、鬼気迫るようにも感じられた。
☆〇☆☆〇☆
「――はぁ」
縁側に座り、一つため息を零した。正直にいって、やりにくい。
今まで、蓬莱人になってから舞風以外とまともに関わったためしがなかった。人間は話すだけ無駄と言う考えが先行したし、妖怪に限ってはそもそも話など無い。
こういった生真面目な妖怪、それも半分人間だという者とどう向き合うべきか悩んでいた。
「お悩みかい!?」
「!!?」
いきなり上から聞こえた声。屋根の上から舞風が見下ろしていた。それもニヤニヤと笑いながら。
「……そういえば、私を一人で戦わせてくれたお礼をまだしてなかったね」
「ちょ、待っ、も、もちつけ!! 間違えた。落ち着け!!」
「ふぅん。ならついてあげるよ。アンタの頭をねぇ!!」
「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!! 潰れるぅぅぃぅぅぅ!!」
その頭をガッチリと掴み、万力のように締め付ける。なにごとかと慧音が覗いたが、まるでなんだと言わんばかりに戻っていった。
しばらく、舞風の悲鳴が夜空に響いた。
「おま……いくらなんでもやりすぎだとは、思わんのかね」
「いや全く思わない」
「……鬼だ」
地に伏せながら荒い息を繰り返すそれを鼻で笑い、私は夜空を見上げた。今日はあまり星が見えない。
「――なぁ妹紅」
「なに?」
「俺とお前が出会って何年経ったっけ?」
「……さぁ?」
そう言えばもう忘れてしまった。数十、いや数百か。思えば随分長く生きたものである。
「まぁ、どちらにしてもそこそこ長いこと旅をしてきたし、そろそろ定住でもしてみないか?」
「……はぁ!?」
こいつは何を言っているのだろう。私のような不老不死は人間に化け物扱いされるからと転々と旅を続けてきたと言うのに、今更定住など……
「……まさか、ここにか?」
「ピンポーン。大正解。案外悪くない案だと思うんだけどなぁ」
「そんなの、私は嫌だぞ!」
今更人と関わる道など選べるはずも無い。今でもあの時、舞風に助けられときのことを忘れられない。人間の恐ろしさが忘れられない。
誰も彼もが恐ろしい形相をし、石を投げつけてくるその姿を……
「妹紅」
「ッ!」
舞風の言葉でハッとする。やはり、あれは未だに心の奥に染み付いている。そう簡単には拭えない。
尚も拒否する私に、しかし真っ直ぐとこちらを見つめ返してくる。
「妹紅。お前は不老不死だ。それが完全なものなのかと、それとも不完全なのか。俺には分からない。でも、いつか過去と向き合わなければいけないときが来る」
「……それが、今なのだとでも?」
舞風は頷いた。それでも、そう簡単に納得できるものではない。
小さい背丈でぐしぐしと乱暴に頭を撫でる。昔はよくされていたのに、そういえば撫でられることなど随分となくなっていた。
「一応これからいつもの手伝いに行くけど、それが帰ってきたらさ。今まで出来なかったこととかやってみようぜ。家作りとか、料理とか、あとは商売とか!!」
「……勝手にすれば」
私は真っ直ぐこちらを見つめるそれから目を逸らした。なにやら笑っている舞風。無性に恥ずかしくなった。いつになく楽しそうに見えた。言うなれば明日が待ち遠しくて眠れないような。
「じゃ、行って来る。慧音と仲良くやってろよ!!」
バッと空へ飛び立っていく舞風を見送る。闇夜に紛れ、あっという間に見えなくなってしまった。
なんだかどことない寂しさを感じながらも、私は少しくらいなら話してみようかなと思った。
何を話したらいいだろう? そもそも自分から話しかけるなんて、そんなにもあることではなかったから。そんな事を考えながら笑っている自分がいることに、私はなんとなく気付いていた。
これも、舞風のおかげなんだろう、と私は小さく笑った――――
――翌日、舞風との唯一の繋がりが遮断された。
けーねさんご登場。きもけーねの意味について初めて知りました。
いまいち曖昧な存在。能力で自身を半白澤してるらしいですが、それが妖怪として捉えられているのか。実際の白澤は聖獣らしいんですけどね。できるだけ忠実に書きたかった自分はその辺を曖昧にしました。
実は相手の歴史を見ることも出来る……なんていう間違いを何処から持ってきて脳内保存したのか。実際人間時は歴史を隠す(食べる)事しかできず、半獣化しても歴史を創れるだけで、相手の記憶を見ることなど出来ない。幻想郷であったことは分かるらしいんですけどね。密かな独自設定ってことで納得してください。あるいは半獣時ならできたのか……
最近は扇子にはまっております。とは言っても100円扇子ですが。五日で壊れたので今日新しく三つ買ってきました。友人はなんと幽々子様の弾幕時のあの柄の扇子を学校に持ってきてました。超羨ましい。
そんなこともあってかなにやら一人芸が増えていきます。たまに室内で自分で考えたスペルの語呂を試すために一人口走っています。まるっきり中二病ですね。私は19歳だ。