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東方大精霊  作者: ティーレ
2.ソレハ空白ノ時ヲ経テ再ビ現世ニ舞イ戻リ
24/55

舞風と二柱

一週間の間を空け更新。大学で出来た友達と始めてのカラオケ。曲の60%はボカロ。そして俺は東方率80%。みんなしねばい(ryを熱唱しますた。


題通り登場するのはあの二人。






「――ところで妹紅、これは何に見える?」

「蛇っ」

「犬だよバーロー」



たった今走り書きした犬の絵を丸めてポイッと捨てる。自然破壊? 知ったことか。紙なんだから自然に帰るさ。


今のご時勢非常に高価な紙だが、生憎金は余るほどあるので買った。どこから得た金か? ご想像にお任せするが、決して表向きに出来ないことをしたわけではないと言っておこう。



「で、お前が言ってた目的地ってまだ?」

「もうすぐ着くさ」

「聞き飽きたわよ」

「なら聞くな」



まったく、口の悪い奴である。


はてさて、二人旅を始めて早四年。五年だったか、妹紅は目に余るほどの速度でグレていった……いや、腹黒さだけで言えば最初と大して変わってないかもしれない。


始めおもいっきりお荷物だった妹紅を守るのは正直大変だった。一応これでも女だし、しかしやっぱ辞めと途中で放り出すほど俺とて冷たい訳ではない。結果、護身術を覚えてもらうような結果に収まった。


たった四年、しかしされどと言うべきか、妹紅はメキメキと力を付けていった……妖術の。はて? 人間である妹紅に何故? 考えた結果推測は浮かんでも結論は出ない。妹紅はと言うと不満顔をしながら「舞風のせいだ」などと抜かしやがる。実は俺もそう思う。


ただ死なないだけの人間が力を持ち、いつか俺が追い越されるときもあるのかとしみじみ思う。試しに模擬戦をしてみたら飛ぶ前に寝技で締められた。反則だと思う。


気になるところ、つまり二人旅になったことでの八雲の手伝いだが、大して支障も無い。残念ながら。俺の力を込めた札を渡し、八雲にはそこ目掛けて落としてもらうように頼んでみたらあっさりと承諾された。出来るんだったらもっと早くやれよ。


まぁそんなこんな色々ありながらも俺の、俺達の旅は続いていく。次の目的地はある有名な寺だ。ぶっちゃけ生前、つまり人間だった頃寺には詳しくなかった。地元に真新しい諏訪神社やら八雲神社が立っていたことだけが印象的である。八雲何? 大明神?


今回の目的地は守矢神社と言う有名な神社……らしい。人づてだから確定とは言えないが、何でも力の強い神が二人も住んでいるらしい。これは珍しいことだ。神の共存、あまり聞かない話。普通神は信仰を巡って争うものだ。互いに不可侵を守ったりするものもいるらしいが、共に生きるというのは非常に珍しい。とあるつてだから真実かどうかは定かではないが。


それを聞いた俺は文句を言う妹紅を引きずって守矢神社に向かい始めた。今までも神社を尋ねたりしたことがあったが、大概は追い返される。当然だろう。一応名目上俺は妖怪と言うことになっているのだし、好き好んで妖怪を招く神などいない。今までも神様見たさに進入し、一見したらとんずらしていたが、今回はどちらも見るまでは帰れない。



「お、あったあった。多分これだ」

「……うわ。階段長っ」



妹紅の言うとおり、長い長い石階段。おそらく守矢神社はこの上だろう。しかし、俺には階段が長かろうが短かろうが関係なし!! 何故ならば。



「ふははっ! 先に行ってるぞ!!」

「こらっ! それで空飛ぶなんて反則だよ!」



――反星陣はんせいじん。それは俺が戦闘、もしくは空を飛ぶ時に展開する五芒星術式である。なんとこれには重力を反転する力と俺の力を増幅する術がこめられているのだ!! 色々とめちゃくちゃであるが、これは数少ない我が研究成果の一つなのである。



「はっはっはっ!! 吼えていろ!! では先に行ってるぞ!!」

「待てコラぁぁぁぁぁぁぁ!!」



怖っ。全力で走ってくる妹紅怖っ。


俺は逃げるように階段を上っていく。背中の陣はくるくると回っている。天辺にはすぐにつき、足をつけると同時に消える反星陣。辺りを見回して見たが、夜通し歩いて時刻は早朝だし人なんか……いた。


変な帽子を被った少女が一人蛙と戯れていた。


神社の子だろうか、と首を傾げながらも俺は神社に視線を移す。やはり有名なだけあり、威風堂々とした姿。正しく神社。それも今まで見た中ではトップに入ると言える。



「……ま、舞風、この野郎」



肩で大きく息をしながら遅れて妹紅登場。歩いてくれば良かったのに。とは今更言えない。



「やっ。お疲れ」

「ぶっとばすわよ」

「ごめんなさい」



俺は顔も見ずに謝ると、辺りの散策を始める。後ろからは妹紅の怒鳴り声が聞こえてくる。神社でくらい静かにしないか。全く最近の若者は。


それにしても、この神社はどうもおかしい。いつもならこうして微量の妖気を散らしておけば神が飛んでくるのに。未だ影すら見えない。



「寝てるの? 侵入者に対して余裕綽々だな」

「なに? 神様いないの? わざわざここまで上らせておいて?」



文句でも言いたげに妹紅が周りを見回す。二人いるなら一人くらい出てきてもいいはずだが。



「――アンタ達、この神社の神様になんの用だい?」



唐突に聞こえた声。それを言ったのは先程まで蛙と戯れていた少女。いや、こうして見ると少女の域にもたってしていないかもしれない。その顔のほとんどは帽子に隠れて見えない。ただし、唯一見えた口は口角を吊り上げていた。



「用も何も、一目会えたらなぁ、なんて希望を抱いてきたのさ」

「へぇ、その割にはこの撒き散らしてるものはなんだい? 挑発としか取れないけれど?」

「……ああ。そういうこと」

「どういうこと?」



目の前のそれ・・より強大な圧力が発せられる。大妖怪となんら変わりの無いほどの。力そのものをあまり感じない。いや、そう感じるだけ。内にはとてつもないものを内包しているかのような威圧。




「――貴女がこの神社の祭神。そういうことだろ?」




真っ向から見、その力を肌で感じる。妖怪である自分には普通害にしかならないはずの力はぴりぴりと肌を指す痛み。






「いや違うけど」

「えっ」





しかし、あまりにもあっけらかんと言い放つ。少女は確かに強い力を秘めている。なのに、違う……だと?



「カッコ悪……」

「嘘だ。そんなの嘘だ……ッ!!」

「残念ながら本当なのさ」



にやにやと嬉しそうに笑う幼女。



「私はこの神社に住まうもう一人の神、洩矢諏訪子さ。祭られれてるのはもう一方」

「それはそれはご丁寧に。自分はしがない少年旅人、名は舞風にございます。ご機嫌麗しゅう?」

「ははは、随分と態度が変わったね」

「いえいえ、いつもならこれぐらい言ったら追い出されてます」

「ふーん。そっちのは? 人間にしては変わってるみたいだけど?」

「え? えーと。わ、私は、藤原妹紅です。こいつの道連れです」

「……ふーん。そう。で、本当の目的は?」



幼女、もとい洩矢神は疑い深そうにこちらを見た。その目は笑っていない。嘘をついたら殺すと言う意思が見て取れる。



「いえいえ、巷で共存する神様と言う話を聞きまして、それは本当かと拝見したく参ったまでです」

「その言葉に偽りは?」

「ない。信じてくれ。と言えばいいですか?」

「……まぁいいか。ただし、アンタはそれを解くの禁止だよ」



俺の腕を指差す。そこにあるのは無骨な腕輪。なるほど、一目で封印と見抜いたか。侮れないな。

未だ固まる妹紅の手を引き、俺は洩矢神の後ろを歩き出した。



「あ、ところで洩矢神」

「諏訪子でいいよ」

「では諏訪子」

「様をつけな」

「……手厳しい」














本殿より僅かに離れた言わば別館。諏訪子に案内されたのはそこだった。だが祭神本人が本殿にいなくていいのか? と思ってしまう。


諏訪子を先頭に入り口に立つ。と、なにやらいい匂いがしてくる。そう言えば昨日から何も食べて無い。妹紅もだろう。それを気にしつつ声をかけようとすると、唐突に乾いた音で開く扉。だが決して諏訪子が開けた訳ではない。



「あ、諏訪子。お粥でき――」



出てきたのはキッチンミトンを当て鍋を持った女性。なぜこの時代にそんなものがあるのかはおいておき、目に付くのは背中にある巨大な注連縄。なに? 装飾品?


そんな様子を見て呆れたのかそれとも見飽きたか、諏訪子はため息をつくとこちらを指で指す。



「この神社に祭神に会いたいって妖怪と人間が来てるよ。いいのかい?」

「なに!? それはいかん!!」



鍋を抱えたまま中へ駆け込んでいく女性を見送ると諏訪子は再びこちらを見て肩を竦めた。



「ま、祭神なんて崇めて期待しないほうがいいと思うよ。実際はそんなでもなかったりするのが現実なんだから」



幼女の神様が言うと妙に説得力があるなと密かに思った俺だった。多分口に出したら殺されてたと思う。間違いない。














☆〇☆☆〇☆














「――と、言う訳で私がこの神社の祭神、八坂神奈子です!」

「なるほど、あ、お粥おかわりお願いします」

「私の作った粥が美味しい用で何より」

「旅中で食した木の根っこよりは」

「褒めてる気が全くしない」

「木だけに……なんつって」

「……寒っ」

「…………」



どういうことか、私は今ついさっき来たばかりの妖怪や人間と共に粥を食している。それもこれも神奈子のせいだ。確かに二人をここに連れてきたのは私だが、いきなりご一緒していいですかなんて言い出した妖怪の言葉を承諾するなんて。


……別に食い物が勿体無いというわけではない。捧げられた食物はまだまだ蓄えもあるし、そのうち信者が持ってくることだろう。それ以外にもこれと上げるほどの問題があるわけでも無い。だが、仮にも神が妖怪と卓を共にするなど……神奈子は何を考えているのか。



「ところで、名は?」

「俺は舞風。一応妖怪に分類される旅人もとい旅妖怪でございます」

「えっと、藤原妹紅です。妖怪じゃないけど舞風と旅してます」

「ふぅん。妖怪と人間が旅なんて、珍しい。して、此度は何の用があってきたのですか?」



珍しい、と言うよりも初めてだろうに。前例が浮かばない私であるが、神奈子は腕を組んだまま首を捻る。妖怪の小僧はよくぞ聞いたと言わんばかりに笑みを浮かべる。



「見聞を広めるため、といいたいところを思い出作りのために旅をしております、本日は二人の神が共存する神社があると聞いて参りました」

「そうですか。で、感想は?」

「期待以上のものを得ました。特に粥とか粥とか諏訪子様とか注連縄とか」

「私が入ってないよ。どうして諏訪子が入っていて私が入ってないのですか」



そういう問題か。と言う言葉を心の中で呟く。言ったところで耳を貸したりすることも無いだろう。


その後もどうでもいい話をしながら食は進み、あっという間に粥がなくなってしまってから神奈子を勢いよく立ち上がる。



「さて、空腹も紛れた訳ですし、朝の準備運動としましょうか」

「体操でもするんで?」

「まさか。舞風と言いましたね、付き合ってもらいましょうか」

「え?」

「なんです? まさか神の粥を食っておいてそのまま帰れるとでも?」



……なるほど。そういう魂胆か。たとえどんな者だろうと、暇を潰せればいいと思ったのか。確かに神奈子らしい。


食卓を片付けもせず、ずるずると襟を持たれて引きずられていく。哀愁が漂ってくるような気が……しなくもない。




















「――いやいやいやいやいやいや。どうして俺ですか? いるじゃないですか相手。特に諏訪子様とか諏訪子様とか妹紅とか諏訪子様とか」

「たまには違う相手と仕合いたいのですよ。さぁ、腰の剣を抜きなさい。なんならあの娘と二人掛かりでもいいですよ?」

「もこーーーーッ!! こっちにおいでーーーーッ!! 一緒に遊ぼうよーーーーッ!!」



そこはいつも私と神奈子が暇つぶしに仕合いをする場所。広いとは言い難いが、組み手程度ならば十分だ。


私は白髪の娘と縁側に座り叫ぶ少年妖怪を見ている。一方娘は見たくも無いというように目を逸らしている。



「いいのかい? 呼んでるよ」

「いいんですよ。たまには痛い目見りゃいいんです。アイツも」

「痛い目、ね。それで済むか……」



相も変わらずこちらへ向かって叫んでいる妖怪が流石に煩わしく感じたのか、神奈子は腕を振る。


凄まじい風と、そして落ちてくる御柱。舞風とやらのすぐそばに着弾し、砂埃を撒き散らす。完全に頬が引きつっていた。



「うわぁーーーー!! もーーこーーッ!! 助けてぇーーーー挽肉にされるーーーーッ!! 」

「…………」

「無視するなぁーーーーッ!! 可愛い旅の道連れがいなくなってもいいのかーーーーッ!! 」

「……いいのかい? 泣いてるよあいつ」

「知りません。寧ろ泣け」



照れ隠しか何かかと思っていたが、この反応はもしかしたら本当に嫌いなのではないだろうか? そうとまで思ってしまうほどの目の逸らしっぷりである。



「もこ!? 妹紅さん!? ごめんなさいぃーーーーッ!! 謝るから!! この前勝手に取って置きの干し肉食ったの謝るからぁーーーーッ!!」

「お前かぁーーーーッ!! 私のとっておき、気付いたら無いと思ったらぁーーーーッ!!」

「キャーーーーッ!! 火に油注いじゃった!!」



一転して意味で飛び出していきそうになった娘の肩をポンポンと叩いてやる。なんて言うかうん。縮図だね。愉快ではあるけども。



「妹紅ーーーーッ!! いい加減に――」

「――いい加減に始めていいかしら?」

「ってひぃーーーーッ!! 」



降り注ぐ御柱。必死に逃げ惑う舞風。端から見れば弱いものいじめ以外の何者にも見えない。神奈子もそれを分かっているのかつまらなそうにそれを見ている。私は逃げ惑う姿を見ているだけで十分楽しいけど。



「ほらほら!! 逃げてばっかりだと……ぺちゃんこになるよ!!」

「そ、そうは言われてもッ……ッ!?」



降り注いだ御柱。数ある中で確かに直撃するはずだったそれはしかし寸前に逸れ、大地に着弾する。一瞬の出来事で何が起きたのかは分からなかったが、確かに今何かをした。


その光景は確かにふざけていただろう。神奈子とて手を抜いていた。それには違いない。それでも、あれ一つには人間はもちろんのこと、妖怪なんぞも一撃で粉砕する威力がこめられている。



「ふむ……空間作用系? いや、それにしては弱い。壁? 空気か、もしくは何も無い空間を壁にしたね」

「……一手でそこまで見当付けるなんて。怖い神様もいるものだね」

「当然。私は戦の先頭に立った神よ?」



先程のものとは打って変わって感情や敬語やらなにやらが色々抜け落ちている。何も映していないようにも見えるその目は冷静に状況を分析している。アレがあの妖怪の素。気さくに見えてもやはりあやかし



「諏訪子はいつも避けてばっかり。たまには思い切り受け止めてくれる奴と戦ってみたかった」

「妹紅に頼んでください。生憎俺は脆弱体質なので」

「ふん。その脆弱体質がどこまで私の攻撃を受けるのか、見ものね!!」



恐らく、それが本当の始まり。今までの気の抜けていた空間が一気に張り詰める。しかし、間はない。

再び落とされる御柱。くどいように感じるが、あれが神奈子の主力的攻撃なのだから仕方が無い。


受け止める。なんてそうそうすることでない。落下の力を伴う重量は妖怪さえ押し潰す。先程までも十分避けることはできていたのだ。わざわざ手を晒す必要も無い。恐らく、そう考えた。



――そう、先程の十倍の量の御柱を落とされるまでは。



「多いっ!!」

「ははは!! 捌いてみせなさい、妖怪!!」

「言われなくても……ッ!!」



もらした言葉と共に、その身は空へと翻される。まるで紙のように捉えどころのない動きが落下する御柱の合間を縫うようにするりするりと抜けていく。しかしそれは幻想のように一瞬の出来事。その姿は多数の影に覆われ、消える。


避ける。避ける。避ける。避ける。防ぐ。避ける。避ける。避ける。防ぐ。避ける。避ける。防ぐ。避ける。避ける。防ぐ。防ぐ。防ぐ防ぐ防ぐ防ぐ防ぐ防ぐ防ぐ防ぐ防ぐ防ぐ防ぐ防ぐ防ぐ防ぐ防ぐ防ぐ防ぐ防ぐ防ぐ防ぐ防ぐ防ぐ防ぐ防ぐ防ぐ防ぐ防ぐ防ぐ防ぐ防ぐ防ぐ防ぐ……


止まらない攻撃。延々と降り注ぐ御柱。隙間を見つけて避けることも次第にできなくなり、残った道は己が力尽きるまで防戦一方。あっけなさ過ぎる勝負の行方は、とっくに見えていた。


やがて土ぼこりにまみれ、その姿が見えなくなる。しばらく御柱を弾く音だけが聞こえていたが、やがて、沈黙した。



「あら、もう終わったのか。つまらない」



正に拍子抜けとでも言うかのように神奈子は肩を竦めた。確かにあの妖怪は強いのだろう。だがそれは封印を解けばの話。解く暇すらも与えず、娯楽のように殺す。残酷なことだ。だが、妖怪が生きていて私たちに得となることなどほぼ皆無に等しい。


次に気に留めたのは隣の娘。いつから共に旅をしているかは分からないが、あれだけ口喧嘩するほどだ。短い仲でも無いだろう。そうなると、次の相手はこの娘になるやもしれない。


人間は殺したくないんだけどなぁ、と隣の娘の顔を覗き見る。その白髪の娘は、



――心の底から如何にも呆れ果てたような顔をしていた。



思わず「へっ?」と言う言葉が漏れてしまった。その表情は悲しみなんて欠片どころか微塵も無い。あるのはただ呆れ。終いには「馬鹿なこと言ってるから」なんて零している。それでいいのか道連れ人。



――と、その直後私の認識が間違っていたことを理解する。



「ッ!!」

「ッ!?」

「あーあ……」



娘の呆れの声、と言うよりは神奈子に対する同情のようにも聞こえる言葉を呟いた。


それは聞こえはしたものの、意味を理解できないまま私の耳を右から左に通過する。


突如膨れ上がった妖力。いや、これは魔力に神力まで混ざっている。本来混ざりあうはずがない。否、混ざっていいはずがないもの。こんな馬鹿なことがあるのだろうか? 土ぼこりが晴れ、一人悠々と立つその姿は服装と紙の色を除いて何もかもが違っていた。


その髪は腰に届くほど。身長は先程よりも随分と伸び、背には星を丸で囲ったような陣。



――そして、漆黒の翼が生えていた。



胸元は大きく膨らみ、それが女体であることを示す。顔つきは先程までの中世的な顔を急成長させたようになり、ヒラヒラした純白の服からは透き通るような姿形が覗いていた。



「――あーあ。やだなぁ。腕輪が取れちゃったじゃない」



高い声。それも先程まで男女の判別がつかない物とは違う。


感慨深げに見た左の二の腕。そこに先程まであった無骨な腕輪は足元に転がっていた。



「ま、いっか。たまには私も力出して戦わなきゃいけないし。あ、でもダイジョブかな。体錆び付いてそう」



そこに誰もいないと錯覚させるかのように一人淡々と。しかしその目が神奈子を捕え、その口元が僅かに歪んだ。



「じゃ、第二ラウンド行きますか? 神、奈、子、さ、ま?」




黒い羽が『風』と共に『舞』った。















☆〇☆☆〇☆















八坂神奈子は神である。それもそんじょそこらの名の無い神などではない。嘗ては一国を落とすほどの強大な力を持っていた。しかしその力は信仰の減少により、大分衰えてしまった。それでも、そんじょそこらの神や妖怪程度に遅れを取るなどありえない。


嘗てミジャクジの国を――諏訪子を下した力は本物だ。



「――――」



だが、目の前のそれはなんだ?


その身に滾る妖力、そして神力。合計すれば今の神奈子の力にも届きかねない。こんな馬鹿なことがあるだろうか? いや、実際に起きていることを否定など出来まい。


そしてなにより、その動きは早い。背の翼は伊達ではない。見ればそれは確かに烏天狗の翼。だがそれをただの天狗と呼ぶにはあまりにも異質すぎる。風を乱そうにも今の力では彼の者の風を逸らすことしかできない。


思考に走りながら振りかぶられた剣を御柱で受ける。粉砕音。見れば剣を受けた場所は刃がめり込み、潰れていた。どうみても剣を受けた痕跡ではない。


先程とは打って変わって、防戦一方。いや、かろうじて反撃をしている。大振りで慣れていないように見える動きは隙だらけだ。しかし、一撃が一撃にならない。御柱で殴ってみれば体はひしゃげる。だがそれはあっという間に元の形を取り戻す。


再生、いや『復元』。欠損し傷ついた部分は瞬く間に消え、その証拠を消していく。嗚呼面倒だ。ここまで面倒な相手は何百、何千年ぶりだ。化け物め、そう口内で息巻いた。



「――ですがッ!!」

「ッ!!?」



一撃の元にその体を打ち上げ、即回避不能の弾幕を放つ。雨霰のように立ち上る一つ一つがその身を抉り、舞風と言う正体不明を壊していく。



「――痛いじゃない」



その直後、舞風を中心になんらかの力場が発生し、全ての弾幕を吹き飛ばす。思わぬ風に神奈子は目を細めるがまだ想定内の出来事だ。



「――鳴り響け」



と、妖怪の背後の陣がとんでもない速度で膨れ上がり、そしてとんでもない速度で分裂していく。それはやはり背後でクルクルと回っていたがやがてこちらを向いた。まるで沢山の目に同時に睨まれたかのような感覚。



――これで決めてくるッ!!



そう理解した瞬間、彼女は攻撃に転じた。


今のうちに、などと思ったわけではない。ただ目くらまし、そして僅かの隙を作る結果にさえなればその次で決められる。そう思って行動を起こした神奈子を、二つの目が射抜いた。その口元は歪んでいる。



「残念、これで終わりよ。『摩訶天象砲』ッ!!」



陣より増幅、収束された力は放たれる。避け様の無い、無数の極太の光線。その光は放った弾幕も御柱もすべて飲み込み、そして最後に神奈子までも飲み込んだ。



チリチリと体を焼かれるような嫌な感覚。不思議とそれほど痛みはない。だが、如何せん眩しすぎて己の状態を理解できない。


体が非常にだるい事が分かった。戦いの高揚感さえ薄れてしまうほどの不躾な眠気。動かす気にもなれない。油断……確かに最初こそ油断していたが途中からは本気だった。全てが晴れて、そこには傷一つない神奈子の姿が残されていた。


光線は神奈子を飲み込み、弾幕や御柱を吹き飛ばしておきながらもその体を五体満足残しておいた。手加減、ではない。元々その体を壊すほどの威力を持っていなかったのだろう。


うっすら目を開いてみればこちらに剣を突きつけていた。その顔に歪んだ笑みはもうない。



「楽しい『準備体操』でした。またいつか、『私』が気が向いたときにでもやりましょう」



ニッと人懐こそうな笑みを浮かべたまま、妖怪、舞風はそう言った。















☆〇☆☆〇☆














「――で、アンタは一体なんなんだい?」

「だから、しがない妖怪だって言ったじゃないですか」

「嘘つけ。ただの妖怪が微力とはいえ神力を持つものか。あんた何処の神様だい?」

「神様じゃないと思うんだけどなぁ」



先程までの姿はさっぱり身を潜め、元の子供の体に戻った舞風。『体操』が終わって神奈子は疲れて眠りに着くし、今日はとんでもない日だ。


今までも干し肉がどうだやら二人で勝手に喧嘩していたし、分かったのはこの二人に私達を害する気持ちが欠片も存在しないと言うこと。逆に何処か友好的なものを望んでいるようにも感じる。



――ただ、一つだけどうしても気になることがあった。


この舞風と言う何者かに課せられた封印は見る限り無骨な腕輪が二つ。そして先程外れたのは片方だけ。


片方だけが外れて、あの力。もしも両方が外れてしまったというのなら、どうなるのだろう? 全く底が知れない。それが杞憂に終わってくれるように思うことしか出来なかった。



「――今日はこうして神様二人にも会えたし、満足満足。そろそろ行くか?」

「えぇー、もう行くのか……」

「いたいのか?」

「いやお前八坂って神様に謝るくらいしろよ」

「また今度な」

「何年後?」

「三、四百年後くらい?」

「長いね。随分……別に急ぐ必要も無いんだよ」

「? 迷惑じゃないんで?」

「祭神ぶっ倒しといて今更迷惑も何もあると思ってるのかい?」



……ただ、私としてこの得体のしれない奴と仲良くするのは悪くないと思っている。久方ぶりに退屈を紛らわせたやつだ。歓迎くらいしてやろう。







――その日、早めに始めた宴会。遅く起きてきた神奈子も加え、楽しい一時を過ごすことができた。











はい、本日も閲覧ありがとうございました。


個人的にはもっと絡みが欲しかったなと後悔しています。まぁそれはまたにしましょう。


絶叫の舞風。妹紅さんは助けてくれない。


※八坂様がこんなに弱いはずは無い。信仰が薄れてしまったから仕方ないんだ!! いつか幻想入りしてきたときは舞風さんは大層痛い目に会うことでしょう。


そして戦いの舞風の第一封印解放。私はまだ三回変身を残し(ry


TS? いやいや、基本状態は男だから……ギリギリオッケーよね? タグつけたら初めてみる人のネタバレになりそうで。






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