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東方大精霊  作者: ティーレ
2.ソレハ空白ノ時ヲ経テ再ビ現世ニ舞イ戻リ
20/55

舞風と少女



ようやく次話アップ。


ところで、俺がどうやって大学を辞めればいいか案をくれる人はいませんか?


高校との差がありすぎてゆとりの俺では乗り切れない……



――父上が最近『なよ竹のかぐや姫』と言う女の話ばかりしてくる。


なんでも大層美しい姫で、帝からも求愛を受けるほどらしい。自分も行ったが、蓬莱の玉の枝とやらを持ってくることを要求されたらしい。それさえあれば求婚を受け入れてくれるとのことだ。


只でさえかぐや姫に首っ丈だった父上は蓬莱の玉の枝を職人に作らせることに必死になり、私は勿論家族に構う時間は削られていった。


当てが外れているとは気付いていたが、私はかぐや姫に嫉妬していた。


その女さえいなければ父上は父上のままいてくれただろうに。お門違いなことは常々理解していたが、そうすることしか怒りを保つ方法を知らなかった。


ある日、私は父上が珍しく在宅しているときにこっそりと家を抜け出した。そうすれば家臣を使ってでも探しに来てくれる、そう思ったからだ。


一人で好き勝手に周る市場、それはなんと心躍るものであった。思わぬことに喜びがこみ上げたが、元々の目的は父の気を引くこと。遊び惚けることではない。


分かっては、いた。



「ッ……その……すいませ」

「何処見て歩いてんだよ小娘!! おかげで服が汚れたじゃなねえか、どうしてくれる!?」



ああ、初めてでこんな目に会うなんて私は相当運が悪いのだろうか?



「えっと、あの」

「どうしたんですかい?」

「こいつがぶつかってきたせいで服が汚れちまった。こりゃあ中々落ちねえ汚れだぜ」



よく言う、と私は心の中で呟いた。汚れなどそれこそ気にならない程度も無いだろうに。


こんなときに限って身なりを使用人のものに変えてきたことは拙かったかもしれない。今や男達は私をどうするかの算段を話し始めている。


周りに助けてもらおうと視線を向けたが、皆が皆視線を逸らす。ああ、誰も助けてくれるつもりは無いらしい。


仕方も無いだろう。誰が身一つでこんな柄の悪そうな二人組みの相手をしようと言うのだ。何処か自分を客観的に思い、諦めに似た感情を抱きながらも私はそんな事を考えていた。


こんなにも開けた場所で逃げたところですぐに捕まる。隙を見て行動を起こさない限り、私の結末は同じだ。


恐怖で震える身を案じながらも私は辺りを見回した。と、



「おい、そこのお前ら」

「あぁ? なんだ小僧」



私と目が合った一人の少年が無謀にも男達に横槍を入れたのだ。あまりにも無謀な所業。私は逃げるように促したかったが、この状況でどうしろと言うのだ。


少年はなにやら身なりのよさそうな白い衣を纏い、その背には不釣合いな剣を差していた。しかし歳の程は私と差して、いや下手をしたら私よりも下かもしれない。


そんな子供が男達を指差し、こう言ったのだ。




「お前らのせいで穢れ無く清廉で純白な俺の心が汚れてしまった。どうしてくれる?」



「え?」

「「え?」」

「え?」

「「お前は違うだろう!!」」

「なにそれ怖い」



……今日は変な人にばかり会う。厄日だろうかと考えてしまった。












☆〇☆☆〇☆












時は8世紀、西暦で言うなれば705年。俺は長い旅を続けていた。個人的のほほん気まま夢気分な旅を謳歌したかったが、たびたび八雲に手伝いを要請され、隙間に落とされる。


仕事は主に強大な妖怪の説得の協力、後は基本的に雑用まがいなことばかり。ついでの頼みとして八雲の式探しまで頼まれた。


そしてそれが終わり次第落とされる場所はいつも結界山。こちらの要望に聞く耳すら持たずに毎度同じ場所に落とすのだから勘弁してもらいたい。


それでもめげずに旅を続けた。ゲームでデータ消滅後初期からやり直すような絶望感には負けない。負けるものか。


それなりの年月を経て、俺は様々な出会いを模索した。実際に会ってみたい妖怪は3足す1。寧ろそれしか覚えていない。残念なことにそれらと会うことは叶わなかったが。


それにしても、人間に偽装しているとよく襲われるものだ。野良妖怪は勿論、野伏のぶせりやら人間の世であることを実感させられるようなものまで、全く良く出てくるものだと思う。


そして、決死の思いでとうとう都に着いた。そして早々絡まれている女の子を発見。いつの世も同じだなぁなんて思いながらもその様を見ていたら唐突に女の子と目が合う。これは助けなきゃダメだろう、と行動開始。さすが、俺。やっさしぃ。



「小僧、お前にゃ用なんてねえからさっさとどっかに行きな」

「いやいや、用なら俺がある」

「なんだ?」

「お金をください」

「誰がやるか」

「ケチ」

「ケチでいい」

「守銭奴」

「守銭奴でいい」

「ぽんぽこぽん」

「ぽんぽこぽんで……いやよくない。なんだそれ」



中々面白い青年だと思う。女の子にいちゃもん付けたけど。暇があったら拳を交わしてみたいと思う。ロリコンみたいだけど。



「しかし、めげない負けない倒れない! ということでここで一句」

「おいこんなガキほっといてとっとと」

「会話に水差す阿呆は馬に蹴られて地獄に落ちろ」

「ぐはっ」



顎への一発でノックダウン。伊達に長生きしてないぜ。そして間を作らず目を見張るもう一人の懐に潜り込む。



「お前よくも……けぺっ」

「フィニッシュブロー!!」



拳は吸い込まれるように相手の鳩尾へ。そうして昏倒した二人の男達に対し中指を押っ立てる。なんだか集まる視線に呆れが混じってる気がしなくも無い。


さて、とその場から立ち去ろうとする俺。見返りを要求したいところだが服を見る限りそれほど裕福にも見えないし、さっさと去らせてもらおう。噂になるのも避けたい。



「ま、待ってください」

「? 礼はいつか天にお供えしてくれればいいよ?」

「いや……それ貴方へのお礼になってませんよね」



いくら俺でも話しかけてきた女の子を無視したりはしない。と言う訳で女の子に向き直る。と、その少女は身なりこそそれほどでもないものを着ているが、雰囲気や髪の艶がやや高貴なものに見えなくも無い。



「あの、何で助けてくれたんですか?」

「目が合ったから?」

「聞き返されても……ホントにそれだけなんですか?」

「強いて上げるなら絡まれてたのが女の子だからとかやることがなくて暇だったからとかとりあえず暴れたいなとか思ったり思わなかったり」

「……やっぱり厄日だ」



少女がガックリとした顔で呟いた言葉に失礼な、と顔を歪ませる。前にも言った気がするのは気のせい? うん気のせいだ。



「えっと、とりあえず助けてくれてありがとうございます。あまりこういった場所になれてなくて、本当に助かりました」

「大丈夫。俺も初めて来たから。ってかついさっき、いや今さっき?」



こういう場合は何と言うんだろうと首を傾げた。今さっきでいいか。うん。



「え……家出?」

「せめて旅と言って欲しかった。俺が勢いで家を飛び出す悪ガキに見えるか?」

「じゃあホントに旅人?」

「人を見た目で判断しちゃいけないぞ」

「いや、でも普通は子供が旅をしないと思うんですけど」

「可愛い子には旅をさせろというではないか」

「……自分で言うんですね。それ」



先程のように視線が集中することもなく、大通りはだんだんと活気を取り戻していった。


俺としてはこれ以上話していても仕方ないと思うのでそろそろ話を切ろうとしたが、少女の一言で考えを改めざることを得なくなった。



「あの……これからお時間いただけませんか?」



一応紳士を名乗る俺にはこれを断るわけにはいかなかった。


……実際は? どうせ来たばかりで当てがなかっただけさ。



「……そう言えば、お前の名前は? 因みに俺は舞風ね」

「それ本名ですか?」



酷いと思う。確かに一般的ではない気がするけども。


当たり前だと言わんばかりにムスッとすると少女は慌てて手を振り、弁解する。それが終わってようやくその名を名乗るのだ。





「私は藤原妹紅と言います」











☆〇☆☆〇☆




















「おい、そりゃあお前の方が家出だろ」

「……そうでした」



近くにあった茶屋に入り、団子を頬張りながら事情を聞いてみると、なんとも複雑な家庭事情が顔を出した。


彼女、妹紅の父である藤原不比等とやらが最近一人の女に夢中となり、自分の相手をしてくれないのだと言う。子供っぽいとは思うが、実際妹紅は子供だし、寂しがるのも当然か。



「しかし、かぐや姫、ねぇ」

「なんでも絶世の美女らしいですね。そのせいで私はこんななんですけど……」

「ええい、いちいち暗くなるな。団子でも食ってろ」



無理矢理一本だけ残していた団子を妹紅の口に突っ込む。「うむぅ!?」と声を上げると目を白黒させてなにやら言っているが、そんなことは知ったことではない。今の興味は別に移っている。



――かぐや姫。それは現代日本において最も知られている昔話と言っても過言では無いだろう。小学校の教材にでも使われるくらいだし。思えば何故今までこれを思い出さなかったのか不思議なまでだ。


話の中では、かぐや姫は罪を犯し、月から地上に落とされた。その後あらゆる過程を経て月へと帰る。この月が問題なのだ。恐らく誰一人として月に人がいるなどと言うことを信じないだろうが、実際にいるのだ。


つまり、かぐや姫は月人である確率が非常に高い。そうなるといつか、月からの迎えが来るであろう。


藤原不比等、確かそれは竹取物語にて登城する車持皇子くらもちのみこのモデルの名だ。そもそもかぐや姫が実話かどうかすら定かで無い未来の情報だが、今だからこそ分かる。


かぐや姫は実際にいて、車持皇子もまたいる。そして妹紅から聞いた「蓬莱の玉の枝」も話も同様である。


史実がある以上、世界はそれにそって動いていくのだろう。



「ぷはっ、いきなり何するんですか!」

「ああ、気にするな……ところで、何で敬語なんだ?」

「え……さっき見た目で判断するなとか言ったからてっきり童顔なのかと」

「……いや。まぁ確かに年齢的には絶対お前より上だけど、童顔だからって言い方はどうかと思う」



少なくとも万年は生きてると思うし、年上かと聞かれれば絶対的に年上なんだろうけども。判断理由が童顔だからって、そんなのないよ。



「――さて、そろそろ行くかな」

「? 何処にですか?」

「今夜の宿探し。久々にまともな場所でねれるんだ。今のうちに確保しておきたいのさ」

「あ、それなら家に来ませんか?」

「なん……だと?」

「なんでそこまで驚くのか分かりませんね。先程も言いましたけど私は大貴族の娘なんですよ?」



……まぁ、それもまた珍しいことなのだろう。


断る理由もなく。俺は二つ返事を返した、なにやら騒ぎとか起きてそうだが、その辺大丈夫なんだろうか?















――結論からして、全く大丈夫じゃなかったことをここに記させてもらおう。


家出した妹紅を家来総出、とまではいかずとも目を血走らせる程度には探していたようで、少女の屋敷の前に立った時は曲者とか言われてビックリした。もう少し年寄りを労わってほしいものと思う。まぁそんな風には見えないんだろうが。


その場の妹紅の説得により何とか即お縄頂戴は免れたが、結果は恐らく変わらなかっただろう。


藤原不比等、その様相は確かに貴族っぽい。貴族とかいるんだったらこんなんなんだろうなぁと思う男だった。そしてそれに相対するように正座をしている俺は、見ようによっては親子に見える? かもしれない。



「――妹紅、末の娘を助けてくれたらしいな」

「まぁ、一応は。困ってる娘は助けるべきと判断したので」

「うむ。見上げた少年だ。妹紅がお前が滞在する許可が欲しいと進言してきた。私は別に構わぬが、余計なことはしでかすなよ」

「はは、ありがたき幸せ」



なんてまるで茶番のような会話を終えた。変に凝った言葉を使って興味持たれるのも敵視されるのも困るし、あくまで普通の子供を装った。



「お前の父ちゃんと部屋で二人っきりになるのはもう嫌だ」

「私からしたら羨ましいんだけどなぁ」



そりゃお前だからだろ、と言う言葉を出すのも嫌なほど疲れたので、俺は言葉に思いっきり甘えて惰眠をむさぼることにした。

















モコたんinしたお! ←一度言ってみたかった。


と言う訳で登場です。史実と東方の設定を見比べながら書くのは難しい。


かつて二時創作だから自分の思うとおりにやればいいと意見をいただきました。全くそのとおりだと思います。しかし、諦めは早いくせに無駄に頑固な作者なので出来るだけこだわりたいとか思います。


今回こだわったところは意外とまめなところ。藤原不比等の家族構成を調べたりその時期にあったことを調べたり。藤原不比等の末の娘は名前が不明なんだそうです

。そしてその母の名も不明。この辺りから出てきたのかな、と思います。


特に自分が悩んだのは妹紅の名前そのもの。普通に考えて妹紅なんて名が浮かぶでしょうか? ZUN氏はこれに意味を込めていましたが、実際この名は妹紅が人間でなくなったことを切っ掛けに改名したのではないか? と思いました。


しかし、ならどうするか? と言う案が浮かばず結局マンマ。だってモコたんだものいいじゃない。


次に続くのは予想するまでもないと思いますが、やはり遅れると思われます。課題とかテストとかレポートとかマジ死ねばいいのに。


いやはや、鼬の真似をしてみたいと思って始めましたが、過去の文献漁りも意外と楽しいですね。





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