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東方大精霊  作者: ティーレ
2.ソレハ空白ノ時ヲ経テ再ビ現世ニ舞イ戻リ
18/55

隙間と封印


――遥か昔から存在する一つの物語、それらの主人公は鬼だったり、妖獣だったり、烏天狗だったり、はたまた人間だったりすることがある。


登場人物は主人公、そしてわらわらと沸いてくる悪党達。そして主人公と共に戦う心強い戦友、『舞う風』である。


この『舞う風』は主人公は違えど唯一固定された登場者であった。元々この物語は『舞う風』が仲間の手助けをする様を語るようなよく分からない物語だ。


何故かと言うと、主人公は曖昧であるのに、その戦友の存在だけが絶対的に重要なのだ。これほどまでに主人公の存在が曖昧な物語もないだろう。


ある時は敵に囲まれた主人公を助け、

またある時は膝をつきそうになる主人公を励まし、

そのまたある時は肩を並べて悪党を倒す。


やがて本当の主人公がどれなのか分からなくなってしまいながらも、『舞う風』だけは在り続けた。


しかし、古き物語はいつか風化し、その存在は曖昧になった。


『舞う風』が妖怪だったのか、それとも別の何かなのか、そもそも架空の存在なのではないかと言う説まで現れだした。


何故この物語が生まれたのか、それを実際に知るものは存在しなかった。いや、作ったのが誰かも分からなかった。


残された情報は数少ない、存在すら最早曖昧な『舞う風』は烏天狗と鬼を盟友とし、悪の人間を憎んだこと。その姿は美しい髪と純白の衣に包まれていたこと。



その『舞う風』と言う名が若干間違った伝わり方をしていると言うことを知っているのは両手の指で数えるほどしかいない。



――彼の物語が風化してしまった理由はある時を境に消息が途絶えた事が主な理由と言われている。













やがて、数えるのが馬鹿らしくなるほどの時が流れ――














とある人里の近くには不思議な小山があった。


なんでもその山はそれなりに大きい山で、人里に隣接していたが、驚くことに妖が嫌がって寄り付かなかったそうだ。しかしそこで取れる木材や山菜、流れる湧き水は非常に良質で、人々に非常に重宝されていた。


その山の天辺には樹齢何千年とも言われる大樹が立ち、その傍には小さな縦穴状の祠があった。一体いつから存在するかすら分からないそれを村民はこれは神様の物に違いないと言い、年に一度その小山の神に供えをし、信仰した。



やがてその山はまるで外界から隔絶されているかのようである、という意味合いを強く持ち、「結界の山」と呼ばれるようになった。












☆〇☆☆〇☆











――闇夜に佇むモノ。巷では見かけない帽子を乗せ、纏う衣服はおよそ和風とは呼べないもの。全体的に紫色で統一されているそれは私のお気に入りだ。


私の名は八雲紫。隙間妖怪と呼ばれている大妖怪だ。もっとも、名前ばかりが先を歩き、私の姿を知る者などほとんどいないだろうが。


私には夢がある。それは人と妖が共に生きる理想郷を築くこと。口にするのは非常に簡単だが、実現が何より難しいことを私自身がよく知っている。だからと言うこともあるのだ。長い時を生き、大妖怪と呼ばれるようになるまでの非常に長い時間。私は自分の夢を探し続けた。求め続けたのだ。それがこれだったに過ぎない。


理想郷はまだまだ完成には程遠い、しかし誰に困難だと言われようが、私は絶対にやり遂げる。その為にはまだ力と協力者が足りない。


私は自らの力を利用し、世界中を渡り歩いた。幾人もの妖怪に声をかけ、助力を頼んだ。首を縦に振る者は少なかったが、酔狂な妖怪や志を共にする妖怪は力を貸してくれた。


そんなある夜のことである。一人の妖怪が協力をしない代わりに一つの当てを教えてくれた。


何でも結界の山と言うご大層な名で呼ばれる山の天辺には不思議な力を持つものが封印されているらしい。それが妖怪なのか、それとも神様なのか。封印を解放したものはいないらしく、なによりその山は妖怪を拒むらしい。無理矢理入ろうとした小妖怪がものの数秒で消滅したのを見たと言った。


なんだかんだ言っても実際に開放どころか山に登った妖怪すらいないらしく、とんでもない眉唾物に思えた。半ば暇つぶしのつもりでそこに向かった。どうにも胡散臭い。少なくともそんなとんでもない存在がいるなど私は聞いたことはない。山に入ろうとした妖怪が消滅した話だってどこまで本当なのか。陰陽師が封印の解放を恐れて結界を施したのか。それともその封印された何者かの力によるものか。



「これが、その山ね……」



山を見下ろし、なるほどと思いながらも私は驚いていた。その山には複雑なからくりの結界が張ってあったのだ。一定以下の妖力しか持たない妖怪が進入するとものの数秒で死に至る。しかし、その一定を越える妖力を持つものには何も起こらない。まるで強い妖怪を求めているかのように。


面白い。まさかこんな物を見つけることができるとは思いもしなかった。一定以上の範疇に軽く達していた私は気兼ねなく山の天辺に降り立った。言われていた通り、天辺には大樹があり、その隣には洞窟がある。その奥が祠なのだろう。私はここに何が封印されているか楽しみになってきていた。



「……土臭い場所」



開拓など欠片もされていない山、唯一大樹と洞窟の周りだけは整えられてはいたが、やはり古ぼけている。洞窟の入り口を潜り、少し行くだけで行き止まりになっていた。あったのは人の丈ほどの石版。


石版は緑色に点滅しており、そこには何か字のようなものが書かれているようだった。しかし、風化が進んでいるのかそれを読み取ることは出来なかった。


いる。この石版の中に何かが封印されている。私は口の端が吊り上るのが抑えられなかった。


もしも強大な妖力を持つ妖怪なのだとしたら、私の計画の助力を頼もう。封印を解いたのだからそれくらい構わないはずだ。ダメだとは言わせない。そんなことを言おう物ならこの力を以って屈服させる。



――そう。私は大妖怪、八雲紫なのだから。



怪しく光る石版に手をかざし、力をこめる。ぴきぴきと皹が入っていく。まるで雛が羽化する瞬間のようだと思いながら、私は更に力を加える。



そして、石版は砕け散る。眩い緑色の光が洞窟の外までに届く。



その光が晴れた瞬間、私は唖然とした。石版の中にあったのは私の身の丈ほどの無骨な剣だったのだ。そんな馬鹿なと思いながら私は大地に突き刺さった剣を引っ張った。するとあっさりとその剣は抜けてしまう。


その剣には確かに結界のような術式が組まれていた。だがどちらかと言うとこれは何かを封じ込める力を備えている。封印のための剣を封印していたのだとでも言うのだろうか。形こそ確かに珍しいものではあるが、そんなこと私には非常にどうでもいい。心から落胆した。


そこにはそれ以外の変化も無いらしく、もう用はないと私は私の能力である「境界を操る程度の能力」の応用であるスキマを開こうとした。それを利用して私はいつも思うがままに移動できたのだ。


しかし、スキマは開かなかった。能力が使えなかったのだ。私は疑問に思いながらもこの結界の弊害かもしれないと嫌々ながらこの洞窟を歩いて出ることにしたのだ。後々考えると封印を解いたのに、未だに結界が続いていることに何の疑問も抱かなかったその時の自分には愚かとしか言いようがない。


そして私は洞窟から出たとき、あれに出会ったのだ。



空に浮かぶ月を呆然と見上げながら立ち尽くす少女か少年かも判別がつかないソレに。



初めは近くの人里の子供がいるのかと思った。だがわざわざ一人でこんな時間にここまで来て月を見上げる理由とはなんだろう?


見れば見るほどその身に着けているものもらしくない。着物とは思えない、素材がいまいち特定できない純白の衣服、手首に巻かれた無骨な腕輪はまるで似合っていない。髪の色が黒いことを除いてしまえばこの地の人間とは思えない。


妖力を感じない時点で妖怪と言う線は薄い。いや、少しして気付く。何も感じないのだ。霊力も神力も魔力も、そして気配さえも。私は目に見えてながらもそこに本当に存在しているのか疑問の思った。そんなにも目の前の存在は空虚で、今にも消えてしまいそうに見えた。



――まるでそれがいる場所だけ世界から隔離されてしまっているような、そんな風にも思えた。



そこでようやく私は顔に冷や汗をかいていることに気付いた。何故かは分からなかった。心が高揚しているのを感じる。何者かの目がこちらに向き、すぐに私の手元へと移った。


目の前にいるのはただの無力な子供だ。妖怪でも神でも陰陽師でもない。力一つ持たないただの人間のはずだ。そう思った、いや、そう思おうとしていた。


まるで逃げるかのように、そして私にそう思わせるこの存在に耐えない興味を抱かせた。



「貴女が抜いたのか? 楔となっていた俺の剣を」

「……貴方の剣?」



ふと私は握り締めていた大きな剣へと視線を向けた。その手には手汗が滲んでいる。だがその言葉を聞いて疑問に思った。



「これは貴方の剣なの?」

「ああ。俺自身を封じていた剣。ご丁寧に外壁まで砕いてくれたのだろう?」

「あなたが、ここに封印されていた者?」



そんな馬鹿なと思いながらそうなのかもしれないと言う正反対な考えが浮かんだ。もしそれが本当ならば……



「まぁそういうことになるな。剣を媒介にこの大樹に心を封印し、剣は山を隔絶する。そんなところかな、仕組みは」

「そう、だとするならば、貴方は――何?」

「何、なんて言い方はないのでは?しかし、解放してくれた者だ。大目にみよう」



態度は非常に尊大だった。しかしそんな事が今はどうでもよく思える。


そして、目の前の存在そのものが理解できないモノが笑う。そして何処か嬉しそうに口を開くのだ。




「――舞風。舞う風と書いて舞風。しがない妖怪・・さ」




聳え立つ山の天辺に強い風が吹き始めていた。










舞風の旅が始まるかと思った方、残念でした!


あくまで空白の時間、そしてその間すら曖昧にし、舞風は今再び目覚めます。


言いたい事は沢山あるでしょう。ぶっちゃけ自分も無理矢理感あるなぁ、とか思ったりしてます。


太古を負え、旧暦へ。


そして出会った隙間と封印されし者。


どんな道を辿るのか。



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