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東方大精霊  作者: ティーレ
1.目覚メレバ幻トナッテ存在セリ
16/55

妖精と烏天狗と優鬼と――



タイトルはそれぞれの人物名を当てて呼んでください。


夢を見ていた。


ぽかぽかと暖かく、木漏れ日から差し込む日差しのように優しい夢。


その中での私は――と一緒にいる。――は実に百面相とでも言うかのように表情を変え、いつまで経っても見ていることを飽きさせることはなかった。


そんな――と共に過ごし、共に戦い、共に遊び、共に眠り、共に笑い、共に喧嘩する。


嗚呼、数え切れない。――との思い出の中には数え切れない物がたくさんある。共に生きたその一日一日が私の宝物だと胸を張って言える。


依存していると指摘されたら私は自信を持って否定することは出来ないだろう。今となってはいないことの方が考えられない。


おかしな話だ。つい最近までは沢山の烏天狗に囲まれ過ごしていた私がいつの間にか――と一緒にいることに疑問すら抱かなくなっていたのだから。



だから、もしも私に彼が救うことができると言うのなら、私はどんな手をも厭わないだろう。それが私の、精一杯の――に対する想い。思うように開かない口がもどかしいと思うことはあったけど、それでも、私は私の望むことをするんだろう。



――それで、彼が悲しんでしまったのだとしても。













☆〇☆☆〇☆















「真可くん……?」



気付いたらそこに立っていた。そこに至るまでの道なりは何故かぼやけて思い出すことが出来ない。今は、そんな事はどうでもいいだろう。


らしくない、諦めたような目をした天正様と、彼に抱きかかえられながら静かに目を閉じた彼、大妖精舞風がいた。


頭はぼやっとして思考が上手く働かない。たぶん熱があるんだ。ただそれだけなのだと私は自分を納得させる。


ふらふらと揺れる視界のまま私は二人に歩み寄り、膝をつくと安らかな寝顔を撫でた。眠る彼の顔からだんだんと熱が失われていくのが分かった。


ああ、と私は何処か意味もなく悲しい気持ちになるのを感じた。心が急激に冷めていくのに気付いた。



「舞風は、助からないんですか?」



弱弱しいであろう声で、目を伏せる天正様に問いかけた。その声の小ささに我ながららしくないとまで思ってしまう。彼は小さく首頷き、遠くを指差した。


そこに在ったのは美しい湖だった。彼と共に水遊びをした、思い出の場所だった。



――地獄だった。



空を飛んでいた沢山の妖精達が悲鳴のような物を上げながらぼろぼろと崩れ、消え、湖に落ちていく。


嗚呼、湖が死んでいく――


漠然と、私はそんなことを思った。私達の生きた場所が汚され、そしてまた彼も消えていくのに。



――私は、そのことに対して悲しみを覚えていない。



そこでようやく分かった。彼の顔を触れたときに、悲しくなったその意味を。


寂しくなったから。そして、知っていたから。



「……真可くん?」



漠然と、悲しいようで悲しくなく、辛いようで辛くなく。フッ、と口元に笑みさえ浮かべていた。


そう、知っていたから。



――私が、私だけが彼を救うことができると言うことを。



「ッ!? 何を!?」



天正様が驚くような声を上げていることに気付いた。嗚呼、そうか。私が彼に対して力を、放つために力を集めているから、驚いてしまったんだろう。


だけど、そう、それが私の選択。彼を唯一を生かすための、唯一の方法。




「……私の、『存在そのもの』を、舞風に譲渡します」




天正様の息を呑む音が聞こえた。当然だ。それ自体が通常では考えられない荒業。私の能力、『譲渡と譲受を操る程度の能力』で私と言う『物』を他人に譲渡するのだ。


私が彼の物になるなんてどころの話ではない。一つの体に乗る妖力、肉体、そして魂まで、髪の毛一本余すことなく、私を彼の物にする。ある意味一つになる事と同義だ。


その結果が、どのようなものになるかは、悔しいが分からない。だが少なくとも、基盤となった彼の魂だけは残る。


他ならぬ私、私の『魂』は、どうなるのか。共存するのか、吸収されるのか、それとも上書きされて消滅するのか。最悪でも彼だけは助かる、それが私の答え。


彼は恨むだろうか? いや、きっと彼は私を恨まない。きっと怒る。怒って怒って、その先に悲しむ。こんな私のためであろうとを悲しんでくれる事を知っている。だって、他ならぬ私が一番彼と共に過ごしたのだから。


天正様も、なんとなくだが私の見解を分かってくれているのかもしれない。そんな感じの、難しそうな表情をしている。


悲しいのは、私と言う存在が形を失うこと。大体の確率でもう彼と会話すらできなくなってしまうと言う事実。それだけが、とてもとても辛い。



「……それが、君の答えなのかい?」

「はい、それなら私は、この命をかけられる。彼の為なら、消えられる。なんとなく、なんとなくですけど、こうなるような気がしてたんだと、私は思うんです」



そうでなければああも漠然と考えることが出来るだろうか? いや、何処かでこうなることを覚悟していたから私はこうしていられているのだ。


天正様は視線を舞風に移し、その髪を撫でた。それは、その様はまるで――



「君一人ではいかせない。僕も、共にいく」



今、この人が何と言ったか分からなかった。


それを噛み砕き、理解し、ようやく私は感情を表した。



「それは、それがどういうことかっ、分かっているんですかッ!!」



憤怒。私が彼に感じたのは怒りだった。私がいなくなり、この人までいなくなれば彼は今度こそ一人になる。優しく、寂しがり屋な妖精が、本当の意味で孤独になるのだ。それがどんなことを意味しているか、分からない訳がないはずなのに。


それに彼はフッと笑い、舞風のおでこに手を載せたままその口を開いた。



「蓮姫さんがいるさ」

「彼女は、違う山の鬼です!!」

「そうだね、でも彼女もまた彼をよく思っている存在だ」



だから、だから自分も消えると、彼はそう言っているのだろうか? だとしたら本当に馬鹿だ……ッ!


嗚呼、分かっている。この人が本当に消える、舞風の中にいきたい理由は、



――彼が、本当の意味でそれを望んでいるからだ。



それで彼が悲しむことなど分かっているのだろう。そしてその選択自体が誤っている事など、とっくに分かっているのだろう。


彼は、妖精舞風と共にいることを、本当の意味で共に在ることを望んでいる。


最悪で愚かで、そして、最も我侭な選択だ。



「……ここに来て、初めて貴方のことが分かった気がします」

「そう、か。嬉しいな」



彼は不器用な笑みを浮かべ、舞風の頭を撫でていた。消えていくその体は天正様の妖力で繰り返し修復している。


ああ、その姿はやはりアレを思い浮かばせる。



「前に、舞風が言ってました。私達はまるで一つの家族のようだ、と」

「家族、と言うのはあの人間の家屋に住む共存体の事かい? 僕達は誰一人血はつながっていないはずだけど?」



その返しに私は思わず笑い声を零した。そう、私も彼の問いにそうやって返したのだ。何故わざわざ人間の間柄で例えてそう言ったのか。彼は私にこう返した。



「『天正がお父さんで真可はお姉さん兼妹、俺はやんちゃな末っ子だ』、彼は、笑ってそう言ってました」



そう、私達には同じ山で住む他、目に見えた関係など存在しない、私自身も表面上はそう思っていた。だからこそ、私は関係を望んでいた。繋ぎとめておけるような、目に見えるような関係が欲しかった。


最初こそ戸惑いはしたが、彼のしどろもどろな説明を聞き終え、理解したとき。



――嬉しかった。



彼は私や天正様を必要な存在だと、欠かせないものだと、言っていたのだ。嬉しくないわけがなかった。


私の表情を見、少しは意味を理解したのか、彼はクツクツと笑うと珍しく意地が悪そうな顔をした。



「そうか。それなら君と僕がつがい、と言うのもありかもしれないね」

「ありえません。あっても舞風と、ですね」



間髪なく私が返すと彼はその必要が無いかのように笑った。いつもなら笑いなど隠すようなこの人がだ。つられて私も笑い出す。そうしなければいけない気がした。


そんな、日常的な会話。この人とは初めて心をさらけ出して話す事がが出来た気がした。











そして、二つは『わたし』となった。










そこにいた三人が二人になった事に気付いた者はいない。『わたし』自身、違和感もなく、何かが体に入ったことを受け入れていた。


ぼくは彼を抱きかかえていた。寂しいと思っている。それは『わたし』か、それとも『ぼく』か。多分両方なんだろう。


眠りこける彼の姿は小屋で寝る姿となんら変わりなく見えると言うのに、それでもどうにかしなければ、彼は消えてしまうのだろう。


腹を括ることなど無い。何故なら覚悟など既に決まっているから。


体の奥からふつふつと湧き上がる何か。それは悲しみに平行して私の中を駆け巡る。これは『歓喜』だ。この上ない歓喜だ。


一つになることを望む私『ぼく』がいる。そしてそれを悲しむ『わたし』がいる。


ままならないものだ、とふと思った。それも仕方ないことなんだろう。二つの選択の中に様々な答えがあるのは当然のことなのだから。



「――舞風」



『わたし』――いや、私はギュッと彼の体を優しく抱きしめた。その体は冷たい。でも心配など要らない。


私の意識が沈んでいくのを感じる。それは虚無だ。何もかもがどうしようもなくなるような、そんな感覚。だがそれをあるがまま受け入れようとしている。


そこに喜びがあったから。その選択が間違いじゃないと、後悔しないと、胸を張って言えるほどの自信があったから――



彼の名を呼ぶ、そしてそれに言葉を重ね、










『わたし』は消えた。






















『舞風はさ、どうしてそんなに強いの?』

『俺ぇ? ついさっき勝負して俺を叩きのめしたやつの台詞とは思えないぞ?』

『その強さじゃなくて、ほら、蓮姫と戦ってたときとかさ』



あー、と目線を逃げるように逸らしながら彼はうんうんと唸り始める。質問の意味は分かったが答えは自分でもいまいち分かってない、とでも言うかのように。確かに力その物は彼はそれほど強くない。でも彼は諦めなかった。彼はその心が強い。



『強いて言うなら、うん。俺がそうしたかったから?』

『聞き返さないでよ』

『ごめんごめん。でもやっぱりそうだ。俺がそうしたいと思ったから、立ち上がろうと思った』



彼は湖に両足を突っ込み、ばしゃばしゃと音を鳴らして遊びながら、そう答えた。子供みたいだ、と一瞬思い直後に子供かと認識しなおして彼に再び尋ねた。



『それは痛いことをどれだけ我慢しても?』



彼は足の動きを止め、さも当然のように頷いた。澄み切った湖に立ち、こちらに微笑んでいるその空間は全く別の世界に感じた。



『そりゃあ痛いことも苦しいことも嫌いだけど、でも俺、守りたいって思ったから。大好きな真可や天正と一緒に居たいって思ったから』



随分と恥ずかしいことを簡単に言える、そう思いながらも顔の火照りは隠せない。今の自分の顔は真っ赤なのだろう。でも、それと同様に嬉しいと思う自分がいた。


返答はいらない、いや、言えない。こういうときは恥ずかしい台詞を事も無げに言える彼を素直に尊敬し、自分の動かない口がもどかしく思った。それを彼は気にした様子もなく、意地が悪そうな嫌な笑みを浮かべていた。


……ただ眺めているだけではもったいない。下ろしていた腰を持ち上げ、ほんのり浮かんだ怒りのままに水遊びをする舞風に飛び掛かった。わかりやすいような悲鳴を上げる彼と共に遊べる今に感謝しよう。


彼は妖精。寿命は無い。たぶん私達の別れは私の死によって訪れるだろう。それまでにどれだけの時間があるかは分からない。だからこそ、こうしてこの瞬間でさえ大切にして生きていこう。


……いつかはこの『想い』を口にしよう。もしかしたら恥ずかしくて、噛み噛みで、上手く言葉に出来ないかもしれないけど、きっと、彼はそんなことなど気にはしないだろう。私の全てで、私と言う存在に欠かすことが出来ない彼と言う存在に、言葉を贈ろう。言っても言っても足りないだろうけど、それでも、彼を真っ直ぐ見て、一番の笑みと共に。



そう、それはこんな風な――















「――ありがとう。私も、大好き」














☆〇☆☆〇☆















視界を覆ったのは雲の間から覗いた日の光。


静かだった。限りなく静かだった。


自分が座り込んでいた地面には先程まで降りしきっていたのであろう、雨によっていくつも水溜りが出来ていた。


ふと、水溜りを覗いて、気付いた。



この頭にある『角』は、いったい誰の物だっただろう?



この綺麗な『黒い髪と翼』は、誰の物だっただろう?



困惑――



周りに人影がないのは、何故だろう?


あの二人・・・・がいないのは、何故だろう?



そして、周りから一切の妖力を感じることができないのは――何故なのだろう?



記憶が蘇る。誰のものか分からない記憶が再生される。


抱きかかえられた舞風おれ、舞風を抱きかかえた天正ぼく。そして、腕を失いながら舞風を優しげに見る真可わたし


自分で自分が分からない。


自分とは誰だ?


自分とはなんだ?




「――――」







果ての無いような慟哭どうこくが、空の下に響き渡った――














鬼であった青年は形を失い、一と一は二になった。


烏天狗だった少女は二となり、また一に内包された。


そこにいるのは烏天狗でも、鬼でも、大妖精でもない。


ただ、『彼等』であったと言う事実のみが、そこに残されていた。


















二人の能力はこの為の布石だったのさ!!


……馬鹿馬鹿しい事に、自作したキャラが消えた事に落ち込んでいる自分がいる。


次話もなるだけ早く出す予定です。



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