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東方大精霊  作者: ティーレ
1.目覚メレバ幻トナッテ存在セリ
15/55

妖精と覚悟



車の免許が取得できた。ワーイワーイ。


……我ながら素直に喜べない。





『戦争』は人の中にある醜い歴史の一つである。


ありとあらゆる生物が同じ生物と戦い合うことはある。縄張り争いなり雌の獲得であったり。


だが唯一、人間だけが感情を以って戦う。そういう意味だけで言えば戦争をするのは人間だけなのだ。


感情が存在し、互いに望む物が、認められないものがあるから白黒をつけなければならない。


しかし、この舞台に立つ者は人間だけではない。人と同じく、感情を持つ存在である妖怪がいる。もしも、妖怪に感情なんてものがなかったのなら戦争なんて結果は出なかっただろう。変わりに虐殺と言う答えが出ていたかもしれないが。


皮肉にも幸せが不幸に変わり、希望が絶望に変わるその時、人間は一番人間らしくいられるのかもしれない。



――彼は妖精。大妖精舞風。



人の心と妖気で出来た体を持つ唯一の存在。


人として弱く、人として強く。

妖として弱く、妖としてまた強い。


彼は答えを求めた。戦争と言う理不尽に巻き込まれず、皆が幸せなんて馬鹿馬鹿しい夢物語を懇願した。


だって彼は人だから。


でもその答えが決して出ない物であることを知っている。例えどれだけ求めても、どうしようもないことを知っている。


力なき理想が、理不尽な暴力に勝てないことを知っているから。



それでも悶え、苦しみながらも彼は前へと進もうとする無駄と半ば理解しながらも彼は夢を見ることを止めない。


それは彼が人だから。

今この瞬間も苦しむ大事な家族を知っているから。

自分の心を犠牲に戦い続ける者を知っているから。


そして、こんな弱い自分にも出来ることがきっとあるんだと、信じたかったから。



彼は妖精。大妖精舞風。



ただひたすらにあがき続ける者――












☆〇☆☆〇☆












雨は、もう止みかけていた。



「あらかた片付いたみたいだね」

「…………」



天正の一仕事を終えたような様子である反面、素直に喜べない俺がいた。今の今まで掃討していた物が人間じゃなかったら、きっともう少しは心は晴れていたんだろうけど。


そんな俺の様子に気付いたのか、天正はやや残念そうな顔をした。申し訳ないと思ってくれたのだろうか。だとしたら全然気にする必要なんてないのに。



「割り切れてない俺が悪い。気にしないでくれ」

「……うん。これから負傷した山の妖怪を回収して一旦山に戻ろう。人間達が何をしてくるにも皆まとまってなければまた各個で撃破されてしまうからね」



俺はそれを承諾し、妖力を感じられる場所を分かれて捜索した。


残念ながら、山の妖怪は恐らく半数も生き残っていないだろう。見た顔があまり見かけられなくなっていた。


妖力を感じられる場所を回る、と言うのは力を感じる場所を手当たり次第探すということ。だがそのほとんどが既に絶命しており、俺が助けたものは30にも満たない。山にいた妖怪の10分の1以下だ。


そのほとんどがあの光線のような兵器にやられたのだろう。体の一部が削げ落ち、抉られた死骸がほとんであった。それを見て人同士の戦争もこんなものなのだろうかと思って悲しくなった。



残り少ない生き残りを山に集め終わり、俺はふと妖精達が騒がしい事に気付いた。いつもなら湖の上空より出ることは滅多にないのに、今は良く分からない甲高い奇声のような物を上げながら飛び回っている。


繊細な妖精が妖気に影響されて興奮しているのかもしれない、と勝手に結論付けて俺は自分の出来ることを模索し始めていた。思えば何故俺はあれから一度として妖精達の元に戻ろうとしなかったのか。もう既に一年前のことなど忘れているだろうに。



――なんて、言うまでもない。俺がそれを忘れてしまうほど、山での生活が楽しかったからだ。



それに気付くのは、少し遅かったかもしれないが。


結局今するべきことは思い浮かばず、俺は真可の元に戻る事を決めた。




――その時だった。




世界を劈く轟音、聞こえてくるのは果ての果て。山からは全然遠い場所。


考える前に飛翔し、俺は音が聞こえてきた方を見た。


見えたのは白い煙を噴射し昇っていくいくつもの船。それが人間達の乗って行く船なのだと気付いたのはすぐだった。


ふと永琳もあの中のどれかにいるのだろうかと思ったが、考えても仕方ないことだと首を振った。見回してみれば飛行が可能な妖怪たちが俺に習うようにそれを見上げていた。溢れんばかりの罵声を浴びせている。


まぁ仕方ないだろう、と俺は同じく俺と同じような顔をしている天正を見つけ、苦笑いをした。天正もそれに応える。



――だが、思ってみれば、人間達の攻撃がアレで済むはずがないと、気付いていながらまた危惧しない事を、俺は心から呪いたくなった。



数ある船から発射される何か・・。ばら撒くように大地に落とされ、


そして、


轟音を上げ、大爆発を起こしていく。


見境など欠片もなく、大地に数え切れない爆弾ばくだんをばら撒いていく。その光景を見て俺は人間達の正気を疑った。自分達が生きた大地を破壊し尽くすつもりなのか。


そしてそれは船が上昇を続けるほど広範囲に及び、だんだんとこちらに近づいてくるのが分かった。



ああ、すぐに分かった。



アレ・・はここにも落ちてくる。それもギリギリの位置で。



そう気付いてからの行動は早かった。逃げ出す生き残りの妖怪たちを他所に俺はそれを睨みつけた。今あれを止めれるのは、多分俺だけだ。


天正であろうと、恐らくアレは止められない。


足が震えた。恐怖だ。でもそれは自分の死に対する恐怖ではない。


あの、死を振り撒く怪物に対する恐怖。あれはたった今、俺から全てを奪い去ろうとしている。止めなければ、全てが奪われる。


一歩も退こうとしない俺に気付いたのだ。流石の天正も焦ったようにこちらに何かを呼びかけている。


だが退かない。逃げてはダメだ。


これが俺にしか出来ないことだ。こんな俺にも出来ることだ。


やるかやらないかなどの問答は在って無いものだ。やらねば全てを失うのだから。


制止の声を聞き流し、俺は今よりもっともっと高く飛翔する。こちらに手を伸ばす天正が見えた。


心配をかけることを申し訳ないと思いながら俺はすぐそこまで迫りきったそれを睨みつけ、唯一の武器である剣を抱きしめた。



「……終わらせない」



ちっぽけな存在だけど。


極小な存在だけど。


人一人殺せない俺だけど。



――でも、出来ることはあるんだと、信じてる。





「この世界は、人間おまえたちだけの物じゃない!! 隔絶しろ、『封鎖大結界』ッッ!!」





――山を覆うように、かつて無い規模の結界は発動される。



言葉では表現できないぶつかり合い。気を抜いたそこから俺の体は崩れ、そして修復されていく。



それ・・は人間の怒りに思えた。人間の妖怪に対する思いの丈に感じることができた。彼らだって、何の理由もなく妖怪を嫌ったわけじゃない。


妖怪が人を食らうと言う連鎖が出来てしまっているから、そして感情と言う不安定なものを持ってしまっているから、だから人間は妖怪を恐れ、憎まずにはいられない。故に妖怪は人間の敵だ。



――敵を嫌わなければ、心は維持できなくなる。



でも、妖怪にしてみたらそれは理不尽な物だ。人間だって魚を、肉を、植物を食して生きている。生命の上に成り立っているのに、いざその対象が自分達になったら怒り狂うのだ。


しかし、妖怪もまた理解できてしまう。不安定な、人間と同じ感情を持ってしまっているから。だから感情を持つものは覚悟を持って人を食らう。


それこそが成り立ち。今まで、そうして人と妖怪はこの世界に生きてきた。


なのに、こうなってしまったのだ。


体は悲鳴なんてものを通り越し、奇声を上げるかのようにボロボロと崩れていく。俺は妖精だから、弱い弱い妖精だから。



――でも!!



諦めるわけにはいかない。例え永遠に体をすり減らすことになろうとも、



例え、この身が、魂が滅ぶのだとしても――ッ!!



ちっぽけで、極小で、人一人殺せない臆病なんだとしても、



――こんな妖精おれにも、守りたいものがある!!



山一つ全てを包み込むかのような守っていた結界はやがてその形を端から反らしていく。やがてそれは反作用するかのように爆弾を包み込み、



――やがて、爆ぜた。
















頬に雫が落ちた。おかしいな、と思った。だって雨はさっき止んだはずなのに。


目を開いた。だが全身に力が入らない。自分の体が自分の物でない様だ。だから開けたのはほんの少し。



涙を流す、一人の鬼がいた。誰だろう、と一瞬困惑する。でもそれが誰かなんて事はすぐに分かった。分からないはずなかった。


大丈夫だ、と口を開こうとした。しかし声は出ず、ただ口がパクパクと開くだけだった。


気付いてみればありとあらゆる感覚がない事に気付く。


温もりがない。

何も聞こえない。



――そして、何も見えなくなる。



今までの事が次々と浮かび上がってくる。これは走馬灯と言うものなのだろうか。



初めて生まれたときに見た日が落ちていく瞬間。

真可との初めての戦い。そして和解。

天正と初めて会って、何気ない話をして。

蓮姫と戦ったときの、とんでもない光景。

永琳とした子供みたいなやりとりも。

天正と真可と、三人で語り合ったときと――



……おかしなことだ。見える全てがこの世界のことばかり。それもそうかと納得する。



だって、俺はこの世界に生きた『妖精』舞風なのだから――














☆〇☆☆〇☆














彼だった。


数百年もの年月を生きた、だが今思い起こされるのは彼と過ごしたたったの一年間。たった一年だけの彼と生きた時間は僕の全てに勝っていた。


そう違和感なく思えた、自分がいた。



「――――」



その彼は、今僕の目の前で儚い命を散らそうとしていた。


彼は正しく全力を持ってあの兵器を止めた。そう、真の全力を以って。


彼は妖精。自然の権化。彼の力の全てはその元となる湖から来ている。彼はそれを無理矢理引き出し、この山を防衛したのだ。


……そう、湖を犠牲・・にして。



あの湖にはもう力が残っていない。むしろ彼の力が湖の再生の為に吸い取られていると言うことは消えていくその体を見れば明確だった。


更にあの兵器の余波によって汚染されてしまった湖は、もう死んだも同然だ。


虫の息の、どうあっても助からない命を、彼が今その身で贖うような状況に陥ってしまっている。


そんな彼に対し、何とか自分の妖力を流して消滅までの時間を先延ばしすることしか出来ない。


あまりにも無力。ベースの体が消滅しようとしている今、妖力は流した分だけ湖に吸われるだけだ。もしもこのまま彼が消えてしまえば、いつか再び彼が生まれ変わる? そんなことはありえない。


汚し尽くされた湖は全ての妖精の力と言う力を吸い尽くした上で再生する。今消えれば、彼と言う存在は消えてなくなる。



――妖精舞風は死ぬのだ。



ダメだダメだダメだダメだ!! それだけは認められない。彼無しの生などもう考えられない。鬼の天正は死ぬまで妖精舞風の共にあり続けるのだ。


やがて、自分の妖力が限界に近づいてきている事に気付く。戦いに力を使いすぎた。なんたる失態。なんたる様だ。能力が及ぶのは自分が認めたものだけ、なんて欠陥な能力。



――認めない。そんなの絶対認めない!!



そんな力なら変えてしまえばいい。彼を救えない力など、いらない!!









                     ”力を奪う程度の能力”








そうだ。彼のためなら限界くらい越えてみせろ。そうでなければ存在の価値などない。


体に漲ってくる力、それは自分が認めた者達を除外・・し、ありとあらゆる存在からありとあらゆる力を集める能力ちから


だが、たとえこれでも彼を生かすことは出来ない。滅びかけている湖を救うことなど出来はしない。



ああ、全く。もしもこの世に全知全能の神と言うものが存在するならば、あんまりじゃないか。


どうしてこんな少年が死に至り、自分のような罪深い存在にだけ何事もなく生き残る道を与えるのだ。僕が思ってることは間違っているだろうか?



――否ッ!! 断じて否だ!!



静かな足音がこちらに近づいてくるのに気付く。

縋る物が欲しかった僕はまるで救世主でも求めるかのように、その顔を上げた。



片腕を失った少女が、悲しげにそこに立ち尽くしていた。













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