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水底の坂道  作者: ceryeti
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最終話

「うん、私もうくよくよしない……よ」

「その意気さね。あたしゃ戦争で亭主を亡くしたがね、あの人との思い出はちゃんとここにしまってあるのさ」

 ダイばあさんは自分の胸をぽんと叩いて言った。

「そうだったんだ」

「おうさ。まあ、私の場合は死んじまっていないが、おまえさんたちはまだ先が長いんだ。生きてりゃどこかできっと会えるよ」

 そう言ってダイばあさんは私の肩にやさしく手を置いた。

「うん、ありがとう。私、元気が出た」

「ようし、それじゃあまた明日、ここで宝探しだ。昼間だったら見つかるべさ」

 お守りの石、確かに明日の明るいうちに探せば見つかるかもしれない。けれど、私は……。

「ううん、ダイおばあさん、もういいの」

「なんだい、石がもういいのかえ?大事なものなんだろ?遠慮はせんでいいから」

「うん。大事だけど、もう探すのはやめようと思うの」

「どうしてだい急に、なにもあきらめることはないじゃないか」

「ううん、違うの。探すのはやめるけどあきらめるんじゃない。ダイおばあさん、さっき自分で言ったでしょ、下を向いて立ち止まってばかりじゃいけないんだって」

 その私の言葉を聞いてダイばあさんは驚いた顔をした。

「そうか、ほっほっほ、そうかえ。わかった。探すのはやめような。実際石がなくたっておまえさんたち四人はどこかできっと会えるよ。それに雪枝は弱虫じゃないんだ。お守りがなくてもくじけずにやっていける」

「うん、ありがとうダイおばあさん」

 見上げると、暮れゆく空はきれいな群青に染まっている。私は顔をあげて、畦道を歩きだした……。


◇◆◇◆◇


 芦切沢での最後の思い出……か。

 次の年、祖母のいなくなった芦切沢に帰ることはなかった。好雄たち三人の行方もつかめないまま、今日再びこうして訪れるまで十三年の月日が流れたのだった。

 私が今日芦切沢に戻ってきたのはすべてあの時の思い出のためだ。水の底に沈む、二度と戻れない夏の日の思い出……。しかしその思い出は、振り返りはしても立ち止まってくよくよするためのものではない。前へ進む励みとなるものだ。

 夕暮れの迫るバス停に来た時と同じバスがもう来ていた。まだ余裕があると思っていたのに、いつの間に時間が経っていたのだろう。私はバス停に向かって畦道を走りだした。

 走っていると不意にまた、あの時の思い出がフラッシュバックしてくる。

 この畦道を駆け抜けた、三人とのあの日の、虫取りの思い出が――――。


 でも私は立ち止まらない。

 走り続けて飛び乗ると、バスはエンジンのかかる音とともにゆっくりと動き出した。余裕をもって気をつけていたのに、思いのほか時間が経っていたらしい。

 この芦切沢に戻ってくることはもうない。坂道も、神社も、石階段も、畦道も、すべて水底に忘れ去られてしまう。しかしあの夏の日の思い出だけは、私の胸の中に大切にしまわれている。

 好雄、岬、朔司……、三人は今頃どこでどうしているのだろう……。

 元気にしていればいい。ふっと笑みをこぼして、私は思った。

 もう会えないのかもしれない。でも、それでもいいじゃないか。

 離れ離れになっても、楽しかった思い出を胸に前を向いて進んでいく。それは強がりでもいい。だから、どこかで元気にしていればいい。

 私はあの写真をもう一度見ようと、おろしたリュックに手を伸ばした。大切にしまったものだからなかなか出てこない。

 四人一緒に写っている一枚だけの写真、おかしいなとリュックのしまいそうなところはすべて手を入れてみるが、どこにいってしまったのか写真は一向に見つからなかった。

 きっと、落としてしまったのだ……。

 大切にしまったつもりだったのに、写真を村においてきてしまった……。いつかの四人を切り取った、大切な思い出のひとかけらを……。

――――オレが今からとってきてやるよ。

――――雪枝は泣き虫でも弱虫でもないんだ。

――――雪枝ちゃん、また来年ね。

 ふと、三人の声が聞こえた気がして、私は後ろの窓から去りゆく村を振り返った。

 バスはトンネルに入り、村は次第にその向こうに見えなくなっていった。

 水底の坂道、最終話をお届けします。

 お読みいただきありがとうございました。素人の書く拙文で、読者の方々のお目を汚すことになりましたでしょうが、読んでくださる方々がいるのはなによりも力になりました。

 ありがとうございました。


ceryeti


あとがき、新作等はブログにて(新作を連載中)

http://ameblo.jp/ceryeti/


追記

もし最後まで読んでくださいましたら、

「読んだぞバカ」

だけでもコメントくれると踊って喜びますww

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