婚約破棄された悪女令嬢ですが、王太子と偽聖女の不正をすべて記録していました〜公開の場で暴露したら国ごと崩壊しました〜
それはあまりにも突然だった。
「リリアーナ・エルフェルト。お前との婚約を破棄する」
王宮の大広間。貴族たちが見守る中で、王太子アルベルトは高らかに宣言した。
ざわめきが広がる。
だが、その理由を聞いた瞬間、ざわめきは確信へと変わった。
「お前は聖女エミリアを虐げ、陥れようとした悪女だ」
視線が一斉に私へ突き刺さる。
――ああ、そう来たか。
内心で私はため息をついた。
表向きはただ静かに、そしてわずかに驚いたように目を見開く。
「……そのような事実はございません」
「まだ白を切るか! 証人は揃っている!」
アルベルトは勝ち誇ったように手を振る。
前に進み出たのは、柔らかな微笑みを浮かべた少女――聖女エミリア。
「リリアーナ様は……私に『偽物の聖女のくせに』と……何度も……」
震える声。潤んだ瞳。
見事な演技だった。
周囲の貴族たちは完全に彼女を信じている。
「なんて酷い……」
「噂は本当だったのか」
「やはりエルフェルト家は……」
好き勝手な言葉が飛び交う。
アルベルトは満足げに頷いた。
「これ以上の弁明は不要だ。リリアーナ、お前には追放を言い渡す」
――ここまでは予定通り。
私はゆっくりと息を吐いた。
「……承知いたしました」
驚きの声が上がる。
抵抗すると思っていたのだろう。
だが、私は頭を下げた。
そして、顔を上げる。
「ただし、一つだけ。最後に申し上げたいことがございます」
「今さら何だ?」
苛立ちを隠さない声。
私は静かに微笑んだ。
「すべて、記録は残っております」
その一言で、空気が変わった。
私はエルフェルト家の令嬢。
だが、それは表向きの顔に過ぎない。
王国監査局――その実働員。それが私の本来の役目だ。
貴族や王族の不正を調査し、証拠を収集する。
王国の“裏の秩序”を守る者。
アルベルトとの婚約も、その任務の一環だった。
王太子周辺に不審な動きがあったからだ。
そして調査の結果――
予想以上に腐っていた。
「証拠、だと……?」
アルベルトの声がわずかに揺れる。
「はい。王太子殿下と聖女様、そして一部の貴族による不正の記録です」
「ふざけるな!」
怒声が響く。
だが私は構わず続けた。
「まず、聖女エミリア様の奇跡について」
視線が彼女に集まる。
「その力は本物ではありません。特殊な魔道具によるものです」
「な、何を――」
エミリアの顔が初めて崩れた。
「証拠はこちらに」
私は小さな水晶を取り出した。
魔力記録装置。
そこには、彼女が密かに魔道具を使用している様子が記録されている。
ざわめきが広がる。
「さらに、この魔道具は王太子殿下の資金で用意されたものです」
「嘘だ!」
「いいえ、資金の流れもすべて記録済みです」
私は淡々と続ける。
「加えて、王太子殿下は王国予算の横領、特定貴族との癒着を行っています」
次々と証拠を提示する。
会場の空気は完全に逆転していた。
「ば、馬鹿な……」
アルベルトの顔から血の気が引く。
エミリアは震え、言葉を失っている。
「そして――」
私は最後の一枚を掲げた。
「これらの不正は、陛下も把握しておりました」
静寂が落ちた。
次の瞬間、会場は爆発した。
「な……!」
「陛下まで……?」
「国家ぐるみの不正だと……!?」
王の顔が強張る。
逃げ場はない。
すべて、記録済みなのだから。
その後の展開は速かった。
聖女エミリアは詐欺の罪で拘束。
王太子アルベルトは廃嫡。
関与した貴族たちは次々と失脚した。
そして――
王は退位を余儀なくされた。
王国は大混乱に陥る。
だが、それは自業自得だ。
私はその騒動の最中、静かに王都を後にした。
任務は完了したのだから。
「――お見事でした」
城門の外で待っていたのは、一人の男だった。
隣国の使者。
「あなたの働き、我が国は高く評価しています」
「光栄です」
「ぜひ、我が国でその力を振るっていただきたい」
差し出される手。
私は一瞬だけ、振り返る。
かつての王都。
今はもう、崩れゆく場所。
――未練はない。
「喜んで」
私はその手を取った。
数ヶ月後。
元王国は内乱状態に陥っていた。
権力争い、経済の混乱、治安の悪化。
かつての栄華は見る影もない。
一方で私は――
「次の調査対象はこちらです」
新たな任務を受けていた。
場所は隣国の王宮。
再び、不正の匂いがする。
私は微笑む。
――どこにでもあるものだ。
権力と腐敗は。
だが。
「すべて、暴いてみせます」
それが私の仕事なのだから。
婚約破棄から始まった一件は、一つの王国を終わらせた。
だが、それは終わりではない。
むしろ――始まりだ。
真実を暴く者の物語は、これからも続いていくのだから。




