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その「穴」は人生を変えるか  作者:


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3/4

来訪者

翌日、あの騒動など最初から無かったかのような、ひどく平穏で退屈な一日を終えた。


帰宅して一息ついていると、不意に玄関のチャイムが鳴った。


「……宅配か?」


無警戒にドアを開けると、そこにはあのおかっぱ頭の隣人が佇んでいた。


「あの……カレー、どうでした?」


上目遣いに覗き込んでくる、どこか湿り気を帯びた声。


貰ったカレーは中身ごと「穴」の中に放り込んで処理したが本当のことは言えない。


「ああ、すごく美味しかったですよ。鍋、返すの忘れてましたね。今持ってきます」


「いや。食べてないですよね」


俺の言葉を遮るように、冷徹な声が被さった。


おかっぱの顔から表情が消える。


「僕のカレーを食べたら、分かるはずなんだ。あの中には……あの中には、僕の……」


「あの中には、なんだって?」


俺が問い返した瞬間、おかっぱの理性が弾けた。


「食べてないなら、今ここで食べさせてやるよォ!」


おかっぱが叫び声を上げ、俺に向かって突進してきた。


「うお、何すんだ急に!」


だが、超常的な電撃を潜り抜けた俺の体は、驚くほど冷静に反応した。


俺は咄嗟に突っ込んできたおかっぱの肩を掴み、腰の回転を利かせて床へ叩きつけた。


投げ技なんて練習したこともないが、昨夜の死線が俺の「生存本能」を呼び覚ましていたらしい。


男は床に激しく打ち付けられ、しばらく悶絶していたが、やがて子供のように声を上げて泣き始めた。


「……っ、うう……こんな、こんなはずじゃないのに……」


一体全体、なんなんだこいつは。


俺はおかっぱから視線を外さないよう、背後の空間に手探りで「穴」を開いた。


そこから通販の梱包で余っていたロープを引き出すと、泣きじゃくるおかっぱを容赦なく簀巻きにした。



「おい、おかっぱ。白状しろ、何が目的だ」


簀巻きにされたおかっぱは、ロープの食い込みが窮屈なのか芋虫のように身をよじっている。

俯いた前髪のせいで表情は読み取れない。


「いやぁ……あの、その、別に。というか、僕の名前はおかっぱじゃ……」


「カレーの中に『何か』入れてるって言ってたよな!」


「い、いや、別に何も! ちょっと気が動転したというか、言葉のあやで……っ」


「よし。白を切るなら、こっちにも考えがある」


俺は拳をボキボキと鳴らし、ゆっくりと腰を落とした。


電撃使いを倒した実績が、俺に少しばかりの「凄み」を与えていたらしい。


「わ、わかりました! 全部言いますから! ……た、体液をね、入れてたんですよ。ちょっとだけですよ、ほんの隠し味程度に!」


聞いた瞬間、脳が全力で理解を拒絶した。だが、事実として最悪すぎる。


「……つまり、救いようのない変態野郎ってことか」


「違います! 断じて、決して、断固として、そんな卑猥な目的じゃないんです!」


「自分のモノを混ぜたカレーを隣人に食わせる奴が、変態以外の何者だって言うんだよ!」


「能力なんです! 僕の、能力に関する事なんです!」


「能力」という単語に、思考の歯車が噛み合った。


俺の「穴」や、あの電撃使いと同じ類のもの。


「僕の体液を摂取させた相手を、操ることができるんです。それで……貴方を操ろうと……」


「なるほどな。立派な悪党じゃねえか」


「いや、でも今はもうそんな事思ってません! 操ろうなんて微塵も!」


「簀巻きにされた状態でよく言うぜ」


それにしても、こんなに早く別の能力者に出くわすとは。


「お前……あの夜のこと、見てたんだな。空き地で俺が能力を使ったのを見て、目をつけたんだろ」


俺の問いに、おかっぱは心底不思議そうに首を傾げた。


「空き地? いえ、普通にベランダで『穴』にゴミを捨てているのを見かけたんですよ。それで、便利そうだなって……」


「……は?」


外で出していた? 記憶を辿る。……ああ、そういえば寝ぼけて適当に放り込んだことがあったかもしれない。自分のあまりの不用心さに眩暈がした。


「ま、まあいい。その能力で、今まで何人操ってきたんだ。お前、普通に極悪人だろ」


「いや、やろうとしたのは継守さんが初めてですよ!」


「嘘つけ! 試したこともないのに、自分の能力が『操る』ことだって確信できるわけねーだろ!」


「いや、それは」


おかっぱが喋ろうとした時、またしても玄関のインターホンが鳴り響いた。


「ったく、もう夜なのに誰だっての……!」


イライラをぶつけるように、乱暴にドアを開け放つ。


そこには、見慣れない男女の二人組が立っていた。


女性は腰まで届く長い髪を三つ編みにし、太い眉と凛とした目鼻立ちが美しい、威圧的な美人。


隣に立つ男は2メートル近い長身で、レザーの指出し手袋をはめている。

糸目の奥からは、隠しきれない威厳と暴力の気配が漏れ出ていた。


俺が何かを問いかけようとした、その刹那。


女性の手が、稲妻のような速さで俺の頭を掴んだ。


「――確保。抵抗は無意味よ」


脳を直接掻き回されるような激しい眩暈が襲う。


視界が急速にブラックアウトし、俺の意識は抗う術もなく闇に呑み込まれた。

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