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第4章 魔王さまとペンライト④


 翌日から魔王選の予選が始まりメディアでも報道合戦が行われる中、わたしの城での生活にも変化が訪れた。

 城にいる人たちも、ほとんどがあの熱愛の記事を目にしたのだろう。朝から誰かと通り過ぎるたびに、ちらちらと視線を感じる。

 それでも面と向かって記事の話を持ち出してくる人はいなかったが、昼頃に食堂に行くとついにポアラに聞かれてしまった。


「ねえ、アカリ! あの記事って、本当なの?」


 ポアラは待ってましたとばかりに、カウンター越しに身を乗り出す。

 すると、厨房の奥からガラムさんまでやって来た。


「魔王さまがいまだに否定の声明を出していないってことは、やっぱり事実なのか?」


 2人との間にはカウンターがあるのに圧を感じ、わたしは思わず身を引いた。


「えっと、それは……」


 もし記事について尋ねれられたら事実だと答えるようにと、魔王さまから言われている。

 けれど、ポアラとガラムさんを騙すような感じがして心が痛くなった。魔王さまに物語性を作るよう提案したのは自分だけど、いざその立場になってみると、なかなか苦しいところがある。

 なにしろ、内容が内容だ。相手は魔王さまで、偽りの恋人役なんてわたしにはそもそも荷が重い。

 2人なら信頼できるし、本当にことを話してもいいのかもしれない。


「あの記事なんだけど、実は……」


 そう切り出した瞬間、大きな手のひらに肩を抱き寄せられた。

 魔法で移動してきたようで、いつの間にか魔王さまが隣に立っている。手で引き寄せられたことで、魔王さまとの距離がぐっと縮まった。


「あの記事は事実だ」


 突然現れた魔王さまは、まるでさっきまでのわたしたちの会話を理解しているかのように、さらりと言ってのけた。

 魔王さまの登場に、ポアラもガラムさんも魂が抜けてしまったかのように、口を開けたまま目を瞬いている。


「アカリに頼みたい仕事があるので、借りていくぞ」

「ええ、どうぞ、どうぞ」


 ガラムさんが辛うじて自我を取り戻し、身振り手振りを使って答える。

 わたしは物じゃないんだけどなと思いつつ、手を離して先を歩き出した魔王さまに黙ってついていく。

 去り際にポアラとガラムさんに、目線で「これは嘘です。ごめんなさい。いつか本当のことを話します」と訴えてみたけれど、2人は呆然としたままだったので、おそらく伝わっていないだろう。 

 周りの視線を感じながら廊下を進み、人気のないエントランスまで辿り着いたところで、魔王さまが振り返った。


「お前、さっき本当のことを言いそうになっただろう?」


 魔王さまはどれだけ地獄耳なのだろうと訝しみつつも、素直に謝る。


「すみません……罪悪感とマネージャーとしての倫理観に負けてしまい……」

「あの2人の口がいかに堅かろうと、どこに敵の目があるかわからない。俺の玉座がかかっているのだから、死ぬ気で演じろ」


 たしかに魔王さまの言う通りだ。魔界の人たち全員を騙す覚悟がなければ、魔王選で魔王さまを勝たせることはできないだろう。


「わかりました。命懸けで演じます」


 わたしは気持ちを引き締め直して、返事をした。


「よし。では、今から街へ出る」

「街へですか? いってらっしゃいませ」

「何を言っている。お前も一緒に行くんだ。あの記事が事実だと印象付けるには、実際に市民に2人でいるところを見せたほうがいいだろう」

「え、そこまでやるんですか?」

「当たり前だ」


 短く答えると、魔王さまは出口に向けて歩き出す。

 いつになく、積極的に動いている魔王さまに戸惑いつつも、わたしはその背中を追いかけた。



 街の中を歩いていても、周りの反応は城とほとんど変わらなかった。ちらちらと視線を向けながら、何やら噂話を囁き合っている。

 これならいっそ、直接話しかけてくれたほうがいいかもしれないと思い出した頃、女性の魔人2人組がこちらに近づいてきた。


「すみません、つかぬことをお伺いしますが……あの記事って本当なんですか?」

「ああ、本当だ。俺としては、将来的なことも見据えている」


 魔王さまが答えると、女性たちはキャーッと悲鳴に近い声を上げる。

 2人がキャッキャッと騒いでいる間に、わたしは魔王さまにこっそり耳打ちした。


「いいんですか? そんな大々的なことを言ってしまって」

「中心街に入ったあたりから、記者らしき男が尾行している。ここで少し大げさなことを言って耳に入れ、新たな記事を書かせよう」


 さり気なく後ろを振り返ると、たしかに物陰に怪しい男がいる。

 カーチスさんの案を受け入れたものの、ここまで積極的に例の記事に乗っかるのもどうなのだろう。

 軽く疑問を覚えるが、そうこうしているうちに女性2人組がまた質問をしてきた。


「あの、もしよかったら、お互いどこに惹かれ合ったのか教えてください」


 乙女のように目を輝かせながら、2人は答を待っている。

 わたしは心の中で、なんてことを聞くんだと叫んだ。魔王さまもこの質問は想定していなかったようで、急にもごもごし始めた。


「いや、それは……そうだな……仕事に熱心なところだ」


 答え終わっても、2人は魔王さまに目を向けたままでいる。その瞳はまるで、もっと他にあるでしょう、と催促しているようだった。

 魔王さまもその空気を察したようで、「それから」と続ける。


「いつも笑顔でいるところ、魔王という立場に臆せず踏み込んでくれるところだ。既成概念を壊し、新しい視点を差し出してくれる。なにより常に支えてくれる存在であり、感謝している」


 記事のために用意した答えだとわかっていても、隣で聞くには恥ずかしすぎた。

 女性2人は満足したようで、今度はわたしに目を向ける。


「マネージャーさんは、魔王さまのどこを好きになったんですか?」

「えっと……仕事に一生懸命なところです。魔界のみなさんのために頑張る魔王さまを支えたいなぁと思いまして」 


 これはマネージャーとしての本心でもあるので、すんなり出てきた。

 けれど、やはり乙女2人にはこの答えでは物足りないようで、続きを待っている。


「あとは……冷たく見えて実はとても優しいところです。意外と可愛らしい一面もあって、そんなところが……」


 話しながら、いったいわたしは何を言っているんだろうと、頬が熱くなる。

 なんだか歯切れの悪い回答だったものの、2人にはそれで充分だったようだ。


「ありがとうございました! お2人のこと、応援しています!」


 女性2人は、楽しそうに話しながら街の中へと消えていく。

 残されたわたしと魔王さまの間には、なんとも言えない気まずい空気が漂った。


「……帰るか」

「そうしましょう……」


 ぎこちないやり取りを交わしながら、わたしと魔王さまは城へと引き返した。 


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