第9話 ジョロの宝箱と商人ギルドデビュー
一度家族で現代世界に戻る段取りをしたミサオ。
今回はミサオの時と同じ過ちを繰り返す訳にはいかない。
クミコの見た目が若返ったのは、本人含めて何も問題無い。
むしろもっと見た目年齢下げても良いとクミコ本人は口にしていた位である。
が、コジ丸・・・ジョロの場合はそうもいかない。
現代世界に獣人は存在しないのだから。
礼儀として課長さんにメールで連絡を取り、ひと手間かかるが日本に戻る時には見た目をワンコスタイルに戻して欲しいと依頼する。
こればかりは譲れない。
ジョロはイマイチ理解してない様ではあったが、結局。
願いは認めて貰って、転移前と同じ見た目に現代世界では誤魔化して貰った。
(・・・聖獣関係無く、やっぱ出来んじゃんか課長さんてばよっ!)
気になる事にも収まりがつき、クミコとジョロを転移前の、会社と偽ったダミーの部屋から車で自宅に送り届け、今度は1人で車に乗って、改めてダミー部屋から転移する。
もう家族にバレているのだから自宅から転移しても良さそうなのだが、せっかく敷金礼金だして借りた部屋だし、気分的に仕事モードのスイッチを入れる場所になっているのだとミサオ自身は考えている。
異世界から現代世界、そして又異世界に戻るミサオ。
異世界側の時間は止まっていた為、そのまま1人で動ける時間だ。
さて、あちこちの人達・・・主に(暁の牙)の3人からの情報なのだが、商人ギルドへの登録には、営業形態の報告と商材の提出が必要らしい。
身分については、C級冒険者の肩書がここでも物を言った。
だが、ここで引っかかるのが商人としての実績である。ミサオは勿論実績ゼロ。
こちらの世界では、普通なら他の商人の元で丁稚奉公するか、親の後を継ぐ形が一般的である。
いきなり商売を起こす人間が全く居ないかと言われればそうではないが、不安要素の一つにはなる。
(まぁ、今の俺には人生経験がある。もしもダメなら、他の手段を考えればいい。)
冒険者として。
現代日本の社会人として。
ミサオもそれなりに積み重ねてきた物がある。
冒険者ギルドからもそこまで離れていない建物。
こちらは天秤と硬貨を入れる袋のマーク。
この世界の識字率の問題もあるのだが、文字で探すよりも実際早い。
「・・・一丁、大人モードでかましてやりますか!」
両頬をパチンと叩き、ミサオは建物へと入ってゆく。
中の作りも冒険者ギルドと似たような物。
そこまで迷わず受付の男性に声をかける。
「お忙しい所すんません。新規でお店やりたいと考えておりまして・・・知識も足りないもので、色々教えて頂きたいのですが・・・。」
丁寧にミサオは要件を伝える。
「新規開店ですね。で、商人ギルドへの登録も無いと。身分を証明する証はお持ちですか?」
「あ!ぼ、冒険者のカードもってます!」
「なら、それをこちらにお出し下さい。奥で確認致しますので。」
「あの、こ、これ!何卒宜しくお願いします!」
「そんな固くならずに。すぐ終わりますので、お待ち下さい。」
受付の男性がミサオのカードを片手に席を外す。
(セーフ。ま、ギルド同士繋がりあるからこの位はクリア出来ると思ったけど。)
程なく戻ってきた男性が、カードを2枚渡してくる。
「はい。確認完了です。冒険者ギルドのカードから情報を移行し、商人ギルドへの登録は完了致しました。
年会費がかかりますので、その他も含めて後でご説明差し上げます。で、こちらのカードが商人ギルドのカードとなります。
無くされると新たに作るのに時間も手間もかかりますのでくれぐれも無くされません様に。」
「分かりました。」
男性に言われた言葉に素直に頷くミサオ。
「それでですね、新規の店舗開店との事でしたので、必要になる書類をご用意させて頂きました。一緒に確認して下さい。」
男性に言われた書類に目を通す。
事業計画書。
ミサオは現実的に考えた。
(物品の販売からスタートするのは決まりだよな。
将来的には生産にも関わりたいが、今は出来る範囲で。
次に販売する商材。これが頭を悩ませる所だな。
酒や食材も考えたが、 現代世界から持ち込むには物量が多すぎたり重い物だと支障が出るよな。最初は人材も足りないし。基本は加工済みの物。
俺一人で運ぶのにも限度があるし、副業である闇憑き討伐や他の依頼にも支障が出る。
そういえばこの前、暁のメンツと飲んだ時、チョコって喜ばれたっけ・・・。)
そこから閃く。
(お菓子類か・・・飴玉、せんべい、クッキー、チョコレート・・・これなら、個包装の品物を持ち込み、異世界仕様に詰め替えて販売できる!
転売上等!
まして甘味はこっちじゃ単価高くて、普通の人達にはあんま手が出ないみたいだしな!よし!お菓子屋!)
「この書類って、今この場で書いちゃって良いんですよね?なら、埋めちゃいますね~!」
ミサオは興奮気味に必要事項をその場で埋める。
「はい。漏れは・・・有りませんね。それでは、この店舗で販売される商品などの見本は・・・お持ちじゃありませんよね?」
「い、今ですか?持ってきては居ませんが・・・。」
話の早さにミサオもうろたえる。
「ならば日を改めて、ご予約を・・・。」
「いや!まだギルドが閉まる時間じゃ無いですよね?なら、少しだけ待ってて下さい!あの、近くまでは持ってきてますから!あの、店舗兼自宅の倉庫に見本、ありますから!そのまま!ステイで!少しだけ!今取って来ま~す!」
言い残して慌ててミサオは商人ギルドを飛び出してゆく。
「はぁ・・・。ステ?どういう意味だ?」
受付けた男性は首をかしげる。
(人目に付かないトコ!人目に付かない・・・よっしゃ!)
路地裏に隠れたミサオはすぐさまスマホで転移する。
現代世界のいつもの商業施設。
「急げ急げ急げ!個包装の袋菓子!チョコに煎餅、クッキーに・・・これも!これも!これも!」
菓子類のコーナーで手当たり次第にカゴにぶち込んでいる。
そんなミサオの姿を通りかかる人達は不思議そうに見ている。
ミサオは気付いて居ない。
異世界仕様の服装のままなのだから。
それよりも先にミサオは気付く。
(・・・ビニールとか銀紙って・・・不味くね?)
日本の通貨はちゃんと持ってきていたのでカゴ一杯の菓子類は精算を済ませ、手提げのビニール大袋2つを両手に持って今度はラッピング商品の売っているコーナーへ走る。
(布!袋状のヤツ!・・・フェルト!後はリボン!あるだけ買う!)
こちらも済ませたミサオは、施設のトイレからダミーの部屋へと転移。
「いや~忙しい!でも、向こうの指定の日とかに合わせんなら、向こうでその分過ごさなきゃ時間経過しないからな。そこまでまってられっか!よし、マスクとビニール手袋、用意しておいて良かった~。んじゃ、詰め替え詰め替え。」
ここからミサオはほぼ内職モードとなる。
様々な菓子を袋から出して詰め替える作業。
それでもチョコだけは中で溶ける事を考え、銀紙からは出さなかった。
(今回だけ!まずは乗り切る事最優先!)
それから約1時間程。
「うし!手先ぶきっちょなのはこの際目をつぶって!・・・押し入れの方に・・・あった!異世界仕様の布袋!流石にスーパーのビニールじゃ持ってけないよな、この量は!俺冴えてる~!さぁ、ポチッとな!」
ミサオはブツブツ独り言を言いながら、詰め替えた小袋を大きな肩掛けの布袋に押し込み、再びテリオスの町の路地裏へと転移する。
「お待たせしました!これ、見本です!取り敢えず見て、味わって判断お願いします!」
「え?こんなに?そんな種類多いんですか?」
「いや、どうせなら日々頑張っておられるギルドの皆さんに食べて頂いて、ご意見頂くのもいいかなぁ・・・なんて。」
「そんなお気遣い頂かなくても・・・それでは上司に声をかけてから、担当の者立ち会いの上で確認の方をさせて頂きます。今、お部屋の準備を致しますので少しだけお待ち下さい。」
言い残して又受付の男性は席を外す。
(・・・間違ってない・・・筈だけど、平気だよな?少し落ち着くと不安になるわ。)
「お待たせしました。お部屋の準備が出来ております。既に担当の者と上司も待っておりますので、こちらへ。」
男性の先導で、いよいよ最後の難関である品物の確認の部屋へと導かれるミサオ。
「どうぞこちらへお座り下さい。さて、先ほどお渡し頂きましたこちらの袋の中身なのですが、幾つも小袋が入っておりましたね?この小袋のご説明を頂けますか?」
テーブルを挟んでミサオと相対した2人の男性達。向かってミサオから見て左側がいかにも人の良さそうなふくよかな男性。こちらがミサオに話しかけている。向かって右側はスラッとした体形の見た目若い男性。いわゆる単眼鏡をかけた、いかにも頭の切れそうなタイプ。
「え~と、私はこの度、事業計画にも書いておりますが、この町で菓子店を開きたいと考えております。
幸い私には懇意にしている他の国の商人のツテがたまたまありまして・・・。
他国の珍しい菓子類を仕入れる事が出来ました。
ならばお世話になっているこの町の方々に、出来るだけ味わって頂きたいと考えて、今回、店舗を構えようとした次第です。
又、確定ではありませんが、ゆくゆくは菓子類だけでなく、その他の他国の品物なども仕入れていければなどと思っております。」
「・・・あなたの気持ちは伝わりました。が、あなたにはこれまで積み上げてきた商人としての実績がございません。ですので今回は販売を前提とした品物の確認という手間をかけさせて頂きます。・・・で、これがその商品だという事でよろしいですね?」
右側の単眼鏡イケメンがスラスラと話す。
「はい。」
「では、確認させて頂きます。まずは・・・焼き菓子ですか?」
一つの袋をイケメンが開ける。
「あ、それは・・・チョコチップクッキーですね。まだ小袋いくつかありますから、開けた物は全部試食して下さい!」
「では・・・!」
「ど、どうされました?」
左のふくよかさんが隣のイケメンが固まるのを見てうろたえる。
「これは・・・甘過ぎず、口の中に入れたらホロホロとほどけていく食感。それとこの黒い粒。舌の上で溶けてしまう。このような品が他国にはあるのですか・・・。」
チョコチップクッキーでこれならと、ミサオもホッとする。
「それだけじゃないですよ。どうせなら色々開けちゃいましょう!袋の色で中身わかりますから。あ、その赤いのは、穀物のすりつぶした粉を固めてしょっぱい液に浸けながら焼いたせんべいっていうやつです。んで、緑の袋は、チョコレートという菓子ですね。先ほどのクッキーに練り込まれていた黒い粒を単体で固めてある菓子です。あ、その銀色のヤツは包み紙ですので、この空いた小袋にまとめて入れて下さい!持ち帰りますので・・・。こちらの見本は、全て置いていきますので、ギルドの皆様でご賞味下さい。で、確認の方なのですが・・・。」
「承認。」
「へ?」
「いつ開店します?どれくらいの値段を考えているんですか?時間は何時から?」
イケメンさんの圧が酷い。
「いや!近い!顔が近い!その辺はおいおい!家族もいますし、商品も吟味しますから!てか、開店準備してもいいって事ですよね?動いちゃっていいんですね本当に!」
「・・・失礼。べナス。この方の開店許可の方、迅速にお願いします。私からの直接の案件として、特に!と~く~に!協力して差し上げなさい。」
「し、承知致しましたマスター!」
(マスターって・・・イケメンさんギルドマスターなのかよ・・・。)
「・・・それでは私はこれで席を外させて頂きます。後は担当のべナスと詰めて下さい。
何か困った事がこれからの商売の上でございましたら、直接!私ダイナに直接お声をかけて下さい。」
「ダイナさん・・・ですね。承知致しました。今回はお手間お掛け致しました。ありがとうございます。」
商人ギルドマスターであるダイナとミサオはここで互いに握手を交わす。
これで店を開ける道筋も出来た。
開店の日など細かい話はあるものの、一度家族で話も詰めなければならない。
ミサオは最終的な話を後日として、この商人ギルドを後にする。
ミサオがギルドを離れた後。
律儀にギルド職員達に見本の菓子をべナスと呼ばれていた担当者が配り歩く。
結果。
職員たちに大好評。
「いつから販売開始されるんですか!」
「残りはもう無いの?」
「それ、私のと半分こして!あ!こっちも好き~!」
期せずしてミサオは、潜在的な客をつかむマーケティングを済ませてしまっていた。
「・・・と言う事が商人ギルドであってさ。店、開店出来る算段ついたよマミ。ジョロ。」
「そりゃ、向こうじゃ喜ばれるでしょうね。でも、害獣・・・闇憑きだっけ?それの駆除・・・討伐とお店の掛け持ちなんて出来るの?」
現代世界に戻り、自宅で会話をするミサオとクミコ。
ジョロも和室のミサオの膝の上で丸まっている。
「人の募集もしたんだわ。金勘定出来て、商売経験ある人間。商人ギルドのトップ直々だからヘタな人間寄越さんだろうよ。後は店舗に手を加えて、2階の住居スペースも整えて。倉庫に仕入れた菓子積んで。やる事一杯あんな~。」
改めて商売の大変さを考えるミサオ。
「名前は?」
不意にクミコが聞く。
「名前か・・・名前ねぇ。考えてなかったけど・・・。」
ミサオもそこまでは決めていなかった。
が、初の自分達の店である。適当には出来ない。
その時、ふとある事を思い出したミサオ。
「そういえばさ。課長さんにちらっとジョロの事、気になって確認したんだけど、ジョロって獣人な訳じゃんか。んで、食事の事確認したんよ。したっけ、人間と変わらないらしいんだわ。・・・ワンコの時にダメだったチョコとかレーズン、タマネギやトウガラシ、禁忌なくなるんだってさ!んなら向こうの店でもお菓子食い放題!こんな嬉しい事ねぇよな!」
「え?ホント?向こうじゃ同じ食事していいの?ジョロ!好きなもん食べてイイんだって!良かったね!」
「ワフ!」
クミコの言葉にコジ丸・・・ジョロも反応する。
「それじゃあジョロにお店の品物、全部食べられちゃうかもね!」
「ジョロに食い尽くされたら困るけど・・・けど。そうだよな、あそこの店は、家族が初めて開ける店だ。名前にジョロ入れたいな。ジョロ・・・。」
ミサオが再び悩む。
「ジョロの?何?」
クミコが急かす。
「ジョロの・・・。ジョロにしてみればお菓子なんて、絶対はまるもんな。ジョロにしてみれば宝の山・・・宝・・・ジョロの宝・・・箱。キタコレ!ジョロの宝箱!どうよマミ!」
「ジョロの宝箱・・・うん、悪くない。パピにしては上出来。」
「してはって言うなよ~。おし!ジョロ!あっちの世界のお店はお前のニックネームから付けさせて貰うからな。本来の名前のコジ丸だと座りが悪いし。な、ジョロ!」
「ワン!」
こうして店の名前は決まった。
「ジョロの宝箱」
ワクワクする気持ちが止められない、ミサオとクミコであった。




