第7話 異世界、家族で初転移
現代日本から転移し、永井家の皆が姿を現した場所。
そこは、ミサオが最初に異世界に現れた森。
ミサオが感じた心の動きをクミコにも感じて欲しかったのだ。
ジョロには自然を満喫して欲しいという所もありつつ。
「どう、異世界。」
そう声をかけたミサオだったが・・・。
「・・・。」
クミコは黙り込んだままだった。
(やべっ!ハズしたか?もうちょっとビックリとかしてくれるとこっちも気持ち救われるんだけど・・・。)
内心焦るミサオ。
だが、クミコは静かに・・・真剣な目でミサオを見た。
「で、コレってどういうことな訳?
最初から、全部説明して。」
(まぁそりゃ、そうなるよな。)
ミサオは観念し、これまでの副業の話を包み隠さず話し始める。
少ない収入の補填の為に休みの日にアルバイトを考えていた事。様々な情報を集めたりしていた事。
そんな中でいきなりスマホに届いたオファーから、奇想天外な異世界での副業が始まって、今日に至るまでを・・・。
なるべく抜けが無い様に、誠実に丁寧に伝える努力をミサオは心掛けた。
もちろん、こっそり貯めていた資金・・・。
クミコに説明出来ずにヘソクリ化していた分の稼ぎの事も、全部。
気付けば、ミサオは自然に土下座していた。
「言えなくて、心配させて、ほんと~~~にごめん!」
土下座の姿からムクリと身体を起こして、今度は慌ててクミコの手を握るミサオ。
「な、なに急に!ビックリするじゃない!」
その瞬間。
ミサオの体内に存在していた(霊体ナノマシン)が、 クミコへと移行した。
コジ丸・・・ジョロの身体もガシガシなでると同じ事が起こる。
課長(カ=チオ)さんからのアドバイスである。
「ご家族連れて行かれるんでしたら、不便が無い様にこちらで対応しますよ!
・・・そうですねぇ、ミサオさん、ちょっとこっちに来て下さい。はい、右手出して!私の手を握って!
・・・ん!はい、出来ました。
え?今のは何だと?クミコさんやコジ丸君に負担無い様にとの親心ですよ。いや、人間からしたら神心?
・・・ま、まぁ大したものじゃないんで!向こうの世界に行ったら、クミコさんとコジ丸君の身体に必ず触れる事、忘れないで下さいね。
それで万事心配ないですから。」
これでクミコも・・・ジョロはイマイチ不明だが、異世界の言語・生活習慣等々に適応したはずだとミサオは少し安心している。
課長さんの説明によれば、ミサオが転移してからの経験までも知識として移行しているらしい。
つまり、ミサオが初転移前に予習した動画を見る時間や、植物や動物・魔物などの事を経験の中から知っていった流れ、通貨単位等々・・・。
それらも全て苦痛無く受け入れられる様に調整してくれた様だ。
しかし、正直ミサオは少し寂しかった。
(いいんだよ?いいんだけどもさ・・・なら最初に俺にも仕込んでくれても良かったんじゃない?)
少し課長に恨み言を心で述べるミサオ。
そんなこんなをしていると、気付けば傍にいたはずのジョロの姿が見えない。
森の中なので、離れた場所ではしゃいで走り回っているのだろうか?
(まぁ、声かけて出てこなければアプリのマップでチェックかけれるし、チートあるとこういう時楽でいいわぁ。)
クミコの方を見ると、いきなり詰め込まれた情報を整理しているのか、少し遠くを見ている様な顔をしている。
(まぁ、平気だよな?課長さん、信じてるからね?)
改めてジョロの姿をキョロキョロと探すミサオ。
その時。
少し離れた木々の隙間から見えた何かの影。ここは、先の闇憑き騒ぎのせいで、人の出入りは規制されている。
動物・・・ではない。
二足歩行の生き物。
ミサオの頭の中に警戒警報が鳴る。
「クミコちゃん待ってて!」
言いながら、
スマホのアプリ(イセ・ゲート)を使って防御魔法をクミコに掛け、正体不明の生き物へと走り出すミサオ。
魔法。
異世界と言えば、当然剣と魔法の世界だと言うのがお約束。
だが、今のミサオには、自らの身体から発する魔力を制御する手段が無い。
と言うより、訓練をしている時間を取っていないのだ。
上昇した身体能力だけで何とかなっている状況なので、おろそかになっている部分もある。
その辺を見越した課長さんに、アプリのアップグレードをしてもらっている。
バージョン2.0。
アプリの長押しタップからの様々な項目に、魔法使用の項目が追加されている。転移・マップ・動画・魔法・・・至れり尽くせりである。
(軽微なバグの修正をしました。)
アプリの更新をかけ終わった後の文言には、ミサオも苦笑するしかなかったが。
その新しいアプリの恩恵を早速受けたミサオが油断無く走る。
(ジョロ!平気だよな?間に合えっ!)
「誰だっ!・・・って、え?・・・モ、モフモフ?」
木々をかき分け飛び込んだ場所で誰何するミサオの目の前にいた生き物。
一糸纏わぬ裸体。
人間というには少しの違和感。
臀部からの茶色い尻尾。
頭部上方から出ている茶色い垂れ耳。
そこにいたのは・・・小さな獣人だった。
その獣人の姿を前に、 ミサオはただただ動揺していた。
(どどど、どうすんのよこれ?)
ジョロの事もクミコの事も頭の中から抜け落ちてしまっている。
(アニメで見てたやつがリアルで目の前に!めっさ可愛いっ!てか、周りに親とか居ねぇのかよ?まっ裸はイカンだろうよ!向こうなら大問題だぞっ!)
ミサオがそんな事を考えていると、オドオドして座り込んでしまっていた獣人の子供がミサオに駆け寄って足元にしがみついて来る。
「おっ?大丈夫か?怪我してないか?」
ミサオは思わず抱き上げて獣人であろう子供の身体のあちこちを確認する。
「パピ~ッ!」
その子供らしき生き物が、ホッとした様な、嬉しそうな表情でミサオに抱き着いてくる。
ミサオの心臓が強くドクンと脈打つ。
「・・・お前・・・コジ丸・・・ジョロか?」
恐る恐る確認するミサオ。
周囲にはあのいつもの息子の姿は見当たらない。
問いかけると、その獣人は嬉しそうにしっぽを振る。
「ん!ジョロ!」
その時、ポケットのスマホが振動した。しかも何度も。
(は?このタイミングで着信だと?ここ異世界だろうがっ!誰が電話してくるんだよ、このタイミングで!)
左腕で獣人の子供・・・ジョロかも知れないその子を抱きながら、ミサオは右手でスマホをポケットから取り出し画面を確認する。
(・・・こっちは連絡、メールしか出来ないのに直電で番号非通知かよ・・・しかもご丁寧に課長って名前だけ通知出して・・・絶対にこのタイミング見計らってたよな?)
ため息をつきながらミサオは通話ボタンを押す。
「あ、お疲れ様です~!
いつもお世話になっております、異世界イグナシア観察担当、カ=チオですぅ~!」
(うわ、営業トーク慣れしてんなおいっ!
てか、この世界、イグナシアって名前だったの?今初めて知ったわ!)
心の中で全力ツッコミしながらも、気持ちを落ち着けて、 ミサオはなるべく冷静に応じた。
「あ、課長さんお疲れ様です。・・・どうしました?」
「家族での異世界転移、いかがですか? なんてご挨拶はこの際要らないですよね。いきなり核心の話なんですが、コジ丸くんの様子はいかがですか?」
(やっぱり・・・。ぜってぇこれわかってた上で話進めるパターンじゃん!)
ミサオの気持ちに構いもせず、課長は続ける。
「あ、先に言って置きますけど、コジ丸くんにはこちらからの余計な肉体変換などの操作は一切行っていませんよ!その辺ご承知おき下さいね!」
(人の思考読んでんだろ絶対!電話要らないだろうに・・・。)
内心でツッコミに疲れてはいながらも、課長の気になる言葉に疑問を口にするミサオ。
「何もしてないって・・・なら、なんでジョロの姿変わってしまったんですか?前の姿はどこ行っちまったんですか?」
「まあ、こちらでは予想していた事なんですけど・・・コジ丸くん、神獣の血を引いてますね!」
(・・・し、神獣?いや待て待て待て。)
もうミサオ的にはお腹一杯過ぎて、胸焼け起こすレベルである。
「改めて説明しますね。
この世界、イグナシアには人間以上の力を持つ存在がいます。
その中に、生身の肉体のままで神に近い力を持つ者達・・・。
(四大始祖)と呼ばれる者がいるんです。」
(・・・そんな設定、動画で説明しといてくれよ最初に!世界の根幹に関わる大事なトコ!)
ミサオは泣きたい位の気持ちになっている。
「ちなみに、貴方たちの世界には、 犬と呼ばれる生き物に始祖犬って居るの聞いた事あります?
それとこちらの四大始祖って繋がりがあるみたいなんですよ。
で、コジ丸くんは、その四代始祖の一柱の血脈。
それが、このイグナシアの地で目覚めた結果が、今の姿・・・っていうのが私の予想なんですよねぇ。」
「予想・・・ですか。俺はもう追いつけませんよ話に。」
(何か話がデカすぎて理解追いつかないんだけど?元のワンコワンコしたジョロどうなんのよ・・・。)
課長の声は軽いが、内容は重い。
「ちなみに、残りの三柱も、 いずれ永井家に関わってくる可能性が高いですから・・・ミサオさん、持ってますよね~!」
「は?」
(え、何その伏線全開な話!もういい加減勘弁してよ・・・。単なる害獣駆除じゃないじゃんかよこれ・・・。)
呆然とするしかないミサオに、電話の先の課長が急にトーンを変えて優しく言葉をかける。
「ですが・・・心配はいりませんよ。
家族を守りたい。
その気持ちさえ忘れなければ、必ず道は開かれます。
それだけは信じてくださいね。
そしてずっと忘れないで下さい。
あなたの将来において、これからの出来事は、偶然と必然の繰り返し・・・ですから。」
そう言い残すと、
課長(カ=チオ)さんは、一方的に通話を切った。
結局最後の方は言葉も返せなかったミサオは、スマホを手にぼ~っと立ち尽くす。
(・・・守る。家族を、か。)
クミコとジョロ(コジ丸)。
もとより、家族あってこその自分だとミサオは常に考えて生きている。
別に何も変わらない。
「・・・そっか。お前さん、俺達の息子か。ジョロ・・・なんだよな!」
「ん!パピ~!」
ミサオを抱きしめるコジ丸の力が強くなる。
「マミの所に、戻るか。その格好だと、ポンポン痛い痛いになっちゃうからな。」
親子2人は、クミコの方へと戻っていった。




