第6話 異世界ファミリー・ポチッとな!
異世界と現代世界。
課長(カ=チオ)さんの段取りによれば。
自分が居ない世界の時間は、暫定措置としてだが停止してくれている。
いずれ変更する事もあるのかも知れない。
そんな不思議ルールの中で何度か転移を繰り返しながら、ミサオも要領をつかんできた。
異世界で討伐を行った後、町の宿屋で一日休んでから現代世界に戻る。
このスタイルが、当たり前になりつつある。本業にも影響しなくなった。
基本、現代世界の本業であるタクシーの乗務員の仕事は、月2~3回3連休が取れる形。
隔日勤務と言われる、1日で2日分の仕事をする特殊な雇用形態のおかげである。
朝7時に営業所で朝礼を行って出庫。
深夜2時前後に営業所に戻って来る形。
このスタイルが3連休が多く取れる秘密なのだが、3連休初日はやはり身体を休める事で潰れてしまう。
となると、3連休の中日で副業に取り掛かる形になるが、ここで時間停止の落とし穴。
正直、異世界副業の間は現代世界の時間が停止しているので.異世界でできるだけ粘って目一杯稼いでから現代に戻ればお財布ウハウハだとミサオも一度考えた。
だから、護衛任務とかも受けて異世界で数日過ごした事もある。
ここでミサオが気づいた事。
現代世界の休みを有効利用してるつもりだったのだが・・・実際のミサオ個人は、働いているのである。
結果として、気が休まらない。
人間とは、心と身体のバランスが取れていないと不調が出る。
異世界で討伐した後に現代世界に戻ってもその時の興奮が収まらずに、一時期不眠症気味になってしまい、本業に支障が出てしまったのだ。
時間や日にちの感覚もおかしくなってくる。
何事も適度が大事だと改めて気が付いたミサオ。
(うん。欲張らないで、副業は一日。クールダウンの為に異世界で一泊して、転移した時間と同じ位の時刻に現代に戻るべきだな。)
このルーティンを守ることで、ミサオの精神的な疲労もだいぶ緩和されてきた。
肉体は課長さんのありがたいやらかしで至って健康である。
そうなると人間というものは・・・慣れる。
環境や思想・文化の違いも苦にならなくなってきた。
トイレとお風呂事情だけは・・・未だにミサオもまだ慣れないが。
いずれ改善したいとミサオは考えている。
さて、ミサオも冒険者稼業をやってるからには、たまには闇憑き以外の魔物討伐や、先ほど話していたドキドキする初の護衛任務も経験する。
護衛の仕事の時は、ドラマチックなあるある展開の盗賊や魔物も出現せず、肩透かしで終わってしまったのはいい思い出。
この日は2つの依頼を合理的にこなそうとミサオも意気込んで動いていたのだが・・・。
「今日~はついでに薬草も、採取だ~採取だ~!魔物とダブルで確認宜しく!」
鼻歌を歌いながらテリオス冒険者ギルドの受付に依頼された品物を並べ出すミサオ。
「すみませんミサオさん。魔物は受付けますが、そちらは雑草ですので・・・。」
「何?だってこの草・・・。」
「それは、根っこが対象なんですよ!」
受付の女性にすげなく言われるミサオ。
「・・・あの、じゃ、魔物だけでどうか一つ・・。根っこ直ぐに取って来るんで、どうか依頼失敗にはしないで下さいっ!」
「まだ日にちありますから!涙目で袖掴まないで下さいっ!」
たまには失敗もするが、これもご愛嬌。
仮パーティだった「暁の矛」は、 お互いの信頼性も高まって正式な本パーティ「暁の牙」となり、 ミサオもすっかり打ち解けていた。
たまには、酒場で一緒に飲む仲。
今日も4人は卓を囲んでいる。
「しっかし、ミサオの持ってきたこの酒、 なんていうか、グッて喉にくるけど鼻から抜ける香りが深い。
今まで飲んだことないけど、美味いのは分かる!」
ジェイが、豪快にコップをあおる。
「ジェイ。その酒はブランデーって言うんだけどさ、
気に入ったなら、また色々持ってきてやるよ!」
ミサオも笑う。
「・・・俺は、この、肉に衣がついたヤツ・・・好きだ。」
ドリトスは、ナゲットをもぐもぐ食べながら言った。
「ドリトス、それナゲットってやつな。
気に入ったなら、今度唐揚げも用意してやるよ。
ただな、絶対自分のこと"オデさぁとか言うなよ?
絶対だぞ?」
ドリトスは素直に頷きながら、ナゲットを追加で頬張る。
「ねえ、この黒くて甘いヤツ、チョコだっけ?
お酒に弱い私にはちょうどいいかも」
サブリナも、嬉しそうにチョコレートを摘まむ。
「ていうか、ミサオって商人やっても成功するんじゃない?
考えてみたら?」
サブリナが冗談まじりに言ったその一言に、
ミサオはふと真剣に考え込んだ。
(商人か・・・。確かに副業って面では、収入増えるしな。
でも、元々は害獣駆除だから・・・。
こっちに来られるのも害獣駆除任せて貰ってる前提だし。
いや、兼業なら有りか?)
思い切って聞いてみる。
「あのさ、冒険者って、商人とかも兼ねてやれるのか?」
ジェイ、ドリトス、サブリナ、全員が頷いた。
要は、商人ギルドに登録して許可を取れば問題ないらしい。
(これは・・・マジでクミコちゃんと話し合う段階かもな。いや、その前に課長さんにスジ通してからか。)
ミサオは、木製コップに残ったブランデーを飲み干し、 なじみとなった宿屋へと向かった。
宿屋のベッドに腰掛け、ひたすらメールの文章を打ち込むミサオ。
「拝啓・・・違う違う!・・・お忙しい所申し訳ございませんが確認があります。
害獣駆除の仕事を辞める事は考えておりませんが、逆に害獣駆除以外の仕事をやったりする事は社内的・・・いや、課長さん的にどのようにお考えでしょうか?
ふと思いついてご質問させて頂きました。お暇な時にでも教えて下さいますよう、宜しくお願い致します。
永井。
・・・おし。これでおかしくねぇべ。んじゃ、送信!・・・大人はスマートに物事しないとね。って、返信早っ!」
ミサオが課長に対して丁寧に書いた確認のメールに対して、返信があまりにも早く届く。
ドキドキしながら確認する。
「・・・マジかよっ!」
返信には一言。
「りょ!」
(何なんだよ・・・一応上司なんだべよ。なんで軽いノリなんだよ。ありがたいよ?ありがたいけど、重みもう少しあっても俺、良いと思うの間違ってるかな?課長さん・・・もう少し、考えて動いた方が良いと思うよ?)
何か腑に落ちずに頭を抱えるミサオ。
取り敢えず課長さんからお墨付きは貰えた。
次はなんと言っても家族。
すなわち、クミコとの話し合いである。
・・・何度となくおこなった異世界での害獣駆除(闇憑き討伐)の副業。
その対価は、現代世界での本業収入を上回ってしまった。
今やどちらが副業なのかわからない。
正直、クミコには内緒で、 車のローンやカードの支払いもすべてクリア済みだった。
さらに、現実的に家を買うラインまで見えてきた。
そんな中での、異世界商人兼業の話。
仕事と収入だけみれば、異世界全振りで動いた方がミサオ的にはいい。
一人で全部こなせるとは思っていないが、 手伝って欲しいともミサオは思っていない。
人を雇い入れても十分商売としてペイ出来る目安も容易に考えられる。
ただ。
ミサオ的には秘密にしていることが、やっぱり辛い。
(言葉で説明しても、与太話にしか聞こえないだろうが・・・。)
ミサオは思った。
「百聞は一見にしかずか、やっぱ。・・・何とかして、現場見せよう!」
宿屋で夜を過ごし、朝食も取らずにこの日は現代に慌て気味に戻る。
現代世界はミサオが戻れば時計が動き出す。
現代世界の時間では、三連休の2日目のまだ昼間。
もう一日休みがある。ここに例の作戦をぶっ込もうとミサオは考えている。
自宅に戻る前に、事前に課長(カ=チオ)さんには事情を説明し、許可も得た。
きっかけ作りには、ジョロにも一役買ってもらう。
そして次の日の朝。
たまのわがままの体を取り、ジョロの洋服を見に行きたいとクミコが腰を上げそうなネタで何とか表に連れ出す事に成功したミサオ。
これも副業のおかげ。財布に余裕が出来るのは正義。
永井家唯一の軽自動車に皆で乗り込みエンジンをかける。
クミコとジョロは後部座席。助手席の後ろにはワンコ用のチャイルドシートもしっかり着けている。
そして出発進行。
ドライブ中、窓から顔を出して外を見たり、 他のワンコに挨拶するのが大好きなジョロ。
今日もご機嫌だ。
「そういえばさぁ、俺の副業先の事務所、この傍なんだわ。
ちょっと見に来ない?」
さりげなく話を持ちかけるミサオ。
だが。
「えぇ~っ、だって害獣駆除の会社でしょ?
ネズミとかハクビシンの死骸とかあったら嫌だし、薬剤も心配だし・・・。
ジョロ連れてって大丈夫なの?」
クミコの言い分は、もっともだった。
しかし、ミサオもここで諦める訳にはいかなかった。家族の未来がかかっている。
何とか嫌がるクミコを言いくるめながら向かった先。
案内したのは生活感ゼロの、副業用に借りたマンションの一室だった。
勿論会社など存在してない訳だから薬剤も動物の死骸も存在しない。
ミサオは嫌がるクミコに頭を下げまくって何とか室内にジョロと入って貰った。
1K。
最低限の家電とテーブル。
布団一組と座布団4組。
そんな一室の冷蔵庫からペットボトルのお茶を出して、 ミサオは改めて向き合った。
「あのさぁ・・・。害獣駆除の副業の話なんだけどさ。
マミ・・・クミコちゃんに言ってないことあってさ。」
クミコは、呆れたようにため息をついた後、真顔で尋ねた。
「で、何?お金に余裕出来たから、ここで何か悪い事でもしてんの?」
(うわっ、直球来たよ!)
ミサオは一瞬ひるんだが、腹を括った。
「いや、害獣駆除も本当にやってるし、ちゃんと稼いでるよ。
ただ、場所と対象がねぇ・・・。」
「だから何なの?ハッキリ言って!」
クミコの追撃に、ついに口を割る。
「異世界!
場所は異世界!
害獣は、その、魔物・・・の中でも特殊なヤツ!」
一瞬、クミコの目が真ん丸に見開かれた。
そして。
可哀想な者を見る目に変わった。
(そりゃそうなるよなぁ・・・。)
「あのね、俺が以前。こんな歳で異世界アニメ見たり、ファンタジー小説読んでたから、バカ言ってるんだろうって思うのは理解出来る。うん。逆の立場なら俺でも思う。」
一応クミコの考えてそうな事は先に口に出すミサオ。
想定はしていたが、やっぱり少し寂しい。ジト目が辛い。
ミサオは深呼吸した。
「わかってる!言葉じゃ信じられないよな!
だから、その目で見てくれ!異世界を!」
ノリと勢いで突っ走るしかない。
ミサオはスマホを掲げ、力強く言い放つ。
「異世界ファミリー・ポチッとな!」
右手の親指でアプリをタップした次の瞬間。
部屋は眩い光に包まれ、
ミサオ、クミコ、コジ丸=ジョロの姿は部屋から消えた。




