第4話 闇憑き討伐の帰還と“現代”への帰路
ミノタウロス型の闇憑き、グレートノックスと呼ばれる魔物の変異種を倒した事を確認したミサオ。
再び線を引いた地面の位置まで戻ると、深々と一礼した。
「ありがとうございました!」
そう言うと、その場にへたり込んだ。
(必死!もう倒す事だけで精一杯!・・・でも、倒した。・・・いや、綺麗事並べちゃいけねぇや。殺したんだ。間違い無く。俺が。)
でも不思議と嫌悪感は薄かった。
生きる為の選択。
覚悟。
一番は、家族の元へ無事に帰る。
判断の材料の最優先。
ミサオはその場で情けない声を上げる。
「ひぃ~、ちかれたび・・・
はぁ、はぁ、はぁ・・・」
息を切らすミサオを見て、ジェイがつぶやく。
「勇者様の話でも、締め上げて討伐なんて・・・聞いたことねぇぜ。」
少し青ざめた顔で呟くジェイ。
対照的に、サブリナは頬を赤く染めながら言った。
「ギルマスの言ってたこと、本当だったわ。とんでもないものが見れるかもって!」
隣でドリトスも、何度も大きく頷いていた。
兎にも角にも、無事討伐は完了し、依頼達成報告の為、町へ帰還することになる。
さすがに闇憑きの巨大な亡き骸は、馬車には乗せられない。
後から荷馬車を手配するため、ドリトスとサブリナは廃村に残り、 ジェイとミサオが先にテリオスの町へ戻ることにする。
気付けば、空は白み始め、朝日が昇ろうとしていた。
(随分と時間経っちまったみてぇだな・・・。)
ミサオがどれだけ締め上げている時間が長かったのか、改めて自ら実感する。
馬に乗れないミサオの為、そのまま馬車も使って帰路に着くジェイとミサオ。
御者台に並んで座る男2人。
「そう言えば、ミサオさんのその力・・・。」
「ん?どうしました?」
ジェイが何か聞きたそうにしているのに気付くミサオ。
「・・・いや、いいんです。今はまだいい。」
少し考えて、口をつぐむジェイ。
「そう・・・なんですね?」
ミサオもどこまで踏み込んでいいのか分からないので、そのまま静かにしていようと決め込む。
馬車は順調に進む。
荷馬車が軽いのも幸いしたのか、思ったよりも早く、テリオスの町が見えてくる。
急いで城壁の入り口をくぐり、ギルドに到着すると、すぐに報告手続きへと向かう。
「やはり闇憑きは居た。情報に誤りは無く、グレートノックスの変異だった。
闇憑きの相手はこの大型新人冒険者1人で完了。・・・しかも素手って、どんだけだよっ!
まぁ、俺達もこの目でしかと確認した。残りの2人からもちゃんと確認はしてくれて構わない。俺は自分の仕事をこの言葉で終える事とする。」
ミサオの前では礼儀を守っているのか、素の口調で報告を終えて、受付からくるりと振り返り、ミサオの方を向くジェイ。
「ミサオさん、お疲れ様!」
右手が差し出される。
(こっちにも握手ってあるのか・・・って、この若い衆、腹ん中真っ白過ぎて、眩しいわ・・・。)
ミサオも微笑み、ジェイの右手をしっかりと握り返す。
「いい勉強、させて貰いました!ありがとう、ジェイさん!」
「それじゃあミサオさん、討伐証明を作りましょう!」
受付の女性が、必要事項を書く為の羊皮紙と羽根ペン・インクを目の前に用意する。
まずは証拠として切り落とした指を出した 所、初めて会った受付の女性が、目をぱちくりさせて驚いていた。
(受付の人がなんで驚くかね?)
ミサオも不思議に思う。
グレートノックスの指。
それは、通常の依頼でも中々お目にかかれない代物。
早々現れる魔物では無いからだ。
ましてや忌み嫌われる闇憑きの、通常より大きな指。
その上、目の前の男が単独で討伐。
指とミサオを何度も見返している受付の女性。
討伐証明を書き始めると、受付の女性から追加の説明を受ける。
本来なら達成報酬はギルマスから直々に手渡される予定だったが、予想より早く戻ってきてしまった為にギルマスはまだ出勤前。
取り急ぎ、今回は後日受け取りということにしてミサオは手続きを進める。
「グレートノックス、(闇憑き)。討伐者及びパーティー名ね。すんません、ここ、俺の名前だけでいいんですかね?」
初めての事なので何度も確認しながら証明の書き込み欄を埋めていくミサオ。
「んで、こっちは名前が先だから、ミサオ・・・ナガイっと!終わった~!」
どこの世界でも、書類は面倒だと思うミサオ。
気付けば近くで見守って居てくれたジェイに気付いて声をかける。
「ジェイさん、今回はありがとうございました!
また困ったことがあったら、相談、聞いてください!」
ミサオは、改めてジェイに礼を述べた。
だが、ジェイは笑いながら手を振る。
「いやいや、どちらかと言うと、こちらからお願いに上がるかも・・・な!
それと、正式なCランク登録、おめでとう!これで俺達と同じランクだ。
だったら、もう敬語は不要だぜ? 年だけならミサオの方が断然・・・いや、それは関係無いな。この稼業は力が全て。
これからは気軽にジェイって呼んでくれよ、ミ・サ・オ!」
若いながらも、人物を見極めて腹を割る。
ミサオを認め、素の自分を見せてくれるジェイ。
「わかったよ、ジェイ!」
苦笑しながら応じたミサオ。
(このキャラ絶対にモテるやつ!しかも性格も良い!俺も若い時こう成れてたら・・・なんて今更か。今の俺には世界一の奥さん居るし。てか、異世界で早速ズッ友か?ズッ友フラグここで立つのか?)
などと思いつつも、 家族が待つ現代へ、急いで帰る事を思い出すミサオ。
慌ててジェイに別れを告げて、ギルドの外へと早足になるミサオ。
「ポチッとな!」
ミサオは町の外に出て、人目のない所でスマホアプリを操作し、転移をする。
光に包まれ、即座に現代・・・と思いきや、異空間に存在する特殊な場所へと転移していた。
忘れてはならない肝心な事。
そこは、課長(カ=チオ)さん特製の(副業支援空間)。
真っ白な空間に、ぽつんと一台だけ設置された、両替専用ATM。
異世界通貨と現代円の交換ができる、ミサオ専用の装置だ。
(いやこれ、課長さんの特製って言ってたけど・・・本当に課長さんの持ってる能力スゲェな)
ミサオは、スマホをかざして認証。
カチッという音とともに、ATMの画面が起動した。
(・・・さて、初めての両替。マジで緊張するわ。)
異世界通貨、50枚のルム金貨を硬貨投入口にまとめて投入。
開いた扉がすぐに下から閉められ、直ぐに機械がカウントを始める。
画面には、
【50ルム=500,000円】
と表示された。
ミサオは深呼吸してから、確認ボタンを押す。
直後、ATMから日本円のお札が蓋が開いて現れる。
(・・・本当に出た!)
感動と同時に、まだフワフワした気持ちで備え付けの封筒に50枚の一万円札をしまう。
初めての両替成功。
ちょっとした冒険に成功したような、そんな気分だった。
封筒を懐にしまい、ミサオは再びスマホで転移操作。
今度こそ、現代商業施設のトイレに到着。
「確かに目に付かねぇけど、異世界で頑張ったのにこの場所、何か冷めるわぁ・・・。次はちょっと場所考えよう。」
小声でぼやきながら、スマホの時計を確認する。
家を出てからまだ30分少々しか経っていなかった。
(早すぎるバイト終了・・・いいんだけども!実働!不労所得じゃないのが悲しすぎるっ!)
流石にクミコに対してよくわからない罪悪感が芽生え、少し時間を潰すため、商業施設近くのガソリンスタンドで少しお高めの愛車の手洗い洗車を依頼するミサオ。
その足で再び商業施設へと戻って異世界で使えそうな物資を物色。
そしてクミコに頼まれた買い物を済ませる。
家に向かう途中、ふと考え込む。
(この金、そのまま渡していいのか?)
日払いらしいとは伝えてある。
ただ、全額その場でとかはわからないからと一応濁す感じの安全策も打っている。
この時点で使った分を引いても、まだ45万円位が手元に残っていた。
悩んだ末、封筒から5万円だけ抜き取り、
残りは車の座席下に隠した。
(やましい事はしてない!してねぇけど・・・絶対、悪いことしたって心配されるからなぁ。昔が昔だけに)
荷物を手に、ようやく帰宅。
複雑な気持ちを抱えたまま、玄関のドアの前で1回大きく深呼吸して気持ちを切り替える。
「たっだいま~!ジョロ、寂しかった? マミ、見ててくれてありがとね~!」
コジ丸=ジョロを荒っぽく撫でながら、ミサオはテーブルに5万円を置く。
「・・・なんでこんなに貰えるの?」
クミコが不思議そうに尋ねた。
「んー、何か今日は、突発的な仕事も飛び込んで来た形みたいでさ。
俺みたいな素人でも、居てくれて役に立ったらしいよ?
初日の新人では、今日は貰ってる方みたい。
タイミング良かったのかな?
慣れれば日によるけど、それこそちょくちょくそのぐらいは持って帰れるかも・・・100%とはまだ言えないけどね。初日だし。」
「それって・・・ドライバーやってるより稼げる計算じゃない?
ちなみに今日の仕事内容は?」
(うっ!やっぱ思うよな?でも、冒険者!とか言ったら、病院行けってはっ倒されそう・・・。)
冷や汗をかきながら、ミサオは答える。
「ん?あ、えっとね、ネズミ、ドブネズミ!
いやー最近の町のネズミってデカいのな!」
クミコの目線が鋭くなる。
ジトッと見られている気がするのは、きっと気のせいだとミサオは無理に思い込もうとする。
「駆除って、どうやってやるの?」
「えっとねぇ・・・。
こう、バッときたヤツをドカン!ってやったり、 グオーってきたヤツをうぉ~りゃ~!ってやったり・・・って、そんなの、捕獲器とか、特殊な殺鼠剤とかに決まってるでしょ!」
(あっぶなっ!余計な事言う流れだったわ。セーフ!アウト寄りだけどセーフってことでいいよな、ははは・・・。)
必死に取り繕ったミサオは、異世界での活躍もあって心も身体も疲労困憊。
そのまま布団にくるまり、 貴重な休みの残り時間を、無為に過ごすので羽目になる。
「ねぇ?」
「ん?」
クミコが布団の中のミサオに声をかける。
「パピ、髪染めた?」
「へ?か、髪?」
そこで気付くミサオ。
(あ!若返ったやん俺!ど、どうすんべよ!)
幸い今のクミコは眼鏡をかけないと視力が低い。
「どうしたマミ?改めて俺に惚れ直した?気づいちゃった?」
「はいはい。バカ言ってないで、少し休んだら。」
ため息をついてその場を離れるクミコ。
(・・・いずれバレるな。てか、会社!免許の写真!あ~どうしよう・・・いや、知らん!ギリギリまでとぼける!もう悩むの疲れた!寝る!)
ミサオは考える事を放棄した。
一寝入りしたら夜11時過ぎ。
ミサオは変な時間に目を覚ましてしまう。
隣を見ると、クミコはもう布団に入り、その横でジョロも丸まって添い寝をしている。
(まだ何にも固まってねぇし、この副業も、これからどうなるのか見当もつかねぇ。が、家族守る為なら、やんなきゃなんねぇよな。)
家族との生活。
これがミサオの生きる全ての基準であり、守るべき最優先。
ミサオは冴えてきた頭を休める為に台所へと向かい、長い間手をつけていなかった缶チューハイを取り出した。
「今日はよく頑張りました!ミサオ、ご苦労さん!お疲れ!」
小声で言って、久しぶりの酒を飲む。
「・・・っかぁ!生きてるってこういう事なのかも知んねぇな。」
電気もつけない中、1人ミサオはダイニングの椅子に腰掛け、小さな幸せを噛み締めていた。




