第3話 “暁の矛”と廃村の闇
家路につく前に、ミサオは町の外壁を背景に自撮りを試みた。
「せっかくだから、記念に一枚!」
スマホを取り出し、カメラを起動して自撮りモードにする。
その画像を見て違和感を覚える。
(・・・髪の毛、フッサフサで黒いし!
顔の皺も減ってるやん!)
明らかに30代そこそこの、若返った外見になっていた。
そこでギルド受付の確認に考えが及ぶ。
(そうか、メリッサさんが言ってたエルフの血でも引いてるのかって確認入ったのか!
・・・アンチエイジングどころの騒ぎじゃねぇよ全く。
あ!だから体力もあんのか!思ったよりも疲れてないし・・・。)
異世界補正の効果らしい。
驚きつつも、しっかり自撮りを残したミサオ。
そこで又ある事を思い出す。
(待てよ、確か向こうの時間、今止まってるんだよな、だったらそのまま依頼受けてもいいじゃんじゃね?何日こっちで過ごしても向こうは転移直後の時間・・・俺、まだ動けんじゃん!)
結局、町を出る前にもう一度ギルドへ引き返すことにする。
ギルドに戻ると、ギルドマスターであるハイネス(ミサオは戻ってから名前を知った)が出迎えてくれた。
「あら、気が変わったのかしら?ならちょうど良かった!実は、東の廃村近くで、闇憑きらしい魔物の目撃情報が入ったんです!」
ハイネスは資料を広げながら説明する。
「今回は調査、可能なら討伐もお願いします。
但し、目撃された魔物は先ほどのホーンラビットよりも大型と報告されています」
(うん、マジか・・・。)
さすがに不安がよぎるミサオだったが、ギルド側も手は打っていた。
「幸い、先ほど依頼達成報告を上げてきたばかりのCランク冒険者パーティの3人組がいます。
まぁ彼らもソロの実力者達が今回初めて組んだパーティーなんですけどね。
彼らに同行し、仮のパーティとして行動してもらいます。もちろん、メインはミサオさんですけれど。」
(俺、ウサギ一匹やっつけただけのまだアマチュアよ?どんだけ期待されてんのよ・・・。)
仮パーティ―。
取り敢えずお試しで組んでいるメンバー。
メインはミサオではあるが、緊急時にはフォローをしてくれる形となる。
だがあくまで支援と見聞役。
(うーん、サポートありがたいけど、メインって事は・・・俺がやっぱり一番頑張らなきゃだよな。)
「それじゃ、その形でお願いします!」
ミサオは力強く即答した。
「わかりました。すぐに段取りしますので、少しだけお待ち下さい。」
ハイネスは素早くギルド受付に向かって進んでゆく。
ミサオはそれほど待たされる事も無く、受付に呼ばれる。
そこで、男女3人を紹介される。
ミサオに同行するお試し期間の仮のパーティ「暁の矛」のメンバーは、皆個性豊かだった。
ジェイ。
21歳。前衛担当、剣士。
炎系の攻撃魔法も操る、頼れるリーダー。少し長めの髪形で、ミサオが見る限りではアニメの主人公顔。
ドリトス。
26歳。中衛担当、槍使い。
防御系の魔法を併用する、縁の下の力持ち。こちらもいかにもタンク役といった風情である。
サブリナ。
19歳。後衛担当、弓使い。
回復系魔法も扱える、ホンワカ癒し系女子。ただミサオの見る限り、それなりにしなやかな筋肉を持っていそうな感じに思える。
初めて顔を合わせたとき、ミサオは異世界あるあるの、新人に嫌がらせするベテラン冒険者を警戒した。
年齢も若く、それなりの実力を持っている触れ込み。
だが、その予想は嬉しい意味で裏切られる。
全員、思慮深く、言葉遣いも丁寧だった。
現代世界の同年代より、よほど大人びている。
(やっぱ、修羅場をくぐってる人間って器が違うんだなぁ。)
しみじみと思うミサオ。
4人はそれぞれ準備へと動き、ギルド前の馬車へと集合する。
「それじゃあミサオさん。今回は特別にギルドの好意で馬と馬車を貸して貰えましたので、これで廃村に向かいましょう。
大体、夕方には着けると思いますが、魔物は夜になるほど凶暴かつ狡猾になります。
しかも今回目撃された闇憑きも、夜に確認されています。油断しないで下さいね!」
ジェイが真剣な表情で注意を促す。
「・・・そうですね!何分経験不足ですが、よろしくお願いします!」
ミサオは45度のお辞儀をして、御者台に乗るジェイと荷台のドリトス・サブリナと共に後ろに同乗して、馬車で廃村へ向かった。
「・・・ミサオさんて、一応私達と同じC級なんですよね!得意なのは剣ですか?魔法ですか?それとも弓・・・は無いですね。て、言うより武器持ってる様に見えませんが、大丈夫ですか?」
話しかけられたサブリナに心配されるミサオ。
出発の前に必要とされる物を聞いて慌てて町中で買い集めた。
物を入れる肩掛けのバッグ・水筒と水、食料は日持ちのするパンと干し肉・・・味度外視、ミサオも散々物語で見てきているから期待はしていない。
そして武器。
これに関しては、まだ右も左もわからないので、正直どうしていいのかわからない。
ミサオも現代世界で、人目に付かない所で小声で試した。
「ステータス、オープン!」
・・・出現しなくて赤面した事を、ミサオは墓場まで持っていくつもりだった。
自分の能力の特性やレベルがわからない以上、刃物などは怪我する危険がある。
(まぁ、何とかなんべぇ!)
サブリナの質問に、ミサオが答える。
「まだレベルは暫定らしいからこの依頼させられてるんですけど。取り敢えず今回は・・・コイツで。」
右の拳を前に突き出す。
幸いな事に道中、魔物との交戦はなく、無事に目的地の廃村へと到着する。
すぐに3人は散開し、周囲の調査に入った。
廃村の一番奥。
朽ちた大きな住居跡の周囲で、ジェイが大きな足跡を発見する。
ハンドサインで合図を送り合い、3人は馬車の外で待機していたミサオの元に戻る。
「あの廃屋の足跡、間違いなく魔物、グレートノックスが変異した闇憑きの物ですね。
本来なら、罠を仕掛けたり体制を整えて討伐開始となるのですが、 今回は、ミサオさんの能力確認も目的の一つ。
危険は承知の上で、あえて奴が動き出してから行動します!」
ジェイが静かに告げる。
「もちろん、危険になれば私たちも討伐に加勢しますが・・・。
その報告を上げた時点で、ミサオさんのランク評価に影響が出る恐れがありますので、承知しておいて下さい。」
ミサオは静かに頷いた。
「本来はパーティーで当たる対象なんですが・・・ギルマスも敢えてこの形で行えと指示してきました。
だからと言って、決して無謀な事はせず、危険だと思ったら引く事も冒険者としての資質です!
ランクが下がっても、又努力してあげればいいのですから。」
「そうですね。」
ジェイの含蓄ある言葉に素直に答えるミサオ。
勿論ミサオも無理をするつもりは1ミリも無い。愛するクミコとジョロが家で待っているのだから。
馬を改めて村の中の木に繋ぎ、馬車の中から飼い葉を出して、近くの生きていた古井戸から水を汲んて与える。
お試しパーティーの3人とミサオは、早めに手持ちの食料で食事を済ませ、ジェイとミサオ・ドリトスとサブリナの順で交代に身体を休める。
まだ日も落ちていないが、これも夜に備える為。
ミサオも眠れないが目をつぶり、交代で見張りにもつく。
そして・・・。
夜が来た。
馬車の車輪に寄りかかりながら、ミサオは目を閉じて周囲の音に集中していた。
これから荒事があるかも知れないと言う状況の中。
現代日本で多少修羅場をくぐった経験のあるミサオでも、そこまで図太い神経は持っていない。
一方、2交代で短い休憩を終えたお試しパーティー・暁の矛の三人は、廃屋の周辺に散開して、警戒を続けている。
(戦争とも違う。漁師とも違う。冒険者・・・。一つ間違えば死。命のやり取りで稼ぐ。ランク云々じゃ無く、自分の戦闘能力を上げて、より強い魔物を倒し、より多い収入を手にする。
異世界あるあるなら、王政とか貴族社会とかバリバリあんだろうから、下々の人間が這い上がるには、商人か冒険者なんだろうけど。かなりリスキーだよなぁ。)
とりとめも無い事を考えるミサオ。
(こっちの世界に比べりゃ、現代日本なんか、ぬるま湯に感じるトコあんわな。
違う所は色々ある。文明レベルなんかは間違いなく向こうが進んでる。でも、それが幸せかと言うと・・・何とも言えんわなぁ。
少なくとも俺なんかは世間の風は冷たく感じてた口だし。クミコちゃんという最愛の妻と、代々の息子達と家族になれた事だけが救いか・・・。)
苦笑するミサオ。
右手に持っていた何かの生き物の皮で作られた水筒から水を1口飲む。
しばらくして、合図の指笛が聞こえた。
(いよいよか・・・。)
軽くストレッチを済ませたミサオは、ゆっくりと目当ての廃屋へ向かって歩き出す。
「グムォ~ッ!」
現れたのは、牛の頭を持ち、人のような身体つきの魔物。
現代世界の伝説上の生物、ミノタウロス型の闇憑きだった。
本来のグレートノックスは身長2メートル程と事前に聞いている。
力はあるが鈍重で、暁の矛メンバーなら余裕で対処できる相手。
だが、目の前の個体は違う。
身長3メートル以上。
真っ赤な眼。
手には巨大な棍棒らしき武器を携えている。
(さて・・・俺のつたない経験じゃ、剣も槍も役に立たねぇしな。
覚えてる技術、使うしかない。今ん所は。通用する事を期待して・・・。)
ミサオは静かに、廃屋前の地面に右足で一本の横線を引く。
その先の方から、噂のミノタウロス型の闇憑きが、ゆっくりと大きな足音を立てながら真っ直ぐミサオへと距離を詰めて来ている。
その様子を、木々の影に隠れながら暁の矛の3人が見守る。
「ねぇ・・・あれ、何やろうとしてるの?」
右隣のジェイと左隣のドリトスを交互に見ながら疑問を呈するサブリナ。
「距離を測る為の目印・・・にしては、あの場所から距離を取る訳でも無く。魔法・・・使うのか?ドリトス、お前の見立ては?」
ジェイが首をひねりながらドリトスに聞く。
「・・・俺に聞いても・・・わからん。」
本来ならパーティー単位で対峙する相手に、ミサオがどのような戦法を考えているのか、興味津々の3人。
先ほど足で引いた地面の線の手前で、ミサオは直立不動となり深々と一礼。
「お願いします!」
その言葉と動作に他の3人は首を一斉にかしげる。
そして、頭を上げたミサオは、昔の特撮で良くあるカメラワークの様に、ぐるぐると闇憑きの周りを裸足の状態で、少しづつすり足で回り始めた。
「おいさ~っ!」
真剣な表情で気合を入れるミサオ。
闇憑きは、すぐに右手でミサオへ向けて、棍棒を振り下ろす!
「グワァ~オ!」
その右腕をミサオは両手でがっちりと掴み、振り返りながら自らの右肩に抱え込む!
瞬時に腰を深く落とす。
「ヨォ~イショ~ッ!」
掛け声とともに、立ち上がる動作と共に思い切り身体を前傾!
一本背負い!
3メートル以上の巨体を、見事に背中から地面へ叩きつけた。
だが、それで終わりではない。
これぐらいで仕留められるとはミサオも到底思っていない。
倒れた闇憑きの首元にすかさず飛びつき、全体重をかけた締め技に移行する。
身体が大きければ首周りも太い。
が、何とか足を巻き付け、締め上げながらフリーの両手で闇憑きの両腕をさばく。
(ギュ~~~~~ッ。)
力の限り、首を、絞める、絞める、絞める。
(絶対に、逃がさねぇ!)
必死に技を極め続けるミサオ。
暴れていた闇憑きの両腕からの攻撃も次第に少なくなり、ミサオの両足に何度もかけてきた指の力も弱くなる。
それでも締める。締め続けるミサオ。
どれほどの時間が経っただろうか。
肩をポンポンと叩かれ、ミサオはようやく周囲に意識を戻した。
そこには、笑顔のサブリナ。
「終わりましたよ、ミサオさん!」
ミサオの異世界初依頼。
完了の瞬間だった。




