第10話 ジョロの宝箱、ついに開店!
あれから現代でも異世界でも日々は過ぎ・・・それでもミサオは大忙しだった。
異世界でのお菓子屋、「ジョロの宝箱」開店準備と冒険者ギルドの依頼を並行してこなしている。
店の方は、木工ギルドを通して陳列台や棚の制作と取り付け依頼と共に、住居スペースで使うテーブルやスツール・ベット等々の発注。
石工ギルドにて住居スペースで使う竈などの制作据付依頼。
並行しての闇憑きメインの討伐。
現代世界では、暇を見つけては
商業施設へ足を運ぶ。
毎回様々なお菓子を仕入れて即転移。
どんどん店の倉庫に段ボールが積まれてゆく。
その段ボールも見られないように布で隠す手間をかけて。
これが全て副業の範囲である。
ミサオはまだ、タクシードライバーを本業として働いている。
しかし、収入面だけで見れば、タクシーよりも冒険者の方がよっぽど見入りがいい。
事実、冒険者を本業とすれば、タクシードライバーで稼いでいた分の給料など、すぐに稼げてしまうのだから。
が、まだ辞めるに至っては居ない。
(そろそろ本気で退職も考えなきゃな・・・。)
踏ん切りをつけられずに悶々とする毎日。
それでも休みになれば 店舗に行ってお菓子の詰め替え作業に追われている。
箱買いしてきたお菓子を取り出し、 現代世界のネットで探した可愛い絵のついた小袋にランダムに詰めていく。
ミサオはせっかくだから、まずは色々な味を試して貰いたかった。
価格は、小袋で3ロム(約300円)に設定。
開店セールとして、子供には無料プレゼントも用意した。
ミサオの最初の目標は小さく。
「知ってもらう事。」
いきなり儲けようなどと欲は欠かない。
日持ちのする品物だけで仕込みは済ませて居るが、仕込みには中々の手間が掛かる。
この世界に無いビニールや乾燥剤などをどうするのかの問題も出てきた。
ここで生かされたのがスマホアプリの(イセ・ゲート)。
ビニールの写真や乾燥剤の写真を取って、代用品の検索をかけた所・・・なんとかなった。
ある木材の汁を煮詰めると、現代でいうラップみたいな物質が出来る。
また、こちらで取れる木の実の中に、水分を取り込む作用のあるものを見つける。
商人ギルド経由で取り寄せを至急でお願いする。いずれは定期で仕入れることで単価を下げて貰う交渉をしたいが、今回は言い値で払う事を伝えてある。
大分形になってくる店舗。積み上がる品物。
胸のドキドキと不安が交互にやってくるミサオ。
異世界に泊まり込む日も増える。
というよりも、こちらの世界に居ないと時間が進まないのだから致し方ない。
ミサオもルーティンなどと言ってる場合ではなかった。
3日前。2日前。そして前日。
肉体的な疲労よりも、精神的な疲れと緊張がピークに近くなっている。が、それを上回る興奮も去来している矛盾。
頭の中では色々想定していても、結局は出たとこ勝負。
夜になり、店舗兼住居の2階のベットでミサオは目をつぶるものの、やはり眠りは訪れない。
気付けば外からは鳥のさえずる声。
完徹である。
こうして迎えた開店初日の朝。
店の周りの開店前の掃除をしようと目をこすりながら外に出ると・・・。
既に何人か開店を待っていた。
その日休日となっている商人ギルド、冒険者ギルドの職員達だった。
(ありがたい。ありがたいよ本当に。只・・・まだ早すぎるよ!朝飯位ゆっくり取ってきなよ!休みならさ!)
心の中で突っ込みながらも、 ミサオは並ぶ人達に声をかけてゆく
「朝早くから当店、(ジョロの宝箱)にわざわざ足をお運び下さり、本当にありがとうございます!
本来の開店時間までは大分お待ち頂く形になってしまいますのて、これから急いで準備を致します!ですが、あくまでこれは特別という事をお願いいたします!
それでは開店準備に入りますので、そのままお待ち下さい!」
ミサオは慌てて店の裏口から表の木戸の閂を外して木戸を開ける。
外のお客は皆今か今かと待ち焦がれているのがミサオにも伝わる。
品物の陳列や前日釣り銭の準備は済んでいる。
ミサオは店の正面から外に出て、声を張り上げる。
「お待たせ致しました!菓子店、(ジョロの宝箱)!本日から開店で~す!」
開店と同時に、小袋の山はどんどんと減ってゆく。
(マズい!こんなにさばけるとは思わんかったわ!)
「会計待ちのお客様、商品を倉庫から補充致しますので、ほんの少しだけ、お待ち下さいませ!お手間取らせますが、何卒ご協力お願いします!」
ペコリと頭を下げ、ミサオはダッシュで倉庫にある小袋のストックを店内に並べる。
「お待たせしました!お会計、順番にさせて頂きま~す!」
それでも品物は早いペースでさばけてゆく。
いきなり売れると思わなかった中袋、大袋も心許ない。
(こりゃアカン!仕入れたストックはまだあるのに、仕込みの計算甘かった!外でまだお客様待ってるよ・・・!ワンオペ失敗した~!よし、1回声かけよう!)
ミサオは決断する。
「外でお並びのお客様にお伝え致します!お菓子自体は倉庫にございますが、本日販売用に準備しておりましたお試し詰め合わせの在庫が無くなってしまいそうです!ですので、もしお時間頂ける様でしたら、どうか少し!私に用意するお時間を下さい!ご来店頂いたお客様に1人でも多くこの店を知って頂きたいと思っておりますので、ご不満かと思いますが、店内のお客様が全員お帰りになられたらすぐに作業に入ります。どうか、どうかご協力お願い致します!」
頭を90度下げて、すぐさま店に戻り会計待ちのお客をさばくミサオ。
それから店の木戸を1回閉めて、倉庫へと走る。
時間が無い。
そこからはせっせと詰め替え作業。
焦りだけが募る。
すると・・・。
「お?なんだよいるんじゃねぇか!開店初日だから様子見に来て見たら、外で客は列作ってんのに店閉まってて、何事かと思ったぜ!ミサオ、どうした?」
ジェイが心配顔でこちらを見ている。
「ミサオさん、寝坊でもしました?」
サブリナも不安そうな顔でこちらを見ている。
「・・・闇憑き討伐の時より酷い顔してるな、ミサオ。」
相変わらずな口調のドリトス。
そこにはミサオの異世界のズッ友、(暁の牙)のメンバーが立っていた。
「みんな・・・。」
「おいミサオ、何やってんだよ、手伝うから詰め方教えろって!」
「私も手伝う!あ、私の買う分のチョコ、取り置き確定で!袋詰めもしなくてもいいから!最低10袋分!」
「俺、こう見えても細かい仕事、得意だから・・・。」
3人からのありがたすぎる申し出だった。
その場で3人とは即バイト契約をする。1人金貨1枚。勿論ギルドを介する事無く取っ払いで。
「じゃ、この出来た分だけ持って店開け直すわ!またヤバそうなら声かけるんで、3人共よろしく!」
ミサオは勢い良く走る。
・・・結局、想定以上の売れ行きで、 倉庫には空き段ボールが山積みになった。
「向こうのゴミの日、いつだっけ・・・こっちじゃ処分出来ないもんな。向こうの家に置いとく訳にもいかんし、ダミー部屋に何日か寝かせるかね?」
疲れた身体でぼやきつつも、 また仕入れの為に現代世界に転移し、箱買いのお菓子の段ボール箱を異世界へと運び入れて袋詰めを夜中遅くまでこなして、朝から並ぶお客様に接客するルーティン。
気付けば異世界で数日が経っている。
(いい加減、マミとジョロに会いたいよ!でも、立ち上げたばかりの店、放り投げる訳にもいかんし。これは嬉しい悲鳴なのか?)
本気でミサオも悩み出す。
そんなある日。
課長(カ=チオ)さんからお祝いの連絡と、お菓子の注文予約が入った。
その時言われた一言。
「ミサオもマメですね!ここ数日、向こうに戻っても仕入れだけしてほとんど店で過ごされてるじゃないですか!言ってくれれば仕入れ、ネットで出来る様に手配しますよ?」
それを聞いた直後。
スマホを手に持ったまま、 床に突っ伏してすすり泣くミサオ。
(そんな事出来るんなら、先に言ってよ・・・。ここ数日の頑張り・・・。俺の努力を返してくれ・・・。)
一気に疲れがミサオを襲った。
それからちょこちょこ店休や半休なども臨機応変にも挟みつつ。
ミサオはなんとか1人で店を回している。
客足も少し落ち着いてきた。
ふとミサオは思う。
(店の開店から少しずつ、町の人々の顔もが覚えて来たよなぁ。
そうなると不思議とこの町に愛着も湧く。異世界なのにな。)
「ジョロの宝箱」は、今日も相変わらずの客足。
最近では、旅の行商人達からも、 他の町で販売したいと仕入れのオファーが届いている。
商人ギルドとも話し合いながら 交渉の段取りを整えたりと、商売も本格化してきた。
そうした忙しくなる異世界での日々の中。
待ち望んでいた新たな仲間も「ジョロの宝箱」加わった。
リュミアちゃん、14歳。
他の商店での勤務経験もあり、
商人ギルドからのお墨付きでやって来た。
即戦力である。
こちらの世界では年齢的にも働き始めておかしくない年頃ではあるが、即戦力という事は相当の実力の持ち主であるとミサオは値踏みする。
店の休日に合わせ、クミコとジョロも現代世界に迎えに行って顔合わせを店で済ませる。
そのまましばらくはクミコとジョロにも店舗兼住居に滞在して貰う形を取った。
リュミアちゃんは、ジョロにとって 優しいお姉さんのような存在となった。
クミコはやはり身近に女の子がいないせいなのか、 リュミアちゃんにバイトの子以上の親しみを感じているようである。
仕事は自宅から通いでの勤務だが、 それでも助かる存在だ。
リュミアちゃん1人が入っただけて、ミサオの冒険者ギルドの依頼をこなせる時間も増える。
おかげで、異世界の店舗兼住居のローンも売り上げで払える目処が立った。
このまま行けば、繰り上げ返済も出来そうな感じである。
異世界生活、順風満帆と言った所。
そんな事をミサオが考えてるある日。
冒険者ギルドから、呼び出しがかかった。
嫌な予感が、ミサオの脳裏をよぎる。
「ちょっと行ってくる。何かあったら連絡するから、留守頼むな。」
クミコとジョロに声をかけて、 ミサオは一人、冒険者ギルドへと向かった。




